「パナマ文書」と「情報を読むちから」

国際教育(2016/04/21)、パナマ文書、アメリカ国際開発庁(USAID)、ジョージ・ソロス、Open Society基金、カラー革命(Color Revolutions)、レイ・マクガバン、アニー・マカン

Annie Machon、元イギリスMI5情報部員      Ray MacGovern、元CIA高官              
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いま私たちは容易ならぬ時代に生きています。
 というのは、この記事を書いている現在でも九州では、熊本、阿蘇、大分で3つ別々の地震が同時に発生し、多数の死者を含む甚大な被害が出ているにもかかわらず、すぐ近くの鹿児島県川内原発を停止せよという声が大手メディアから一向に聞こえてこないからです。
 どうもNHKを初めとする大手メディアは人命よりも財界・権力者の利益を最優先に考えて報道しているように思われます。
 この九州の大地震とほぼ軌を一にして南米エクアドルでも大地震が起きて大被害を出しているのですから、環太平洋のどこで次の地震が起きても不思議はありません。活断層が日本全土を覆い尽くしているのですから、このまま原発を再稼働し続ければ次のFUKUSHIMAが日本のどこかで起きるのは、ほぼ確実でしょう。
 にもかかわらず大手メディアは、そのような警告を発していません。4月16日の毎日新聞は、「東日本大震災後、地震活動は活発化している。耐震化、防火対策など各自が減災を心がけたい」ということばで、「社説」をしめくくっているだけなのです。
 このような暢気(のんき)さは、何度も言うように、人命よりも財界・権力者の利益を最優先に考えているからとしか、考えられません。ですから私たちがNHKなど大手メディアの情報を読んだり聞いたりするとき、よほど注意しないと、権力者の願っているとおりの考え方に誘導されかねません。

 しかし今日わたしがブログを書きたいと思ったのは、もう一つの理由があります。それは「パナマ文書」というものが世界を席巻しているからです。
 大手メディアを見聞きしていると、あたかも中国の習主席やロシアのプーチン大統領がTax Haven「租税回避地」を利用して私腹を肥やしていることが、この文書によって暴露されたかのように思えてきます。
 たとえば日経新聞(2016/4/13)の「『パナマ文書』考、租税回避地の闇が動かす中国の権力闘争」という論説記事で、執筆者の中沢克二氏(同紙、編集委員)は次のように述べています。

「非西側勢力を狙った撹乱(かくらん)戦術で、プーチン大統領や、習主席も標的にされた」。パナマ文書に関して共産党内部ではこんな見方が目立つ。党機関紙、人民日報系の国際情報紙である環球時報も大筋、似た論陣を張った。だが、いわゆる西側でもアイスランドの首相が辞任。英首相のキャメロンまで窮地に立つ。中国の認識は的を射ていない。


 しかしこの「パナマ文書」によって暴露された大物は、アイスランドの首相や英首相キャメロンの亡父だけで、世界の経済大国アメリカや日本の財界人政界人は誰も暴露されていないのです。
 私が「パナマ文書」の報道を知ったとき、まず第一に浮かんだ疑問は、「なぜ世界の経済大国アメリカや日本の財界人政界人は誰も暴露されていないのか」でした。
 このような奇怪な事実を中沢氏はまったく取り上げていません。「西側でもアイスランドの首相が辞任、英首相のキャメロンまで窮地に立っている」からといって、「中国の認識は的を射ていない」というのは、必ずしも正しい認識とは言えないでしょう。
 西側の人物を誰も入れなければ、この情報は初めから怪しまれてしまいます。だからこそアイスランドの首相と英首相キャメロンの亡父を入れたのだろう―これが私の頭にすぐ浮かんで来た仮説でした。

 すると、私の仮説を裏付けるかのように、次の二つのニュースがRTを通じて流れてきました。

US government, Soros funded Panama Papers to attack Putin – WikiLeaks
「アメリカ政府と投資家ソロスがプーチン大統領攻撃のため『パナマ文書』に資金提供」
https://www.rt.com/news/338683-wikileaks-usaid-putin-attack/

Who’s funding this?’ CIA & MI5 whistleblowers question credibility of Panama Papers coverage
「これに資金を提供しているのは『誰』か?アメリカのCIAとイギリスのMI5の内部告発者が『パナマ文書』の信頼性に疑問を投げかけている」
https://www.rt.com/op-edge/338709-funding-cia-panama-papers/


 ウィキリークス(2016/04/06)は、次のような理由で、その情報の信頼性に疑問が残ると警告しました。
 この文書はICIJ「調査報道国際コンソーシアム」とOCCRP「組織犯罪・汚職報告プロジェクト」によって作成されたものだが、このICIJおよびOCCRPという組織そのものが、CIAの表の組織「アメリカ国際開発庁」(USAID:United States Agency for International Development)および億万長者の投資家ジョージ・ソロスが運営する「Open Society基金」によって資金援助されているから、というわけです。
 CIAは世界中で武力による政権転覆をはかってきたことは周知の事実ですし、最近は武力だけに頼ることなく「民衆蜂起」という体裁でクーデターを起こすことも多くなりました。2003年グルジアのバラ革命、2004年ウクライナのオレンジ革命、そして暴力が多く用いられたが、2005年キルギスのチューリップ革命などが、これに当たります。
 そして、これらのいわゆる「色の革命」(Color Revolutions)または「花の革命」(Flower Revolutions)に、「Open Society基金」を通じて資金提供してきたのがジョージ・ソロスでした。ですから、ウィキリークスがパナマ文書の信頼性に注意しろといいたのには、それなりの根拠があったわけです。

