チェルノブイリ原発事故二五周年(下)―原子力発電は今すぐ止めても困らない

前回のブログでは「浜岡の原発など、少しでも早く原発を止めるためには、署名なども有効でしょうが、より建設的な意見としてある程度、その分のエネルギーをどうするかについての案も、これからは出していく必要があるのかもしれません」という声が寄せられていることを紹介しました。

しかし、その声に応えるブログを書こうとして矢先に「ビンラディン暗殺」のニュースが飛び込んできました。その殺され方が余りにも異様であるにもかかわらず、相変わらずNHKの報道、菅内閣の声明も、米国政府の単なる伝声管となっていることに我慢できなくなって、予定を急に変更して、それについて若干のコメントを書きました。

このコメントについても「ビンラディン暗殺は日本の未来とどんな関係があるか」など、書き足りないことがまだあるのですが、原発について上記の宿題がまだ残っているので、今回はそれについて書きたいと思います。
────────────────────────────────────────
<註> ハワード・ジン『Voices of a People's History of the United States』の翻訳は、ほぼ完了したのですが、まだ最後の詰めが残っていて、それも気になります。翻訳をしていると原発が気になり、原発について調べていると翻訳が気になるという状況で、全く困っています。しかし、原発をこのまま放置しておくと翻訳や英語教育どころか日本全体が崩壊するのではないかという危機感でイライラしてきて、体の具合が少し悪くてもブログを書かなくてはという脅迫感に襲われるのです。
────────────────────────────────────────

福島原発は今も沈静化する作業が続けられていますが、「モグラ叩き」の状態で1-6号機のどれかが良くなれば別のものが悪くなるといった具合で、いまだに放射能が各号機から放射能が出続けているという状態です。

チェルノブイリやスリーマイル島の場合は一回こっきりの原子炉一個だけの事故でしたが、福島の場合は6機もの原子炉がブスブスとくすぶり続けていて、いつ収まるかの見通しも立っていません。

Expert: Despite Japanese Gov't Claims of Decreasing Radiation, Fukushima a "Ticking Time Bomb"
http://www.democracynow.org/2011/4/13/expert_despite_japanese_govt_claims_of

その間、海には大量で高濃度の放射能汚染水が垂れ流し状態ですから、陸も海も時間が経つにつれて汚染地域が確実に広がっていきます。もっと恐ろしいのは、「原発周辺の累積汚染度」のことです。

最近、文部科学省とDOE(米国エネルギー省)による合同の航空機モニタリングが発表されましたが、その汚染地図を見ると、今回の事故の汚染がチェルノブイリの事故をはるかに超えていることが分かります。

「チェルノブイリを超えた放射能汚染」きっこのブログ20110509
http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/2011/05/post-6f19.html

この調査は4月29日に、福島第一原発から半径80キロの範囲の放射能汚染度をヘリコプターと航空機から計測したものですが、今回の調査でチェルノブイリの事故をはるかに超えていることは、より明確になりました。

今回の原発事故がチェルノブイリの事故をはるかに超えていることは、外国の研究者や外国のメディアで、事故当初から指摘されていたことです。

“Serious Danger of a Full Core Meltdown”: Update on Japan's Nuclear Catastrophe
http://www.democracynow.org/2011/3/17/serious_danger_of_a_full_core

"Underestimating the Seriousness of the Problem": Experts Urge Japan to Raise Nuclear Alert Level and Evacuate Wider Area
http://www.democracynow.org/2011/3/18/underestimating_the_seriousness_of_the_problem

Nuclear Catastrophe in Japan “Not Equal to Chernobyl, But Way Worse”
http://www.democracynow.org/2011/4/12/nuclear_catastrophe_in_japan_not_equal

ところが今頃になって(5月15日)、既に3月11日にはメルトダウンが起きていたというのですから呆れてしまいます。外国にいても分かることが何故ここ日本で分からないのでしょうか。緊急避難指示が出されず既に多くの人が大量被曝してしまった責任を誰がどのようにとるのでしょうか。

また、上記「汚染地図」を見る限り、福島県どころかその周辺も、完全にチェルノブイリ事故で言う「強制避難区域」に入ることが分かります。ところが、以前にも書いたとおり、政府・文科省は避難させるどころか、「20ミリシーベルトまでは大丈夫と言って強制的に学校へ行かせようとしているのです。

