「戦争は国家の健康法である」その1

国際教育(2017/05/30)、サウジアラビア、イスラム王制独裁国家、死の商人、軍事安保複合体、「闇の国家DeepState」、鈴木孝夫、ランドルフ・ボーン

33歳で夭折したランドルフ・ボーン(Randolph Bourne)
ランドルフ・ボーン 仮題『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上


 トランプ政権は相変わらず迷走し続けています。トランプ大統領がDeep State「闇の国家」の言いなりになって、外国旅行の最初に選んだ国がサウジアラビアとイスラエルだったにもかかわらず、国内では「ロシア・ゲイト」を口実にしたトランプ叩きが弱まる気配が一向に見えないからです。
 トランプ大統領がG7に参加する途上で外国旅行の最初に選んだ国サウジアラビアは、隣国イエメンを爆撃し莫大な難民と大量の死者を生み出しているだけでなく、シリアで蛮行を重ねているイスラ原理主義テロ集団ISISの裏の支援者として、知る人ぞ知る有名なテロ国家・王制独裁国家です。
 ところがトランプ氏は、今回のサウジ訪問で、このサウジアラビアと今後十年間で $350 billion(10億ドル✕350=3500億ドル)の武器売買の契約を結びました。しかも、そのうちの $110 billion(10億ドル✕110=1100億ドル)は初年度の支払いで、Deep State「闇の国家」(=金融街・軍事産業、軍事安保CIAペンタゴン複合体)のふところに入ってくることになっているそうです。
 この金額は前大統領オバマ氏が二期八年で達成した「約 $115 billionにものぼるサウジへの武器売買」を一気に超えてしまう金額です。しかも、このオバマ氏が達成した成果は、過去にも例のないほどの巨額な武器取引だったというのですから、トランプ氏が「死の商人」として達成した成果が、いかに巨大なものだったかが分かります。
*Trump’s Art of the Deal in the Middle East: Selling wars and terrorism
「武器とテロを売りまくる、中東におけるトランプ氏の商売技術」
https://www.rt.com/op-edge/389462-trump-israel-palestine-saudi-war/

 トランプ氏は大統領に当選する前は、ヒラリー・クリントンの選挙戦で「サウジこそが中東における殺戮の元凶である」として、サウジアラビアやイスラエルを支持するヒラリー女史を、口を極めて非難してきたはずですが、今ではその姿勢を一八〇度転換させて「闇の国家」の指示に従うようになりました。
 これはCIAによる暗殺またはクーデターから逃れるための、やむを得ない方向転換だったのかも知れませんが、冒頭にも述べたとおり、それにも関わらず、トランプ叩き・トランプ追放の勢い・矛先は、止みそうにありません。中東その他における武器売買と戦争の継続は、それほど金融街と軍事産業、軍事安保複合体にとって、美味しい商売なのでしょう。
 ところが日本の安倍政権も憲法九条を投げ捨て、原発や武器を輸出することで経済界に奉仕しようと懸命です。国民は貧困化するばかりで購買力がないのですから、「原発や武器の輸出によって他国のひとが死のうが、国民の税金で支援された原発産業や兵器産業が儲かりさえすればよい」というように、大きく方針転換を図っていると考えた方がよいのかも知れません。かつて朝鮮戦争で日本が景気回復したように、第二の朝鮮戦争を期待して、共謀罪の準備をしているとも考えられます。


 ところで前回のブログでは、「しんぶん赤旗」が拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』に載っている、ボブ・ディランの歌「戦争の親玉」、パティ・スミスの「民衆には力がある」を利用しながらで、素晴らしいコラム記事を書いていることを紹介しましたが、丁度そのころ、私が尊敬している鈴木孝夫先生から『下山の時代を生きる』(平凡社、2017)が届きました。
 封筒を開けてみると平田オリザ氏との共著の新書が入っていて、しかも鈴木先生の自筆による署名で「謹呈」と書いてあり、そのうえ同封してあった便箋には次のような文面がしたためられてあったので、なおさら感激しました。大先生から直接に謹呈本が届くだけでも感激してしまうのに、そのうえ便箋に次のようなお褒めの言葉が眼に飛び込んできたのですから、感激の二乗・三乗でした。

