「戦争は国家の健康法である」余話 ― 東京都議選、北朝鮮ミサイル避難訓練、そして「準戦時体制」下にある日本

国際教育(2017/07/05)、クリール委員会、ランドルフ・ボーン、エドワード・バーネイズ、広報会社の聖書となった『プロパガンダ』、安倍昭恵と巨大広報会社「電通」

プロパガンダ教本 プロパガンダ


 先日やっと、チョムスキーの新著『アメリカン・ドリームの鎮魂歌:富と権力を一極集中させる10の原則』(Requiem for the American Dream:The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power)の最終稿=訳注を出版社に送付しました。
 それで、いよいよこれで一息つけるかと思っていたら、左の肘から手首まで異常な湿疹が出てきて、全体が赤く膨れあがり腕が棒のようになっただけでなく、痛いやら痒いやらで仕事になりませんでした。
 そいうわけで前回のブログを書いてから早くも2週間が経ってしまったにもかかわらず、今に至ってしまいました。書きたいことは下記のように山積しているのに体が言うことをききません。
<今後の課題>
1 なぜ今、RT(RussiaToday)の視聴が必要なのか
2 鈴木孝夫・平田オリザ『下山の時代を生きる』(平凡社、2017)の書評
3 拙著『英語で大学が亡びるとき』(明石書店、2015)の書評にたいする感想
4 文科省「高校生のための学びの基礎診断(仮称)」にたいする意見・批判
5 ワークショップ2017『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』の案内
 このような症状が出たのは、翻訳の疲れで免疫力が低下していたところへ湿疹の引き金になるようなものに手を出した(たとえば庭の雑草取りで毒虫にふれた)せいかもしれないと思っています。
 それはともかく、今日やっと少し元気が出てきたので、ブログに取りかかろうとしていたところ、東京都議選で安倍自民党が惨敗したというニュースが入ってきました。
 そこで、当初は江利川春雄先生(和歌山大学)から拙著『英語で大学が亡びるとき』にたいする書評(『新英語教育』6月号)をいただいていたので、御礼を兼ねて、その書評にたいする私のコメントを書くつもりでいたのですが、急に予定を変更して、前回のブログ「戦争は国家の健康法である」(その3)の続編を書きたいと思うようになりました。
 というのは、1ヶ月以上も前のことですが、私が主宰する国際教育総合文化研究所の研究員(高校教師)から、「北朝鮮のミサイルにたいする避難訓練について職員会議で校長から説明があった」との便りがあり、それにたいするコメントを、私は研究所掲示板「研究仲間」で次のように書いていたからです。
 

**さん、会費納入ありがとうございました。同封の手紙に次のような文面がありましたので皆さんにも紹介させていただくことにしました。
 <北朝鮮も、かなり心配な状況ですね。茨城県だけではないかと思いますが、県内全校に、「弾道ミサイルが飛んで来たら」の文章がでて、職員会議で説明がありました。といっても、窓から離れろくらいなのですが。>
 北朝鮮が日本を攻撃する場合は、日本国内の米軍基地か、さもなくば日本の国内にくまなく散在している原発基地でしょう。安倍政権がアメリカの言いなりになって北朝鮮への挑発を続けていれば、キム・ジョンウンの堪忍袋の緒が切れて、原発への攻撃ということになるかもしれません。
 しかし米軍基地あるいは原発基地のいずれが攻撃されても、学校での避難訓練はほとんど意味を成しません。ですから政府がこのような通達を教育委員会を通じて全国の学校に配布しているとすれば、北朝鮮を口実に改憲(=壊憲)および日本の軍備を強化する世論づくりに使っているとしか考えられません。
 皆さんの学校でも職員会議でこのような通達・文書が紹介されて話題になっているのでしょうか。研究員・準研究員の皆さんからの情報を、ぜひ寺島または「研究仲間」に送ってほしいと思うようになりました。どうかよろしく御願いします。
<追伸> 
 以前に紹介したブログ(2017/05/14)のタイトルは下記のようになっていますが、実は北朝鮮問題を論じたものです。併せてご覧いただければ幸いです。
* ボブ・ディラン「戦争の親玉」、パティ・スミス「民衆には力がある」:ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』からみた世界
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-293.html


