チェルノブイリ原発事故二五周年(上)ー 生まれてきた子どもの80%が障害児ですよ

さる4月26日(火)はチェルノブイリ原発事故25周年記念に当たる日でした。先のブログで私は、下記の「原発事故・学習資料」を載せ、「詳しくは時間を見つけてブログに解説を連載していくつもりです」と書きました。

ですから25周年記念日までに1回は解説を書きたいと思っていたのですが、翻訳の無理がたたったのか風邪で寝込んでしまい、5月1日(日)の今、やっとパソコンに向かっている次第です。

福島原発事故「学習資料」
http://www42.tok2.com/home/ieas/educationindex.html

さて、このブログを書こうと思っていた矢先の、昨日4月30日(土)に内閣官房参与である小佐古敏荘(こさこ・としそう、東大教授。放射線安全学)氏が辞任したというニュースが飛び込んできました。政府の示した「子ども、年間20ミリシーベルト」という被曝線量の制限値があまりに緩すぎて「学者としての良心からも受け入れがたい」など幾つかの理由をあげていました。

小佐古参与が涙の辞意表明 政府の原発対応批判
http://www.youtube.com/watch?v=1DQfFR4NsZM

しかし、NHKの報道では肝心の「年間20ミリシーベルト」という被曝線量の制限値があまりに緩すぎて「学者としての良心からも受け入れがたい」と涙ながら述べた部分が、すっぽりと抜け落ちてしまっています。従来からNHKは政府の宣伝機関に成り下がっているのではないかとの批判が強かったのですが、それを自ら証明するようなかたちになってしまいました。

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そもそも「年間1ミリシーベルト」というのが、大人の一般人に許容された被曝線量とされてきたのですから、「子ども、年間20ミリシーベルト」という被曝線量値が示されたとき、「政府は子どもを殺したいのか!」と思わず心の中で怒鳴ってしまいました。この関係を分かりやすく図式化したものを、先に紹介した「学習資料」でも載せておきましたから、ぜひ参照して欲しいと思います。

図表「被曝線量と健康障害の関係」
http://www42.tok2.com/home/ieas/hibakusennryou062.pdf

上記の図表は『増補新版、受ける?受けない?エックス線 CT検査、医療被ばくのリスク』(七つ森書館、2008:.168-169、600円)から引用したものです。この本は、原発の学習資料として役立つだけでなく、日頃からエックス線 CT検査を受ける際に、どのようなことに留意すれば良いかを分かりやすく説明した小冊子ですから、ぜひ一読されることをお勧めします。

また、「子供と放射線」「放射線被曝線量と健康障害の関係」の関係を手っ取り早く、インターネットで知りたいという方は、下記の映像をお勧めします。原子力資料情報室の崎山比早子氏(元放射線医学総合研究所主任研究官)に今井理恵氏(港町診療所産婦人科医)が質問するというかたちで進行していきますので理解しやすいですし、時間がない方は最初の15~30分を見るだけでも良いと思います。

「放射線被曝線量と健康障害の関係」
http://www.ustream.tv/recorded/13473951(20110321)約60分

しかし、放射線が人体にどういう影響をもたらすかを具体的に知っていないと、毎日を忙しく追い回されているひとは、上記に紹介したような本や映像をなかなか見る気にはなれないかも知れません。そういう意味では、下記の写真集は放射能とは何なのかを一目瞭然に教えてくれます。

写真集「チェルノブイリの子どもたち」
http://www.paulfuscophoto.com/#mi=2&pt=1&pi=10000&s=0&p=1&a=0&at=0

上記の写真はチェルノブイリの被害だけですが、下記の文庫本は、チェルノブイリの被害だけでなく、スリーマイル島、イギリス再処理工場、イスラエル核基地の事例が、広河隆一さんのカラー写真で豊富に盛り込まれています。発行は1991年ですが、いま読んでも全く古さを感じさせません。

広瀬隆&広河隆一『悲劇が進む―新版 四番目の恐怖』講談社文庫、1991

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ところで、上の写真は、放射能を浴びた子どもにどのような症状が現れるか、その子どもが成人して結婚したとき、どのような子どもが生まれる可能性があるかを示してくれますが、チェルノブイリ の原発事故とはどのような規模のものだったかを教えてくれるわけではありません。それを教えてくれるのが下記の映像です。

