今は亡きハワード・ジンから私たちは何をどう受けつぐべきか――8月24日の(生きていれば)90歳の誕生日を迎えて。

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「リーディング・シアター・ムーブメント」(劇場朗読運動)、ちょっと休憩でマリサ・トメイと談笑

  

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いま世界は揺れ動いています。大手メディアによって嘘で固められたシリア内戦は、いつイラン攻撃へと拡大するかも知れません。これは悪くすると第3次世界大戦になる可能性があります。

Fisk: Syrian War of Lies and Hypocrisy
http://www.zcommunications.org/syrian-war-of-lies-and-hypocrisy-by-robert-fisk

他方でイギリス政府は、在英エクアドル大使館に政治亡命したジュリアン・アサンジ(ウィキリークス創始者)を逮捕するためにエクアドル大使館に踏み込むことを宣言し、この国際法を踏みにじる言動で、世界中に衝撃波が走りました。

Tariq Ali, Ex-U.K. Ambassador Craig Murray Praise Ecuador for Granting Asylum to Julian Assange
http://www.democracynow.org/2012/8/20/tariq_ali_ex_uk_ambassador_craig

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国内でも民主党野田政権は、原発再稼働・消費税増税・TPP推進・米軍基地へのオスプレイ配備といった「目白押しの悪政」を、自民党や公明党と一体になって強行する姿勢を崩していません。

そのような中で、「金曜デモ」を初めとする日本全国の民衆運動は相変わらず健在ですし、日本の「占拠運動」の象徴とも言うべき「経産省前のテント村」も、8/24(金)で349日目を迎えました。
http://tentohiroba.tumblr.com/

とりわけ画期的だったのは、8月22日(水)に開かれた反原発首都圏連合のメンバーと野田首相との面会でした。民衆運動の代表が官邸4階の会議室で首相と面談したのですから、これは60年代「安保闘争」以来の画期的出来事ではなかったか、と思います。

代表者のひとりによる次の発言が、強く私の印象に残っています。
http://www.youtube.com/watch?v=zg0HhEG4imY&feature=player_embedded

「野田首相の再稼働宣言と、それに続く再稼働で、この国の人びとの心に突刺さっていた制御棒を引き抜かれ、眠りこけていたデモクラシーが再稼働した。それはいつ止まるかわからない」

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ところで私は前回のブログで、拙著『英語教育が亡びるとき』の読者から、"ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』と、訳者「あとがき」、そして私” という長い題名の、嬉しい便りをいただいたことを紹介しました。

この46歳の英語教員だというNさんからの便りは、「私は今頃になって、こんな歳になってから、はじめて街頭の "反原発" "再稼働反対" なるデモに参列したのでした。最近、私は少し変わりました」と文章で終わっていました。

『肉声でつづる民衆のアメリカ史』の「あとがき」で私は次のように書いていましたから、これは本当に嬉しい便りでした。
 今の日本はアメリカから新しい経済制度が導入され、派遣社員という制度にみられるように、就職難に加えて簡単に首切りができる、ますます生き辛い社会になってきています。
 ですから、そのような中で毎日を苦闘しながら生きている若い皆さんに、まず第一に、本書を読んでほしいと思ったのです。
 私たちができるだけ多くの漢字に仮名をふったのも、そのような思いからでした。というのは大学で教えていても、今の若者は英語どころか漢字すら読めなくなってきているからです。英会話ブームやそれに影響を受けたカタカナ語の氾濫が日本語力の弱化に拍車をかけているからです。
 さらに今の日本では、東日本大震災と福島原発事故で、政府から見捨てられ、自力で生き抜くことを強いられている多くの被災者がいます。戦時中におこなわれた「集団疎開」する権利さえ認められていません。そのような皆さんにも、本書をぜひ読んでほしい、そして「生きる力」「闘うエネルギー」をそこから得てほしいと切に願っています。
 これは沖縄の皆さんについても言えることではないでしょうか。昔も今も、アジア太平洋戦争中だけでなく戦後のいまも、戦争の矛盾・軍事基地の矛盾を一手に引き受けさせられているのが、沖縄のひとたちではないかと思うからです。そのひとたちにとっても本書の「肉声」は必ずちからと勇気を与えてくれると信じています。

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上では、「今の日本では、東日本大震災と福島原発事故で政府から見捨てられ、自力で生き抜くことを強いられている多くの被災者がいます」「そのような皆さんにも、本書をぜひ読んでほしい、そして『生きる力』『闘うエネルギー』をそこから得てほしいと切に願っています」と書きました。

しかし、「生きる力」「闘うエネルギー」が必要なのは、既に被曝したひとたちだけでなく、これから被曝する恐れのひとたちも同様です。なぜなら地震大国の日本が原発で稼働させることは、時限爆弾を腹に巻きながら毎日を生きているに等しいからです。

ですから、上記のN先生が『肉声史』(&「あとがき」)を読んで「私は今頃になって、こんな歳になってから、はじめて街頭の "反原発" "再稼働反対" なるデモに参列したのでした。最近、私は少し変わりました」と書き送ってくれたことは、何とも言えない感慨を私に与えてくれました。

今は亡きハワード・ジンも、このN先生のことばを聞いて、「そうか俺が『肉声史』に込めた願いは、日本の地でも確実に芽をだし花をひらきつつあるんだ!」と草葉の陰で大喜びしているに違いありません。

