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ロシアの「戦争犯罪」?、それともアメリカやウクライナの「戦争犯罪」?

国際教育(2023/01/24)
 ソレダル市『巨大な地下要塞』(ルガンスク人民共和国)
 アムネスティー・インターナショナル(NGO国際人権団体)

 ヴィクトル・ヤヌコヴィチ(元ウクライナ大統領)
 ワシーリー・ネベンジャ(Vassily Nebenzia、ロシアの国連大使)
 アンナレーナ・ベアボック(Annalena Baerbock、ドイツ外務大臣)
 ジェフリー・ヤング氏(Geoffrey Young、元ケンタッキー州下院議員)
 ビクトリア・ヌーランド(国務次官、元ヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補)
 エバ・バートレット(カナダ出身の女性ジャーナリスト、パレスチナでも取材)
 オリバー・ストーン監督(ドキュメンタリー『ウクライナ・オン・ファイア』)


ウクライナにクーデター政権をつくるために50億ドルを出したと演説するヌーランド国務次官補(当時)ヌーランド国務次官補 50億ドル 「ウクライナ・オン・ファイア」1:36:53
出典:ドキュメンタリー『ウクライナ・オン・ファイア』(1:36:53)



 昨日は、ジェフリー・ヤング氏(Geoffrey Young)が「バイデン大統領を戦争犯罪人として告訴せよ」と主張しているという記事からブログを書きました。
 が、先述のように、この記事とちょうど同じ頃、もうひとつの記事が私の眼を惹きました。それは、ドイツの外務大臣が「ロシアを国際刑事裁判所ICCで裁け」と主張したという次の記事です。
 つまり、ロシアが「戦争犯罪=侵略の罪」を犯したというのです。

* German FM says ‘hole’ in law protects Russia(ドイツ外相、法律の「穴」がロシアを保護していると発言)
Annalena Baerbock wants rules changed so the West can judge Moscow for Ukraine “aggression” (アンナレーナ・ベアボック氏は、西側諸国がモスクワのウクライナ「侵略」を裁けるよう、規則の変更を望んでいる)
https://www.rt.com/news/569972-germany-war-crimes-ukraine/
16 Jan, 2023 19:55


 そこで最後はそれについて書いて前回のブログの「締め」にしようと思ったのですが、朝飯抜き・昼飯抜きで書き続けてきたので、疲れ切って諦めることにしました。そして「続きは明日、書きます。どうかお許しを」で終わりました。
 というわけで、今日は、この話題から書き始めることにします。


 さて上記の記事によれば、ドイツの外務大臣は「西側諸国がモスクワのウクライナ『侵略』を国際刑事裁判所ICCで裁けるよう、ICC規則の変更を望んでいる」のですが、ICCの規則に「穴」があって、ロシアを裁けなくて困っているというのです。
 ということは、2014年から8年以上もの間、NATO軍とアメリカ軍は裏でウクライナ軍を指導し、ドンバス2カ国を「侵略」「猛爆」してきたにもかかわらず、「戦争犯罪」を犯してきたという自覚が全くないようです。
 というのは、この8年間でウクライナ軍は、国連発表でも、ドンバスで1万3000~4000人もの命を奪い、民家・学校・病院などを破壊し尽くしてきました。この詳細は拙著『ウクライナ問題の正体1~3』で詳述しました。
 これが「戦争犯罪」ではなくて何だと言うのでしょうか。国際法では軍事施設以外は攻撃してはならないことになっているからです。
 それどころか、最近のウクライナ軍は、ザポリージャ原発すらも攻撃対象にしてきました。これは一歩間違えれば、ウクライナどころか欧州全体を死の灰で覆うことになりかねない「戦争犯罪」です。
 それとも、アメリカは広島・長崎を原爆・水爆で破壊し尽くし、何十万人もの命を奪っても「戦争犯罪」の罪に問われていないから、ウクライナ軍の行為も同じと言いたいのでしょうか。

