偽旗報道(Fake News)を考える、その1――トランプ大統領の就任式にあたって

アメリカ理解(2017/01/23)、偽旗報道FakeNews、セス・リッチ、マイケル・フリン、国家安全保障局NSA(National Security Agency)、国防情報局DIA(Defense Intelligence Agency)


不審な死を遂げた民主党職員セス・リッチ(左)。彼がウィキリークスの創始者アサンジ(右)に情報を?
Seth-Rich.jpg
http://yournewswire.com/wikileaks-seth-rich-leaked-clinton-emails/


 トランプ大統領の就任式をめぐって世論が沸騰しているようです。私が配信登録をしているOurPlanet-TVという独立メディアでも、その「メールマガジン」(2017年1月13日)の編集後記に次のようなコメントが載っていました。
 

何かとお騒がせなトランプ次期米大統領。11日に開かれた当選後初の記者会見で、CNNのリポーターからの質問を拒否。CNNを“Fake News”とまでこき下ろし、自身に都合悪い報道をするメディアに対する敵対心をあらわにしています。1月20日に控えている大統領就任式、オバマ大統領の就任式ではアレサ・フランクリンや、ビヨンセが登場し盛り上がりましたが、今回の就任式はミュージシャンにことごとく断わられて困っているようです…。さみし~い就任式になるのでしょうか。またトンデモ発言で自ら盛り上げそうですが。
 一方、退任間近のオバマ大統領は12日、ジョー・バイデン副大統領に米国で最高の栄誉「大統領自由勲章」をサプライズで授与。何も知らされていなかったバイデン氏が、涙を流して感激する映像からは、これまで築いてきたふたりの絆を感じ、じ~んとしてしまいました。ホワイトハウスのオバマ&バイデンの“Bromance=ブロマンス”(男同士の厚い友情を表す言葉)はネットでも度々話題になりましたが、もう見られないと思うと、寂しい!(高木)
http://melma.com/backnumber_122815_6473265/、発行日:1/13


 上記の編集後記を読むかぎり、執筆者の高木さんは、CNNという大手メデイアが今まで“Fake News”(偽旗報道)をしてこなかったという認識のようです。
 しかしCNNは他の大手メディアと同じく、「トランプはロシア大統領プーチンの操り人形だ」という根拠のない報道を繰りかえしてきたのですから、トランプ氏が "You are Fake News."と言って質問を拒否したのは、ある意味で当然のことでした。
 それとも高木さんは、CNNなど大手メディアが今回の大統領選では不偏不党の仮面をかなぐり捨てて「ヒラリー支持一色」「トランプ叩きに終始」してきた事実を知らないのでしょうか。これでは権力に媚びないことを表看板にして活動してきたOurPlanetという「独立メディア」の名に傷がつきはしないでしょうか。
 これは、高木さんの次のようなコメントにもよく現れています。
 「ホワイトハウスのオバマ&バイデンの“Bromance=ブロマンス”(男同士の厚い友情を表す言葉)はネットでも度々話題になりましたが、もう見られないと思うと、寂しい!」
 オバマ大統領がジョー・バイデン副大統領に米国で最高の栄誉「大統領自由勲章」をサプライズで授与したからといって、それを次のように述べるに至っては、「権力に媚びないはずの批判精神はどこに消えてしまったのか」と唖然としてしまいました。
 「何も知らされていなかったバイデン氏が、涙を流して感激する映像からは、これまで築いてきたふたりの絆を感じ、じ~んとしてしまいました。」 
 自民党の安倍首相が副総理の麻生太郎に、何かの栄誉賞をとつぜん授与したからといって、それを「男同士の厚い友情」を示したもの感激するというのは、たぶん自民党の支持者でさえ、単なるテレビ映りを意識した見世物としてしか受け止めないのではないでしょうか。
 まして「テロと戦い自由と民主主義を回復する」という名の下に、パキスタンやアフガニスタンで無人機よる殺人行為をくりかえし、殺された人の大半が無実の一般市民だったことにたまりかねて、ノーベル平和賞を受賞された少女マララから、「無人機よる殺人行為はやめてください」と強く抗議された人物が、それに積極的協力を惜しまなかったバイデン氏に「自由勲章」をおくるなどというのは、偽善以外の何ものでもありません。
 日本では左派=民主的陣営と見なされているはずのOurPlanet-TVでさえ、このような認識なのですから、普通の日本人がオバマ礼賛になっても仕方がないでしょう。日本の大手メディアはアメリカ追随の報道しかしないのですから、これも仕方がないとも言えますが、何度も言うように、権力に媚びず批判精神を貫くものとして設立されたはずの独立メディアがこのような状態では、日本の未来はどうなることかと気が遠くなってしまいます。

