アメリカ大統領選挙と、英語教材『ヒラリー・クリントンの就任(!?)演説』

アメリカ理解(2016/10/22)、予備選挙(primary)、党員集会(caucus)、選挙人登録制度、特別代議員制度(superdelegates)、有権者ID法(Voter ID Law)

英光社2017 「女性大統領ヒラリー演説」


 先日、英語教育の教材を販売する出版社6社から、共同で、2017年用の教材宣伝パンフを入れた封筒が届きました。なかを開いてみて驚きました。
 というのは英光社のパンフの冒頭に、「新刊」「全冊CD付き」「グローバル英語総合教材」と銘打って、ホワイトハウスの写真と次のような大きな文字の宣伝文句が、見開き2頁を飾っていたからです。

ヒラリー・クリントン大統領就任演説
Inaugural Address by Hillary Clinton


 まだ大統領選挙が終わってもいないのに、もうヒラリーが「アメリカ初の女性大統領」として紹介されているのです。上記の写真を御覧いただければお分かりのように、宣伝文句には次のような解説が付いています。

ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)は、中西部のイリノイ州生まれ。第42代アメリカ大統領Bill Clinton(在任1993~2001)の妻。女性として初めてのアメリカ大統領ですし、また夫婦とも就任するのも初めてです。娘にチエルシーさん。旧姓はHillary Rodhamです。日本でも人気が高く、親日家であり、来日した折に東京大学でタウンミーティングをしました。


 この教材をつくった英光社としては、結果を見るまでもなくアメリ大統領の選挙戦はヒラリーが当選するに決まっていると考えたのでしょう。一刻も早く他社を出し抜いて、この冊子を大学用教材として採用してもらおうと企画したに違いありません。
 アメリカの大手メディアを見ていると、ほとんどすべてがヒラリー支持で一致し、トランプ叩きに終始していますから(そして日本の大手メディアも、それと同じ報道をしていますから)、そう考えても当然とも言えます。
 しかし、少しでも注意深くアメリカの選挙情勢を見ていれば、ヒラリー優勢という報道がまったく捏造されたものであることは、民主党の対抗馬であったサンダース候補の主張がアメリカ国民の心を捉え、破竹の勢いでヒラリー女史を追い上げていたことでも明らかでした。
 しかもアメリカ各地で不正選挙がおこなわれ、それがサンダース候補の進路を阻んでいたことは、私のブログでも指摘したとおりです。
 ですから大手メディアがサンダース候補の主張を正しく伝え、民主党幹部による選挙の不正を大胆に暴いていれば、今の選挙戦はまったく違ったもの(サンダース対トランプという構図)になっていたでしょう。
 しかしサンダースの主張や民主党幹部による選挙の不正は、弱小の代替メディアによってしか伝えられてきませんでしたから(そして最終的にはサンダース候補が勢いを増しつつあった支持者を裏切るかたちで選挙戦を途中で降りてしまいましたから)、アメリカ国民には、最悪の選択肢しか残されなくなりました。
 つまり「ヒラリー対トランプ」「より悪いのはどちらか」という選択肢しか残されなくなったのです。
 日本人にとって一般的なイメージは、「民主党=リベラル、進歩的」「共和党=右翼、保守的」ですから、その進歩的陣営の代表であるヒラリー・クリントンのどこが問題かと思われるかも知れません。
 残念なことに、NHKを初めとする日本の大手メディアもそのような報道をしていますから、私の知っているかぎり、進歩的知識人と言われる大学教師もほとんど同じ認識です。この英光社の教材を編集した人物(鈴木邦成)も、調べてみると「物流エコノミスト、日本大学教授」という肩書きが付いていました。
 ヒラリー女史のどこか問題なのか、その詳しい説明をしていると長くなりますので、それについては次回のブログにゆずりますが、「ヒラリー・クリントンという人物は、大統領になったときには、世界平和にとって、ドナルド・トランプよりもはるかに危険な人物になるだろう」ということだけをここでは指摘しておきたいと思います。


ところで、この英光社の教材には、「ヒラリー・クリントン大統領就任演説」だけでなく、「オバマ大統領の広島での演説全文」まで収録されています。そして上記写真の最後に宣伝文句として、「またオバマの広島での歴史的なスピ―チ(2016.5.27)も貴重です」と書かれています。
 しかし、このオバマ大統領の広島演説はノーベル平和賞の受賞演説にまさるとも劣らぬ偽善的なものでした。それを私は物理化学者・藤永茂氏の言を引用しつつ、ブログで次のように書きました。
 

