書評『英語で大学が亡びるとき』に寄せて(その4)――米国の貿易相手は今や日本ではなく中国!
今や大逆転した米国の貿易相手!!、中国5%→25%、日本25%→5%

出典:『週刊金曜日』45頁、矢吹晋(横浜市立大学名誉教授)論文
いま北朝鮮問題が緊迫の頂点に達しているかのようにみえます。
これについては独自に論じたいことは多々あるのですが、今はそのゆとりもありませんので、ふれることができるかぎり以下の本文で、少しは言及するつもりです。
ところで、前回のブログで私は、「アメリカが、科学研究のほとんどの分野で、共同研究の相手として、日本ではなく中国を選んでいる」という事実を紹介し、次のような解説を加えました。
<これは、アメリカが「日本の科学力が低下する一方だから共同研究するに値しない」と判断したからだ、と考えざるを得ません。アメリカにとって日本は、中国と戦争するときの「基地と兵員(自衛隊)を提供してくれる存在」だけでよいのです。>
そしてブログの末尾を次のように結びました。
<要するに、文科省・安倍政権は「英語力=科学力」「英語力=グローバル人材力」というイデオロギーを振り回して、日本の大学を「英語化」することに血道をあげていますが、それに反比例して、日本の科学力は低下する一方なのです。
それどころか、もう一方で文科省は、小学校まで「英語化」することに邁進し始めているのですから、日本の将来は暗澹たるものです。
さらに言えば、大学の研究費も削られる一方で、他方では軍事研究には多額の研究費を出す体制を着々と整備しつつあります。これでどうして自由で独創的な研究が生まれるのでしょうか。
次回は、この点について、大隅良典氏(2016度のノーベル賞生理医学賞受賞者)の軌跡・発言をたどることによって、検証してみたいと考えています。>
ところが、病院で診察の待ち時間に週刊紙を読んでいたら、偶然にも『週刊金曜日』の2017年8月4日号に、「今や大逆転した米国の貿易相手!!、中国5%→25%、日本25%→5%」といった内容の、矢吹晋氏(横浜市立大学名誉教授)の論文が掲載されていることを知り、慌てて同誌を取り寄せて読んでみました。
すると、アメリカは共同研究の相手としてだけでなく貿易の相手としても日本を全く問題にしていないことが分かりました。つまり日本という国は、北朝鮮の動きを口実にして高価な武器を売りつけ、中国包囲網の基地を提供してくれるだけでよいのです。
もちろん、いざ有事となれば米軍の代わりに自衛隊がcannon fodder(砲弾の餌食)となり、朝鮮軍や中国軍と戦ってくれることも期待しているに違いありません。
そこで今回のブログでは、予定を変更して、アメリカにとって日本とはどういう存在なのかを、貿易という視点から再考してみたいと思います。
大隅良典氏(2016度のノーベル賞生理医学賞受賞者)の軌跡・発言をたどる旅は次回に回したいと思いますんで、どうかお許しください。
矢吹氏は、PEWという有名な世論調査機関が2015年に実施した調査をもとに、「日本ほど『対米盲信・対中不信』の固定観念にとりつかれている国はない」と述べつつ、上記の『週刊金曜日』で次のように嘆いています。
隣国・中国の発展をまるで無視し、欠点ばかりをあげつらう日本に未来はあるのだろうか。ましてこの隣国が核兵器大国であり、格段に強化された経済力をもつ場合、経済的共存共栄からしても軍事的安全保障からしても、由々しい事態ではないのか。
かつて日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と世界中から羨望の眼で見つめられた一時期がある。その残像に未だに酔い続けている景気循環を軽視し模様眺めをしていたが、不景気は10年続き、次の10年も回復しなかった。気がついて見ると、日本の長期不景気はすでに四半世紀を超えている。
この間、中国経済は二桁成長が続き、近年は6~7%の「新常態」になったが、それでもゼロ成長で足踏みの日本と比べると、活気に溢れている。IMF(国際通貨基金)や世界銀行の統計を調べると、日本のような、ほとんどゼロ成長に近い国は先進国では見当たらない。「アベノミスク」は大失敗に終わっているのだ。マイナス金利という資本主義の自己否定のような政策を続け、公債をやみくもに発行して、株価だけは維持しているものの、実体経済は体力を喪失して久しい。もはや回復の望み薄い“重体患者”に見える。
では隣国の中国が世界経済に占める位置は、どのようなものなのでしょうか。それを矢吹氏は世界銀行の調査をもとに、次のように述べています。
I人当たり所得に人口数を乗じたGDP(国内総生産)ペースで日本のシェアは世界の4・8%を占めるが、中国は14・9%を占め、日本の3倍の規模だ。
11年時点で米国のGDPシェアは17・1%で、中国の14・9%を2・2ポイント上回るが、その後の成長率を加味すると、14年末時点で中国が米国を超えた。
日本経済が足踏みしているうちに中国経済は駆け足で日本を追い抜き、追い越し、今やはるか前方を走る。