 私は、ブログを書いていても、時々このような絶望感に襲われることがあるのですが、それでも私が書いていることに何らかの反響があると元気が出てきて、72歳の老軀にむち打って何とか書き続けようという気になります。
 そのような反響のひとつが、既にこのブログで紹介した「フランス在住のFさん(女性)から届いた便り」でした。
*「ヒラリー・クリントンとは誰か」その後、読者からの反響(2)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-278.html
 このFさんからの便りにたいして、私が次のブログ=「ヒラリー・クリントンとは誰か」その後、読者からの反響(3)を書いたところ、再びFさんから昨年末に次のような便りをいただきました。

> 拝復、ご不幸がおありだったのですね。そんな中、お時間をとって返信してくださり、ありがとうございます。
> 私はFacebookをあまり信用していないので、これまで何も書いていませんが、最近、英語の情報に触れて知ったことを少しはシェアした方がいいのではないか、と思い始めました。
 ブログというのも面倒なので、今まで署名などのシェアしかしていないFacebookに思いきって書いてみました。オバマ大統領が始めた「ニセ情報」大宣伝を信じている人が少なからずいることが分かったためです。
 Facebookは確か、友人しか見られないと思いますので、以下、少し加筆したものを記載いたします。先生のご意見をお伺いできれば幸いです。
 先生は私より少しお年上であられるので、くれぐれもお体ご自愛くださり、良い年をお迎えくださいますように。


 この便りにたいして私は次のような返事を差し上げました。しかし新年になってもFさんに返事のブログを書く肉体的精神的ゆとりが生まれず、今に至ってしまいました。

 オバマ大統領が始めた「ニセ情報」大宣伝についての鋭い御意見、まったく賛同かつ感服しながら読ませていただきました。私も時間ができたらぜひ書いてみたいと思っていたテーマでした。
 今は長周新聞元旦号の原稿締切に追われていますので、これが終わったら是非とり組みたいと思っています。Fさんの意見を紹介しながら私見を展開できればと考えています。それまでお待ちいただければ有り難いと思います。
 今日は取りいそぎ御礼のみにて失礼します。


 しかし、トランプ大統領の就任式をめぐって、アメリカでは相変わらずFakeNewsが垂れ流され混乱が続いていますので、「OurPlanet-TVのメルマガと関わらせてFさんの意見を紹介しつつ私見を述べなくては」という強い思いが湧いてきました。
 そこで今回のブログではFさんが「Facebookに思いきって書いてみました」という記事をまず紹介し、それにたいする私の意見・コメントは次回に書くことにしました。
 私の意見は書き出すと長くなりそうですし、Fさんの意見は、私のコメントなしでも、それ単独で紹介する値打ちが充分にあるものと考えたからです。以下が、そのFさんの意見です。


