英語の教科化で、早期退職に追い込まれる小学校教師


最近、私が主宰する国際教育総合文化研究所の研究員から下記のようなメールが研究所の掲示板「研究仲間」に届きました。
なお、ここで「山田先生」とあるのは、『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』の編集者である山田昇司(朝日大学准教授)を指し、このメールの送り主は小学校の校長をされているかたです。
山田先生
中部地区英語教育学会(長野大会)への参加記を興味深く読ませて頂きました。
今日、訓令式ローマ字から、ヘボン式ローマ字を、5年・6年の複式学級で教えました。担任がT2として入っています。
例えば、sa si su se so を私が発音して、日本語の音と違うのはどれですか、と問いました。
子どもは、si だと言います。「そうです。日本語はシだから、その音を表すのにshiと書きます。それがヘボン式ローマ字です」というように教えると、子どもたちは、大変よく理解します。
45分でマスターして、自分の名前、住所も書けるようになりました。このクラスには、軽度の知的障害者も2名入っているのですが、一人の子はしっかりと理解していました。
授業のあと、担任の先生と話したのですが、昨年まで、英語の授業が先生も苦痛、子どもも苦痛。格差は広がるし、子ども自身が何をしているのか、分かっていない。何も身に付いていない。先生も教えるすべも無い。引き出しがないのですから。
6年の教科書で、例えば、Would you like ~ ? なんて文が、何の脈絡もなく出てきます。これで何の力が付きますか。3単現のSを避けるためだけの構成。
文科省の小学校英語教科書を見てほしいと思います。この教科書を作った人に問いたい。45分の授業を年間35時間、子どもの知的興味を引き出しながら授業できますか? 英語学力の何を付けたいのですか。
この教科書で自分が1年間授業してもらいたいと思います。現場の素人の先生の苦悩を知ってもらいたいと思います。
英語の歌を使ったり自主教材を作成して、「寺島メソッド」で、英語の文字、英音法の「リズム打ち」、英文法の「セン・マル・セン」を、教えようと思っています。
そうでもしなければ、英語の授業は絶望だけの時間です。中学校へ行く前から英語嫌いを増やすだけです。先生を責められない。どうしようもないのですから。
来年から、「英語教科化」への移行措置で、5年、6年で年間15時間、増やすそうです。
今後、ベテランの先生は5年、6年の担任を避けるでしょう。もしくは早期退職する人が出てくるでしょう。今更、英語など勉強できますか。そんな余裕がありますか。
山田先生の参加記を読んで、近況報告を書きました。参考になれば幸いです。
校長という職にあるひとは普通は授業をしません。
しかし、この校長さんは現在の小学校における英語教育の惨状を放置しておくわけにもいかないので、学級担任に代わって自ら教壇に立ち、ローマ字の導入(訓令式からヘボン式への移行)のモデル授業をして見せたわけです。
その報告が上記のメールでした。
このメールでは、小学校英語の矛盾が赤裸々に綴られています。と同時に、この矛盾を少しでも解消する手段として「寺島メソッド」を使うことの有効性が述べられています。この校長さんによればその理由は次のとおりでした。
そうでもしなければ、英語の授業は絶望だけの時間です。中学校へ行く前から英語嫌いを増やすだけです。先生を責められない。どうしようもないのですから。
今後、ベテランの先生は5年、6年の担任を避けるでしょう。もしくは早期退職する人が出てくるでしょう。(今でも全教科を受け持って日々、疲れ切っている老齢の先生が)今更、英語など勉強できますか。そんな余裕がありますか。
そこでふと思いついたのが、月刊『英語教育』『新英語教育』に載せた「寺島メソッド」ワークショップの案内をこのブログにも掲載し、絶望しかけている小学校教師にも参加を呼びかけるという方法でした。