「NHK特集、汚された大地で~チェルノブイリ 20年後の真実」約50分
http://www.youtube.com/watch?v=PHeq8TfSRBM

公共放送であるNHKは、チェルノブイリ25周年記念として再びこのような特集番組を組んで国民を啓蒙する役割を、担っているはずですが、残念ながら今のNHKは先にも述べたとおり、政府の御用機関と化していますので、過去にNHKが編集したものを見る以外にありません。

チェルノブイリ原発事故は国際評価基準で最高度の「レベル7」を記録し、今度の福島原発事故はそれを超える可能性があると言われています。そのチェルノブイリの現在を記録した最新映像・最新データを紹介した番組が下記のものです。

「チェルノブイリ、百万人の犠牲者」(日本語字幕つき 30分)
http://www.universalsubtitles.org/en/videos/zzyKyq4iiV3r/

この映像は、大著『チェルノブイリ、その大惨事が人と自然に与えた影響』(Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and Nature)という調査記録をまとめた一人、ジャネット・シェルマン女史に対してインタビューをおこなったものです。

先ず第1の驚きは、このインタビューが福島で事故が起きる6日前だったということです。この番組で、同じ悲劇・惨劇が世界のどこかで今すぐにでも起きる可能性があることを警告していた矢先に、福島の原発事故が起きたことは、非常に皮肉な事実でした。

第2に驚かされたのは、上記の本では、公刊されているあらゆる調査資料・記録を集大成した結果として、死者の総合計を98万5千人としていることです。しかも1986~2004年までの調査ですから、2011年の現在では百万人を超えているだろうと推測されています。

第3の驚きは、国際原子力機関(IAEA)が、その犠牲を小さく見せようとして、チェルノブイリ事故による死者数を4000人としているだけでなく、世界保健機構(WHO)と一緒になって、被害実態の科学的調査を妨害してきたという事実でした。

(だとすれば、日本政府や東京電力が、なるべく事故を小さく見せようと努力してきたのも、当然と言えるでしょう。)

上記の映像には、放射能がドイツを初めとして世界中に広がっていくようすもカラーの世界地図で示されています。これを見れば、何故いま世界中の眼が日本に注がれているのかも、改めて理解できるでしょう。

私は今、この文章を書きながら、この30分足らずの映像が持つ迫力を十分に読者に伝えきれない、自分の文章力に歯がゆさを感じています。ぜひ自分の目で確かめてください。
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<註> 上記のインタビューは先述のとおり、福島で原発事故が起きる6日前におこなわれたものですが、これに日本語字幕を付けて直ぐに配信してくれる人がいることに本当に感謝したいと思います。
 と同時に、日本で英語力が本当に役立つのは、「読んで理解できおる力」「聞いて理解できる力」であって、いま流行の「英語で会話」「英語でディベート」ではないことを、この映像資料は改めて教えてくれます。
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私は既に3月18日のブログ「福島原発事故(1)」で、外国政府がいち早く日本在住の自国民に退去勧告を出したことについて次のように書いています。

<このような外国政府の動きに対して日本政府の対応は本当に歯がゆいばかりです。政府は福島一円から住民を移住させるための抜本的な対策を立てる必要があるのではないでしょうか。>
<津波が来ると予想されるときは、あらかじめ住民を学校や公民館に避難させます。もし津波がそれほどひどくなかったとしても、そのことで避難指示をした自治体が「無駄なことをさせた」と住民から非難されることはありません。住民は「この程度の津波でよかった」と喜んだり安心したりするだけです。原発事故の場合も、これと同じです。>
<国や自治体は一刻も早くこのような対策を立てるべきでしょう。そうすれば「水も電気も食料もない、住むところもない」などと言っているひとを、弱小自治体まかせにしなくても済みます。>

ところが政府が今やっていることは、全くこれと逆のことをやっているように私には見えます。新聞報道によれば、仮設住宅の建設も必要数の約1割に達したばかりというのですから呆れるばかりです。

東北地方では、ホテルや旅館も今は観光客がなく閑古鳥が鳴いているという話ですから、国や自治体が借り受けて被災者に提供すれば、その分だけ経済効果も出るはずです。

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放射能の被害を防ぐためにも遠距離への緊急避難が、先ず求められる指示・対応策だったはずです。ところが、政府は今頃になって、「自宅退避」だった地区の住民も「強制退避」に踏み切るなどの措置を取っています。これでは順序が全く逆です。先ず大事を取って遠距離に避難させた上で、安全だと分かったら自宅または自宅近辺に戻すのが、緊急避難の鉄則です。

