核戦争を煽り立てる大手メディア――元ユーゴスラビア大統領ミロシェヴィッチへの無罪判決は何を語っているか(上)

国際教育(2016/08/28)、ジョン・ピルジャー、国際司法裁判所、スロボダン・ミロシェヴィッチ、欧州最後の社会主義国家、アメリカNATO軍によるユーゴ爆撃・解体

元ユーゴスラビア大統領スロボダン・ミロシェヴィッチ(1996年)
Slobodan_Milosevic.jpg


3月24日は悲劇の日。十字架に磔にされたユーゴスラビア
http://jp.sputniknews.com/europe/20160324/1839131.html
磔にされたユーゴ

磔にされたユーゴ2

 前回のブログを書いてから既に2週間が経ってしまいました。しかし今の私は、帯状疱疹の後遺症に耐えながら、11月末刊行予定の『英語アクティブラーニング「寺島メソッド」』(仮題)の監修に追われていて、ブログに手を出すゆとりが全くありませんでした。先日やっと最終校を明石書店に送ることができ、その初校が届くまでの隙間を使って、ようやく今このブログを書くことができそうです。


 旧ユーゴスラビアのスロボダン・ミロシェヴィッチ元大統領に対し、ハーグの国際司法裁判所は無罪判決を下しました。先に元大統領は、スレブニッツァでの大量虐殺に責任があるとされていました。判決が出たのは、今年2016年3月24日のことでした。
 日本の大手メディアはもちろんのこと、欧米の新聞雑誌はどれ一つとっても、このことについて触れませんでした。恥ずかしながら私が、この事実を知ったのは、「Sputnik日本」による下記の記事(2016年08月18日)を読んだときでした。

*空爆されたユーゴの元大統領に無罪判決、欧米の指導者達は裁かれるべきではないのか?
http://jp.sputniknews.com/politics/20160818/2656715.html

 この記事を読んだときは、いつかこの問題をブログで紹介したとは思っていましたが、忙しさに紛れて現在に至っていました。
 しかし今回どうしてもこの判決を取りあげたいと思ったのは、イギリス在住の世界的に有名な独立記者ジョン・ピルジャー氏の下記論考(RT、23 Aug, 2016)を読んだからでした。

Provoking nuclear war by media – John Pilger
「核戦争を煽(あお)る大手メディア」

https://www.rt.com/op-edge/356846-provoking-nuclear-war-media/

 ハーグの国際司法裁判所は、「ミロシェヴィッチ元大統領が有罪であるとの証拠は不十分だ」としたのですが、世界中のどの政府からも、どの大手メディア(たとえばBBCやCNN)からも、いかなる公式声明も出されませんでした。
 大手マスコミが、ここまで沈黙していることは、きわめて奇妙です。なぜならそれは、爆弾が爆発したような効果を作り出すニュースのはずだったからです。しかし逆にそれが分かっているからこそ沈黙した――これがピルジャー氏の意見でした。ピルジャー氏はさらに次のように述べています。
 「これまで西側のマスコミは、すべて例外なく、満場一致で彼を侮辱してきた。『バルカンの屠刹人』と呼んだり、ひどいものは元イギリス首相トニー・ブレアのようにヒトラーと比べたりした。」
 「そして彼は、無罪判決を待たずに刑務所の中で、心臓発作で亡くなった。アメリカがでっち上げた国際裁判で、ミロシェヴィッチ氏は、証拠不十分のまま刑務所で5年間過ごした。しかも心臓の手術を拒否され、病状は悪くなる一方だった」
 「あとでウィキリークスによって暴露されたところによると、アメリカ政府はミロシェビッチ氏の病状を監視し、秘密にし続けた。心臓手術をしていれば、彼は生き延びて無罪判決を迎えることができただろう」
 「無罪判決のあと西側のリーダー達はみな、少なくとも謝罪すべきだったし、そうでなければ国際戦争犯罪人法廷の被告人席に座るべきだった。ナチスを裁いたニュルンベルク裁判では、侵略の罪・人道に対する罪こそ最悪の戦争犯罪とされているからだ」

