福島原発事故(1)ー「チェルノブイリ」を避けるために

現在、3月18日(金)です。既に何度も書いていますが、翻訳の仕事に追われているので、このブログも10日に一度が自分にできる最大の頻度だと観念していたのですが、まわりの情勢が深刻さを増しているので、疲れた体に鞭打って、今日のブログを書き始めています。(医者にも「無理すると、もう一つの血管が詰まりますよ」と言われているのですが、今回も眼をつむって[耳をふさいで]作業を続けます。)
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前回のブログでは、アメリカ、ウィスコンシン州で燃え上がっている「ほぼすべての公務員から団交権を奪い取る法案」に対する闘いを紹介しました。

13日(日)、ウィスコンシン州では18万人以上の人々が州都マディソンの路上に集結しました。この抗議運動は同州で行われたもので史上、最大規模であると伝えられています。

州下院が夜中の不法な強行採決をした直後の、3月10日(金)にも、マディソンでは千人以上の学生・生徒たちが授業をボイコットしました。消防士たちもウォーカー知事に関係する銀行のボイコットを訴える運動まで発展しました。

この3週間にわたる闘いは、州知事が正当な議会手続きを経ないで可決されたものなので、法廷闘争やリコール運動など、新しい闘いへと拡大しつつあります。

同じ動きはミシガン州などアメリカ全土にも広がりつつありますが、今回は日本の震災についてどうしても書いておきたいことがあるので割愛させていただきます。

授業ボイコット 銀行ボイコット 議員更迭要求
組合弾圧法案の州議会強行採決で米ウィスコンシン州の抗議激化
http://www.democracynow.org/2011/3/11/walkouts_bank_boycotts_and_recalls_wisconsin
反組合法にウィスコンシン州知事が署名、18万5000人が抗議デモ
http://www.democracynow.org/2011/3/14/worker_uprising_up_to_185_000

(写真は、州議事堂を埋め尽くす民衆)






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翻訳の手を止めてもブログを書かなくては、という思いにさせられたのは、原発事故をめぐる政府や東京電力の対応が、あまりにも鈍いということでした。「危機感の完全な喪失」と言ってよいくらいです。

いま東北関東の人たちは、巨大地震だけでなく、大津波の被害を受け、それだけでも眼を覆わんばかりの惨事になっているのに、それに追い打ちをかけるように、原発事故が被災者に襲いかかっています。

いま避難生活を強いられている人たちは、水も電気もガスも食料も衣料も寝具も医薬品も、あるいはこれらのどれかが欠乏して、深刻な状況に追い込まれています。親戚を頼って遠方に脱出しようにもガソリンもないという状態です。

それに追い打ちをかけるように原発事故が深刻さを増しています。にも関わらず、政府や東電の対応は歯がゆいばかりです。私は前回のブログを書いたときに、既に次のように書きました。

<しかし、同時に東北地方で地震があり、原子力発電所の危険性など、それについても思うところが多々ありますが、両方について書いているゆとりがないので、今回は米国の問題だけにしぼって(日本の問題に関わらせつつ)所感を述べることにします。>

これを書いた時点で、私には「これはチェルノブイリ原発事故に匹敵するか、それ以上の深刻な事態になる可能性がある」と思ったからでした。

日本は地震大国です。そこに原発を建設すれば、いわゆる「自爆テロリスト」が腹帯に爆弾を巻いている状態と同じになります。地震は、自爆テロリストが腹帯に巻いた爆弾の点火スイッチを押すのと同じ作用をすることになりかねないからです。

私は自分の研究会メンバーやセミナーの学生には「飛んでくるはずもない北朝鮮のミサイルを心配するくらいなら、自分の足元の原発を心配した方がよい。広島・長崎に落とされた原爆に匹敵するか、それ以上の破壊力を持った爆弾を抱えて、毎日を生きているのが日本だから」と言ってきましたが、その予言が当たったのかも知れないという嫌な予感がします。
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<註> 上で「飛んでくるはずもない北朝鮮のミサイル」と書きましたが、その理由については、ここでは詳述するゆとりがありませんので割愛します。