津波にさらわれてから避難指示を出したのでは、救助のしようがありません。これは放射能被害についても全く同じです。特に「放射性ヨウ素(131)」は半減期が短いのですから、原子炉が事故を起こした直後に避難させなければ、ほとんど意味がないでしょう。

なぜなら、今ごろ遠距離に避難させても、既に大気中に放出されたヨウ素を吸い込んでしまっている可能性があるわけですから、強制避難させる意味が半減してしまうからです。

ところが政府が取った態度は既に述べたように、これと全く逆でした。それどころか福島県いわき市では自治体独自の判断で「ヨウ素剤」を配ったら、それを国の命令で回収させられるという事件もありました。

緊急報告会「福島原発震災 ―“いわき”からの報告―」
http://www.ustream.tv/recorded/13745975

放射性ヨウ素の場合、あらかじめ「ヨウ素剤」を飲んでいれば、放射性ヨウ素を間違って吸い込んでも、ヨウ素剤を飲むことによって甲状腺癌になることを防ぐことができます。しかし、これは放射性ヨウ素の吸入後8時間では、その効果は40%、24時間以内では7%程度になってしまいます。

つまり、ヨウ素剤は予め配っておいて必要なときに即座に飲んで初めて効果があるのに、政府の対応は全く逆だったということになります。事故が起きてから慌てて放射性ヨウ素を取り寄せて配っているうちに、24時間くらいはあっという間に過ぎてしまうからです。
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<註> なお「ヨウ素剤」の服用については下記に詳しい解説がありますから、心配な人は、ぜひ参照してください。
「放射線被曝線量と健康障害の関係」
崎山比早子(元放射線医学総合研究所主任研究官)&今井理恵(港町診療所産婦人科医)
http://www.ustream.tv/recorded/13473951(20110321)

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以上のことは、郡山市の小学校で運動場の土が放射能で汚染されている問題についても、全く同じことが言えます。このときも、自治体の判断で、その表土を取り除こうとしたときに、文科省から「待った」がかかりました。

このような措置を外国の人たちが見たら、日本の文科省は気が狂ったのかと思うに違いありません。小佐古敏荘氏の辞任の弁にも、「国際常識とヒューマニズムに則ってやっていただきたい」との文言がありました。
http://peacephilosophy.blogspot.com/

少しでも放射能汚染が少ない環境で子どもたちに学習させたいと思うのは、教育者としての当然の責任だと思うのですが、以上のような状況を見る限り、どうも政府や文科省が守りたいと思っているのは、子どもの「命や生活」ではなく、自分たちの「メンツ」であったり東京電力の賠償金であるようです。

かつてアジア太平洋戦争のとき、多くの子どもたちが「学童疎開」をしました。それは米軍の空爆から子どもたちの命を救うためのやむを得ない措置だったと私は思います。だとすれば、同じような措置を今回もなぜ取れないのでしょうか。今のままでは、「年間20ミリシ-ベルト」という放射能の「空爆」を我慢して浴びて討ち死にしなさい、と文科省から命じられているのと同じではないでしょうか。

文科省としては「年間20ミリシーベルト」という基準を断固守りたいのかも知れませんが、これは一種の殺人行為ではないでしょうか。

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同じことは、政府・文科省が言っている「地産地消」「学校給食に弁当持参は禁止」についても言えるでしょう。

かつて中国で生産された餃子が危険だというので、日本では一斉にこれを拒否する事件が起きました。それが中国で生産された食品全体に波及する勢いがあり、それに異議を唱える意見をあまり聞いたり読んだりした記憶がありません。

また2010年4月に宮崎県で家畜に口蹄疫が発生したときも、約29万頭の家畜が殺処分されましたが、このときも、そのような処分に抗議の声や異議を唱える意見を、あまり聞いたことがありませんでした。

屠刹処分は止むなしと政府も農水省も判断したからこそ、「地域経済に与える影響が大きいから我慢して宮崎産の牛肉を食べよう」などというスローガンを、政府・農水省も掲げませんでしたし、宮崎県も「地産地消」などということを声高に叫ばなかったのでしょう。