 調べてみると、ミロシェヴィッチ元大統領にたいする無罪判決は、恥ずべきことに、他の被告であるラドヴァン・カラジチ氏にたいする判決文の末尾近くに埋め込まれていただけなのでした。
*元セルビア人指導者カラジチに禁固40年の判決
http://jp.sputniknews.com/life/20160325/1839958.html
 上記の記事は調べてみると、「Sputnik日本」によって既に2016年3月25日に報道されていたのですが、ここではミロシェヴィッチ元大統領にたいする無罪判決についてふれていません。
 先述のとおり、「Sputnik日本」がミロシェビチ無罪判決を報じたのは下記の記事(8月18日)でしたから、3月25日の時点では、スプートニク自身が「カラジチ氏にたいする判決文の末尾近くに埋め込まれていた無罪判決」に気づかなかったのかもしれません。

*空爆されたユーゴの元大統領に無罪判決、欧米の指導者達は裁かれるべきではないのか?
http://jp.sputniknews.com/politics/20160818/2656715.html

 このような判決文の書き方自体が、この国際司法裁判所なるものがいかにアメリカの傀儡であったかを象徴的に示すものでした。ピルジャー氏は前記の論考で、これについて次のように述べています。
 

ミロシェヴィッチは、有罪判決を受けたボスニア-セルビアの指導者ラドヴァン・カラジチと共謀していたどころか、全く逆だった。
 ミロシェヴィッチは、実際は「民族浄化を糾弾し」、カラジチに反対してユーゴスラビア解体を阻止しようと努力していた。このような事実は、昨年の2月に出された2590頁にも及ぶ判決文の末尾近くに埋め込まれていたのだが、これはNATOによるこれまでの宣伝扇動の嘘つきぶりをさらに暴露するものとなった。彼らは世界に嘘をばらまきながら、1999年にセルビアでおこなわれたNATOによる不法な虐殺を正当化してきた。
 民族浄化・世界最悪の犯罪を犯したとして告発されたミロシェヴィッチの無罪判決は、報道の大見出しを飾ることはなかった。BBCもCNNもこれを報道せず無視を決め込んだ。ガーディアン紙はしぶしぶと短い記事を載せた。権力に迎合するメディアが、無罪判決を公的に認めることは全くまれで、普通は抑圧し闇にほうむるのが常だ。それはよく理解できることだが、いずれにしてもこのことは、世界の支配者がいかに世界を支配しているかを語って余りある。



 こうして2016年3月24日はユーゴスラビアにとっては悲劇の日となりました。では十字架に磔(はりつけ)にされたユーゴスラビアは、アメリカが主導するNATO軍によって、どのような攻撃にさらされたのでしょうか。先述の「Sputnik日本」(2016年03月24日)は、その概略を次のように説明しています。
 

今から17年前、コソボでの人道的大惨事の防止という名目の下、ユーゴスラビアでNATO軍による空爆が始まった。作戦は、国連安全保障理事会のしかるべき承認を受けずに行われ、前例となった。
 複数の情報によると、空爆から約3か月間でおよそ4000人が死亡した。その中には約90人の子供も含まれていた。軍人も一般市民もNATOの空爆を逃れることはできなかった。例えばNATOの航空機は難民の車列を誤爆した。
 このような「ミス」は、あまりにもたくさんあった。まずは戦略的施設の破壊を使命としたミサイルが、よく「そこではない場所」に命中した。
 爆撃は、国に数百億ドルと推定される被害をもたらした。数多くの産業施設に加え、およそ40の病院や幼稚園、約70の学校が破壊されたり損傷を受けた。
 ユーゴスラビアには少なくとも3万1000発の劣化ウラン弾が発射され、それにより現在一部の地域では放射能レベルが基準値より30倍高くなっており、人間の健康にネガティブな影響を与えている。
「3月24日は悲劇の日。十字架に磔にされたユーゴスラビア」
http://jp.sputniknews.com/europe/20160324/1839131.html


 このNATO軍によるユーゴスラビア爆撃を先導したのは、当時のアメリカ大統領クリントンとイギリス首相ブレアでした。このとき躊躇していたクリントンを爆撃に踏み切らせたのはヒラリー夫人だったと言われています。
 さて1991年2月にフランスのランブイエで、セルビア側とアルバニア側との和平交渉がおこなわれましたが、そのとき登場したのがオルブライト女史でした。クリントンが今まで「軟弱」だった国務長官をタカ派のオルブライトにすげ替えたのも、ヒラリー夫人の助言によるものだとされています。
 さてピルジャー氏の前記論考によれば、オルブライトの提案は「まともな国家指導者ならとても受け入れることのできないもの」でした。それはピルジャー氏によれば次のようなものでした。
 