 そもそもアメリカ軍は原爆・水爆の投下以前に、東京大空襲を初め、日本の主要都市を空爆し、全土を焼け野原にしました。それでも「戦争犯罪」の罪に問われていないから、ウクライナ軍の行為も同じと言いたいのでしょうか。
 東京大空襲だけでも、確認された死者の遺体数は約10万5400人になります。 負傷者は約15万人で、罹災者は約300万人、罹災住宅戸数は約70万戸です。 焼失面積は約140㎢で、区部の市街地の約50%ですが、ここには軍事施設は何もありませんでした。
 ですから、アメリカの空爆、原爆・水爆の投下は、明らかな「戦争犯罪」行為でした。
 ですが、歴代の自民党政権は、このような戦争犯罪を告発するどころか、1964年、東京大空襲を指揮したカーチス・ルメイ将軍に、勲一等旭日大綬章を贈っているのです。
 他方、東京大空襲で成果を上げたルメイは戦後、軍人として出世を遂げ、アメリカ空軍参謀総長までのぼりつめました。これがアメリカという国の実態であり、そのような国の属国になっている日本の実態でもあるのです。


 他方、ロシア軍のほうは民間人の被害を最小限にくいとめるために軍事施設以外への攻撃を控えてきました。
 ロシア軍は学校や病院に立てこもったウクライナ軍を簡単に一掃できる軍事力をもちながら、マリウポリ市のアゾフスタル製鉄所を全面解放するのに何週間もかか ったのは、 人質にされた民間人を安全に解放するために、 一挙にアゾフスタル製鉄所を攻撃することを控えたからでした。
 これらのことも前著 『ウクライナ問題の正体2』第2章「アゾフスタル製鉄所の攻防戦」で詳述しました。このような戦い方は元アメリカ財務次官ポール・クレイグ・ロバーツでさえ、「お人好しのプーチン」「お目出度いロシア人」「3日で済む戦いに40日以上をかけている」と嘆かしめるものでした。
 国際的人権団体として有名な人権団体「アムネスティ・インターナショナル」も次のような声明を発表していることは注目すべきことです。

*市民を危険にさらすウクライナ軍の戦術
https://www.amnesty.or.jp/news/2022/0810_9657.html#

 この声明の冒頭は次のように始まっています。

ウクライナ軍は、ロシア軍の侵攻撃退にあたって、人口の多い住宅地に拠点を設置し攻撃を行うことで、民間人を危険にさらしている。学校内や病院内に拠点を置いた事例もある。
 こうした戦術は国際人道法違反であり、民用物を軍事目標にしてしまうため、民間人を危険にさらすことになる。現実にロシア軍による人口密集地への攻撃では民間人が犠牲となり、民間のインフラが破壊されている。
 防衛的立場にあるからといって、ウクライナ軍が国際人道法の尊重を免れるわけではない。


そして、 この声明の末尾は次のように結ばれています。

ウクライナ政府は、軍を人口密集地から距離を置いた場所に移動させるか、軍事活動地域からの民間人の退避を直ちに実行すべきだ。
 軍は決して病院から攻撃をしてはならないし、同様に学校や民家の使用は、代替手段がない場合の最後の手段でしかない。
 アムネスティは、2022年7月29日、ウクライナ国防省に今回の調査結果を送ったが、記事公開時の8月4日時点で、同省から回答は得ていない。


 この声明末尾は、ウクライナ軍が「ロシア軍が民家や公共施設を爆撃しない」という戦い方を逆手に取って、民間人を犠牲にするという戦い方をしてきたことを如実に示すものです。
 これは、ウクライナ軍が国際法をふみにじり「戦争犯罪」を犯していることを示す明確な証拠でしょう。ところが、先述の記事は、ドイツの外務大臣が「ロシアが戦争犯罪を犯しているのに国際刑事裁判所ICCの規約は『穴だらけ』だから規約を改正すべき」と言うのです。信じがたい発言です。
 しかし、これは逆に、ロシア軍の行為はICCの規約でも、戦争犯罪にあたるものは何一つなかったという証明でもありますから、実に皮肉な話です。ドイツ外務大臣の品性を示すものと言ってもよいかもしれません。


「ロシアを裁くために国際刑事裁判所ICCの規則を変えろ」と広言する、ドイツの外務大臣
ドイツの外務大臣ベアボック
https://www.rt.com/news/569972-germany-war-crimes-ukraine/



 最近でも、この声明を絵に描いたような事件が起きました。
 というのは、2023年1月14日にドニプロ(ドニエプル)で、ミサイルが集合住宅へ落ちて45名以上が死亡、79名が負傷したからです。
 しかし、このような事実を無視して、NATOやゼレンスキー政権はロシア軍による攻撃だとしてモスクワを非難しました。
 ところが大統領府のオレクシイ・アレストビッチ顧問はニュースの生番組で、集合住宅に落ちたのはクライナ軍の防空ミサイルによることを認めて謝罪してしまったのです。
 これはNATOやゼレンスキー政権にとっては都合の悪い発言でしたから、この顧問は17日に辞任する羽目になりました。