 私は上記で、安倍内閣が文科省を使って、教育委員会経由で、北朝鮮のミサイルにたいする避難訓練の通達を全国の学校に出している理由を次のように書きました。
 「ですから政府がこのような通達を教育委員会を通じて全国の学校に配布しているとすれば、北朝鮮を口実に改憲(=壊憲)および日本の軍備を強化する世論づくりに使っているとしか考えられません。」
 しかし今から思うと、文科省がこのような通達を出したのは、もうひとつの理由があって、それは森友学園や加計学園などの問題で窮地に追い込まれている安倍内閣が、国民の怒りや不満を国外の「仮想敵」へとそらすための戦略として、北朝鮮ミサイルの避難訓練を使っているということです。
 以前のブログでもふれたことですが、アメリカで「911事件」が起きたとき、当時のブッシュ大統領の支持率は史上空前の低さで低迷していました。ところが「911事件」が起きてブッシュ大統領が報復を声高に叫び始めた途端、支持率は急上昇しました。
 同じことは安倍内閣についても言えるように思います。隣の韓国では朴大統領の不正疑惑にたいして韓国民衆の怒りが沸騰して、ついに朴辞任・新大統領誕生に至っています。
 安倍氏の学園問題をめぐる不正疑惑は朴女史の不正疑惑に勝るとも劣らない大きなものですから、韓国の例から考えれば、いまだに安倍内閣が存続していること自体が、本当は奇怪というべきでしょう。
 にもかかわらず安倍内閣が存続してきたのは北朝鮮のおかげであり、ミサイル発射を利用して「準戦時体制」をつくりあげて世論を誘導してきたからだと私は思っています。野党も、まんまとその誘導に載せられ、効果的な反撃ができていませんでした。
 この間の事情をランドルフ・ボーンは(前回のブログでも紹介したように)次のように述べていました。

・・・国家の主要な行事が戦争であるとするなら、防衛と侵略という純粋に不毛な目的のために、国家は、国民から活力の大部分を吸いとらねばならない。国家は、国民の活力をできるだけ多く浪費すること、あるいは消失させることに熱中する。・・・
 戦争は「国家の健康法」である。国家が戦時下にあるときにのみ、近代社会は意見の統一を見る。戦時下でのみ、国家は、単純で無批判な愛国主義的献身と協力的奉仕を得ることができ、うまく機能するのだ。それこそ国家を愛する者がつねづね理想とするものだ。
要するに、国家は、一つの社会集団内部の独裁的・恣意的・強制的・好戦的な暴力のすべてを代表する。近代的で自由な創造的精神つまり生命・自由・幸福の追求を求める気持にとって、それは不快きわまりないすべての複合体である。(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻538頁)


 ランドルフ・ボーンは上で、「国家が戦時下にあるときにのみ、近代社会は意見の統一を見る。戦時下でのみ、国家は、単純で無批判な愛国主義的献身と協力的奉仕を得ることができ、うまく機能するのだ。それこそ国家を愛する者がつねづね理想とするものだ。」と述べていますが、この「戦時下」こそ、いま安倍内閣が北朝鮮を利用してつくりあげようとしている「準戦時体制」なのです。避難訓練はその格好の道具です。
 私は研究所の掲示板「研究仲間」で、「北朝鮮が日本を攻撃する場合は、日本国内の米軍基地か、さもなくば日本の国内にくまなく散在している原発基地でしょう。・・・しかし米軍基地あるいは原発基地のいずれが攻撃されても、学校での避難訓練はほとんど意味を成しません」と書きました。
 ところが同じことを、最近、長周新聞(2017年6月21日)は、もっと詳細に紹介しました。つまり私の予想どおり、避難訓練は都会地や原発地帯を避け、ミサイルなどで狙われるはずもない片田舎だけでおこなわれていたのでした。

