書評 『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』―求められているのは外面的な「能動学修」ではなく、批判的創造力を培う「脳動学習」

英語教育(2017/01/16)、マケレレ原則、マケレレ(ウガンダ)、ブリテン連邦会議、「英語で授業」、「ザルみず効果」

書評『寺島メソッド_英語アクティブラーニング』『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギー』016_convert_20170116231540


  文部科学省は2016年2月2日、「読む・聞く・書く・話す」の4技能をみる中学3年対象の初めての英語力調査結果速報を発表しました。
 しかし、中学卒業段階で英検3級程度以上の英語力を持つ生徒の割合を2017年度までに50%以上にするという政府目標に対し、4技能とも2~4割にとどまっています。
 文科省は高校3年生9万人を抽出した2回目の英語力調査も行い、その結果も発表しました。しかし、4技能いずれの平均点も、英検3級程度の水準で、高卒時に英検準2級程度以上を50%にするという政府目標とは大きな差が出る結果となりました。
 私に言わせると、これは初めから予想されていたことです。英会話に偏重した授業では、私の言う「ザルみず効果」に終わることは目に見えています。憶えても使う機会がほとんどない日本では、いくら暗記しても脳に蓄積されていきません。「ザルに水を入れても溜まっていかないのと同じです。
 まして「日本語を使わずに英語だけで授業をする」という指導要領に従っているかぎり、生徒は教師の話す英語の説明が理解できないまま、会話のフレーズを暗記することだけを要求されますから、きちんとした読解力や作文力が授業で身につくはずもありません。むしろ学力は低下する恐れさえあります。
 このような事実を文科省も自覚したのでしょうか。文科省は「中学校・高等学校における英語教育の抜本的改善のための指導方法等に関する実証研究に係る計画書等の提出について」という通達(2016年3月31日付け)を全国の大学に送付し、英語教育を改善する方策の提言を求めました。
 しかし拙著『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギー』(明石書店、2009)でも詳述し、予想したように、英語学力の低下は「英語で授業」という方針がもたらした結果なのですから、最も簡単な解決策は、「英語で授業」という間違った方針をやめさえすればよいのです。
 ところが恐ろしいことに、文科省は新指導要領で、中学校でも「日本語を使わずに英語だけで授業をする」ことを、新しい方針として提示しました。これでは、ますます日本の英語教育は荒廃していくでしょう。
 しかし、「英語で授業」は、前回のブログ(2017/01/09、書評『英語の帝国』)でも指摘したように、大英帝国が植民地政策を維持するためにうちたてた「マケレレ原則」そのものなのですから、これでは、日本の「英語教育が亡びるとき」どころか、日本そのものが「亡びるとき」になりかねません。
 文科省は当面の方策なのでしょうか、「英語アクティブラーニング」ということを声高に言い始めました。しかし、「英語で授業」という方針を維持したまま、それに「英語アクティブラーニング」なるものをいくら重ねても、間違った土壌の上に豊かな果実が実るはずがありません。
 とはいえ、このような事態を放置しておくわけにもいきません。そこで明石書店のすすめに従って、私が主宰する研究所のメンバーで、それにたいする対案を提示することにしました。それが昨年11月末に出版された『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』という本です。
 幸いにも長周新聞(2016/12/28)がその書評を載せてくれましたので、それを以下に紹介させていただきます。
 本当は「緊迫する世界、混迷するアメリカ」についても書きたいことは多々あるのですが、そんなことをしていたら紹介が時期遅れになりそうなので、「監修者まえがき」併せて、以下にその書評を紹介させていただくことにしました。ご了解いただければ幸いです。

監修者まえがき

 このたび山田昇司先生の編集で『寺島メソッド、英語アクティブラーニング』が出版されることになり、喜びに堪えません。
 山田さんとのつきあいは、私が岐阜大学に赴任し、1986年に「記号研」という英語教育の実践的研究団体を起ち上げて以来ですから、もうすでに30年近くになります。
 しかし山田さんが、大阪外国語大学を出るとすぐ、「日本語を使わずに」「英語だけで授業をする」ことに熱意を燃やして初任校に赴任した、熱血教師だったことを、最近になるまで知りませんでした。
 外大在学中に英検一級に合格し、在学中もなるべく英語を使うように努力されていた山田先生ですから、その英語力を使って、英語の授業も日本語を使わずにやってみたいと思われたのは、たぶん自然な流れだったのでしょう。
 しかし私が岐阜大学に赴任して「記号研」を起ち上げ、月例研究会で実践報告をしていただいていた頃には、「英語だけ授業をしている」という報告を聞いたことがなかったので、初任校では英語だけで授業をしていたという話を聞いたときには本当に驚きました。
 というのは、山田さんは初任校から異動した次の学校では授業がなかなかうまくいかず困っていたときだったからです。そのときちょうど、私が高校教師から大学教師になり岐阜大学で「記号研」を起ち上げたのですから、今から思うと「記号研」は、まさに「渡りに船」(あるいは「駆け込み寺」)だったわけです。しかし当時の私は、このことを知るよしもありませんでした。