・・・・・藤永氏は上記の引用に続けて、「ノーベル平和賞を受賞することになったプラハ講演で、核廃絶を悲願としてきた日本人の心をメロメロにしてしまったバラク・オバマという人物が、政治家として「稀代の大嘘つき」「稀代のコン・マン」(コンフィデンス・マン=詐欺師)であることを、これほど冷徹な筆致で断定した文章は、ざらには見当たらないでしょう」と述べています。
 あの温厚な藤永氏が、オバマ氏のことを「稀代の大嘘つき」「稀代のコン・マン」と述べていて驚かされましたが、それほど藤永氏の怒りが大きかったことを、この言葉遣いが示しているように思います。
 ところが、日本の大手メディアは、このような怒りをオバマ氏にたいして示すことは、ほとんどありませんでした。むしろ、その逆だったのです。「広島を訪問するアメリカ史上初の大統領」というわけです。
*オバマとは誰か―「アメリカ大統領による史上初の広島訪問」を考える
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-261.html (2016/05/21)


 ところが、英光社の編集部は、大手メディアの宣伝どおりに、オバマ大統領の広島演説を「歴史に残る名演説」として教材化し、間違った観念を学生の頭にすり込もうとしているのです。
 もちろん編集部は意図的にそうしているわけではないでしょうが、結果的に果たす役割は同じことです。むしろ「名演説を通じて英語を学ばせる最良の教材」という善意でやっているからこそ、逆に罪が深いとも言えるでしょう。
 というのは、意図的についた嘘というのは、「大量破壊兵器を口実としたイラク侵略」をみれば分かるように、意外と簡単にボロが出るものですが、本気で信じた嘘というものは、その本人からはボロが出にくいからです。
 これは、この本の編集者である鈴木邦成氏についても、同じことが言えるでしょう。たぶん鈴木氏も意図的に嘘をつこうと思ってこの教材を編集したわけではないでしょう。
 しかし、拙著『英語教育が亡びるとき――「英語で授業」のイデオロギー』で、私はしばしば「英語読みのアメリカ知らず」について言及しました。
 また有名な英文学者・中野好夫氏は、「英語大好き人間を『英語バカ』にする不思議な魔力」を英語という言語はもっている――という趣旨の発言をされたことがあります。
 上記のような教材を編集されるからには、鈴木邦成氏は英語がよくおできになるかただと思うのですが、私にはたぶん鈴木氏も同じ過ちに陥っているような気がします。
 というのは、英語関係の出版社としては老舗(しにせ)である研究社でさえ、やはり2017年度の教材として、下記のようなCD付きの教材を売り出しているからです。


研究社2017 「アメリカの名演説」


 ご覧のとおり、これにも、「俳優・政治家らの名演説を読んで聴いて、読解力・聴解力向上をはかろう!」という謳(うた)い文句で、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマといった人物の演説が、みごとに収録されています。
 研究社という出版社は、もっと見識ある出版社だと思っていただけに、これは本当に残念なことです。
 このような状態が続くかぎり、日本は永遠にアメリカの属国状態から抜け出ることはできないでしょう。英語学習に打ち込めば打ち込むほど間違ったアメリカ観が刷り込まれていくのですから。


 とは言っても、「ヒラリー・クリントンとは誰か」「ヒラリーとはどんな過去を背負ってきた人物か」を説明しないかぎり、これまで私が述べてきたことは充分に納得してもらえないでしょう。
 そこで次回のブログでは、私の気力・体力が許すかぎり、この点について詳述したいと思います。一回では終わることができず連載になるかも知れません。


<註1> 下記のブログ「オバマとは誰か」については、その続編を9日後(2016/06/30)に書いています。併せて読んでいただければ、私の言っていることの趣旨をもっと理解していただけるのではないかと思います。
*オバマとは誰か―「アメリカ大統領による史上初の広島訪問」を考える
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-261.html (2016/05/21)
*オバマ大統領の広島訪問、物理化学者・藤永茂氏いわく「稀代のコン・マン=詐欺師」
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-265.html (2016/06/30)

<註2> 日本が敗戦したあとに占領軍として乗り込んできたアメリカは、「留学と英語教育」を武器として、京都大学をひとつの拠点としながら、日本人の洗脳工作に取り組みました。その経過を私は下記の拙著『英語で大学が亡びるとき』第2章第3節で詳細に紹介しました。
    「対日文化工作」としての英語教育―京都大学の「国際化」路線を、歴史的視点で再考する
 時間がある方は、上記の文献も参照していただければ有り難いと思います。そうすれば、今の日本が「英語で授業」という新指導要領に縛られたり、文科省の言う「国際化」という口実で、旧制帝国大学だけでなく、少なからぬ国立大学や私立大学が、専門科目や大学院どころか教養科目までも英語漬けにされている実状(その危険性)を理解していただけるものと思っています。




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Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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