 この事件についてRTは次のように報じています。
*Russia blames Ukraine for deadly Dnepr missile blast(ロシアは、ドニエプルのミサイル爆発でウクライナを非難)
The tragedy would never have happened if Ukraine had not illegally stationed air defenses in a residential area, Moscow's UN envoy said (ウクライナが住宅地に防空手段を不法に設置しなければ悲劇は起こらなかった、とモスクワの国連特使は述べた)
https://www.rt.com/russia/570047-russia-ukraine-dnepr-missile/
18 Jan, 2023 07:20

 ロシアのネベンジャ国連大使(Vassily Nebenzia)は、1月17日、国連安保理の記者会見で、この事件について次のように述べています。

 国連安全保障理事会のブリーフィングでネベンジャ氏は、先週、落下したミサイルがウクライナで住宅を直撃し多くの死傷者を出したことに言及した。
 しかし氏は、「西側諸国はこれらの出来事の本当の背景について一切、口をつぐんでいる」と述べた。

 ネベンジャ氏は、「ウクライナのエネルギー軍事施設を狙ったロシアのミサイルは、ウクライナの防空システムによって撃墜された」と説明した。
 この防空システムは「国際人道法の規範に反して住宅地に設置されていたため、撃墜されたロシアのミサイルは住宅に落下した」と付け加えた。
 ウクライナ当局が国際法を順守していれば、「この悲劇は起こらなかっただろう」とネベンジャ氏は主張する。

 氏はさらに、「キエフが現実的な条件で交渉する用意があることを示していれば、ロシアはウクライナの軍事関連施設を標的にする必要はなかっただろう」とも指摘した。


 ここでネベンジャ国連大使が「現実的な条件で」と言っているのは何を意味しているのでしょうか。これを説明していると長くなりそうなので、節を改めます。


 最近のゼレンスキー大統領は、「ロシアに編入されたウクライナ南部の4カ国だけでなく、クリミア半島を取りもどすまで戦いを続ける」と、今までとは全く違った主張をするようになりました。
 ウクライナ紛争の直接的原因はアメリカが裏で仕組んだ2014年のクーデターにありました。選挙で正式に選ばれた当時の大統領ヴィクトル・ヤヌコヴィチを、たくさんの死者が出るような暴力的行動で、ロシア亡命に追い込んだことにありました。
 アメリカでも最近、「当時の大統領トランプが選挙でバイデン氏に負けたのは不正選挙があったからだ」としてトランプ支持者が連邦議会議事堂を占拠し、銃撃で1人を含む4人の死者を出すなどの事件が起きました。
 そして、このような暴動を煽ったのがトランプ氏だったとして大手メディアは一斉にトランプ糾弾の声をあげました。
 ところが同じメディアが、「ヤヌコヴッチの不正を糾弾する」と称して武器をもって政府庁舎を破壊しようとして100人以上もの死者を出した「キエフで起きた凄惨なクーデター」には、一切抗議の声をあげていません。それどころか、これを「尊厳の革命」と呼び、賞賛さえしているのです。
 そしてトランプ氏は暴動を煽ったとして糾弾されているのに、このキエフのクーデターでは驚いたことに当時の上院議員マケイン氏でさえ反政府の抗議集会に参加し、堂々と演説さえしていますし、ヌーランド国務次官補(当時)は抗議集会に参加者にして、食べものすら配っているのでした。
 もしトランプ支持者の集会にロシアの国会議員が参加したり、ワシントン在住のロシア外交官が、この集会に参加したり参加者に激励のお菓子などを配ったりすれば、バイデン政権は、これを放置したでしょうか。
 大手メディアは、暴動を煽ったとしてトランプ氏を糾弾しながら、なぜ暴動を煽っていたマケイン氏やヌーランド女史を糾弾しなかったのでしょうか。
 そもそも当時、ヴィクトル・ヤヌコヴィチ大統領は選挙で正式に選ばれていた大統領であり、それを暴力的に政権転覆する理由はありませんでしたし、ヤヌコヴィチ大統領も「ロシアとの貿易がEUとの貿易よりもなぜ国益に合致するか」を説明し、話し合いで解決する意欲を示していました。
 必要なら、総選挙をやりなおして、もういちど民意を問うという意向を示していたのですから、それを暴力的に転覆するというのは民主主義の原則に反する行動でした。ですからヤヌコヴィチ大統領は平和的に問題を解決したいとして官邸を守っている警官に銃を持つことすら許していなかったのです。
 ところが、アメリカの言いなりにならないヤヌコヴィッチ大統領は初めから政権から排除するのが当時のオバマ政権の方針でしたから、何と驚いたことにヌーランド国務次官補は、反政府集会を主導していたネオナチの極右グループ指導者に、「今のままではアメリカが公然と君たちを援助することは出来ない。死者が100人を超える事態になれば話は別だが」という話すらしていたのです。
 これは「大量の死者が出るような抗議行動を展開しろ」と扇動したに等しいのです。そして事実、100人の死者が出た時点でアメリカによる公然とした姿勢が世界に示され、ヤヌコービッチ大統領は亡命を余儀なくされました。
 このとき、どんな凄惨な光景がキエフで展開されたのかは、オリバー・ストーン監督のドキュメンタリー『ウクライナ・オン・ファイア』で見ることができますから、ぜひ時間をとって視聴していただきたいと思います。また、この続編『乗っ取られたウクライナ』では、前編では語られなかった事実が多く出てきて驚かされました。たとえば二〇一四年のクーデターでは少なくとも100人の死者が出ないとアメリカの出番がない」とヌーランドが語っている場面です。
 これはカナダのオタワ大学イワン・カチャノフスキー教授が過去5年間にわたって調べた研究にもとづくものですが、この詳細も拙著『ウクライナ問題の正体1,2』188~190頁に載せておきましたので、ぜひ参照いただければ有り難いと思います。