私が高校教師をしていた頃に石川県でも原発建設問題が起こり、反対する地元の人たちを応援するために、何日も抗議運動に駆けつけました。そのときに驚かされたのは、地元のお年寄りたちが独学で物理学(原子力)や法律の勉強を始めていたことでした。これこそ本物の勉強だと思わされました。

しかし、電力会社の執拗な切り崩し工作によって、何年も続いた地元の人たちのエネルギーも遂には枯渇し敗北してしまいました。その頃には私は大学教師になり、地元を去っていました。そして久しぶりに当地を訪れたとき、そこが反対住民を慰撫するための広大な併設施設「憩いの村」になっていて驚かされました。だからこそ、私には福島原発の問題が、なおさら他人事には思えないのです。
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ところで私が政府や東電の対応が余りに危機意識に欠けていると思ったのは、いつも読んでいるDemocracy Now!(3月15日(火))で「より深刻なチェルノブイリになる可能性、原子力技師が語る高まる日本の核危機」と題する次のような記事を読んだからでした。

<日本は、3月11日のマグニチュード9.0の地震と津波によって大きな被害を受けた福島第一原子力発電所の3回目の爆発により、核の大惨事の瀬戸際に立たされています。
 爆発は原発2号機の格納容器を著しく損傷し、周辺の放射能濃度は年間被曝線量限度の8倍に上昇しました。
 原発作業員らは「圧力を下げるために格納容器の弁を手動で開けていましたが、放射線量が高くなったことによって、そうした作業の多くが中断されたのではないかと考えられます」と、原子力技師のアーニー・ガンダーセン氏は言います。>

“This Could Become Chernobyl on Steroids”: Nuclear Engineer Arnie Gundersen on Japan’s Growing Nuclear Crisis
http://www.democracynow.org/2011/3/15/this_could_become_chernobyl_on_steroids

このアーニー・ガンダーセン氏は、かつて巨大原子力産業the Westinghouseの執行役員でしたが、その蓄蔵している放射性物質の危険性について内部告発をして会社を去った人物です。その彼が、福島原発に対する東京電力の対応を見て、3月15日(火)の時点で、これは既に手遅れになっている可能性があると言っているのです。

この記事で、もっと驚いたのは、運転開始から38年になる同原発は、過去に一連の放射性トリチウム漏れを起こしており、渦中の福島第一原発とほぼ同じつくりであり製造された時期もほとんど同じだということでした。

ガンダーセン氏は、会社を辞めた後、アメリカ国内にある原発について、その危険性を告発する運動を始めました。それが具体的なかたちで実を結んだのがバーモント州でした。バーモント州議員らは2012年に現在の許可の期限が切れた後、ヤンキー原発を廃炉にすることを可決していました。その裏で大きな力を発揮したのが、ガンダーセン氏でした。

このことを見るにつけても、内部告発者の存在がいかに大切かがよく分かります。水俣病の場合も、内部告発をした医者・細川一(ほそかわ・はじめ)氏も結局、会社を辞めざるを得ませんでした。ウィキリークスのような組織がもっと早くに存在し、東電の原発についての内部告発が寄せられていれば、現在の事態は避けられていたかも知れません。
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<註> 米原子力規制委員会は1985年の報告書で、米国の100を超す原子力発電所のいずれかが20年の間に深刻な炉心事故を起こす可能性は50%にのぼると認めていたにもかかわらず、オバマ政権も日本政府も原発推進政策を全く止めようとしませんでした。

「原子炉炉心完全溶融の深刻な危機」: 日本の原発危機、最新情報
http://www.democracynow.org/2011/3/17/serious_danger_of_a_full_core

損傷の福島原発と同方式の米原発23基の一つ 
ヤンキー原発廃炉へ向けて闘うバーモント州知事
http://www.democracynow.org/2011/3/15/vermont_gov_fights_to_close_vermont

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さらに私が危機意識を強めたのは、この3月15日(火)の時点で、ガンダーセン氏はさらに「私が日本にいたら、子供たちを原子炉から出来る限り離すようにします。子供たちの方が汚染されやすい。私なら少なくとも50キロは離れます」と述べていることでした。