大人ですら、「1年間で、1ミリシーベルトを超えてはならない」としているにもかかわらず、その法律を国や文科省が自ら破っていくのですから、頭が混乱してしまいます。これでは、福島の子供たちに「10-20年かけて、ゆっくりと死んで行きなさい」と言っているのと同じではないでしょうか。

ところが不思議なことに福島ではこの文科省の指示に校長や教育委員会が素直に従っているという報道を見聞きすると、ますます頭が混乱してしまいます。本来ならエジプト「タハリール広場」で起きたような「民衆蜂起」が起きても不思議ではない指示だと思いますが、「歌を忘れたカナリア」「怒りを忘れた日本人」状態が今の日本です。
────────────────────────────────────────
<註> 上記の汚染地図を知らせてくれたのは、私の主催する研究会の会員です。この場を借りて、改めて御礼を申しあげたいと思います。
 また上記の「きっこのブログ」では、今回の事故がチェルノブイリ事故と比べていかに度を超えたものかが、実に軽妙な文体で説明されていますので、ぜひ一度お読みくださるようお勧めします。
 ただしブログには「文部科学省と米国DOEによる航空機モニタリングはPDF資料なので、見られる人は見てもらうのが早いんだけど・・」とあるんですが、そのリンクをクリックしても図表は空白になってしまいます。よほど「きっこ氏の説明」が怖かったのでしょう。
────────────────────────────────────────

さて今回のブログでは、「原発は経済的にも全く非合理的だし」「いま保有している火力発電や水力発電で必要電力は間に合わせることができる」ということを書くつもりでしたが、福島の現状を知ってもらうことが先決と考えて、それを書いているうちに、思わぬ長さになってしまいました。

さて、本題の、「原発がなくても、いま保有している火力発電や水力発電で必要電力は間に合わせることができる」という点ですが、これは下記の図表で一目瞭然です(出典:小出裕章『隠される原子力・核の真実』104-107頁)。


この図表を御覧いただければお分かりの通り、極端な電力使用のピークが生じるのは、真夏の数日、そのまた数時間だけで、それ以外は「いま保有している火力発電や水力発電で必要電力は十分に間に合わせることができる」のです。

小出裕章氏は、この図表の説明で下記のようにも述べています。
「かりにその時にわずかの不足が生じるというのであれば、自家発電をしている工場からの融通、工場の操業時間、そしてクーラーの温度設定調整などで十分乗り越えられます。」

実は、上記の本『隠される原子力』に載せられているこの図表は、下記のインタビュー映像でカラーの図表として見ることができ、しかも小出氏自身の肉声を通して説明を聞くことができますので、時間がある方は、そちらを御覧ください。

小出裕章インタビュー「福島原発事故と原子力以外の現実的な発電方法について」
http://k-onodera.seesaa.net/article/195576908.html(20110413)90分
(ただし90分近くのインタビューですから、後半の60分から視聴し始めると時間の節約になります。)

上記のインタビューでは、次のような興味深い事実も指摘されています。
1)原子力発電が極めてコストが高く、電気料金が経済力を圧迫するので、大企業の多くは自家発電に切り替えつつある(上記のグラフ「自家発電」を参照)、
2)アルミ産業が特に電力を喰うので日本で生きのびている企業は1社しかない、
3)電力が余って仕方がないので、水力発電の48%、火力発電の20%をわざと休止させている。

また、余った電力は溜めておくことができないので、「揚水発電所」というものをつくって、水をあげたり下げたりして「電力不足」に備えるふりをしているという驚くべき事実も述べられています。

────────────────────────────────────────
実は、この「揚水発電所」については、広瀬隆・広河隆一1991『悲劇が進む、新版四番目の恐怖』が、「ジャピック計画」という恐ろしい計画があったことを、既に20年前に暴露しています。

「揚水発電所Japic計画」 
http://www42.tok2.com/home/ieas/Yousui_JAPIC_Plan.pdf

この図を御覧いただければお分かりのように、「余っている電力を消費するために、日本海側から太平洋側に縦断するダムと揚水発電所を幾つも建設し、日本海側で汲み上げられた水を、日本の背骨を横断するトンネルを貫いて太平洋側に落下させる」という途方もない計画です。

これに群がる巨大建設業、巨大電力会社、巨大家電業社は、国家予算・国民の税金を湯水のように使って、大儲けをしようと計画したわけです。そのためには「電力が足りない」ということを国民に大宣伝しなければなりませんでした。いまも東電は「原子力発電がなくなれば大変なことになる」と思わせるために、「計画停電」「夏場の節電」を声高に叫んでいます。