 先にネベンジャ国連大使が、「キエフが現実的な条件で交渉する用意があることを示していれば、ロシアはウクライナの軍事関連施設を標的にする必要はなかっただろう」とも指摘したことを紹介し、その「現実的条件」を説明するつもりだったのに、その背景を説明しているうちに長くなってしまいました。
 以上で、2014年のウクライナのクーデターは「尊厳の革命」どころか「血塗られた革命」とも言うべきものでした。ですから、このような政権を正式な正しい政権と認めることはできないという動きが出ることは当然のことでした。
 とりわけロシア語話者が圧倒的に多いクリミアやウクライナ南部のドンバス地方はヤヌコヴィチ大統領の支持基盤でしたから、このようなクーデター政権は認められないとして、いち早くキエフから独立した自治政府をつくるという運動を始め、ロシアに認めてほしいと要請しました。
 しかしロシアはクリミアについては独立国として認めただけでなくロシア編入すら認めました。ところがドンバス2カ国については独立国として認めることすらせず、この2カ国を「特別自治区」として認めるようキエフ政権と平和的交渉を始めたのでした。これがいわゆる「ミンスク合意」です。
 キエフはいったんはこの合意に賛成しておきながら、アメリカやイギリスから横やりが入り、そのたびに合意は潰(つぶ)されてきました。これが「ミンスク合意1」と「ミンスク合意2」でした。
 しかし、最近になって、もっと驚くべき事実が明らかになりました。
 私は「ミンスク合意」はドイツやフランスの仲介で成立したのだが、それを潰したのが英米だったと思っていたのです。
 が、元ドイツ首相メルケル氏や元フランス大統領オランド氏が「実はミンスク合意はキエフ政権にロシアとの戦いの備えるための時間稼ぎだった」と発言したのですから、世界を騒然とさせたのも無理からぬことでした。
 
 最近、「ウクライナ軍が立て籠もっていたルガンスク人民共和国ソレダル市の『巨大な地下要塞』がロシア軍によって制圧された」というニュースが流れました。
 この要塞は、「深さは150メートルから280メートル、空間の高さは30メートル、全長は200キロメートルに達し、鉄道も敷設されている」そうですから、今にして思えば、このような要塞を築くために「ミンスク合意1」と「ミンスク合意2」の8年間が必要だったのか、と思わされました。
 しかし何度も言いますが、この8年間のためにドンバスでは老人、子ども、女性を含めて1万3000~4000人もの命が奪われているのです。それに引き換え、ロシア軍が民家や民間施設を攻撃しませんから、キエフ政権下ではドンバス地方と比べて死者数は驚くほど少ないのです。
 