「子供たちを原子炉から離せ」
放射能漏れが広がる中、原発周辺の避難区域拡大を日本に要請」
"Get the Children Away from the Reactors":
Japan Urged to Expand Evacuation Area Around Nuclear Plants as Leaking Radiation Spreads
http://www.democracynow.org/2011/3/15/get_the_children_away_from_the

ところが日本政府は、15日の時点で、「福島原発から20キロ以内の住民に避難、20~30キロ以内の住民に屋内退避」を指示するのみでした。しかも、このような指示すら、自治体には正式に伝えられることはなく、テレビで知った自治体の首長が、慌てて緊急の対応に追われる始末でした。

ところがテレビを見ていると、もっと奇妙なことに気づきます。それは福島原発の1~6号機が現在どのような状態にあり、どう対応しているかを記者会見で説明すべきなのは、自己の当事者である東京電力であるはずなのに、状況を説明しているのは政府であったり、各テレビ局の記者やそこに招かれた学者だけだということです。

東京電力は事故の対応を責任をもってやるどころか、15日になって「750人以上の従業員を退避させ、残った50人の作業員だけで原始炉の温度を下げる努力をする」という体たらくでした。800人で不可能だったことが、どうして50人で可能なのでしょうか。

東電が自己責任を放棄したこの時点で、私は「チェルノブイリの事態が近づいた」と思わざるを得ませんでした。いま東京電力が記者会見で説明しているのは「計画停電」のみです。しかも、その無責任さを問うメディアが皆無に近いことは驚くばかりです。

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<註> 現場に残された50人の作業員は東京電力の下請けだった可能性があります。だとすれば、事故を起こした当事者は何一つ責任を負っていないことになります。
 また住民に放射線量を計っている人間が防護マスクをしているのに、住民自身は全く無防備の服装であることも、見ていて実に不快感を覚えさせる映像でした。
 しかも、このような映像を初めて見たのは、日本のメディアを通じてではなく、DemocracyNow!であったことも私の不快感を倍増させました。
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さらに、私の危機意識を高めたのがアメリカからの次の報道でした。

<【ワシントン時事(2011/03/17)】ルース駐日米大使は16日、声明を出し、福島第1原発の半径80キロ圏内に在住する米国民に対し、米原子力規制委員会(NRC)の指針に基づく「予防的措置」として避難を勧告、避難できない場合は屋内に退避するよう呼び掛けた。また、国防総省も、同圏内への米軍の立ち入りを禁止した。
 一方、国務省はこれを受け、渡航延期勧告を発令し、日本国内の米国人にも出国を検討するよう強く促した。また、東京の米大使館、名古屋の総領事館と横浜市内の日本語訓練施設に所属する職員の家族約600人に自主的な国外退避を認めると発表した。>

ガンダーセン氏は「私なら少なくとも50キロは離れます」と述べているのに対して、原発政策の旗振り役だったオバマ政権が、アメリカ政府は原子力規制委員会(NRC)の指針に従って、「屋内退避」どころか「避難勧告」を80キロまで拡大しているのです。

もっと驚いたことには、福島近辺ではなく、「名古屋の総領事館と横浜市内の日本語訓練施設に所属する職員の家族約600人に自主的な国外退避を認める」指示をしているのです。東京の米大使館に呼びかけるだけでなく、名古屋にまで国外退避を呼びかけているのです。いかに事態が深刻化を示す好例ではないでしょうか。

この私の危機意識をさらに強めたのが一本の電話でした。というのは私のところで修士論文を書いた学生が電話をかけてきて、「先生、一緒に内モンゴルを行こう」と言うのです。彼は奥さんも院生なので、もうしばらく日本にいる予定だったが、この情勢では危険だから内モンゴルに帰ろうかと思うが一緒にどうか、と言うのでした。

このように留学生が思っているということは、外国人が日本を見る目は私たち全く違っていることを示しています。そこで調べてみると外国の多くは自国民を東北・関東どころか日本そのものから退去させようとしていることが分かりました。詳しい報道は下記を御覧ください。
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外国人の日本脱出続く
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110318-OYT1T00358.htm

