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チョムスキーの新著『アメリカンドリームの終わり』

アメリカ理解(2017/10/19) 富と権力を集中させる10の原理、戦争プロパガンダ 10の法則

チョムスキー『アメリカンドリーム』


 前回のブログを書き終えてから、早くも2週間が過ぎてしまいました。世界は今も目まぐるしく展開しています。
 北朝鮮情勢は、いつ核戦争になってもおかしくない情勢ですし、シリアではアメリカが裏で動かしてきたイスラム原理主義集団ISISの配色が濃厚になり、それを取り繕うために新しくクルド民族の武装集団を支援することにしたようです。
 このシリアにおける複雑な動きについては下記を御覧ください。

* ロジャバ革命の命運(2)
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/b1c16221b3a0bcac2280d278963f0e00
* 米国を後ろ盾とするクルド系武装集団が、米国を後ろ盾とするダーイッシュからラッカを奪還した
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201710180000/>

 ただし物理化学者=藤永茂さんの論考は「ロシャバ革命」とは何かが分からないとよく理解できないかも知れませんが、それでもアメリカがISIS(またはIS)という集団を「ロシャバ革命」をめざすクルド人の両方をみごとに操っていることだけは分かっていただけるものと思います。

 本当はアメリカ国内の複雑な動きについても触れたいのですが、その前段として、出版されたばかりのチョムスキーの新著『アメリカンドリームの終わり、あるいは富と権力を集中させる10の原理』について、まず紹介させていただくことにしました。
 というのは、この新著は、チョムスキーにしては珍しく、アメリカの外交政策ではなく国内問題に焦点を当てて語っているからです。
 この新著を読んでいただければ、トランプ大統領どころか、民主党そのものがいかに腐敗堕落してしまったかがよく分かっていただけると思うからです(私には、日本の民主党→民進党も全く同じ軌跡をたどっているように見えます)。
 しかし、その内容に踏み込む前に、今回のブログでは、私が何故この翻訳に取り組むようになったのか―本書の「あとがき」を通じて―その経過を述べておきたいと思うようになりました。
 というのは、前回のブログではノーベル賞受賞者=大隅良典氏(教養学部基礎科学科を卒業)について説明したとき、私が教養学部教養学科で科学史科学哲学を専攻したことについてもふれました。そのことが今回の翻訳と微妙にからまってくるからです。
 つくづく人生とは、不思議で奇妙な巡り合わせの、連続と重なりだと思うゆえんです。


『アメリカンドリームの終わり、
あるいは、富と権力を集中させる10の原理』


あとがき

 本書は、ノーム・チョムスキーの新著 Requiem for the American Dream: The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power(Seven Stories Press、2017)を翻訳したものです。
 チョムスキーと言えば、言語学に革命を起こした「変形生成文法」の創始者として、英語学の世界では誰ひとりとして知らないひとはいないほど有名な人物ですが、かれの政治関係の本を読んだことが多くないことから「チョムスキーというひとは二人いるのですか」という質問を受けることがよくあります。
 実を言うと私は、大学時代は東大教養学部教養学科「科学史科学哲学」で物理学史を専攻したため、学生時代はチョムスキーの政治関係本どころか「変形生成文法」すら読んだことがなく、食うために故郷の高校英語教師になって初めてチョムスキーと変形生成文法を知ったのでした。
 ですから、岐阜大学教養部に英語教師として採用され、その後、文科省の方針で教養部が廃止されたため教育学部に配置転換となり、「国際理解」も担当せざるを得なくなるまでは、チョムスキーの国際関係論、アメリカ外交政策批判も、もちろん読んだことがなかったのです。

 教養部にいたころは毎年夏休みや春休みにアメリカの英語教育学会TESOLに出かけ、そのついでにレンタカーを借りてアメリカ国内を一か月近く走り回り・歩き回る生活を一〇年以上も続けてきました。そしてアメリカを知れば知るほど、「理想の国」の暗部が見えてきてはいたのですが、教育学部に異動して本格的にアメリカの政治を研究し始めたときに大いに役立ったのがチョムスキーの論文でした。
 それ以来ずっとチョムスキーに関心を寄せ、興味深い論文がZネット(チョムスキーの教え子が主宰するサイト)に載るたびに翻訳して自分のホームページに載せてきました。それが幸いなことに明石書店から『チョムスキー二一世紀のアメリカを語る』というかたちで出版されました。当時はチョムスキーの文献で翻訳されているものと言えば、そのほとんどが英語学・言語学のものでしたから、それが幸いしたのでしょう。
 これが縁でその後、『チョムスキーの教育論』やハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』などの訳書を世に出してきましたが、今回はからずも本書を翻訳・出版する機会を得たことは、本当に嬉しいことでした。というのは、本書最終章の末尾がジンのことば「歴史は名もなき民衆の地道な活動・闘いが革命的変革の土台になっている」ということばで締めくくられていたからです。

