ノーベル平和賞は暗殺を好む?ー ビンラディンを「ジェロニモ」の地位に押し上げた大統領

前回のブログで次のように書きました。

 「ここまで書いてきたら、また風邪がひどくなってきました。しかし次のようなメールをいただいているので、「原発を止めて電力が大丈夫なのか」という問いにも答えなければならないのですが、風邪がぶり返しては何にもならないので、ここで止めます。
 <先生の最新のブログと「福島原発事故の資料一覧」も拝見させて頂きました。特に写真集「チェルノブイリの子どもたち」が、かなり印象的でした。浜岡の原発など、少しでも早く原発を止めるためには、署名なども有効でしょうが、より建設的な意見としてある程度、その分のエネルギーをどうするかについての案も、これからは出していく必要があるのかもしれません。>
 しかし、結論だけを先に言わせてもらえば、「原発は経済的にも全く非合理的だし」「いま保有している火力発電や水力発電で必要電力は間に合わせることができる」ということです。詳しくは次回のブログで書きます。」

ところが、この直後に「ビンラディン暗殺」のニュースが飛び込んできました。その殺され方が余りにも異様であるにもかかわらず、相変わらずNHKの報道、菅内閣の声明も、米国政府の単なる伝声管となっていることに我慢できなくなって、予定を急に変更して、以下、ビンラディン殺害について若干のコメントを書いておきたいと思います。
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<註> 実を言うと、先のブログを書いた直後に能登半島の親戚に不幸があり、すぐにでも駆けつけなければならなかったのですが、風邪がひどくて行けず、風邪が良くなった金曜日に出かけて昨日5月7日(土)に自宅に戻ってきたばかりです。しかし一刻も早く「ビンラディン暗殺」について書いておきたいと思って、いまパソコンに向かい始めたところです。
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暗殺のニュースを知ったときの最初の思いは、「なぜ妻や子どもの目の前で頭を銃で撃って殺さねばならなかったのか」ということでした。最初の報道はビンラディンや側近との銃撃戦だったという発表だったのですが、その舌の根も乾かぬうちに、実はビンラディンは全くの丸腰だったというのですから、二重に呆れてしまいました。

しかも子どもや妻のいる目の前で頭を銃で撃ち抜くという行為にどのような正当性があるというのでしょうか。

アメリカ政府はアフガン戦争以来、自由な新聞報道を一切許していません。米軍に同行する記者以外の取材や報道はできませんし、戦死した米兵の棺桶すらも新聞に載せることは許されていません。棺桶の写真すら、市民の目に残酷に映るから許されないというのであれば、子どもの目の前で頭を打ちく光景は残酷ではないというのでしょうか。

しかも、その子どもは、次の報道を見れば分かるとおり、12歳の娘の他に、他に9人の子どもが傍にその光景を見ていたようです。というよりも「無理やり見るよう強制された」というべきでしょう。
http://www.democracynow.org/2011/5/4/headlines

One of bin Laden's wives was wounded in the raid but not killed as previously reported. Both the wounded wife and a daughter of bin Laden, believed to be about 12 years old, are in Pakistani custody along with nine other children.

一歩譲って、ビンラディンが911事件の首謀者だったしても、その妻や子どもにどんな罪があったというのでしょうか。「妻も12歳の子供も殺された」という最初の報道は嘘だったのですが(上記の下線部)、考えようによっては「妻や子供の目の前で、その夫(あるいは父)の頭を銃で撃ち抜く」方が残酷ではありませんか。

阪神淡路大震災や今度の東日本の原発震災では、地震や津波,さらには余震の恐怖で、多くの子供たちが大きな精神的障害(PTSD)を負ったと言われていますが、ビンラディンの子供たちの心に、この後どのような傷が残るのでしょうか。このような殺害方法を命じる人物に「ノーベル平和賞」が与えられたことに、改めて愕然たる思いを禁じ得ません。

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<註> 日本の菅政権は即座に、オバマ氏の行動に対して全面的な支持を表明しました。菅氏が「20ミリシーベルトという高濃度の放射能汚染に子供を晒しても平気だということを見れば、それも当然のことかも知れません。オバマ氏も菅氏も人間に対して、とりわけ子供の命や人権に関してほとんど何の関心もないように見えるからです。
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上記では「一歩譲って、ビンラディンが911事件の首謀者だったしても」と書きました。というのは、911事件はビンラディンが企画・立案・指示して実行された事件だったという証拠は今のところ何一つ提出されていないからです。