・・・こうして緊張状態がつくり出されるなかで、国内では3月に秋田県が男鹿市で「X国」(北朝鮮)の弾道ミサイル着弾を想定した訓練を実施したのを皮切りに、避難訓練がたけなわとなってきた。4月に内閣官房が都道府県の防災危機管理担当者を集めて訓練を実施するよう号令をかけたのを受けて、5~6月にかけて青森県、山口県、山形県、広島県、新潟県などが実施した。今後、静岡県や長崎県も計画している。
 しかし、実施した自治体を見ると、青森県はむつ市大秦浜町、山形県は酒田市西荒瀬地区、広島県は福山市、新潟県は燕市、福岡県は吉富町と大野城市などで、北朝鮮が「標的にする」といっている在日米軍基地を抱える自治体や原発立地自治体での開催は皆無である。農漁業を基幹産業としている山口県の阿武町にいたっては、北朝鮮なり「X国」が狙うような施設もなければ住民もおらず、まともに考えると攻撃側にとってはミサイルの浪費にしかならない。むしろ戦争になれば都会人の疎開先に選ばれるであろう地域といえる。ところが、現実的な視点や意見が憚られるような勢いで、小さな田舎町において「国民の生命を守るため」の訓練が実施され、物いえぬ雰囲気で住民を動員していく。
 山口県の場合、北朝鮮が名指ししており、もっとも標的になる可能性が高いのは米軍基地のある岩国市だ。朝鮮半島情勢がもっとも緊迫した時期には、岩国市内の行政関係者のなかにも緊張が走っていた。しかし、今月27日に予定されている岩国市での訓練は、午後3時に市全域を対象に防災行政無線で情報伝達訓練をおこなうだけで、住民を動員した避難訓練は予定していない。(後略)


 このように安倍内閣は、「原発や米軍基地があるから標的にされる」という世論が広がることを避けつつ、行政主導で国民を戦時体制に組み込むために、「X国のミサイルが落下した」と想定した住民避難訓練を、田舎の自治体を中心に実施させてきたのです。
 ところが、これに飽き足りない安倍内閣は、なんと驚いたことに、最近は、3億6000万円もの税金をつぎ込んで、全国の民放43局、全国の新聞70紙までも総動員した「準戦時体制」づくり、大がかりな世論工作をおこなうまでになっています。
 この間の事情を長周新聞(2017/06/28)は、「政府のミサイル対応CM」と題したコラム記事「時評」で次のように伝えています。

 内閣官房と消防庁が23日から、全国の民放43局で「弾道ミサイル落下時の行動」の政府公報CMを開始し視聴者を驚かせている。新聞でも70紙の朝刊ヘー斉に「Jアラートで緊急情報が流れたら、慌てずに行動を」と題する四段ぶち抜き広告を掲載した。
 CMも新聞広告も赤や黄色で派手に目立たせ、「国民保護サイレン」が鳴ると「頑丈な建物や地下に避難する」「物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る」「口と鼻をハンカチで覆う」などと大まじめに呼びかけている。
 そもそもミサイルが着弾すれば、頭を抱えて伏せても身は守れないことはだれでもわかる。しかもどこから飛んできてどこへ着弾するかもわからないため、どこが物陰かも判断のしようがない。いくら「慌てずに行動を」と呼びかけても「国民の生命」が守られる保証はまったく無い。
 ミサイル問題でいえば、内閣官房主導で「X国のミサイルが落下した」と想定した住民避難訓練を田舎の自治体を中心に実施させている。
 これは「原発や米軍基地があるから標的にされる」という世論が広がることを避けつつ、行政主導で国民を戦時体制に組み込むためだった。今回のCMや広告も、メディアあげて「仮想敵国」の脅威を煽り、国民のなかで戦時動員の機運を醸成することが狙いである。
 さらにこのCMや広告に安倍政府は3億6000万円もの税金をつぎ込んだ。内訳はCM制作費と放映費で1億4000万円、新聞広告で1億4000万円、ウェブ広告で8000万円。ばく大な税金を投じメディアを手なずけていく仕掛けも露呈している。