 このところ、オバマ大統領は有終の美を飾るどころか、大変な醜態を見せている。今回の大統領選で、⑴ ロシアが情報をハッキングしてトランプを当選させた、⑵ 多くのニセ情報サイトが投票を左右した、という「言いがかり」が、オバマ大統領の仕事納めになろうとは。
 2008年秋、パリ民主党支持者会が催したオバマ・パーティーに参加し、徹夜で選挙結果を見守り歓喜したものとして、非常に残念に思う(ちなみに今年、フランス民主党支持者会はクリントン候補に決まった後、いっさい活動しなかった。サイトは更新されず、通常なら、トランプを落とそう、とキャンペーンするはずのサイトなのに)。
 面白いことに、オバマ大統領はロシアのハッカーの仕業にすることで、少なくともウィキリークスが流した情報は偽でなく本当であった、ということを認めている。また、アメリカ人がアホな差別主義者だからトランプに投票したわけではない、クリントンが敗北を喫したのは、多くの投票者がインターネットで、大メディアが流さない(クリントンに都合の悪い)「ニセ」情報を読んだためだ、と正しく分析しているのだ。
 正しい情報を流す幾多のサイト、独立メディアを、「ニセ情報」として何の根拠も示さずに糾弾するのは、根拠なく「イラクに大量破壊兵器がある」と言い募ってそれを「世界の常識」にしてしまい、戦争を開始したジョージ・ブッシュJrのやり方によく似ている。
 ワシントンポスト紙が中心になって作ったニセ情報サイト・リストを見た。いい加減なサイトも入っているのだろうが、私が信頼する経済学者PCRのブログ、ゴールドマンサックスの不正を暴いて有名になった反ウォールストリート的なブログ(筆者はウォールストリート内部の人たち)、欧米の大手新聞のほとんど(日本の新聞は入っていない)がサポーターとして資金援助しているウィキリークスまで入っているので驚いた。大統領選終盤になって、悪魔祓いや子供生贄などというあまりにも荒唐無稽な反クリントン・サイトが登場した時、これはインターネット情報全般の信頼性を傷つけるために意図的に作られたものではないか、という疑いを持ったが、オバマ大統領が「ニセ情報サイト」を声高に叫んで世論誘導し始めた今、私のカンは当たっていたのではないかと思う。
 クリントンの「不都合な真実」を暴露したのは、ロシアによるハッキングではなく、アメリカのインタリジェンスや内情を知る人たちだったと私は思っている。ウィキリークスのアサンジも「(ヒラリーと選対委員長ポデスタのeメールは)ロシアからではない、内部からのものだ」と答えている。民主党の投票担当セス・リッチがこの8月、背後から数弾撃ちこまれて殺された時、犯人につながる情報に対して2万ドルの賞金を出す、とウィキリークスが即座に発表したのは興味ふかい。
 警察は、何も盗られていないのに強盗殺人として単純に処理した。ウィキリークスのアサンジのインタビューを見たが、「リッチが情報源だったのか」と聞かれた時、「それには答えられない...が、情報源は身の危険にさらされている。それを守らなければならない」と苦し紛れに答えて、リッチが情報源だったと暗に認めた様子である。
 リッチはサンダース支持者だったので、民主党の候補者選出時に行われた不正に義憤を感じて情報を流し、生かしておけばもっともっと不都合な情報が流される、ということで殺されたのだろうか。
 インタリジェンスと一口に言っても、アメリカにはCIAのほか、軍の防衛インタリジェンス(DIA)、スノードンで知られるようになったNSAなど16組織もある。CIAは情報収集にとどまらず、隠密作戦を許され、アメリカの言いなりにならない他国政府の転覆などにも従事できるし盛大にやってきたが、DIAは、アメリカに対する軍事的な脅威を知るための情報収集を行う、どちらかというとストレートな情報機関だ。いち早くヒラリー支持を表明したCIAは、ロシアという敵がいてこそ存在意義がある機関だから、ロシアと戦いたいヒラリーを推すのは当然だった。
 一方のDIAは、イスラム国打倒よりアサド政権打倒を優先するオバマ大統領と衝突して、フリン長官が退任したように、シリア問題を解決するにはロシアと協力しあわなければならない、と考えるインタリジェンス関係者が他にもいたようだ。DIAかNSAのどちらかは忘れたが、実名、顔を出して元エージェントがビデオ・インタビューでこうした見解を述べるのを見たことがある。こういった人達からクリントンにまつわる「不都合な真実」が意図的に流された可能性はおおいにある。
 私がここで言いたいのは、根拠なしの「世論誘導」にはよくよく注意をはらわなければならない、ということだ。まずは疑ってかかろう。