ユーゴスラビアにNATO軍(つまりアメリカ軍)を駐留させること、その占領軍は「治外法権」で犯罪を犯しても「ユーゴスラビアの法律では裁かれない」とすること、ユーゴスラビアに新自由主義的な「自由市場」を強制導入すること、そして、これらの「提案」を飲まなければ爆撃が開始される。


 これらの要求をみればアメリカ=NATO軍がユーゴスラビアで何を狙っていたかは一目瞭然ではないでしょうか。駐留軍が「治外法権」で犯罪を犯しても「ユーゴスラビアの法律では裁かれない」という要求は今の日本、とりわけ沖縄の事態・状況を彷彿とさせるものです。
 ピルジャー氏によれば、これらの要求は和平交渉の「付属文書B」に書かれていたものですが、「メディアが意図的の読み落としたものか、それとも検閲削除によるものか、いずれにしても報道されなかった」そうです。
 それはともかく、このような要求・提案では交渉が決裂するのも当然で、こうして1999年2月24日、NATOによる爆撃が始まります。
 ピルジャー氏によれば、「その目的は、ヨーロッパで最後まで残っていた『社会主義』国家ユーゴを押しつぶすこと」でした。
 爆撃が終わったあと、大虐殺・民族浄化がおこなわれたとするコソボに、世界各国から警察チームが入り調査を始めました。その結果をピルジャー氏は次のように述べています。
 

FBIは大量の死体が埋められているとされる墓場を何一つ発見することなく帰国した。スペインの法医学団が調査しても同じ結果だった。法医学団の団長は怒り狂って叫んだ。「これは戦争挑発マシーンによる一人芝居だ」と。
 こうしてコソボにおける調査結果は死者2788人とされたが、この中には双方の戦闘員だけではなく、NATOが支援しているコソボ解放戦線(KLF)によって殺されたセルビア人や遊牧民ロマ人も含まれていた。もちろんジェノサイド(集団虐殺)などはなかった。
 要するにNATOによる攻撃は詐欺であり戦争犯罪であった。(中略)国際司法裁判所の検察官カーラ・デル・ポンテは、2008年に、NATOの犯罪を調査しようとしたが圧力がかかり、中止のやむなきに至ったことを吐露した。



<註> ここで注目しておきたいのは、ユーゴスラビアのコソボ紛争はセルビア人とアルバニア人との内紛であるかのように大手メディアでは語られていますが、実はこの内紛・内戦で残虐な暴力をふるったのは主としてKLFコソボ解放戦線(「KLAコソボ解放軍」とも呼ばれる)だったということです。これは、CIAによって養成されアフガニスタンでソ連軍と戦ったと同じ、イスラム原理主義の集団でした。これは、チョムスキー『アメリカの「人道的」軍事主義――コソボの教訓』(現代企画室、2002)を読んで初めて知ったことでした。



 こうしてピルジャー氏によれば、ユーゴスラビアの爆撃と解体は、その後に続くワシントン政府の侵略作戦モデルとなりました。それを氏は次のように述べています。

これは、その後に続いたワシントン政府による各国侵略のモデルとなった。アフガニスタン、イラク、リビア、そして(ISISを使った裏工作による)シリアへの侵略である。これらはすべてナチスを裁いたニュルンベルグ裁判の基準で言えば「最悪の犯罪」だ。しかもこれらはすべてメディアによる大々的な宣伝扇動に依拠していた。俗悪な大衆紙がそのような扇動をするのはまだしも、ここで効果的だったのは信頼すべき高級紙、しばしばレベラルだと評される報道機関が果たした役割だった。