このワークショップは中学・高校の英語教師を対象にしているのですが、今回のワークショップで取りあげる「三つの基礎教材」、「リズムよみ」という方法は、中学や高校だけでなく小学校の入門期でも、充分に楽しみながら使うことができます。
この間ずっと私は小学校英語に反対してきました(『英語教育原論―英語教師、三つの仕事、三つの危険』明石書店2007を参照)。
ですから、もうかなり前の話ですが、雑誌『プレジデント』からインタビューの依頼があったときも、ある岐阜県の小学校英語実践研究校から「寺島メソッドを小学校でも使いたいので許可と指導をお願いできませんか」という電話がかかってきたときも、お断りせざるを得ませんでした。
しかし今、研究所の一員である校長さんから上記のようなメールが届き、さすがの私もこのまま放置するわけにはいかないと思うようになりました。そこで英語教育の月刊誌に載せた案内を、このブログにも再掲することにしました。
この案内を偶然にでも見た読者が、知り合いの小学校教師に知らせてくれるかも知れないと考えたからです。
絶望しかけている小学校教師、早期退職しようと思っている教師にとって、このワークショップが少しでも希望の星になれば幸いです。
国際教育総合文化研究所主催
『寺島メソッド英語アクティブ・ラーニング』ワークショップの御案内
以下の要項でワークショップをおこないます。ご応募いただければ幸いです
日時:8月8日15時―8月9日12時
場所:岐阜市・長良川ホテルパーク
講座内容: 寺島メソッド「リズムよみ」の指導、「三つの基礎教材」を使って(There's A Hole, The Big Turnip, The House That Jack Built)
講師: 寺島隆吉(国際教育総合文化研究所・所長)、山田昇司(同上級研究員・朝日大学准教授)、寺島美紀子(同上級研究員・朝日大学教授)
応募条件:当日までに『寺島メソッド英語アクティブ・ラーニング』(明石書店)をお読みの上、ご参加ください。
参加費:宿泊費・教材費・講師料を含めて30000円
申込み先・問合せ先:
taka03@cameo.plala.or.jp、電話:058-297-1509
申込み締め切り:7月31日
- 関連記事
-
- 英語で日本が亡びるとき――英語民間試験は何をもたらすか(3) (2020/02/15)
- 英語で日本が亡びるとき――英語民間試験は何をもたらすか(2) (2020/01/29)
- 英語で日本が亡びるとき――英語民間試験は何をもたらすか(1) (2020/01/29)
- 新年(2020)の御挨拶――週刊『I・B TOKYO』から受けたインタビューについて (2020/01/07)
- 日本人全員に英語4技能は必要か――大学入試を食いものにしながら肥え太る教育産業(下) (2019/12/19)
- 日本人全員に英語4技能は必要か――大学入試を食いものにしながら肥え太る教育産業(上) (2019/12/08)
- 中日新聞インタビュー「これは教育政策ではなく経済政策である」―― 大学入試「民間委託試験」を岐阜県立看護大学が見送り (2019/08/15)
- 大学入学共通テスト英語の「民営化」中止を求める国会請願・記者会見、署名は1週間足らずで全国から8100筆!! (2019/06/19)
- 大学入学共通テスト「英語」に、民間試験を利用することに対して、緊急の国会請願署名 (2019/06/09)
- 英語教育残酷物語 「『英語で授業』という名の拷問」その4――大学「共通教育 英語」の闇 (2019/03/07)
- 英語教育残酷物語 「『英語で授業』という名の拷問」その3 (2019/02/10)
- 英語教育残酷物語 「『英語で授業』という名の拷問」その2 (2019/01/05)
- 英語教育残酷物語 <「英語で授業」という名の拷問>その1 (2018/12/08)
- 大学入試「民営化」で苦悩する高校、荒廃する大学――季刊誌『I B』 2018夏季特集号の反響3 (2018/10/24)
- 英語教育を踏み台にして、「美しい国」を破壊している元凶は誰か――季刊誌『IB』2018夏季特集号の反響2 (2018/10/12)