*Wagner group claims full control of Soledar(ロシア軍「ワグナー・グループ」がソレダル市の完全制圧を宣言)
Ukrainian troops are reportedly trapped in the key Donbass town(ウクライナ軍はドンバスの拠点ソレダル市で窮地に陥っているとの報道)
https://www.rt.com/russia/569673-wagner-soledar-control-donbass/
RT、Jan 10, 2023



ルガンスク共和国ソレダル市の、ウクライナ軍の巨大な地下要塞
ソレダル市「地下要塞」
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202301080000/


ウクライナ東部ドネツィク州のバフムート地区「ソレダル市」
ルガンスク「ソレダル市」


 ゼレンスキー政権は「ミンスク合意」では、「クリミアの独立」と「ドンバス2カ国の特別区としての地位」を認めるとしていたのに、今ではアメリカやNATO軍の指示に従って「クリミアとロシアに編入された4カ国を取りもどすまで戦う」というように、態度を全く変えました。
 アメリカとしては、ランド研究所(RAND Corporation)が2019年にたてた基本戦略にしたがって、「ロシアを潰すためにウクライナを代理戦争として使う」という戦術ですから、キエフ政権に和平交渉に乗りだしてもらったら困るわけです。
 だから、ゼレンスキー大統領に、このような発言をさせているのでしょう。

*How to Destroy Russia. 2019 Rand Corporation Report: “Overextending and Unbalancing Russia”
ロシア解体の基本戦略。ランド研究所報告2019「ロシアを無謀な拡張に向かわせ、崩壊させる」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-972.html(『翻訳NEWS』2022/07/09)

 しかし、他方、最近のニュースでは、マーク・ミリー統合参謀本部議長が「ロシア軍をウクライナの旧領土から追い出すというのは、まず無理」という発言をしているのです。

*Fighting Russia ‘very, very difficult’ for Ukraine – top US general( ウクライナにとってロシアとの戦いは「非常に、非常に困難」と米軍最高司令官)
https://www.rt.com/news/570270-milley-ukraine-difficult-fight/
RT、21 Jan, 2023


 この記事の副題は次のようになっていました。
*While Kiev has vowed to seize huge tracts of what is now Russian territory, Moscow’s forces have won a series of key battles
 つまり、「キエフは現在はロシア領になっている広大な土地を奪取すると宣言しているが、モスクワ軍は一連の重要な戦闘に勝利している」とアメリカ軍の最高司令官が認めているのです。ドネツク州ソレダル市の「巨大な地下要塞」制圧は、その象徴でしょう。
 この戦い以前では、「ウクライナ軍の重要な拠点だったマリウポリ市の巨大な製鉄所」を解放する戦いでロシア軍は勝利していますが、それに引き続く大きな勝利ですから、ミリー参謀議長のような発言が出てくるのは当然でしょうが、バイデン氏にはこのような認識が欠けているようです。
 武官であるミリー氏と文官であるバイデン氏の違いが、ここで歴然としてきています。有名な兵法書『孫子』では、「文官(皇帝)が武官(将軍)の意見を無視して勝てた戦いはない」と言っていますが、武官であるミリー将軍は無駄な戦いに自分の部下を参加させたくないと思っているのでしょう。
 あるいは、「このまま突き進むと核戦争になりかねない」と思っているのかも知れません。


 いずれにしても、現状のまま進行すればウクライナは「焦土」と化すでしょう。
 不幸なのは、戦争で犠牲になるウクライナ国民であり、ロシアに編入されたウクライナ南部4カ国の市民です。 
 だからこそ有名なアメリカの元高官キッシンジャーがキエフに「領土奪還は諦めてロシアと交渉せよ」という提案をしたのかも知れませんが、その結果、氏は、ウクライナ政府が半ば公認する「暗殺リスト」(Mirotvorets,)に載せられるということになったわけです。
 これまた有名なアメリカの大富豪イーロン・マスクも、キッシンジャー元国務長官と似たような提案をして、キエフ政権の怒りを買い、彼もまた「暗殺リスト」(Mirotvorets,)に載せられるということになりました。
 これが、先にネベンジャ国連大使が、「キエフが現実的な条件で交渉する用意があることを示していれば、ロシアはウクライナの軍事関連施設を標的にする必要はなかっただろう」とも指摘した背景です。
 しかし、そのような「現実的条件」を提案した人物は全て「暗殺リスト」の載せられるのでは、未来に明かりが見えてきません。

