アメリカの大学で燎原の火の如く広がる抗議運動、目を覆わせる警察暴力と世界中から寄せられる支援の声、チョムスキー「世界一豊かな地域カリフォルニアで、彼らは最高の学校教育制度だったものを破壊しつつあるのです」

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[動画1] カリフォルニア大学デービス校で唐辛子スプレーを噴射する警官
(最初の1分半)


[動画2] カリフォルニア大学バークレー校で老教授夫妻を殴打する警官
http://www.democracynow.org/shows/2011/11/21
(最初から約3分半のところ以降、約1分間)
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日本だけでなく、米国も世界も目まぐるしく情勢が変化しているので、一刻も早くブログを書きたいと気持ちが焦るのですが、講演や翻訳などに追われて時間が取れません。

今もHoward Zinn &Anthony Arnove『Voices of a People's History of the United States』の翻訳原稿の再校を11月いっぱいに終わらなければならず、心と体が飽和状態です。庭の手入れもしたいのですが荒れ放題のまま放置されています。

そんなわけで、ゆっくりブログを書く時間がないのですが、取りあえず緊急にお知らせしたいことだけを、かいつまんで記録風に紹介します。
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<註> 以下では英文をたくさん引用してあります。しかし半分は自分のメモを兼ねていますので、時間のない方は飛ばして読んでください。

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前回のブログは、一枚の写真が全世界を駆けめぐったことをお知らせしました。それは、11月15日(火)の "Occupy Seatle" に参加した84歳の女性が顔面に唐辛子スプレーを浴びせかけられ、助けに駆けつけた二人に抱きかかえられている写真でした。

彼女の老いた顔から、刺激性の化学物質とその治療液があごからしたたり落ちていました。この写真はあっという間に全米に流れ、「エジプトやリビアの抗議運動を褒めそやしながら国内では弾圧する」というアメリカの偽善性を全世界に暴露することになりました。

ところが、この事件が起きて3日後の11月18日(金)に、またもや同種の映像が、全米のみならず全世界を駆けめぐり、「アメリカも、非暴力で抗議する民衆を力で弾圧しているエジプトやシリアとどこが違うのか!」を見るひとの眼を釘付けにしました。

というのは、カリフォルニア大学デービス校の警官が、「カリフォルニア大学デービス校を占拠せよ」の野営地の撤去に座り込みで抗議をする学生に、催涙スプレーを至近距離から吹きかける様子を収めた動画が、インターネットで瞬く間に広がったからです。

ここの警官らを擁護していたたカリフォルニア大学デービス校のリンダ・カテヒ学長(女性)も、蛮行に抗議する世論の高まりに押されて、唐辛子スプレーを浴びせた警官2人は休職処分にし、外部の第三者委員会による事件の再調査を発表するに至りました。
http://www.democracynow.org/2011/11/21/uc_davis_student_describes_pepper_spray

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冒頭の動画には、前半の「警官が力尽くで学生を排除するようす」だけでなく、後半部で、リンダ学長が抗議する学生が延々と座り込んでいる前を、自家用車を停めてある駐車場まで、声もなく黙々と歩いてようすも映っています。

またDemocracyNow!の映像を注意深く見てもらえば、座り込みを支援する学生たちが次のように叫んでいるのも聴き取れるのではないかと思います。

Don't shoot students! Don't shoot students! Don't shoot students! Don't shoot students!

The whole world is watching! The whole world is watching! The whole world is watching! The whole world is watching! The whole world is watching! The whole world is watching!

Shame on you! Shame on you! Shame on you! Shame on you! Shame on you! Shame on you! Shame on you! Shame on you!

支援の学生たちは、「学生に向かって噴射するのをやめろ!無抵抗のものに何故そんなことをする必要があるのか」「世界の眼が光っているぞ!世界中が注視しているぞ!」「警官よ、恥を知れ!」と唱和しているなかで、このような蛮行を命令されている警官たちの胸の内は、どのようなものだったのでしょうか。

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ところで、唐辛子スプレーの噴射は、浴びせかけられた学生のうち3人も緊急に病院に運び込まれなければならないほど至近距離でした。

しかし、その行為をおこなった二人の警官は、「休職処分」と言っても、「有給」の休職だそうですから、実質的には「有給休暇」をもらったのと同じです(the two police officers being put on paid administrative leave)。

実は、これと似た事件がカリフォルニア大学バークレー校(カリフォルニア州では日本の東京大学に当たる大学)の座り込みでも起きていました。

この運動にたいして教職員も支援を惜しみませんでしたが、70歳の高名な老教授とその夫人にたいしてまでも、警官が警棒で殴打する映像が、最近、インターネットを通じて流れ、また大きな話題を呼びました。