 本音を言うと、社長の干場さんからメールで翻訳依頼が届いたとき、私は自分が監修する『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』を出版したばかりで疲れ切っていたので、少し休みたいという気持ちも強かったのですが、いただいたメールには、次のように書かれていて、それが私を大きく突き動かしました。
 「・・・実は、このほど、チョムスキーの語り下ろし、Requiem for the American Dreamの版権を買いまして、その原稿を入手したところです。内容的に、少しでも早く出版したいと希望しておりますが、チョムスキーと言えば、やはり寺島先生をおいてほかにはないと、恐縮しつつも、お願いする次第でございます」
 “豚も褒められれば木に登る”ということばがありますが、私も人並みの人間ですから、干場さんのことばにほだされて、ついに木に登ったというわけです。

 私を大きく突き動かしたもうひとつ要因がありました。それは、干場さんのメールの末尾に付け足されていた次のような資料でした。
 「五〇年前からアメリカ社会の富の偏重に警告を発していたチョムスキーが、その予想通り極端な格差社会と成り果てた現在のアメリカを前に、なぜそのようになったのか、背後にある政治的な変化とは何か、率直かつ詳細に自身の分析を語っています。
 “『現代を代表する知性』と新世代の思想家の出会い“ というコンセプトで作られているため、大変とっつきやすく、また本書を読むことで、これまでのチョムスキーの思想を振り返ることができます。
 アメリカンドリームを否定された貧困層の怒りが今回の大統領選挙の混乱にも繋がっているわけで、大きな話題になるかと思われます。チョムスキーはこの長さのドキュメンタリー形式のインタビューに応じるのはこれが最後だと語っています」
 私が干場さんから、「下記は、原稿ができあがる前の企画の段階で、エージェントより来ました資料です。ご検討のほど、なにとぞ宜しくお願い申し上げます」と末尾に書かれたメールをいただいたのは、二月一五日でした。ところが原書の出版日を調べてみたら、何と「二〇一七年三月二八日」になっていました。
 しかし本書の土台となったチョムスキーへのインタビューについては、四年がかりのインタビューを七三分に凝縮させた映画が二〇一五年に封切られていて、数々の国際ドキュメンタリー映画祭で公式招待されています。しかも、この映画が封切られた二〇一五年の時点で、チョムスキーはすでに八六歳の高齢を迎えていました。
 ですから、先の資料で「チョムスキーはこの長さのドキュメンタリー形式のインタビューに応じるのはこれが最後だと語っています」とあったのも、考えてみれば当然のことでした。(しかし、この年齢で、明晰かつ淡々と語り尽くしていくチョムスキーの姿には、何か感動すら憶えます。)
 
 それはともかく、こういうわけで、映画を原書と比べてみたのですが、映画の素晴らしい雰囲気が書籍化されたとき死なないよう映画封切後も一年以上かけて編集された成果を、原書の随所に見ることができました。翻訳された本書でも、干場さんのおかげで、その原書の雰囲気がみごとに再現されていることは本当に嬉しいことでした。
 日本の読者が理解し難いと思われる点については、訳注(*印)を下段に付け加えましたが、これがその雰囲気を壊していないことを願うのみです。

 アメリカが現在いかに悲惨な状況にあるかは、本書を読むだけでも充分に分かっていただけると思いますが、日本の知識人のなかでは「日本はだめだけれどアメリカは素晴らしい」という言説が相変わらずはびこっています。その例の一つが『絶望の裁判所』(講談社新書)でしょう。しかしアメリカの司法制度がいかに腐敗堕落しているかは、本書でマルコムXが演説しているとおりです。イラクにおける戦争犯罪を告発したチェルシー・マニングが辿った悲惨で過酷な軌跡も、その例証になるでしょう。
 アメリカの教育制度についても同じです。安倍政権は日本の若者を大量にアメリカへと送り込む留学計画を大々的に打ち出しましたが、アメリカの教育制度がいかに壊滅状態であることは、本書でチョムスキーも言及しています。これでは例証として不十分だと思われる方は、拙著『英語で大学が亡びるとき』を参照していただければ幸いです。そこにはアメリカ大学の実像、たとえば女子学生が授業料を払うために娼婦を兼業している実態も述べておきました。
 先述のとおり、私は一〇年以上もアメリカに通い続けているうちに(そのうちの一年はカリフォルニア州立大学で教えたこともあります)、アメリカの暗部をますます深く知るようになりました。そして、「現在のアメリカは一〇年後の日本だ」と学生に言い続けてきましたが、今の日本を見ていると「今日のアメリカは明日の日本だ」と思うようになりました。
 本書が明日の日本に対する警告の書になることを願ってやみません。

二〇一七年九月一一日  寺島隆吉


<註> 本書の副題「富と権力を集中させる10の原理」を見て、すぐ思い出されるのは、アンヌ・モレリ『戦争プロパガンダ 10の法則』(草思社、2002)という本であろう。アメリカがイラク戦争に乗りだすときも、リビア→シリアを破壊するときも、この法則どおりに行動した。


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