 にもかかわらず「ロシアを国際刑事裁判所ICCにかけて、プーチンを戦争犯罪人として裁け」と主張しているのが、先述したようにドイツのアンナレーナ・ベアボック(Annalena Baerbock)外務大臣です。
 が、この彼女は、また次のように「有権者がどう思うとも、政府はウクライナを支持し支援する」と発言しているのです。政府は有権者の意見に従うというのが民主主義の原則のはずですが、その原則に従う気は全くなさそうです。

*Germany will back Ukraine ‘no matter what voters think’ – FM(ドイツは「有権者がどう思おうと」ウクライナを支持する-外相)
https://www.rt.com/news/561934-baerbock-ukraine-voters-sanctions/
31 Aug, 2022

 この記事を読むと、彼女は「ロシアに対する経済制裁の結果、ドイツに石油や天然ガスが入ってこなくなり、ドイツ国民は厳しい冬に耐えなければならなくなるかも知れないが、それよりもキエフを支持し支援することが、はるかに重要だ」と言っているのです。
 私は今まで、ドイツという国は日本と同じ敗戦国なのに、ヒトラーとナチスドイツが犯した侵略の罪を反省し、環境保護の面でもいち早く「脱原発」を実施するなど、世界のオピニオン・リーダーとして尊敬すべき役割を果たしてきた国だと思ってきました。暉峻 淑子『豊かさとは何か』〈岩波新書〉を読んで、その感をますます強くしました。
 しかし、この私のイメージは、近年のドイツの行動によって全く崩れ去ってしまいました。「いったいドイツはヒトラーの侵略によってソ連国土を破壊し莫大なロシア国民の命を奪っておきながら、その反省はどこに消え失せてしまったのだろうか」というのが、私の率直な思いでした。
 第2次大戦の敗戦国として、ドイツ国土にアメリカの軍事基地をたくさんかかえているドイツは、日本と同じく、やはりアメリカの属国だったのでしょうか。


 最後にひとつだけ付け加えておきたいことが残りましたので、それを書いて本日のブログの「締め」にしたいと思います。
 というのは、先日、大手メディアが「政府、ウクライナの地雷除去の支援を来年に本格化」という報道をしていることを知ったからです。

 私は自分の「心の健康」を維持するため、「3ない運動」を実行し、それを友人・知人に勧めています。それば「テレビは見ない」「新聞は読まない」「ラジオは聞かない」の「3ない運動」です。
 最近の大手メディアは真実をほとんど伝えないどころか、「コロナウイルスは危険だ」とか「ワクチンは安全だ」とか、「ロシアは侵略者だ」のような、「白を黒と言いくるめる報道」が余りにも多く、そのような報道を視聴していると不愉快になります。「心が冷える」と「体も冷えます」。
 体が「冷える」と「免疫力が30%も落ちる」と言われていますから、このような報道の結果、「免疫力が落ちた」体は抵抗力を失い、あっという間に病気になってしまいます。ですから、自分の免疫力を落とさないための方策として、この「3ない運動」を考え出しました。最近では「不愉快な人とは話さない」というのを付け加えて「4ない運動」にしたらどうかとも思っています。

 ですから私は大手メディアが「政府、ウクライナの地雷除去の支援を来年に本格化」という報道をしていることを知らなかったんですが、連れあいが偶然、そのような報道があることを私に教えてくれました。
 そこで早速、調べてみたら読売新聞(2022/12/20)が次のように報じていることを知りました。

 政府は、ロシア軍がウクライナで仕掛けた地雷の除去に向けた支援を来年1月から本格化させる。地雷除去の知見があるカンボジア政府と連携して訓練を通じた人材育成を進めるとともに、探知機の供与を行う方針だ。
 複数の政府関係者らが明らかにした。ウクライナでは、ロシア軍による占領地域を中心に多数の地雷が埋設され、ロシア軍の撤退後も復興の大きな妨げになっている。国内の地雷や不発弾を全て除去するには少なくとも10年以上かかるとの見方もある



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 これを読むとロシア軍はあちこちに地雷を撒き散らしているとのことですが、「複数の政府関係者らが明らかにした」という情報の根拠は、どこにあるのでしょうか。
 そもそもウクライナ全土に地雷を撒き散らさなければならないほどロシア軍は負け戦をしているのではありません。それどころか、先にも紹介したように米軍の最高位に高官でさえ、ウクライナ軍が負け戦をしていることを認めているのです。
 ですから、ロシア軍が地雷を使う必要もなければ核兵器を使う必要もありません。これまでも通常兵器で勝ち戦をしてきましたから、いまさら地雷を撒き散らす必要はありません。最新の戦況は下記を御覧ください。