「前略、このたび同封いたしました対談本を出しました。今年で九十歳になりましたが色々な考えが浮かんでくるので中々死ぬヒマがありません。
 先生方の訳された『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を少しずつ読んでいますが、大学のアメリカ文学研究者たちは、このような本を読んでいるのかなと思います。
 先生方の御健闘を心から期待いたしております。早々
平成二十九年五月一〇日、鈴木孝夫
寺島隆吉、美紀子様」


 鈴木先生の名著『言葉と文化』(岩波新書、1973)を読んで以来、私にとって鈴木先生は雲の上の人物として尊敬するだけの存在でした。
 そのような大先生から直接に謹呈本をいただくだけでなく、拙訳『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を読んでいただいていると知っただけでも本当に光栄なことです
 その鈴木先生から、「先生方の訳された『肉声でつづる民衆のアメリカ史』を少しずつ読んでいますが、大学のアメリカ文学研究者たちは、このような本を読んでいるのかなと思います」という感想をいただき非常に誇らしい気持ちになりました。
 と同時に、複雑な思いも浮かんで来ました。というのは鈴木先生のことばから、「大学のアメリカ文学研究者たちは、この訳書に載せられているような事実を、ほとんど知らずに文学をやっているひとが少なくないのではないか」という声が聞こえてくるような気がしたからです。
 拙著『英語教育が亡びるとき:「英語で授業」のイデオロギー』(明石書店、2009)、『英語で大学が亡びるとき:「英語力=グローバル人材」というイデオロギー』(明石書店、2015)を出したとき、私は「英語読みのアメリカ知らず」ということも書きましたが、鈴木先生のことばから、ふとそのことを思い出してしまったからです。
 そういう意味で、今回のブログでは、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』(上下2巻)のなかでも、上巻第14章に載っているランドルフ・ボーンの論文「国家」を、特に紹介したくなりました。
 というのは、トランプ大統領のサウジ訪問と巨額の武器売買、さらには平和憲法を放棄して原発や武器を外国に売りつけようとする安倍政権の姿勢のなかに、民衆の死を踏み台にして戦争で大もうけとをしようとする「死の商人」の臭いが強く漂ってくるように思ったからです。
 ランドルフ・ボーンは、友人チャールズ・ビアード[歴史家・政治学者]やジョン・デューイ[哲学者・思想家]が第一次世界大戦を支持したという理由で二人と交際を断ち、一九一八年に若くして他界した天才的作家で社会評論家なのですが、彼が他界したときに発見された未刊行の論文が「国家」でした。
 私は、この論文を読んだとき、その論文の各所に「戦争は国家の健康法である」というフレーズが散りばめられていて、その用語・文句を眼にしたとき、雷に打たれたような衝撃を受けたことを、今でもありありと憶えています。政府・国家を支配している金権・特権階級がなぜ戦争をしたくなるのか、その謎がみごとに解明されているような気がしたからです。
 為政者にとっては、自分たちの失策で景気が低迷し庶民が貧困にあえいでいるとき、そして庶民が政府・特権階級に不満をつのらせているとき、そのような暗い雰囲気や庶民の不満・憤りを一掃する最良の手段が、戦争だったのです。まさに為政者にとって「戦争は国家の健康法」なのでした。
 ボーンは、デューイを代表者とする当時の「進歩的知識人」と袂を分かったとしても、また学会や知識人の世界から追放されることになろうとも、自身の主張を貫こうとしたのでした。以下では、少し長いので、このボーンの論文を数回に分けて紹介したいと思います。味読していただければ幸いです(ただし下線は寺島による)。



戦争は国家の健康法である(上)

ランドルフ・ボーン


 宣戦布告がなされた瞬間……国民大衆は、ある種の精神的錬金術にかけられてしまい、宣戦布告は自分の意志で自分がおこなったのだと確信する。そして、少数の反抗者を除き、自ら進んで体制に同調し、強制され、生活環境すべてにおいて錯乱に追いこまれることをよしとするようになる。その結果、政府が何かを計画したとき、それに同意しないものは誰であれ破壊するという工場へと自ら変身する。市民は政府への軽蔑の念と無関心をすて、政府目的に自らを一体化し、自分が軍隊にいたときの記憶や象徴をすべて蘇らせる。人々の想像力をとおして国家はふたたび威厳ある存在をとりもどす。愛国主義が支配的感情となると、本来あるべき人間関係に、ただちに強烈で絶望的な混乱をうみだす。それは、人間社会で現に存在し、あるいは将来もつべき人間関係を破壊するのだ。……