この老教授Robert Hass氏は、1995-97年のアメリカ「桂冠詩人」(poet laureate of the United States)に選ばれ、2007年には National Book Award、2008年にはPulitzer Prizeという、アメリカでは名だたる賞を受けるほどの名物教授でした。

ところが、こともあろうに警官は、この老教授の夫人を、胸を突き倒して転倒させただけでなく、警棒で老教授のあばら骨を激しく3度も突き、そのうち一度は、それをかばおうとする前腕までも殴打して突いてきたというのです。

この老教授は、学生たちを守るために警官に向かって、「暴力を使うな、頭を使え!なぜ若者たちに暴力を加えるのか。暴力を使う理由などないだろう!ここにいる連中は警官に暴力を働くつもりなどない!誰もそんなことを望んでいない!」と言っただけでした。

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<註> Former U.S. Poet Laureate and Wife Beaten by UC Berkeley Police During Occupy Protest
http://www.democracynow.org/2011/11/21/headlines#2

Robert Hass, UC Berkeley professor of poetry and poetics: "Use your head! Use your head! There's no reason to hurt these people. There is no reason to hurt these people. Use your head! Nobody there wants to hurt you. They're not going to hurt you."

上記の老教授が警官に立ち向かっている映像は、DemocracyNow!の下記URLの映像を御覧ください。最初から2分40秒あたりでカリフォルニア大学デービス校のようすが始まり、その1分後の3分40秒あたりからが老教授の抗議のようすです(約1分)。
http://www.democracynow.org/shows/2011/11/21

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カリフォルニア州は日本列島がちょうど入ってしまうくらいの大きさですが、この州立大学にいま「民営化」の嵐が吹き荒れ初め、教員の削減や授業料の値上げなどに抗議する運動が、この間ずっと続いています。

Democracy Now!の司会者Amy Goodmanは、この座り込みに参加して唐辛子スプレーを浴びせかけられた学生に、「なぜ座り込んだのか」「何に抗議したのか」と質問していますが、それにたいして女学生Elli Pearsonは三つの理由をあげています。

一つ目は、警官に暴行をふるわれているカリフォルニア大学バークレー校の学生に連帯を表明すること。

二つ目は、カリフォルニアだけでなくアメリカ全土で強行されようとしている公立大学の学費値上げに抗議すること。

三つ目は、「金融街の横暴」「貧富の格差を広げる政策」に抗議して今アメリカ全土で展開されている「Occupy Wall Street」運動に連帯を表明すること。

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UC Davis Student Describes Pepper Spray Attack on Occupy Campus Protesters
http://www.democracynow.org/2011/11/21/uc_davis_student_describes_pepper_spray

ELLI PEARSON: Well, I mean, one, I was standing in solidarity with students at UC—or at UC Berkeley who were beaten by police. Two, I'm protesting the tuition hikes that are happening on campuses, public universities really all over the nation. And three, I was standing in solidarity with the Occupy Wall Street movement.
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いまアメリカでは公立大学の授業料が値上げされ、それが払えずに退学するひと、卒業しても奨学金の返済に追われてホームレスになるひとが続出しています。ホームレスになるのは医療保険の問題だけではないのです。

11月18日の唐辛子スプレー事件を受けて、カテヒ学長退任を要求する公開書簡を書いたカリフォルニア大学デービス校のネイサン・ブラウンNathan Brown氏(助教授、英文学)は、その状況を次のように語っています。

「2005年のカリフォルニア大学の授業料は6,000ドルだった。ところが今は 約13,000ドルで、2倍以上になった。」
「これをさらに向こう4年間で81%も値上げしようとしている。そうすると約23,000ドルにもなる」
「つまり、この10年間で授業料は6000ドルから23000ドルに増えることになる。4倍近くです。これでは抗議運動が起きて当然でしょう」

NATHAN BROWN: Well, in 2005, tuition at UC campuses was around $6,000. It's currently around $13,000. And there's currently a plan proposed by UC President Mark Yudof to increase tuition by 81 percent over the next four years. So that would raise tuition to around $23,000. So, what we're looking at is, within 10 years, a tuition increase of around $6,000 to $23,000. And that's what students are protesting.
http://www.democracynow.org/2011/11/21/uc_davis_student_describes_pepper_spray