この経済的敗北感・劣等感と、かつての優越感との狭間で、日本人は、隣国経済の実像を虚心坦懐に観察する度量を失っているように見える。
以上のことを図表化したものが、次の表です。これを見ると、「購買力平価」では、中国が13.5兆ドルとなり、アメリカの15.5兆ドルに次ぐ第2位の地位を占めていますが、日本は4.4兆ドルにすぎません。

この表でもうひとつ分かることは、日本の「I人当たり購買力」が3万4262ドルで、ドイツ、フランス、英国より低く、イタリアを上回る程度だということです。日本は「自分は世界第2位の経済大国だ」と思っているうちに、どんどん貧困化していることが、この表からでも分かります。
他方、「爆買い」などと揶揄されている中国の「I人当たり購買力」は、日本の3分のIまで近づいています。今ほど中国との豊かで友好的な交易が求められているときはないでしょう。アメリカに荷担して中国包囲網の一員になったり、今までは「棚上げ」となっていた尖閣列島問題に火を付けて、摩擦を拡大しているゆとりは日本にないはずなのです。
もうひとつ矢吹氏が取りあげている興味深い数値・事実が、アメリカの「中国と日本に対する貿易額」の変遷です。それを氏は、「米国から見て、日本というパートナーは『日に日に軽く』なっていることがわかる」として、次のように解説しています。
さて、〈図5〉は何を語るか。米国経済から見ると、対中国輸入は約25%に近づき、対日本輸入は5%に縮小しつつある。米国から見て、日本というパートナーは「日に日に軽く」なっていることがわかる。
「中国封じ込め」なる時代錯誤の迷夢にとらわれ、自らを孤立させる安倍政権の日本に未来はない。中国から相手にされないだけでなく、米国も相手にしない。沈みゆく日本の実像を国民はいつ自覚できるのか。
上記で<図5>と述べられているのが、ブログ冒頭に掲げたグラフですが、読者の便を図って、その図を以下に再掲しておくことにします。

このグラフを見れば分かるように、矢吹氏の言うとおり、「米国から見て、日本というパートナーは『日に日に軽く』なっている」のです。にもかかわらず、日本はアメリカの軍事戦略、中国封じ込め政策に、益々のめり込んでいます。
アメリカは北朝鮮という「悪魔」をつくりあげ、それを口実に韓国や日本に巨大な軍事基地をつくると同時に、高額の武器を売りつけてきました。その結果、日本の防衛費は近年、激増する一方で、とどまるところを知りません。
昨日(6月5日)の中日新聞を読んでいたら、「概算要求最大に、防衛費に再び『節度』を」という見出しで、めずらしく社説に安倍政権批判が載っていました。
最近の大手メディアは、政府批判をほとんどやめてしまっているのですが、今回ばかりは、さすがに我慢ができなかったようです。社説は次のように述べていました。
・・・防衛予算の二〇一八年度概算要求は、米軍再編関係費などを含めて総額五兆二千五百五十一億円。冷戦終結後は減少傾向が続いていたが、安倍晋三首相が再び政権に就いて編成した一三年度以降、六年連続の前年度比増である。
概算要求は、弾道ミサイル防衛関連経費千七百九十一億円や、新型護衛艦(二隻九百六十四億円)や新型早期警戒機E2D(二機四百九十一億円)の取得など周辺海空域での安全確保のための予算を盛り込んでいる。
イージス艦搭載の迎撃ミサイルを地上に配備する「イージス・アショア」は一基八百億円程度とされるが、金額を示さない事項要求となっており、導入が認められれば、防衛予算はさらに膨らむ。・・・
ご覧のとおり、莫大な予算が軍事費に注ぎ込まれていますが、その一方で国立大学への交付金は毎年、削られる一方です。これでどうして「独創的な研究を生み出し」「世界ランキング10位以内に入る大学」を増やすことができるのでしょうか。
また小学校で英語を教科化する方針を出しておきながら、文科省から具体的な人的財政的援助はほとんどありません。小学校は原則として担任が全教科を教えるのですから、教師の負担が増えるだけで教育効果はほとんど期待できません。
まして英語教育の素人が英語を教えなければならないのですから、その肉体的精神的負担を考えると、暗澹たる気持ちにならざるを得ません。
中日新聞社説は上記に続けて、さらに次のように述べています。
国民の命と暮らしを守るために必要な防衛力を整備することは、政府の崇高な使命だが、地域情勢の変化を、防衛予算膨張の免罪符にしていいわけではあるまい。
財源には限りがある。社会保障や教育などほかの分野とのバランスも取らなければならない。整備する防衛力の費用対効果も精緻に検証しなければなるまい。周辺国と軍拡競争の泥沼に陥らないためには、適切な歯止めが必要だ。・・・
そもそも北朝鮮情勢を緊迫化させているのはアメリカであって北朝鮮ではありません。北朝鮮の一貫した主張は「和平協定が結ばれ朝鮮半島に平和が訪れる条件さえ整えば核兵器など必要ない」とするものでした。