しかし先にも述べたように、休ませてあった火力発電や水力発電を復活させれば、必要な電力を十分にまかなうことができます。また「節電」という場合、家庭や個人に節電を呼びかけるよりも、電力のほとんどを消費している企業にこそ節電を呼びかけるべきでしょう。夜9~10時まで働かせるのではなく8時間労働を守らせ、労働者に人間らしい生活を保障するだけで、どれだけ節電になるでしょうか。

学校現場でも、いま非常勤講師が異常に増えて、専任教員はますます過重労働になっています。私の知っている中学校では英語教師が専任1人で残り3人講師という異常な構成です。こうして専任教員は帰宅するのが夜9~10時というのが日常になっている学校を私は幾つも知っています。専任教員を増やして、こんなバカなことをやめれば、教育の質を大きく向上できますし、夜間の電気料金は節約できます。同時に失業率を低めることにも貢献できます。

いま不況の中で大学を卒業しても仕事が見つからない若者が激増しています。同じことを民間企業で実行すれば失業者救済にも役立ちます。なぜなら国民が職を得て豊かになれば、それは購買力の向上につながり、それは同時に企業の活性化に直結するからです。ところが、いま政府のやろうとしていることは、「企業減税」と「復興税」という名の新しい「消費税」です。これで、どうして「がんばれ日本」ということになるのでしょうか。
────────────────────────────────────────
<註> ほとんど客もいないのに終日=夜間も営業している全国のコンビニも、正常な人間らしい営業状態に戻すべきでしょう。そうすれば、電力の大量節約になるだけでなく、「名ばかり管理職」という非人間的労働もなくなり自殺を防ぐこともできます。これは同時に低賃金労働の「一つの温床」をなくすことにもつながります。
────────────────────────────────────────

原発を今すぐ止めても困らないという点については、広瀬隆2011『FUKUSHIMA福島原発メルトダウン』にも非常に分かりやすい説明が載っていますし、代替エネルギーとして天然ガス火力・石油火力がすぐに活用できる理由が書かれています。

「原発がなければ停電するか」
http://www42.tok2.com/home/ieas/Hirose2011Fukushima.pdf

さらに上記では、東電などによる電力業の独占をやめさせ、発電と送電を分離し送電線を国家管理(つまり「国民の管理」)にすれば、電力供給がもっと安く豊富に供給できるようになることも指摘されています。

また、代替エネルギーの将来の大きな可能性として「燃料電池」があるのですが、緊急出版されたこの本ではふれられていません。時間にゆとりのある方は、下記の本も御覧ください。

広瀬隆 2001『燃料電池が世界を変える:エネルギー革命最前線』日本放送出版協会

これを読めば、将来は、家庭の電力は自宅でまかなえるようになることが分かります。これを妨げているのは、現在の権益を守ろうとする電力業者と(それと癒着しつつ)新エネルギーの開発を援助しようとしない政府であることも、この本で知ることができます。

同じことはアメリカでも起きています。ジェネラル・モーターズ(GM)は1996年に電気自動車 EV-1をカリフォルニア州とアリゾナ州で提供し始めました。数百台の電気自動車が市中を走り始めましたが、やがてそれらはすべて姿を消してしまいまし た。

姿を消した電気自動車は、人里はなれた処分場に運び込まれ、ぺしゃんこに潰された後、シュレッダーにかけて文字通り粉砕されてしまいました。電気自動車の予想外の人気に危機感を覚えた自動車メーカーが、2003年末ごろから各社いっせいに回収に動きだしたのです。

つまり、輸送用燃料の供給を独占する石油企業、ガソリン車を主力商品とする自動車メーカーが、それぞれの既得権益を守るために、電気自動車という新技術の市場拡大を、力づくで阻止したのです。この詳しい顛末については下記を御覧ください。

『誰が電気自動車を殺した?』 GMのEV-1の不可思議な消失
http://democracynow.jp/video/20070413-3 (日本語字幕版)
Who Killed the Electric Car? New Documentary Looks at the Mysterious Disappearance of the EV-1
http://www.democracynow.org/2007/4/13/who_killed_the_electric_car_new