 ピルジャー氏は、このような状況が続けば、いつか必ず核戦争になると警告しています。アメリカは国内で人種問題だけでなく経済危機や深刻な貧富の格差問題をかかえていますから、世界各国に内戦を広げ、武器を売りまくる以外に生きる道を失いつつあります。
 だからこそ、大手メディアを駆り立てながら、次々と新しい敵をつくりだして世界各地に戦争を広げていくわけです。
 アフガニスタンではビン・ラディンを、イラクではサダム・フセインを、リビアではカダフィ大佐を、そしてシリアではアサド大統領を悪魔化して、戦争を遂行しました。そして今まさに悪魔化されつつあるのが、ロシアのプーチンであり、中国・北朝鮮です。
 しかしシリアの体制転覆は、プーチン大統領の働きでなかなか前進しません。ですから、今後ますますプーチン大統領の悪魔化はそのトーンを高めていくでしょう。とりわけヒラリー女史が大統領選挙でトランプ氏に苦戦を強いられているだけに、プーチン大統領の悪魔化は度を過ぎたものになりつつあります。
 その象徴が「ロシアが国家ぐるみでドーピングをおこなっている」「共和党のトランプ候補はプーチンの回し者だ」という攻撃になって表れているわけですが、民主党の幹部が組織ぐるみでサンダース氏を追い落とす戦略を立てていたことがウィキリークスによって暴露されてからは、「この民主党本部に対するハッカー攻撃はロシアによる国家ぐるみの犯罪行為だ」という攻撃すら始めています。
 こうしてヒラリー女史を次の大統領にするために、オバマ大統領を初めとする民主党幹部はなりふりかまわぬ攻撃を始めていますから、どうしてもトランプ氏に対する勝算がつかない場合には、謀略・偽旗事件を起こして戦争をおこすということも充分に考えられます。前回のブログで紹介した「キューバに対するノースウッズ作戦」やベトナム戦争時におこなわれた「トンキン湾事件」はまさに、そのような偽旗作戦の典型例でした。
 アメリカは、西ではロシアに対する包囲網を縮め、東では中国にたいする包囲網を強化して、隙あれば戦争に持ち込みたいと、虎視眈々と狙っているわけですが、ロシアも中国も、そのような脅迫に怯(ひる)むようすは見えません。しかもアメリカは通常兵器ではロシアに勝てないことがシリアにおけるロシア空軍の働きで見せつけられていますから、残る手段は核兵器しかありません。
 ピルジャー氏が恐れているのも、まさにこのことでした。そして、このときも大きな働きをするのが大手メディアです。それは「ロシアが国家ぐるみでドーピングをおこなっている」という宣伝に、民主的陣営に属すると思っているはずの教師や知識人すらも、容易にのせられている現実が、ピルジャー氏の恐れを裏書きしています。
 私たちが大手メディアの宣伝扇動(プロパガンダ)を見抜く目をもたないかぎり、戦争は簡単に起こすことが可能なのです。コソボ紛争と元ユーゴスラビア大統領ミロシェヴィッチへの無罪判決は、まさにこのことを私たちに教えてくれているのではないでしょうか。


<註1> ここで紹介したピルジャー論文は、ユーゴスラビアに関する前半部分だけで、いま差し迫っている核戦争(ロシア←→アメリカ&NATO、あるいは中国←→アメリカ&日本自衛隊)についてではありません。しかしピルジャー論文の本旨はミロシェビッチの獄死を教訓として、目前に迫っている核戦争をいかにくい止めるかにありました。とはいえ残念ながら今の私には下記論文のすべてを翻訳・紹介しているゆとりがありません。
*Provoking nuclear war by media – John Pilger

<註2> 民主党のヒラリー女史にも共和党のトランプ氏にも飽き足りない民衆の票が、いま緑の党から立候補している女医ジル・スタイン氏へと大きく流れつつあります。とりわけ財界・金融界だけでなくイスラエルやサウジアラビアから巨額の選挙資金がヒラリー女史に流れ込んでいることが明らかになり、しかもサンダース氏がヒラリー女史との闘いを諦めて「ヒラリー候補こそ最良の大統領候補」と言い始めてからは、この流れはいっそう加速しました。ジル・スタイン女史の次の主張は、まさに私が言いたかったことをズバリ突いてくれています。
* 「アメリカ外交政策は、兵器販売用マーケティング戦略」―ジル・スタイン

<註3> ピルジャー氏が言うように、西で核戦争への緊張を高めているのが「ロシア←→アメリカ&NATO」の関係だとすれば、東で核戦争への緊張を高めているのが「中国・北朝鮮←→アメリカ&日本自衛隊」の関係でしょう。この東におけるNATO軍の役割を果たすべく、アメリカにたいして精勤を励んでいるのが安倍政権です。戦争ができる国家を目指して機密保護法をつくり、解釈改憲(=壊憲)で集団的自衛権を認めてしまった安倍政権は、いまアメリカの指示に従い、中国との戦争をめざして「共謀罪」「さらなる壊憲=緊急事態条項」へとまっしぐらです。いつ自爆するとも知れない原発「核爆弾」を全身に巻き付けている日本が、中国・北朝鮮を仮想敵国として戦争準備をしている姿は、狂気としか言いようがありません。



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