しかしアメリカにとっては、韓国や日本に高額の武器を売りつけ、軍事基地化した韓国や日本に高度なミサイル配備を認めさせて、中国封じ込め政策を強化するためには、北朝鮮に大暴れしてもらわねばりません。
日本でも同じことが言えます。「憲法9条」をなくして軍事大国になりたいと思っている安倍政権にとっても、このような北朝鮮の動きは願ってもないことでした。あわよくば北朝鮮を口実に自分も核兵器大国になりたいと思っているに違いありません。
他方、追い詰められた北朝鮮は、アメリカ(および日本)の期待に応えて、核開発を急ぎました。つまり北朝鮮とアメリカは「二人三脚」をしているとも言えるわけです。
むしろ、休戦状態にある朝鮮戦争を終わらせ、北朝鮮との間に和平条約を結ばれれば、一番困るのはアメリカではないでしょうか。というのは、中産階級が消滅し、一部の大金持ちは別にして、国民の購買力が激減しているのですから、今のアメリカ経済は、元大統領アイゼンハワーのいう「軍産複合体」に依存しているところが極めて大きいからです。
同じことは日本についても言えます.先ほど紹介した図表でもお分かりのとおり、日本人の購買力も、世界第2位の経済大国だったはずなのに、今やドイツ、フランス、英国より低く、イタリアを上回る程度にまで落ち込んでしまっているのです。
そこで安倍政権が考えたのは、「武器輸出3原則」を取りやめ、日本もアメリカやイギリスと同じように武器輸出で金儲けをしようということでした。アメリカが戦争をやめるどころか、戦火をアフガン→イラク→リビア→シリア→イエメンに拡大し、サウジアラビアなどに武器を輸出し続けている理由もそこにあります。
このままいくと、日本もいずれ、アメリカと同じく、「軍事大国」「死の商人」としての道を歩むことになるでしょう。私たちが取るべき道は、「上は大学から、下は小学校まで」「英語漬け」にして、アメリカ流の経済運営、アメリカ流の軍事戦略に盲目的に従うことではありません。
そんなことをしていたら、拙著『英語教育が亡びるとき』で述べたとおり、今後この日本からノーベル賞受賞者は出なくなっていくでしょう。今こそ日本はアジアの一員として、遠い将来を見据えた独自戦略をたてるべきときではないでしょうか。
矢吹氏の論文は次のような文面で終わっていますが、その裏に込められた願いは、たぶん私の願いと同じものだと思います。
中国が主導する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)には2017年3月現在で70力国・地域が加盟。日本と米国が主導するアジア開発銀行の67力国・地域を超え、さらに90ヵ国・地域への拡大を想定している。
中国が進める「一帯一路」構想とは、陸路の交易ベルトと海上の物流ルートのことを指すが、日本はいつ、このシルクロードの夢を賭けた「一帯一路」と、AIIB「アジアインフラ投資銀行」に参加するのか。
今やAIIBには、アジア開発銀行の参加規模を超えて、EUからも多くの国が参加しているのだ。
<註1> アメリカと北朝鮮は核開発をめぐって「二人三脚」をしているとも言えるわけです。この裏にはイスラエルやウクライナの動きがあったとも言われています。
*朝鮮にミサイルの性能を急速に向上させ、水爆の開発を成功させた外部要因が存在する可能性
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201709050000/
*公邸宿泊は偶然か? 段取りが良すぎたミサイル騒動
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/4609
<註2> トランプ大統領は「北朝鮮が挑発を続けるなら武力攻撃を含めてあらゆる手段を行使する」「当面は北朝鮮と交易をする全ての国に経済制裁を加える」と述べました。
これにたいしてウィキリークスの創始者アサンジ氏は、「北朝鮮を核開発に追い込んだのは当のアメリカである」「中国との交易を停止すれば経済的に自滅するのはむしろアメリカであり、トランプは即座に辞任に追い込まれるだろう」と述べています。
*Assange: Constant US threats against N. Korea have put it on total war footing
「アサンジ:アメリカの絶えざる脅迫が北朝鮮を全面的戦時体制に追い込んだ」
https://www.rt.com/news/401900-assange-us-north-korea/
*Trump will be "deposed immediately" if he blocks trade with China over N. Korea – Assange
「もし北朝鮮問題で中国との交易を停止させれば、トランプは即座に辞任させられるだろう」
https://www.rt.com/news/401929-assange-trump-trade-china/
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