Ukraine: Russian Army Activates Southern Front as Winter Offensive Begins
https://libya360.wordpress.com/2023/01/22/ukraine-russian-army-activates-southern-front-as-winter-offensive-begins/
Posted by Internationalist 360° on January 22, 2023、by Moon of Alabama

 確かに昨年2月にロシア軍がウクライナ全土に進攻したことは事実ですが、ウクライナ各地にある生物兵器研究所の存在を確認し、その証拠物件を入手したあとは、さっさと撤退し、戦力をロシア語話者が多く住んでいるウクライナ南東部に戦力を集中しました。
 この撤退の最中に起きたのが「ブチャにおける虐殺事件」です。が、これもウクライナ軍による親ロシア住民への虐殺行為であったことは、スイス情報局幹部ジャック・ボー大佐が明らかにしています。いずれ時間をとって説明したいと思っています。
 しかし、ここではそれを詳述しているゆとりがありません。
 時間がある方は、当面こちらを御覧ください。
*Jacques Baud: Operation Z
ジャック・ボー『特別作戦 Z』インタビュー
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1080.html(『翻訳NEWS』2022/10/08)



カナダからの記者エバ・バートレット、ウクライナ軍のバラ捲いた対人地雷「花びら」
エバ・バートレット記者 蝶型地雷(花びら型地雷)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1014.html


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 それよりも、今ここで大切なのは、地雷を待ち散らしているのはロシア軍ではなくてウクライナ軍だということです。それを詳細に報告しているのが、カナダの若い女性記者エバ・バートレットによる「ドネツクからの報告」です。
*The West is silent as Ukraine targets civilians in Donetsk using banned ‘butterfly’ mines
「ウクライナ軍はジュネーブ条約で禁止の『蝶型』地雷を使用して一般市民を攻撃しているが、西側諸国は沈黙を守っている」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1014.html(『翻訳NEWS』2022/09/04)

 この報告でバートレット記者は次のように述べています。少し引用が長くなりますが,お許しください。これくらい引用しないと「蝶型地雷」(別名「花びら地雷」)の実態が分かってもらえないと思うからです。

 対人地雷「花びら」の大きさは平均的なライター程度で小さいが、それでも非常に強力である。Telegramで公開された映像がそれを物語っている。
 DPR(ドネツク人民共和国)の兵士が地雷のひとつにタイヤをぶつけると、爆風でタイヤが空高く舞い上がる。人がこの地雷に足を踏み入れたらどうなるかは、想像に難くない。
 この爆発物は遠隔配送方法で配置される。つまり、迫撃砲、ミサイル、大砲の中に仕込むことができるし、またヘリコプターや飛行機からの投下で撒くことも可能なのだ。

 DPR(ドネツク人民共和国)緊急援助隊によると、ウクライナはハリケーンMLRS発射ロケットを使用して地雷を撒いている。
 各クラスター弾は12個入りで、各クラスターには26個の地雷が内蔵されている。つまり1発あたり312個の地雷を搭載していることになる。
 クラスターは空中で爆発し、さまざまな方向に散布されながら広く拡散する。蝶のようなデザインなので、通常は爆発することなく滑空し、着地することができる。そして、運の悪い人が踏んでくれるのを待ち構える。

 この対人地雷の中には、自爆タイマー付きのものもある。ウクライナが発射しているものも含め、その他の地雷は何年も有効である。
 対人地雷は軍用車両にはほとんどダメージを与えないため、ドンバスでの使用は意図的に民間人を標的にし、傷を負わせるという陰湿なものとなっている。


 なお、この「蝶型地雷」「花びら地雷」については、『ウクライナ問題の正体3』195-197頁でも別の角度で述べておきましたので、そちらも参照いただけると有り難いと思います。

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 ところが日本の大手メディアではロシア軍が地雷をウクライナで投下しているという話にすり替わっています。
 自分たちがやっているから相手もやるだろうというアメリカからの情報を、そのまま垂れ流しているのが日本政府であり、大手メディアなのです。まさに「亀は自分の甲羅に似せて穴を掘る」の類いです。

