エジプトの民衆蜂起から何を学ぶか(4)―ウィスコンシン州で爆発したアメリカ民衆の闘い

前回のブログ「エジプトの民衆蜂起から何を学ぶか(3)」を書いてから、約10日が経ちました。そのときに私は次のように書きました。

<昨日(2月18日)のDemocracy Now! によれば、アメリカ=ウィスコンシン州では州知事が、「公務員労働者の団結権やストライキ権を剥奪する」「抵抗自治体があれば、市であろうが町であろうが州兵を出動させても鎮圧する」と宣言しました。いまエジプトでは、禁止されていた労働者の団結権が、やっと認められようとしているのに、いまアメリカは全く逆の方向に動こうとしているのです。>

いま、このブログを書いている現在(2月27日(土))、ウィスコンシン州の議会は、議事堂を埋め尽くす抗議にもかかわらず、下院で州知事提案の法案を可決しましたが、内輪の共和党議員からも反対が6名も出るという、異例の強行採決でした。

この法案は、公務員の団結権・スト権を奪うだけでなく、ウィスコンシン州の資産を民間企業に売り渡す権限を知事に一任するという案で、まるでエジプトのムバラク大統領やリビアのカダフィ大佐を思わせるような法案でした。

このような信じがたい法案ですから、怒りが州全土で沸騰し、州の歴史上かつてない集会やデモが11日間も続いています。参加者は10万人という規模になり、毎晩数百人の市民が議事堂内で寝泊まりする日々が続いています。なんと驚いたことに、この集会・デモ・泊まり込みに、消防士や警察官までも、組織をあげて参加しています。

ウィスコンシン州 反組合法案で例外扱いの消防士たちも他の公務員たちに連帯
http://www.democracynow.org/2011/2/25/despite_exemption_from_anti_union_bill
ウィスコンシン州の警察官 議事堂警備と同時に抗議デモにも参加
http://www.democracynow.org/2011/2/25/policing_protesting_wisconsin_officers_patrol_capitol

エジプトのカイロでずっと取材活動を続けてきたDemocracyNow!のシャリフ・アブドゥル=クドゥースは、「人々はやっと自分たちの声を持った」とムバラク後のエジプトを語り、最後を次のように結んでいます。

「世界中が今回のエジプトの行動を目撃していたのはすごいことだ」「エジプトが米国に民主主義を輸出しているんだ」

「人々はやっと自分たちの声を持った」アブドゥル=クドゥースが語るムバラク後のエジプト
http://www.democracynow.org/2011/2/23/people_have_finally_found_their_voice

カイロの「解放広場」で寝泊まりして勝利した市民の闘いは、18日間で勝利しましたが、それに励まされて始まったウィスコンシン州の闘いは、いつまで続くのか、まだ見通しが立っていません。
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<註1> オバマ氏は、「グアンタナモ拷問刑務所の閉鎖」など多くの公約を掲げ、民衆の期待を担いながら大統領に立候補しましたが、当選すると公約の多くを投げ捨てました。
 他方、ウィスコンシン州知事のウォーカー氏は、立候補のときは一言も言及しなかったことを、知事になったとたんに、なりふりかまわず強行し始めました。
 どちらも選挙民にたいする大きな「裏切り」行為ですが、こんなことを考えると、「言行一致」で悪行の限りをつくした悪名高いブッシュ氏のほうが「可愛く」見えてくるから、不思議なものです。
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<註2> 州の財政破綻を口実に、公務員の賃金や年金を削減しようとする案を州知事が提出したことが、今回のウィスコンシン州で民衆が蜂起するきっかけになりました。というのは、この時点で州財政は黒字だったのに、金持ちや大企業減税の案を州知事が提案したことで州財政が赤字に転落することを、州の住民が知り、それが住民の怒りをかきたてました。
 そしてその怒りに日を注いだのが、予算とは何の関係もない「公務員のスト権・団結権」を予算案に絡めただけでなく、そのようなシナリオを書いて、州知事を裏で指導・援助していたのが、億万長者コーク兄弟だったことが暴露されたことでした。

右翼の億万長者コーク兄弟 ウィスコンシン州知事選と反組合推進に資金を提供
http://www.democracynow.org/2011/2/24/billionaire_conservative_koch_brothers_fund_wisconsin

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ところで、私は前回のブログで次のようにも書きました。

<しかし、ウィスコンシン州の民衆・労働者の闘いも、エジプトの闘いに励まされて、必ず勝利するでしょうし、そうあることを願っています。>

アメリカは「民主主義を教える」「民主主義を輸出する」と称して世界のあちこちで戦争を起こしてきましたが、イラク戦争がその典型でした。

そのアメリカの民衆が、エジプトの民衆蜂起に励まされて(エジプトから民主主義を輸出されて)、「民主主義」を守るために闘っている姿は、実に皮肉であると同時に非常に感動的です。

米ウィスコンシン州 反組合法案可決で10万人の州都抗議デモへ
http://www.democracynow.org/2011/2/25/protesters_expect_100_000_in_madison
ろう城11日目の マディソン州議事堂 内部の状況を案内
http://www.democracynow.org/2011/2/25/wisconsins_uprising_a_guided_tour_of