 戦時には、国家の理想が明確な救済にまで高められ、奥に潜んでいた態度や性向を露わにする。軍国主義化していない共和国では、平時には国家の意味はうすらぐ。戦争は本質的に国家の健康法だからである。戦時に国家は蘇るのだ。国家の理想とは、権力と影響力が領土内のすみずみにまで及ぶことである。教会が人間の精神的救済の媒体であるように、国家は人間の政治的救済の媒体とみなされる。その理想とするところは、政体構成員の全員に豊かな血液が行きわたることである。また団結の緊急性が最高度にたかまり、同一化の必要性が全く疑問の余地ないものと見なされるのは、まさに戦時においてである。国家とは、攻撃的であれ防衛的であれ、組織された他の民衆にたいして、同じように組織され行動に追い込まれる民衆の組織なのだ。その際、防衛にいたる事件が恐ろしいものであればあるほど、組織はますます団結を固め、集団構成員におよぼす力はますます高圧的・強制的になる。戦争は、目的と活動の波を、集団の最下層や最末端にまで徹底していく。戦争は、軍事的攻撃あるいは軍事的防衛という中心目標にむかって、社会の全活動を迅速に結びつけ、平時にはどんなに努力しても到達できなかった存在へと国家を変貌させる。このとき国家は、人々の仕事や態度や意見の、容赦ない調停者と決定者になる。不況は吹っ飛び、相互の反目は消え、不格好であろうともゆっくりと、しかし今までにない加速度と一体感をもって、大きな目的にむかって進んでいく。J・P・ジャックスの忘れ難いことばで言えば、まさに「戦時下の穏やかさ」へむかって進んでいくのだ。……

 戦争は国家の健康法である。戦争は、抑えがたい勢力を統一性へと動員する。集団意識を欠く少数の集団や個人をむりやり服従させ、政府への熱烈な協力者に変身させるのだ。その際、政府の諸組織は厳罰をさだめて執行する。少数派は脅迫されて沈黙に追いこまれるか、巧妙な説得の過程をとおして、ゆっくりと思想を変更させられる。ときには実際に転向させられているとは気づかない場合すらある。しかし、完全な忠誠、完全な統一という理想は、実際には決して達成されない。というのは、強制という素人仕事をさせられる階級[知識階級]は、それを飽きずに熱心におこなうが、往々にして彼らの熱意は、転向の代りに反抗を強めるだけの働きをするばあいが多いからだ。少数者は口をきかなくなり、その意見は厳しさや皮肉を強めるだけだ。とはいえ一般に言えば、戦時中の国家は、感情の統一を獲得し、国家的価値観という点でも、理想的な頂点に達することは疑いない。これは、戦時以外のいかなるものさえ産みだしえないものだ。こうして、忠誠という「国家への不可解な献身」は、心が生み出す重要な人間的価値となる。それ以外の、芸術的創造、知識や理性、美や生活向上といった価値は、ほとんど異議なく、ただちに犠牲にされる。国のために「素人転向工作員」という役を自ら買ってでた重要な階級・知識人は、そのような馬鹿げたことのために上記の価値を自分で犠牲にするだけでなく、ほかのすべてのひとにまで同じ犠牲を強制することになる。
(次号に続く、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻519ー521頁)


<註1> 鈴木孝夫・平田オリザ『下山の時代を生きる』については、いずれゆっくり書評を書きたいと思っています。とりわけ平田オリザ氏の意見が鈴木先生と微妙な食い違いを見せている点が、私にはとりわけ興味深く感じられました。

<註2> 大統領が部下であるべきCIA(「闇の国家」)によって暗殺される可能性があることは、元政府高官PCR氏(Paul Craig Roberts)による下記の簡潔な論説で知ることができます。
*JFK at 100 — Paul Craig Roberts、「JFK生誕百周年」 
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/jfk-a27a.html(邦訳)
http://www.paulcraigroberts.org/2017/05/24/jfk-100-paul-craig-roberts/(英語原文、2017/05/27)

<註3> PCR氏は、「ワシントンとイスラエルは平和に対する脅威だ」「ワシントンは世界覇権を求めており、イスラエルは中東での覇権を求めている」と述べ、下記でその理由を詳しく述べています。
*Truth Has Become Un-American 「真実は反米と化した」
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-b8f1.html (邦訳)
http://www.paulcraigroberts.org/2017/05/23/truth-has-become-un-american/(英語原文、2017/05/23)



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