 讀賣新聞の記事では「国内の地雷や不発弾を全て除去するには少なくとも10年以上かかるとの見方もある」と書かれていました。
 その気の遠くなるような地雷除去にドンバス2カ国がどのように取り組んでいるかを記録したドキュメンタリーが下記のものです。これは1時間のドキュメンタリーを1分足らずにまとめたものです。
https://www.rt.com/shows/documentary/564927-russia-servicemen-demine-donbass/
 これを見るだけでも「蝶型地雷」「花びら地雷」という可愛い名前の地雷がドンバス住民にどんな被害を及ぼしているかが分かりますし、気の遠くなるような地雷除去のようすも見ることができます。
 ところが日本政府は、これからウクライナへの本格的な「冬の攻撃」が始まろうとしている時に、地雷除去のため探知機を供与するというのです。地雷除去は戦争が終わってからでないと作業に入れないはずです。
 しかし岸田政権は、これからロシア軍の冬の攻勢が始まろうとしているとき、このような政策を発表するのですから、その思考力を疑ってしまいます。政府は今月成立した二〇二二年度第2次補正予算でウクライナ支援などに約600億円を計上しているそうですから、とんでもない税金の無駄遣いです。
 いま緊急に必要なのは「どうすれば休戦と和平交渉の道が開けるか」を考えること、その提案をすることであって、政権支援ではありません。そんなことをすればするほど、ゼレンスキー政権は「もっと戦いを続けろ」というメッセージだと受け止めて、ロシアに対する強硬姿勢を強めるだけです。
 ところが最近のEU民衆の動きは「一刻も早く休戦と交渉を」「そのためにはウクライナへの武器支援をやめろ」というスローガンを掲げた大きな集会とデモが主流になっているのです。平和憲法をもつ日本は、このEU民衆の運動から、多くを学ぶ必要があるのではないでしょうか。


<追記> ここまで書いてきたら、メモとしてでも書いておきたい記事がまだ残っていることに気づきました。それを以下に記します。

*Mercenary Col. (Ret) Andrew Milburn: “Ukraine is a Corrupt, Fucked-up Society”
民間軍事会社創設者の退役軍人アンドリュー・ミルバーン大佐は語った。「ウクライナは腐敗した最悪の社会だ」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1190.htm(『翻訳NEWS』2022-12-30)

*Polish general proposes ‘mobilizing’ Ukrainian refugees(ポーランドの将軍がウクライナ難民の「動員」を提案)
https://www.rt.com/russia/570166-poland-general-mobilize-ukrainian-refugees/
RT、19 Jan, 2023


* Ukraine storing weapons at nuclear plants – Russia(ウクライナ、原子力発電所に武器を貯蔵 - ロシア)
https://www.rt.com/russia/570349-ukraine-stockpiling-ammo-plants/
RT、23 Jan, 2023



 (1)最初の記事は、ウクライナ政府に雇われた民間軍事会社「モーツアルト(Mozart)」の創設者ミルバーン大佐が、自分の眼で見たキエフ政権とウクライナ軍の実態です。
 欧米でも日本でも、ゼレンスキー大統領は「侵略者プーチンと戦う英雄」ですが、実態はまったく異なることが分かります。これには動画ドキュメンタリーも載せてありますので自分で確かめることができます。、

 (2)次は、ウクライナで無駄死にをしたくないひとが大量に難民として国外に脱出している記事です。ポーランドの将軍が、「徴兵逃れでポーランドに来ている多くのウクライナ人を、政府が『動員』『訓練』してウクライナの前線に送り返せ」という驚くべき発言をしています。日本のメディアではロシア人が徴兵逃れで大量に国外脱出をしている記事ばかりですが、これがウクライナの実態なのです、

(3)最後は、「ウクライナ軍が、欧米から送られてきた軍需品の備蓄場所として原発施設を利用している」という情報を、ロシア外務省情報局が入手したという記事です。ウクライナ軍がザポリージャ原発を攻撃し続けてきた理由がやっと分かりました。やはり「亀は自分の甲羅に似せて穴を掘る」というとおり、自分がやっていたことをロシアもやっているはずだと思ったわけです。
 しかしこれは、「公共施設を攻撃しない」というロシアの良心的戦術を逆用した危険極まりない戦術です。民家の中に防空システムを設置してきた戦術と全く同じです。これが逆に、打ち落とされたミサイルが民家に落下し数多くの死傷者を出す原因になったことは、先述のとおりです。この事実を、思わず口を滑らせてしまったゼレンスキー補佐官は、自分たちの防空システムの優秀さを言いたかったのかも知れませんが、それが裏目に出てしまいました。

 これらの記事については、もう少し詳しく説明すべきことがあるのですが、それは別の機会にしたいと思います。

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