当時の大統領ブッシュが「ビンラディンをアメリカに引き渡せ」とアフガニスタンのタリバン政権に要求したとき、タリバン側は「証拠を見せていただけるなら引き渡します」と言ったにもかかわらず、時のブッシュ大統領は、「その必要はない」としてアフガン戦争に踏み切りました。

チョムスキーも、5月7日(土)のコメントで次のように述べています。
http://www.zcommunications.org/my-reaction-to-osama-bin-laden-s-death-by-noam-chomsky

What they only believed in April 2002, they obviously didn't know 8 months earlier, when Washington dismissed tentative offers by the Taliban (how serious, we do not know, because they were instantly dismissed) to extradite bin Laden if they were presented with evidence—which, as we soon learned, Washington didn't have.

つまりアフガン侵攻の8ヶ月前に、証拠を出せば(if they were presented with evidence)引き渡す(extradite)と言っているのに、それを即座に足蹴にした(dismissed)のでした。後で分かったことですが、ブッシュはそのような証拠など持っていなかったのです(—which, as we soon learned, Washington didn't have)。

法を尊重する社会では(In societies that profess some respect for law)、容疑者"suspects" は公正な法廷で裁かれる(brought to fair trial)べきものであり、暗殺の対象であってはなりません。当時のFBI長官でさえ、「証拠はない、そのように信じた"believed"」と述べているだけなのです。

チョムスキーは、それを次のように述べています。

In societies that profess some respect for law, suspects are apprehended and brought to fair trial. I stress "suspects."
In April 2002, the head of the FBI, Robert Mueller, informed the press that after the most intensive investigation in history, the FBI could say no more than that it "believed" that the plot was hatched in Afghanistan, though implemented in the UAE and Germany.
  
チョムスキーは上の文で、最後に、"the plot was hatched in Afghanistan, though implemented in the UAE and Germany" と言っています。つまり「911事件の着想は、アフガンで生まれたかもしれないが、UAEアラブ首長国連邦とドイツにいた人物によって企画・実行された(implemented)」とFBIは「信じている」(it "believed")だけなのです。

要するにアフガン戦争で今までに大量に殺されてきたアフガン人=タリバンは、911事件とは何の関係もありませんでした。関係があったのは、首謀者にとされたモハメド・アタ(ドイツに留学していたエジプト人)を除けば、あと残りの多くはUAEやサウジ・アラビア人だったとされています。

したがってチョムスキーも述べているように、オバマ氏が暗殺後に、「911事件はアルカイダによるものだと,その直後に直ぐ分かった」とホワイトハウスで声明を発表したのは、だから真っ赤な嘘だったのです。

Thus Obama was simply lying when he said, in his White House statement, that “we quickly learned that the 9/11 attacks were carried out by al Qaeda.”

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<註> 上記で、首謀者にとされたモハメド・アタがエジプト人だということを紹介しましたが、ビンラディンの片腕とされるアイマン・ザワヒリという人物もエジプト人だということに注目して欲しいと思います。最近「民衆蜂起」で世界の注目を浴びた国です。両者ともエジプトの最高学府であるカイロ大学を最優秀の成績で卒業したそうです(アタは建築学科、ザワヒリは医学部)。
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ついでに付言させていただければ、911事件では、ワールド・トレード・センターが崩壊する前に地階部分で爆発音があったとか、ペンタゴンに突入したはずのユナイテッド航空機は、その残骸すら見つかっていないとか、多くの疑義が残っています。

このことと関わって、911事件は「ブッシュ氏による自作自演ではなかったのか」という声があるくらいですから、ビンラディンを捉えて裁判にかけ、真相を解明することは世界中の心ある人が願っていたことでした。

このような疑惑を晴らすためにも裁判にかけて真相を究明することは不可欠の作業ではなかったでしょうか。

まして殺されたときのビンラディンの写真が公開されなかったり、死体も海の底に埋めてしまい、第3者に確認しようがないやりかたで処分するのでは、無用な疑惑を拡大するだけではないでしょうか。

この度の東北関東大震災では、肉親の遺体を発見できずに、いまだに探し続けている方も少なくありません。その上、放射能汚染がひどくて、探し続けることすらも断念せざるを得ない方も見えます。

このように肉親の遺体をしかるべき場所にしかるべきかたちで葬ってあげたいと願うことは、誰しも願っていることです。その願いもオバマ氏は、公正な手続きもなく、無惨にも踏みにじってしまいました。