 私がこのことを知るきっかけになったのは、2012年の暮れ、宮城県立高校の佐々木先生(本書第7章)から「新しい指導要領の研究指定校になり、近隣学校の英語教師を集めた研修会を開くので、講演に来てほしい」との依頼を受けたからでした。当時の私は体調が優れなかったのと広島大学で講演をする予定だったこともあり、残念ながらお断りせざるを得ませんでした。
 そこで、すでに高校から大学に異動していた山田先生にピンチヒッターを御願いしたところ、「私は講演などしたことがないから無理です」と一度は断られたのですが、「自分がたどってきた軌跡と寺島メソッドによる現在の授業について語ってもらうだけでよいと佐々木先生も言っています」「あらかじめ原稿を書いていって読み上げればいいんですよ」「心配なら講演原稿は私が援助します」と言って引き受けてもらったのです。
 こうして私は、英語教師として山田さんのたどってきた軌跡「英語と私」を読んで初めて、山田先生が初任校で、文科省が言い出す38年も前に、「英語で授業」の先行実践をしていたことを知ったのでした。この講演に至る経過と講演内容は、その後、一冊にまとめられて『英語教育が甦えるとき―寺島メソッド授業革命』になりました。
 幸いにも、この本は地道な売れ行きを見せました。文科省が「英語で授業」を言い出したので、それにどう対処してよいのか困っている先生方に、この本が何らかのヒントになったからではないでしょうか。拙著『英語教育が亡びるとき―「英語で授業」のイデオロギー』が一種の理論書であるとすれば、山田さんの本が実践書になり、その相乗効果だったのかも知れません。

 それはともかく、山田さんの『英語教育が甦えるとき―寺島メソッド授業革命』が堅実な売れ行きを見せたからでしょうか、今度は拙宅を訪れた編集部から「寺島メソッドの概論書を出してほしい」との要求が山田さんあてに出されてきたのです。山田さんも私も、これには大いに驚かされました。というのは実践書と違って概論書というのは非常に書きづらいものだからです。
 そこで私たちの方が困惑しているうちに時間がたち、今度は編集部から、「いま文科省では、英語だけでなく全科目に『アクティブ・ラーニング』を要求するようになった。ついては『寺島メソッドで始めるアクティブ・ラーニング』といったような内容で、寺島メソッドを紹介する本というのはどうだろか」という新しい提案が出されてきました。
 文科省が今頃になって「アクティブ・ラーニング」などと言い出すと、今まで自分たちが出してきた指導要領は生徒を能動的学習者にすることに欠けていたことになり、自分たちの非を認めるようなことになりはしないかと心配になったのですが、指導要領を改訂するたびに学力が低下していく現状を何とかくいとめようとする努力の一環として受け止めることにしました。
 そこで山田さんと相談したところ、「寺島メソッドが『記号研』発足以来めざしてきたのは、まさに文科省の言うアクティブ・ラーニングそのものでした。生徒が寺島メソッドで『能動学修』をし、それが見かけ上の華やかさだけでなく、頭脳も充分に活性化して『脳動学習』になっていることは、これまでの30年の実績で充分に証明されているのではないでしょうか」という返事でした。
 そして、「寺島先生の監修=指導と援助さえいただければ何とか頑張ってみます」という返事をいただいたので、やっと今回の出版に漕ぎつけることができたのでした。
 最初は山田さんの単著という企画で出発したのですが、それが編著になったいきさつについては、序章に詳しく書いてあります。結果として、このほうが良かったと思っています。
 次々と指導要領が変わるたびに、それに翻弄され、心も体も疲れ切っているであろう現場の先生方に、本書が少しでも希望と活力を与える「水源地」になることを願ってやみません。

 最後になりましたが、私たちの細かな要求にも丁寧に対応していただき、編集部の森さんには本当にお世話になりました。この場を借りて厚く御礼を申し上げたいと思います。
( 2016年10月18日)



書評『寺島メソッド_英語アクティブラーニング』長周新聞2016年12月28日(1)_convert_20170116204648
書評『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』長周新聞2016年12月28日(2)


関連記事
スポンサーサイト
検索フォーム
プロフィール

狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

リンク
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
RSSリンクの表示
QRコード
QR