チョムスキー曰く「赤字の恐怖を押しつける」

カナダのトロントで開かれていた「G8/G20サミット」が6月27日、大きな抗議行動の中で閉幕しました。「国家財政の赤字を半減する」ことだけを合意し、世界中を経済危機に陥れた金融機関に対する規制は放置されたままです。

これに対してノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ(米国コロンビア大学教授、彼はIMFの暴行に抗議して世界銀行上級副総裁を辞任したことでも有名)は、Democracy Nowの次の記事にもあるとおり、「景気が悪化しているときに、赤字削減を国民に押しつける政策は、ますます景気回復を遅らせるだけ」と述べています。

G20 Leaders Agree to Cut Government Deficits in Half by 2013
http://www.democracynow.org/2010/6/28/headlines#2
June 28, 2010 | Headline

Inside the G20 summit, world leaders agreed to a controversial goal of cutting government deficits in half by 2013. Economists say such a move could usher in sizable tax increases and massive cuts in government programs, including benefit programs such as Social Security and Medicare. The Nobel laureate economist Joseph Stiglitz criticized the G20 agreement, saying, "There are almost no successful cases of countries cutting back on their expenditures as a way of getting out of the kind of economic downturn." Meanwhile, world leaders at the G20 failed to come to an agreement on setting new global rules for big banks or imposing a new across-the-board global bank tax.

天才的言語学者チョムスキーは米国外交政策の批判者としても有名ですが、2010年3月21日のLeft Forumでおこなった講演「The Center Cannot Hold: Rekindling The Radical Imagination」で、政府・財界は「小さな政府」を標榜しながら「赤字財政の恐怖」を国民に煽り立て、教育や福祉や医療を切り捨てていく口実に使ってきたと,鋭く批判しています。下記に翻訳を載せてありますので、詳しくはそちらを御覧ください。

チョムスキー「政治の中枢は機能不全ー根源的想像力(ラジカル・イマジネーシヨン)の火を再び燃え上がらせよう」
http://www42.tok2.com/home/ieas/chomsky20100420_centercannot_hold.pdf
(上記の講演は非常に長いので、そのエッセンスを短くまとめた論文が下記のものです)
チョムスキー「ラスト・ベルト(斜陽工業地域)の怒り」
http://www42.tok2.com/home/ieas/chomsky20100511rustbelt.pdf

同じことは、カナダの著名な女性評論家ナオミ・クライン(『ブランドなんか、いらない――搾取で巨大化する大企業の非情』(はまの出版, 2001年/新版, 大月書店, 2009年)で一躍、世界に名を馳せた)も、先のDemocracyNowのインタビューで次のように述べています。

Naomi Klein: The Real Crime Scene Was Inside the G20 Summit
http://www.democracynow.org/2010/6/28/naomi_klein_the_real_crime_scene
(1)G8/G20サミットの「国家財政の赤字を半減する」と決定を口実に、医療や年金や失業手当を削減し、金融危機のツケを国民に払わせようとしている。
(2)いま必要なのは、「税金を使って金融界を救済し、その金融界の大ボスに途方もない給料とボーナスを保障することではなく、世界経済を混乱に陥れた金融界への「規制」と「課税」である。

You know, I don’t believe—maybe some of the leaders intend on keeping—making good on this promise, but, on the other hand, they can hide behind this promise as the excuse to do what a lot of them want to do anyway, and say, you know, "We have no choice; we made this commitment."

And what that communiqué said was that there wouldn’t even be a measly tax on banks to help pay for the global crisis that they created and also prevent future crises. There wouldn’t be a financial transaction tax, which could create a fund for social programs and for action on climate change. There wouldn’t be a real action to eliminate subsidies for fossil fuel companies that have also created so many social and environmental costs around the world, as we see with the BP disaster.

今日(2010/07/11)は参議院選挙の投票日ですが、自民党も民主党も「財政赤字を切り抜けるためには消費税増税もやむなし」という点では一致しているようです。だから大手メディアも消費税増税を当然の前提としながら「今回の選挙は争点が見えにくい選挙だ」という解説を繰り返しています。

しかし、これでは国民は他の野党がどのような政策を持っているか知りようがありませんし、争点を見えにくくしているのは大手メディアそのものではないか、という主張が出てくるのもやむを得ないでしょう。

民主党は「事業仕分け」と称して、学術研究費など、攻撃しやすいところ削りやすいところから削っていますが、上記のチョムスキー論文を読んでいただければお分かりのように米国が1930年代の金融危機を乗り切る方向として先ず第1に提起したのは、財政赤字をものともせず政府が積極的に大きな事業を興し国民を豊かにすることでした。

ところが民主党の政策は、「事業仕分け」と称して、国民の生活を切り詰めることが基本です。軍事費とりわけ米軍基地の費用は「聖域」として「事業仕分け」の対象になっていません。しかし米軍基地の費用を、「借りている側」ではなく「貸している側」が払っている国は、世界中どこを探しても日本しかありません。

カナダのトロントで開かれた今度のサミットの警備は、前回の米国ピッツバーグで開かれたときの費用$100 million に対して、 $1 billionも掛けたそうで、それを知ったカナダ国民の怒りが抗議行動にも大きく反映されていると、ナオミ・クラインは述べています。日本の米軍基地にかける費用も同じような観点で見直す必要があるのではないでしょうか。

Naomi Klein: The Real Crime Scene Was Inside the G20 Summit
http://www.democracynow.org/2010/6/28/naomi_klein_the_real_crime_scene

As a point of comparison, at Pittsburgh G20 summit, the price tag for security was $100 million. So you went in less than a year from a $100 million price tag to $1 billion price tag for security, with no explanation. And as Canadians started to learn about this, they became rightfully very, very angry.

また金持ち減税に貢献した累進課税の「改悪」を元に戻すだけで大きな財源が生まれますし(これについては下記の論文をお読みください)、EUが今度のサミットで要求したような金融界への「規制」と「課税」で、全く新しい財源も出てきます。しかし大手メディアを見ている限り(チョムスキーの言う「メディア・コントロール」が貫徹しているので)、このような発想の転換はかなり難しいように思われます。

論文: 「税金の変遷ー消費税の増税は必要か」 
http://www42.tok2.com/home/ieas/article090205shohizei.pdf
資料1: 法人税率の推移・税収増減額_
資料2: 所得税・個人住民税所得割の税率構造の推移
資料3: 所得税(国税)、社会保険料、消費税の平均実効負担率

<註>
上記の「資料」については下記を参照。
http://www42.tok2.com/home/ieas/selftalk.html
また「抑止力」としての米軍基地、「北朝鮮問題」と米軍基地については、チャルマーズ・ジョンソンやノーム・チョムスキーの論文がありますので、ここでは割愛します。下記を御覧ください
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html)
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