ですから、この度のオバマ氏によるビンラディン殺害とその遺体の処理は、初歩的な国際法違反であるだけでなく、人命軽視・人権無視という点でも、吐き気をもよおす行為であり、強い憤りを感じざるを得ません。

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イラク戦争は、嘘で始められた戦争でした。その結果、無実のイラク人を大量に殺すことになった(百万人を超えると言われている)ブッシュ氏は、何ら罪に問われることなく、逆に侵略された側のフセイン大統領が死刑にされました。

しかも、クルド人を毒ガスで大量殺戮したとされる犯罪その他も、ブッシュ氏が殺した人数と比べれば、実に小さく見える犯罪です。またそれは、当時の米国政府=ブッシュ大統領(父)の資金援助と武器援助によって初めて可能となったものでした。

フセインがミロシェヴィッチ大統領(ユーゴスラビア)の裁判のような国際裁判ではなく、イラクの国内裁判になったのは、このような経過を国際裁判で暴露されたくなかったからだというのが一般的な見解です。

このイラク戦争ではフセイン大統領の息子が殺されたときも死体がこれ見よがしに米国新聞の紙面を賑わせましたし、フセイン大統領が絞首刑になるときも、テレビで繰り返し映像が流されました。

今回さらに驚いたのは、ビンラディンが殺害されるようすをオバマ氏を初め政府高官が、まるでスポーツを観戦するかのように大画面で眺めている写真が公開されたことでした。

まるで闘牛でも観戦するかのように、大勢で人殺しの場面を大画面で見つめ、しかもそのようすが写真で取られることを許す神経を私は信じることができません。なぜなら報道によれば、「逮捕」ではなく「暗殺」が最初からの指示だったからです。

自国の兵士は棺桶すらも撮影を許さないのに、敵の暗殺は大画面で観戦するというオバマ氏のやり方は、ブッシュ氏の言動だけを「妄動」「理不尽だ」としてきた私たちの認識を更に大きく変えるものになりました。

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しかし、よく考えてみれば、ブッシュ氏が犯してきた巨大な犯罪を「未来に向かって進むためには過去は問わない」「過去の犯罪を糾明しない」とするオバマ氏の姿勢を見れば、今日のことは予想されて当然のことだったのかも知れません。それはアフガニスタンやパキスタンで無人爆撃機を使って殺戮を繰り返してきたことにも、よく表れています。

報道記事を読んでいて更に驚いたことがあります。それはビンラディンが住んでいたアボタバードの邸宅は、パキスタンの名門士官学校のすぐそばにあり、ビンラディンがアフガニスタンからパキスタンに移り住むようになってから既に7年半が経っているのです。
Democracy Now Japan!の記事では次のように述べています。

ビンラディン潜伏への直接関与の証拠でパキスタン軍に疑惑の目
http://democracynow.jp/dailynews/2011-05-05
 アボタバード市の、オサマ・ビンラディンがどうやって潜伏していられたのか、多くの疑問が生じています。
 レオン・パネッタCIA長官はビンラディンの潜伏場所について、パキスタン政府はそれを「知っていたか、そうでなければ突き止める能力がなかったということだ」と述べたと報じられています。パキスタン軍がビンラディン潜伏に直接関与していた可能性を示すいくつかの証拠が出はじめています。
 一方、パキスタン政府は、今回ビンラディンが殺害された場所のことを、2年前に米国情報部に警告したと主張しています。
 カナダのグローブ・アンド・メール紙の外報特派員で数々の受賞歴があるジャーナリストのグレイム・スミスに、パキスタンから話を聞きます。スミスは、4日にアボタバードでビンラディンの潜伏場所をめぐる謎を調査しました。
(この記事のさらに詳しいインタビュー記事は下記を御覧ください。)
Pakistani Military Faces Scrutiny as Unfolding Evidence Suggests Direct Role in Harboring bin Laden
http://www.democracynow.org/2011/5/5/pakistani_military_faces_scrutiny_as_unfolding

 この記事を読む限り、オバマ氏もパキスタン政府もビンラディンがパキスタンのアボタバード市(しかも名門士官学校がある有名な保養地)にいることを知りながら、アフガニスタンやパキスタンにおける「アルカイダ撲滅作戦」を続けていたことになります。

アフガニスタンで兵員増派による戦争を続け、さらにそれをパキスタンのいわゆる「トライバル・エリア」と呼ばれる国境地帯まで戦争を拡大したのがオバマ氏でした。今までブッシュ氏がやらなかった無人機による殺害の大幅採用で、多くの民間人を殺害しているのも、オバマ氏です。