何度も言います。環境に優しいエネルギーは原発以外にいくらでもあるのです。それを妨げているのは、既得権益を守ろうとする企業と、それに癒着している政府です。

────────────────────────────────────────
原発は、政府や企業の宣伝と違って、全く「環境に優しくない」のですが、長くなってきたし疲れてきましたので、それについては割愛します。というのは、あと一つだけ、どうしても書いておきたいことがあるからです。

私が「揚水発電所」「ジャピック計画」の話を家人にしていたら、彼女が怒りに満ちた調子で次のように言うのを聞いて、改めて今の電力業界のありようを根本的に見直す必要を感じたのでした。

「最近、『オール電化』を声高に宣伝しているが、『計画停電』などを押しつけるくらいなら『オール電化』など止めれば良い。『オール電化』を声高に言うのは、余った電気をいかに使わせるかの戦術でしょう。」

「また洗濯機でも『乾燥機』つきの洗濯機が最近では当たり前になっているが、これも余った電気を無理に使わせるための戦略かと思わず勘ぐってしまう。」

「洗濯物を太陽で乾かした方が、洗濯物に太陽や自然の香りが漂ってこんなに気持ちが良いことはないし、エネルギーの節減になる。ところが自然乾燥させるのではなく電力を使った乾燥させようとするのが電気産業だ。」

「最後の極めつけは、原発事故で放射性物質を日本全土に撒き散らし、洗濯物を外で干せないような環境をつくってしまった。ますます乾燥機つき洗濯機が売れることになり、電機業界は笑いが止まらないことだろう。」

彼女が怒りまくって話すのを聞いているうちに、私が勤務していた大学で、どんどん自販機が導入されていることを思い出しました。そのときも私は教授会で次のように発言したのですが、ほとんど誰からも賛同がなくてがっかりしたことを思い出したのです。

「夏場の電力削減ということで廊下や事務室の電気を消したまま仕事をするよう強い要請があるが、そんなことをするくらいなら、キャンパスから自販機を一掃するべきだ。」

「これは莫大な電力を喰うだけでなく健康を損なう。アメリカの公立学校では肥満児を少なくするために学校から自販機を一掃する運動が起きている。元々、大学にはキャンパスのあちこちにペダルを踏めば冷たい水が出てくる装置があり、それを飲めば済むのだから、自販機は無用だ。」

「誰も薄暗い環境で仕事や学習をしたくないはずだ。学校はもっと明るく伸び伸びとした環境であるべきだ。他方で、クリスマスシーズンになるとキャンパスのあちこちの木々に小さな豆電球を点滅させて、それが一ヶ月も続く。一方で節電を言いながら、こんな馬鹿げたことに電力を無駄遣いしている。樹木にとっても全くの迷惑ではないか。」
────────────────────────────────────────
<註> 教授会で私が上記のような発言をしたからかどうか分かりませんが、私が退職する前に、ようやく廊下は人が来ると自動的に明かりが付くシステムになりました。
────────────────────────────────────────

最近、私の住む田園地帯ですら自販機が急増しつつあります。原子力発電を維持したい企業にとっては、これほど美味しい話はないでしょう。

しかし、既に紹介した下記映像で小出氏は、アルミ産業は電力を食い過ぎるから日本では企業として成り立たなくなっていると述べています。
http://k-onodera.seesaa.net/article/195576908.html(20110413)90分

だとすれば、自販機は健康を破壊する飲料水を売っているだけでなく、アルミ缶を製造する過程で全く無駄なエネルギーを消耗していることになります。

かつて私がアメリカの大学で1年間、日本語を教えていたとき、誰もが水筒を持参し、キャンパスのあちこちにある冷水を入れては、それを飲んでいたことを思い出しました。教授会では、それらのことを言えなかったことが、今となっては悔やまれます。

またペットボトルの飲料水も決して安全でも健康でもありません。これについては下記を御覧ください。
「ボトルウォーターのウソ、水の民営化への抗議はテロ?」
http://democracynow.jp/video/20070801-2

────────────────────────────────────────
<註> 昨日(2011/05/14)、福島原発の作業員の方が亡くなられました。しかし、これは氷山の一角で、これまでどれだけ多くの下請け作業員が被曝労働で亡くなられたり療養生活を送っておられることでしょうか。
 私たちは、そんなに多くの弱者を犠牲にしながら原発を維持しなければならないのでしょうか。この点についても書きたいことは多いのですが、ここで力尽きました。後日にさせてください。

関連記事
スポンサーサイト
検索フォーム
プロフィール

狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

リンク
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
RSSリンクの表示
QRコード
QR