ところが不思議なことに、現在の福島県を初めとする農産物や海産物については「地産地消」が声高に叫ばれ、その危険性を指摘する意見は「風評被害」として逆に攻撃されるというありさまです。学校給食に弁当を持参する子どもが「いじめ」に遭いかねない雰囲気すらあるようです。

■大人は子供たちを被ばくさせたがっている・・・
http://takedanet.com/2011/04/post_faf5.html
■給食 法律上(規制値以下の)汚染された食材は使えない!
http://takedanet.com/2011/04/post_f0cd.html

こんなことを押しつける政府・文科省は、福島で育った子どもたちが、10年後・20年後に、チェルノブイリ放射能汚染と同じ病状を発病させたとき、どのように責任を取るつもりなのでしょうか。

重ねて問います。政府・文科省としては「年間20ミリシーベルト」という基準を断固守りたいのかも知れませんが、これは一種の殺人行為ではないでしょうか。

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<註> 政府はセネガルの首都ダカールで5月1日に開かれるアフリカ開発会議(TICAD)閣僚級フォローアップ会合で、アフリカへの政府開発援助(ODA)を2012年までに18億ドルに倍増させることを表明する、というニュースが今朝、突然に飛び込んできました。自国民の緊急避難や仮設住宅でさえ十分に手当てできず、国家予算も赤字だと大騒ぎしているのに、対外援助だけは倍増するというのですから、ますます政府の価値観を疑ってしまいます。それともODAは、結局は日本の大企業に儲けが戻ってくる仕組みだから、それはOKだというのでしょうか。
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先に紹介したジャネット・シェルマン女史は、Democracy Now!(2011/04/26)のチェルノブイリ原発事故25周年記念の番組で次のように語っています。

 「原発事故が起きると、それは一つ地区、一つの国、一つの世代、一つの生物だけにとどまらない、巨大な影響をもたらします。」
 「とくにベラルーシという国の場合、子どもの20%しか健常児がいません。もし人口の80%が病気や障害を持っていたとしたら、その社会、その国の未来はどうなるのでしょうか。」

  When a nuclear reactor explodes, the radiation goes around the entire hemisphere. It is not confined to where the people live—or where the accident occurred. The effects are ubiquitous across all species: that's wild and domestic animals, birds, fish, bacteria, viruses, plants and humans. So the effects are extremely serious, and they last for generations.
  We're terribly concerned about Belarus, where only 20 percent of the children are now considered healthy. So, what do you do with a society if 80 percent of your population is sick? Who are going to be the artists and the musicians and the scientists and the teachers, if your population is not well?
http://www.democracynow.org/2011/4/26/chernobyl_catastrophe_25th_anniversary_of_worlds

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<註> 今まで私がずっと不思議に思ってきたことがあります。それは次のようなことです。たとえば、運転を誤って自動車事故を起こした場合(そして死傷者を出した場合)、それは「単なる不注意でした」では済まないはずです。日本の法律では、事故が余りに酷い場合には(私は個人的には死刑制度には反対ですが)殺人罪で死刑になる場合もあるでしょう。ところが、どうもこの原発事故の場合、今の情勢では、単に補償金だけが問題で、死刑どころか誰も牢屋に入る気配すらないのです。これが私には不思議でなりません。

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ここまで書いてきたら、また風邪がひどくなってきました。しかし次のようなメールをいただいているので、「原発を止めて電力が大丈夫なのか」という問いにも答えなければならないのですが、風邪がぶり返しては何にもならないので、ここで止めます。

<先生の最新のブログと「福島原発事故の資料一覧」も拝見させて頂きました。特に写真集「チェルノブイリの子どもたち」が、かなり印象的でした。浜岡の原発など、少しでも早く原発を止めるためには、署名なども有効でしょうが、より建設的な意見としてある程度、その分のエネルギーをどうするかについての案も、これからは出していく必要があるのかもしれません。>

しかし、結論だけを先に言わせてもらえば、「原発は経済的にも全く非合理的だし」「いま保有している火力発電や水力発電で必要電力は間に合わせることができる」ということです。詳しくは次回のブログで書きます。

既に紹介した「福島原発事故の資料一覧」にも、その答えが載っていますので、お急ぎの方はそちらを御覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/educationindex.html

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