 もうひとつ、ウィキリークスが「この文書はプーチン大統領を標的にしたものだ」と述べた背景には、この文書にプーチン大統領の名前が載っていないにもかかわらず欧米の大手メディアが新聞やテレビのトップ記事としてプーチンの大きな顔写真を連日のように載せ続けたことにあります。
 EUの幹部およびNATO軍は、ウクライナの政変およびクリミアの独立(=ロシアへの編入)がロシアによる欧州侵略であるとして、プーチン大統領を強く非難してきましたし、EU各国の大手メディアも一貫してプーチン非難を繰りかえしてきましたから、パナマ文書の暴露を利用して、プーチン攻撃をするのは当然のことでした。
 しかしウクライナの政変はアメリカが裏で画策したクーデターであったことは今では歴然としています。このクーデターが、武装したネオ・ナチを使って、選挙で選ばれた大統領を追放したことも、さまざまな証拠が出てきていて今では公然の秘密になっているのですが、EUの幹部は大手メディアを利用して、いまだに「ロシアによる欧州侵略」という宣伝扇動を続けています。
 そこにパナマ文書が登場したのですから利用しない手はないでしょう。
 しかし、このパナマ文書に疑問を投げかけたのは、ウィキリークスだけではありませんでした。もとCIAの高官だったレイ・マクガバン氏(Ray McGovern)も「なぜ文書の一部だけを公開するのか、ウィキリークスのように、入手した文書はインターネットのアーカイブで全文書を公開し、すべてのひとが検証できるようすべきだ」「これではプーチンの悪魔化に手を貸すだけだ」と述べています。
 またイギリスの諜報機関MI5の元情報部員アニー・マコン女史(Annie Machon)も、「企業メデイアは事件を大げさに書きたてて衝撃力を強くし、儲けを大きくしたいと思っている。だから、このような情報が出てきたとき、まず資金源はどこか。それによって利益を得るのは誰かを考えるべきだ」と述べています。彼女はまた、いま最も求められているのが “crowdsourcing journalism, crowdsourcing democracy” だと言っています。
 ここで言う “crowdsourcing” とは、『英辞郎』によれば、「無償または低額報酬を条件として(インターネットを介して)不特定多数の人々に分析などを依頼すること」であり、これはマクガバン氏の「ジャーナリストが得た情報は全文公開するのが原則」という主張と符合するものです。

 ところが、冒頭で紹介した日経新聞の中沢氏は「今回の情報で出てきたのは親族の休眠会社で、習本人ではない」ということは認めつつも、この記事を次のように締めくくっています。

中国では来年、5年に1度の共産党大会が開催される。「ポスト習」が絡む最高指導部人事が焦点になる。このルールなき闘いを前に、虎視眈々(たんたん)とパナマ文書の政局への利用をうかがう勢力が内部にいる可能性がある。習の一枚看板である「反腐敗」に逆風が強まっている。


 しかし、このような分析では、CIAの「USAID」やソロス氏の「Open Society基金」がICIJやOCCRPに資金援助をした理由が、このような情報を大手メディアによって流布させることによってロシアや中国の内部に矛盾対立を激化させ(いわゆる「不安定化工作」)、あわよくば政権転覆にまでつなげたいというアメリカの政策は、永遠に視野から消えてしまいます。
 これではアメリカ政府の意図にまんまと乗せられた論評だと言わざるを得ません。

 しかし、「大手メディア・企業メデイアは、財界・政界が国民に信じさせたいこと・見せたいと思っていることを、報道するのが任務だ」とマクガバン氏もマコン女史も言っているのですから、日経新聞が上記のような分析・論評になるのも当然と言うべきかも知れません。
 だとすれば、私たちはもっともっと賢くならねばなりません。なぜなら私が冒頭でも述べたように、クーデターですら「民衆蜂起」というかたちで遂行されるという「容易ならぬ時代」にいま私たちは生きているからです。いまブラジルで起きている「女性大統領ルセフ氏を追い落とそうとする動き」も、その典型例ではないでしょうか。 
 金持ちや大企業に手厚い減税策が施され、一般庶民は消費税増税や福祉・医療・教育への予算が削られる一方でも (そして多くの若者が結婚も出来ない低賃金、「派遣社員」としての生活に喘いでいても)、それを「1億総活躍社会」と呼び、それに疑問をほとんど投げかけることのない大手メデイアに囲まれて、私たちは毎日を生きています。
 でから、何度も言うように、いま私たちは容易ならぬ時代に生きているのです。


<註1> 最近のブラジル情勢については下記を御覧ください。

* ブラジル大統領の弾劾は不正疑惑の議員を使い、米国政府が指揮して行われている可能性が大きい
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201604210000/ (櫻井ジャーナル、2016.04.21)
* 元アメリカ財務省高官ロバーツ氏は語る 「ワシントンは、ブラジルを初めとするBRICSへの攻撃を開始」

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/brics-63ec.html (マスコミに載らない海外記事20160424)


<註2> 金持ちや大企業がTax Haven「租税回避地」に逃げ出すのを防ぎ、1986年以前の累進課税に戻すだけで、充分に福祉・医療・教育への財源は出てくるのです。消費税を増税しなくても、財源は出てくるのです。

消費税の増税は必要か―月刊『楽しい授業』編集部への手紙
http://www42.tok2.com/home/ieas/consumption_tax.pdf
資料1: 法人税率の推移・税収増減額 公開081113_
http://www42.tok2.com/home/ieas/syotokuzeiritsu_image.pdf
資料2: 所得税・個人住民税所得割の税率構造の推移_ 公開081113
http://www42.tok2.com/home/ieas/syotokuzeiritsu_image.pdf
資料3: 所得税(国税)、社会保険料、消費税の平均実効負担率 公開081204
http://www42.tok2.com/home/ieas/Jinno-siryop.162.pdf


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