ところが911事件を起こしたとされる「アルカイダ」は、ほとんど実態らしきものはなく、しかもその指導者とされるビンラディンがアボタバード市にいたとなると、今までにアフガンやパキスタンで戦死した人たちは、多くの民間人も含めて、いったい何のために殺されたのでしょうか。

(しかも無人機よる殺害はパキスタン政府による許可がなく、CIAの秘密作戦だと言われているのですから、ますます頭が混乱してきます。これはアメリカ正規軍の行動でもないのですから。)
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最後に、もう一つだけ書いておきたいことがあります。それはこの暗殺計画の作戦暗号名がアメリカインディアンの伝説的なアパッチ族の指導者「ジェロニモ」だったことです。
アメリカ先住民の人たちは、このニュースを聞いて「白人の侵略と闘った自分たちの偉大な指導者をテロリストと同列に扱う気か」と激怒しました。

先住民の活動家ウィノナ・ラデュークは、ビンラディンを 「ジェロニモ」と呼ぶ米政府は先住民との戦争をいまだに継続中なのだとして、このことを次のように述べています。
http://democracynow.jp/(2011/05/06)

「実際のところ、米軍用語は先住民族関係の言葉で溢れています」「ブラックホーク・ヘリコプターにアパッチ・ロングボウ・ヘリコプター、トマホーク・ミサイルもそう。外国にある米軍基地を“リザベーション”(保護地区)と呼び、基地を離れるときには“保護地区を離れてインディアンの土地に入る”と言います。ここにこめられているメッセージは何でしょう? 基本的に、先住民に対する戦争はいまも続いているということです」

(もっと詳しい記事は下記を御覧ください。)
Native American Activist Winona LaDuke on Use of "Geronimo" as Code for Osama bin Laden: "The Continuation of the Wars Against Indigenous People"
http://www.democracynow.org/2011/5/6/native_american_activist_winona_laduke_on

しかし、私はアメリカ政府がビンラディン暗殺計画を「ジェロニモ」と名づけたことを非常に興味深く思いました。というのは、白人の侵略と闘った先住民指導者の名を取ってビンラディン暗殺計画を立てたということは、逆にビンラディンを、ジェロニモと同じ「勇気ある抵抗者」の地位に押し上げたことになるとも考えられたからです。

またアメリカに住む多くの国民に、今まで忘れ去られていた「ジェロニモ」の名を再び呼び起こし、アメリカという国がどのような血塗られて歴史を背負って現在に至っているかを改めて考えさせる絶好の機会を与えることになりはしないか、とも考えたのです。

ハワード・ジンのVoices of a People's History of the United Statesの翻訳が終了目前であるだけに、特にその思いを強くしたのでした。そう思っていたら、下記のようにチョムスキーも私と全く同じことを考えていることを知り、二重に嬉しく思いました。

My Reaction to Osama bin Laden's Death
http://www.zcommunications.org/my-reaction-to-osama-bin-laden-s-death-by-noam-chomsky

Same with the name, Operation Geronimo. The imperial mentality is so profound, throughout western society, that no one can perceive that they are glorifying bin Laden by identifying him with courageous resistance against genocidal invaders.
「ジェロニモ作戦という名前についても同じである。帝国主義的な思考方法は西側社会ではとても深遠なので、ビン・ラディンを大量虐殺の侵略者に対する勇敢な抵抗者ジェロニモに見立てたことで、彼らがビン・ラディンを賛美していることになっていることを、誰も気づくことができない。」

このチョムスキーの「My Reaction to Osama bin Laden's Death」という小論は下記に翻訳を載せておきましたので、時間があるときに全文をお読みいただけると有り難いと思います。

チョムスキー「ビンラディンの死について考える」公開110509
http://www42.tok2.com/home/ieas/chmsky110507binladen_assasination..PDF


<註> オバマ氏がビンラディンの暗殺をホワイトハウスで緊急声明で発表したのは、アメリカ時間の2011年5月1日(日)夜でした。日曜日の夜に緊急声明を発表するのは極めて異例のことです。なぜ暗殺に「メーデー」の早朝が選ばれたのか。米国は「メーデー発祥の地」でありながら、なぜ「メーデー」という日を認めず、「レーバーデイ」を別に定めているのか[9月の第1月曜日で法定休日]。これについても書きたいことがあるのですが、今は時間がないので後日にします。
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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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