しかし考えてみれば、世界中のあちこちで、独裁国家・王制国家を裏で支えてきたのもアメリカでした。エジプト、バーレーン、イエメン、リビアなどがその典型です。

リビアのカダフィ大佐が強気なのも、アメリカやEUが武器輸出などでカダフィ大佐と裏で強い結びつきがあったことと無縁ではありません。
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<註> カダフィ大佐はアメリカなど兵器産業など大企業と莫大な金額の契約を結んでいますから、欧米の支配層もカダフィ大佐とできれば手を切りたくありません。

しかし、どうしても裏で支えきれないと判断すれば、エジプトと同じように、容赦なく彼を切り捨てて、次の有望な政権に乗り換えます。これがリビアの現状です。

なおリビアと契約を結んでいる企業は下記(下線部)のとおりです。いずれも世界的に有名な大企業ばかりです。a $165 million contract という巨額の契約金額にも注目してほしいと思います。

AMY GOODMAN: What about what the U.S. and U.S. contractors can do, the news that General Dynamics signed a $165 million contract to arm the Libyan armed forces elite second brigade two years ago, or Halliburton, Shell, Raytheon, Dow Chemical? Do you think President Obama is doing enough?
http://www.democracynow.org/2011/2/22/gaddafi_cares_more_for_himself_and

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だとすれば、いまアメリカ国内でおこなわれている権利剥奪は、考えてみれば当然なのかも知れません。

いま翻訳している『Voices of a Peoples History of the United States』を読んでいると、アメリカが国内でやってきたことを,今は海外でもおこなっているのだ、ということが痛いほど分かるからです。

しかし同時に、それと常に闘いながら(一進一退を繰り返しつつ)自由の枠を着実に拡大してきたのも「民衆のアメリカ」でした。

それを感動的な叙事詩としてまとめあげたのが、200万部を重ねた名著『民衆のアメリカ史』でした。また、この名著に登場する人物の肉声を文字として記録したのが『Voices of a Peoples History of the United States』でした。

これを翻訳していると、血と汗を流しながら、一歩一歩、自由を広げていくアメリカ民衆の力と情熱のほとばしりを感じます。

そして、いまMiddle East(中東)の闘いが、Middle West(米国中西部)で展開されている闘いとだぶってきて、胸が痛くなります。

「中東」から「中西部」へと輸出された闘いが一刻も早く勝利することを願ってやみません。
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<註1> ウィスコンシン州マディソンでは、26日に10万人以上の人々が、スコット・ウォーカー州知事の提案した公務員の団体交渉権を奪う法案に反対する抗議デモを行いました。マディソンで実施されたデモとしてはベトナム戦争以来最大のものとなりました。

Voices from the 100,000-Strong Protest for Workers' Rights in Wisconsin
http://www.democracynow.org/2011/2/28/voices_from_the_100_000_strong

 この集会で私の目をひいたのはパイロットまでも集会とデモに参加していることでした。マイケル・ムーアの最新映画『CAPITALISM』では、パイロットが生活保護をもらいに行く場面が出てきて驚かされました(しかも会社の管理職から「制服姿で行ってもらったら困る」と言われる場面があり衝撃は2倍になりました)が、この集会でパイロットが挨拶をしているのを見ると、「あの話はやはり本当だったのだ」と納得しました。

エジプトの民衆蜂起も、その背景にアメリカ流経済の導入による「貧困」があると言われてきましたが、人口の半数が1日2ドル以下の生活を強いられてきた、という記事を読むと、アメリカの「東のプードル犬」と言われている日本の未来が、本当に心配になります。

(詳しくは、世界的著名なイギリス人ジャーナリストJohn Pilgerの下記評論を御覧ください。)
Behind The Arab Revolt
http://www.zcommunications.org/behind-the-arab-revolt-is-a-word-we-dare-not-speak-by-john-pilge

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<註2> これを書いているうちに、沖縄のことを思い浮かべてしまいました。沖縄の人たちも自分の体を張って米軍基地の移転と闘っています。

その映像を見ていると、地元のお爺ちゃんやお婆ちゃんの表情から、「この豊かな美しい海を汚させてなるものか」という固い決意だけでなく、民衆の声を聴く耳を持たない政府への怒りと、そんな政府への悲しみが、強く伝わってきます。

その人たちにエジプト民衆の闘いはどのように映っているのでしょうか。ふと気になりました。

と同時に、OurPlanet-TVという独立メディアが、若者を中心に起ち上げられ、沖縄のようすも、少しずつ本土の人たちにも知られるようになっていることは、喜ばしいことです。

沖縄・高江 米軍ヘリパッド建設に対し 米国大使館へ抗議
投稿者: ourplanet 、投稿日時: 火, 01/11/2011 - 17:00
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/782

OurPlanet-TVが日本で確実に成長し、DemocracyNow! のように、自国と世界の世論を変える大きな存在になってくれることを、願ってやみません。

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