 先に紹介したFさんからのメールには「私はFacebookをあまり信用していないので、これまで何も書いていませんが、最近、英語の情報に触れて知ったことを少しはシェアした方がいいのではないか、と思い始めました」とありました。
 これを読むと、「フランス在住でありながら英語の情報も読み解くことのできる素晴らしい女性」というイメージが浮かんできます。
 私は、フランス語どころか英語すらも自由に会話や読み書きできず、拙著『英語教育原論』(明石書店)でも書いたように、学生には「英語ができたら英語教師などしていない。英語が得意なら大学時代の友人・知人のように商社・外交官・新聞社などに就職している」と言い続けてきました。
 ですからFさんがFacebookで書かれたことはかなり高度で、「経済学者PCR」とか「インタリジェンス(情報機関)のDIA、NSA」など、用いられている用語については少し解説が必要だと感じました。そこで以下では、幾つかの用語の注釈のみに止めて、このFさんの意見にたいするコメントは、先述したように次回にしたいと思います。

<註1> 経済学者PCR
 Paul Craig Robertsは、元アメリカ政府高官(経済政策担当の財務次官補)。ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービス、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えたこともあり、氏のブログは下記で読むことができます。
http://www.paulcraigroberts.org/
<註2> ワシントンポスト紙が中心になって作った「ニセ情報」サイトのリスト
 アメリカで発行部数第5位の新聞であるワシントン・ポストは、「偽ニュースを拡散させるロシアのプロパガンダサイト」として、200以上のウェブサイトの名を連ねたブラックリストについて報じました。このリストを作成したサイトPropOrNotについて、ワシントン・ポストは、「外交政策、軍事的、技術的背景を持つ無党派の研究者集団」によって開設されたものと説明していますが、どこの団体に所属する何という研究者グループであるかは伏せられていること、リストにウェブサイトを掲載する基準が不明瞭であることで、Glenn Greewaildなど著名な独立ジャーナリストから、「ワシントン・ポストの記事は恥ずべきものである」として批判されています。200のリストは下記で見ることができます。http://www.propornot.com/p/the-list.html
<註3> アメリカの情報機関NSA, DIA
 アメリカの情報機関として最も有名なのは悪評高いCIAですが、NSA(アメリカ国家安全保障局National Security Agency)は、通信傍受・盗聴・暗号解読などの「信号情報」活動を担当する国防総省の情報機関で、CIAよりはるかに巨大な組織です。ロシアに亡命しているスノーデン氏が、この機関がアメリカのみならず世界中の個人・組織を違法に盗聴していることを暴露して、その存在を知られることになりました。他方、DIA(アメリカ国防情報局Defense Intelligence Agency)も、国防総省の諜報機関ですが、軍事情報を専門に収集・調整する機関です。このたび、トランプ大統領によって国家安全保障を担当する大統領補佐官に指名されたマイケル・フリンは、元国防情報局長官でした。櫻井ジャーナルによれば、フリンは、「シリアのイスラム過激派を敗北させるよりもアサド政権の打倒を優先している」とオバマ大統領を批判し、解任されていました。http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/20170109/

 このような解説・注釈を書いていると切りがなくなるので、ここで打ち止めにしますが、いずれにしてもFさんのFake Newsに関する論評は、冒頭でも述べたとおり鋭く的確で、ただ感服するのみでした。
 そこで次回のブログでは、これに付け加えるかたちで、「今度の大統領選挙で本当は何が争われたのか」「大手メディア、とりわけCNNは何を報道してきたのか」「Fake Newsの筆頭として声高に批判されたRT(Russa Today)とは何か」などについて書く予定です。
 それにしても、アメリカの大手メディアが報道していることを、OurPlanet-TVのような日本の独立メディアまでが、そのまま鵜呑みして報道していることは、非常に深刻な事態というべきでしょう。


 
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Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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