ニューヨークのズコッティ公園に寝泊まりして抗議運動をしている若者の中にも、上記のような状況で退学した者が多くいます。「自分の弟や妹が学業を続けられるようにするためにこの運動に参加している」という若者もいました。

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アメリカでは「終身教授」の地位に就けば、権力に逆らった言動をしても職を失うことはありませんが、学長退任を要求する公開書簡を書いたブラウン氏はまだ助教授です。

そこでDemocracy Now!の司会者Amy Goodmanは、「首の心配はありませんか。まだ終身教授になっていないでしょ」(Are you concerned about your own job? You're not tenured.)と尋ねていますが、それにたいしてブラウン氏は次のように答えていました。

「もちろん管理者側から報復の可能性はありますが、デービス校の私の学部やデービス校の教授会だけでなくカリフォルニア大学全体の同僚からも、驚くほどの支援をいただいています。また、この三日間で海外からも何千という支援の便りが届いています」

「若手職員としてのこのような事態に対する最善の取り組み方は、公の場で発言することだと思っています。正々堂々と意見を言った方が多くの支持を得ることができますし、もし経営陣が何か仕返しをしようとしても、その方が、私だけでなく意見を言うひとを守る上で役立つと思うんです」

日本の大学に勤務する教員、とくに「御用学者」と言われているひとたちに、ぜひ聞いて欲しいことばではないでしょうか。
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UC Davis Student Describes Pepper Spray Attack on Occupy Campus Protesters
http://www.democracynow.org/2011/11/21/uc_davis_student_describes_pepper_spray

  Of course, it's always possible that there could be some sort of retribution from the administration.
  At the same time, I feel like I have a tremendous amount of support from my department, a tremendous amount of support from the Faculty Association, from my colleagues throughout UC Davis and throughout the UC system.
  And indeed, I've been receiving thousands and thousands of letters of support from around the world over the past three days.
  So, in my opinion, the best way to go about these things as a junior faculty member is to speak up openly.
  And in that way, you draw a lot of support. And that, I think, will be very helpful in protecting me and protecting other people who speak out, if there's any effort of retribution by the administration.
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日本で国立大学「民営化」の嵐が吹き荒れたとき、ほとんど運動らしい運動も起きずに現在に至っています。

その当時、教授会で私が「市場原理主義を標榜するイギリスのサッチャー政権でさえ国立大学を民営化=法人化することはしなかった」と強く反対したのですが、多くの人は何のことを言っているのか分からないといった表情でした。

しかし、いまアメリカ全土で「占拠運動」が起き、大学でもベトナム戦争以来の巨大な運動が広がり始めていますが、それだけブッシュ=オバマ政権の政策が大きな矛盾をはらんだものだった証左でしょう。

チョムスキーは既に2007年の『失敗国家』という本で、「アメリカは発展途上国に転落し始めている」と警告を発していました(Failed States: The Abuse of Power and the Assault on Democracy)。

さらにチョムスキーは、2011年のインタビュー "Drug Cartels and the Growing Border War" でも、次のように述べています。

「カリフォルニアはおそらく世界一豊かな場所であるにもかかわらず、今まで世界一だった教育制度を破壊しつつあります。授業料は高すぎて手が出せないほどです。公教育の雄だったUCバークレーやUCLAは、おそらく民営化されるでしょうし、その他は職業学校に転落するでしょう。世界一豊かな地域で、彼らは最高の学校教育制度だったものを破壊しつつあるのです。その一方で、メキシコのような世界の貧困地帯で、人々が無料の高等教育制度を維持しているのです」

しかし、今の野田政権の政策は元の小泉流経済運営と何も変わりませんから、このままTPP政策=新自由主義の政治を続けていけば、日本も確実に「第三世界」に転落していくでしょう。それをくい止めるのは、やはり、世界中に広がり始めている民衆蜂起(Occupy Movement)しかないのかも知れません。
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<註1> 私は拙著『英語教育が亡びるとき』で、「英語を学ぶのはアメリカを知るためだ。日本をアメリカのような失敗国家にしないためにこそ、英語を学ぶのだ」と書きましたが、それがますます現実味を帯びてきているように思います。 
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<註2> アリアナ・ハフィントンも最近『誰が中流を殺すのか、アメリカが第三世界に堕ちる日』(阪急コミュニケーションズ2011) という本を出しています。
 またチョムスキーへのインタビュー"Drug Cartels and the Growing Border War"「麻薬犯罪組織と国境で拡大しつつある麻薬戦争」の全訳は下記を御覧ください。目を見張るような事実・意見に満ちています。
http://www42.tok2.com/home/ieas/chomsky_drug_war.PDF

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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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