 先に3回にわたって連載したブログ「戦争は国家の健康法である」(1~3)でも紹介したように、アメリカでは戦争を忌避する国民を第一次世界大戦に参加させるため、政府は「クリール委員会」をつくって世論工作をおこないました。
 ところが安倍内閣では、内閣官房と消防庁が合同で一種の「クリール委員会」をつくって世論工作をおこないました。
 また、この裏では巨大広告会社・電通が「影のクリール委員会」を形成していたのではないかと私は邪推しています。なにしろ安倍氏の妻・昭恵氏(父は森永製菓社長松崎昭雄)は、結婚するまでは電通の新聞雑誌局に勤務し、結婚も上司の紹介だったそうですから、この「プロパガンダ」プロ集団を安倍内閣が利用しないはずがないからです。
 アメリカ国民を第一次世界大戦に動員するにあたって、のちに有名な著書『プロパガンダ』を書いたエドワード・バーネイズは、ウッドロウ・ウィルソン大統領のもとで「クリール委員会」に参加し世論工作で大きな成果を上げることに貢献しました。その功績を認められたバーネイズは、1919年に開かれたパリ講和会議にも参加しています。
 そして国内外においていかに多くの大衆が、政府の掲げる「民主主義」というスローガンによって、いとも簡単に揺さぶられたかを自分の目で見たバーネイズは、プロパガンダモデルは平時においても利用できると考えるようになりました。それを理論化したのが著書『プロパガンダ』だったのですが、これは当然、大手広告代理店・電通のバイブルにもなっているはずです。
 それはともかく、北朝鮮のミサイル問題を利用して、安倍内閣が日本を「準戦時体制」にもちこみ、改憲と軍備強化の世論づくりに利用しているだけでなく、加計学園などの問題で窮地に追い込まれている内閣の延命策としても、避難訓練が利用されてきたことだけは確かでしょう。こうすれば国民の怒りや不満を国外の「仮想敵」へとそらすことができるからです。
 しかし都議選を見るかぎり、この安倍内閣の戦略は必ずしも成功しなかったようです。東京都民も隣の韓国民衆の闘いから学んで、安倍内閣に鉄槌を加えることを選んだのでしょうか。もしそうだとすれば、絶望しかけていた日本にも、まだ救いはありそうです。
 私が、3回連載のブログ「戦争は国家の健康法である」の続編(余話)を書きたいと思った所以(ゆえん)です。


<註1> 都議選の結果は、小池百合子氏のプロパガンダ「都民ファースト」に東京都民が騙(だま)された可能性も大いに残されています。というのは「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ氏の、大統領当選後の言動は、選挙運動で掲げていた政策やPCR氏が絶賛した就任演説の内容を、次々と裏切るものになっているからです。

<註2> ランドルフ・ボーンの研究者は日本にいないのかと思っていたのですが、検索してみると次の二人の論文が見つかりました。
*大西哲2010「ランドルフ・ボーンとその時代」流通経済大学『社会学部論叢』20-2::3-20
http://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20170705041510.pdf?id=ART0010568022
*前川玲子2010「戦争と知識人」(ランドルフ・ボーン: 翻訳と解題)『英文学評論』82: 59-91
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/135364/1/ebk00082_059.pdf
*前川玲子2015「偶像の黄昏」(ランドルフ・ボーン: 翻訳と解題)『英文学評論』87: 99-128
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/198495/1/ebk00087_99.pdf


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