 米政府は17日、米国民を退避させるため、最初のチャーター機を飛ばし、日本に滞在していた自国民約100人を台湾に退避させた。また、17日までに東京、横浜、名古屋で働く外交官らの家族など約600人についても、日本からの退避を許可した。米国防総省は17日、日本の本州に勤務する米軍人の家族2万人を対象に、自主的な国外退去を支援することを決めた。

 英国やフランス、ベルギーもチャーター便や軍用機で自国民を香港などに移すことにしている。英大使館はウェブサイト上で、「20日以降はチャーター便を運航しない」としており、自国民に対し、早めの出国を促している。インターファクス通信によると、ロシア非常事態省は18日、日本に滞在するロシア国民を退避させるため、輸送機を派遣する。スペインも自国民を退避させるための航空便を手配するとしている。
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このような外国政府の動きに対して日本政府の対応は本当に歯がゆいばかりです。政府は東北一円から住民を移住させるための抜本的な対策を立てる必要があるのではないでしょうか。

私が指導した院生の多くは市営住宅に入っています。留学生が帰国するとなれば空きが出る公営住宅も少なくないでしょう。また、私が住んでいる地区を、犬を連れながら歩いていても、空き家が目立ちます。

このような空き室や空き家を国や自治体が借り受けて、東北からの移住者を受け容れることも、緊急に考えるべきではないでしょうか。岐阜県の多治見市では被災者の病人とその家族のために市民病院が空き病室を提供すると発表しています。

国や自治体は一刻も早くこのような対策を立てるべきでしょう。そうすれば「水も電気も食料もない、住むところもない、・・・・」などと言っているひとを、弱小自治体まかせにしなくても済みます。

津波が来ると予想されるときは、あらかじめ住民を学校や公民館に避難させます。もし津波がそれほどひどくなかったとしても、そのことで避難指示をした自治体が「無駄なことをさせた」と住民から非難されることはありません。住民は「この程度の津波でよかった」と喜んだり安心したりするだけです。

今の原発事故についても、上記の津波対策と同じ考え方で臨むべきではないでしょうか。さもなければ、最悪の場合、日本全体の生産活動が壊滅状態になり、日本人の多くが喉頭癌などの病気で苦しむことになりかねないからです。

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<註1> Democracy Now!を視聴していたら、Amy Goodmanは「原爆を初めて投下された国である日本が、なぜこのような原発を容認してきたのか」と驚いています。しかし、私は、もう一つの質問が外国人から出てくるように思います。それは「あれほどノーベル物理学賞やノーベル化学賞の受賞者を出している日本が何故?!」という疑問です。

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<註2> 民間機関「憂慮する科学者同盟」は次のような見解を発表しているそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110318-OYT1T00344.htm?from=main4
(2011年3月18日14時18分 読売新聞)

民間機関「憂慮する科学者同盟」は17日、記者会見を開き、核専門家のエドウィン・ライマン博士が「日本は絶体絶命の試みを続けているが、もし失敗すれば、もう手だては
ない」と指摘、放射性物質が大量に放出されて「100年以上にわたって立ち入れなくなる地域が出るだろう」との悲観的な見方を示した。
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<註3>
ここまで書いてきたら、大学時代の友人から(もとNHK技術者)、次のサイトをぜひ見るように電話がありました。視聴してみたら、現在の事態が非常に分かりやすく、かつ極めて鋭く論じられていました。皆さんも是非どうぞ。

ニュースの深層3/17(木)「福島原発事故 広瀬隆 メディア報道のあり方」1/3
http://www.youtube.com/watch?v=veFYCa9nbMY&feature=player_embedded
ニュースの深層3/17(木)「福島原発事故 広瀬隆 メディア報道のあり方」2/3
http://www.youtube.com/watch?v=wlVlmyyNxlw&feature=player_embedded#at=440
ニュースの深層3/17(木)「福島原発事故 広瀬隆 メディア報道のあり方」3/3
http://www.youtube.com/watch?v=rpcuM1v90XE&feature=player_embedded

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