(ハワード・ジンは 1922年8月24日に生まれ、2010年1月27日に他界しました。ですから生きていれば、つい先日90歳の誕生日を迎えていたことになります。ですから本当は、この8月24日に、ハワード・ジン追悼のブログを書きたかったのですが、残念ながら私の体が動きませんでした。)

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世界的に著名な言語学者であり、ベトナム反戦運動以来のジンの「戦友」でもあったノーム・チョムスキーは、2011年10月22日にボストンのデューイ広場でおこなわれたハワード・ジン追悼講演「未来を占拠せよ」で、次のように述べています。

 ハワード・ジンを語ろうとすると、無念さ・残念さ・ほろ苦さを拭(ぬぐ)いきれません。なぜなら、彼がここにいて、この運動に参加し、みなさんに声援を送ることができないからです。
 このような運動こそ彼の夢であり、彼が人生をかけて実現したいと願っていたものでした。実際、いま展開されている運動の、ほとんどの土台を築いたのは彼だったのですから。
 いまの「占拠運動」で築かれつつある、この注目すべき絆(きずな)や連帯が――勝利はすぐにはやって来ませんから――この先の長くて苦しい期間も維持されつづけるならば、この「占拠運動」はアメリカ史における重大な転換点となるでしょう。
 この「占拠運動」のような例は、米国でも、世界のどこでも、その規模と性格において、これまで見たことはありません。この「占拠運動」が前代未聞の運動だと述べても言いすぎにはならないでしょう。
 なぜなら、アメリカは1970年代から新自由主義経済へと大きく転換し、今は空前の暗い時代を迎えているからです。この大恐慌以来の不況と人類を滅亡させかねない不吉な動きに、一条の光をさし示してくれたのが、若者たちが創りあげつつある「水平的連帯」の運動でした。

上記の冒頭でチョムスキーは「ハワード・ジンを語ろうとすると、無念さ・残念さ・ほろ苦さを拭いきれない。彼がここにいて、この運動に参加し、みなさんに声援を送ることができないからだ」と述べています。

しかしこのことばは、本書をジンが生きているうちに送り届けることができなかった私たち訳者のものでもあります。この「あとがき」をジンの死後に書くことになってしまったことが本当に無念でなりません。せめて「占拠運動」がウォール街で花開くまで生きていてほしかったという思いを今でも捨て去ることができません。

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<註> ハワード・ジンの生涯については『肉声史』の「あとがき」にかなり詳しい紹介を書きましたので、ここでは割愛させていただきます。興味のある方は下記を御覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/voices-postscript.pdf

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ところで、DemocracyNow!は先日の8月24日に、ハワード・ジンの誕生日を記念して短い番組を放映しました。それは、デモクラシー・ナウ!での2009年5月のジンのインタビューの一部と、亡くなる2カ月前の講演抜粋でした。
http://www.democracynow.org/2012/8/24/be_honest_about_the_history_of

この2009年11月の講演は、ハワード・ジンの最後の講演となりました。以下は、その最後の講演の「締めくくり」部分です。

 しかし覚えておいてください。民衆の上に立つ権力者たちは、その下にいる私たち民衆の服従を土台にして権力を行使しているということを。
 私たち民衆が服従をやめれば、彼らはもう権力をふるえなくなります。労働者がストライキを継続すれば、巨大企業といえども権力を維持できません。消費者が悪徳企業や悪徳商品をボイコットすれば、巨大企業で甘い汁を吸っている連中も降参せざるをえません。
 兵士が闘うことを拒否すれば――それはベトナムで多くの兵士がやったことです、多くの兵士が脱走しました、多くの兵士が上官を手投げ弾で殺傷しました、下級兵士の上官にたいする暴力行為が頻発しました、B-52の飛行士も爆撃飛行をもうやらないと拒否しました――そうすれば戦争は継続できません。無視できない数の兵士が戦争を拒否すれば、政府は「戦争継続は不可能」との決断をせざるをえないのです。
 そうです。私たち民衆には力があるのです。ですから、民衆が力を結集し組織し始めれば、そして抗議し十分に力強い運動を創り上げさえすれば、かならず状況は変わるのです。
 私の言いたかったことは、これに尽きます。ご清聴ありがとうございました。(長く大きな拍手)

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<註> 上記の講演原文は下記のとおりです。ただし改行を大幅に増やしてあります。
http://www.democracynow.org/blog/2010/1/8/howard_zinn_three_holy_wars

  But remember, this power of the people on top depends on the obedience of the people below.
  When people stop obeying, they have no power.
  When workers go on strike, huge corporations lose their power.
  When consumers boycott, huge business establishments have to give in.
  When soldiers refuse to fight, as so many soldiers did in Vietnam, so many deserters, so many fraggings, acts of violence by enlisted men against officers in Vietnam, B-52 pilots refusing to fly bombing missions anymore, war can't go on.
  When enough soldiers refuse, the government has to decide we can't continue.
  So, yes, people have the power.
  If they begin to organize, if they protest, if they create a strong enough movement, they can change things.
That's all I want to say. Thank you.

  パティ・スミス「俺たち民衆には力がある」動画5分
  
画面が小さすぎて動画が動かない場合は、すぐYouTubeのアイコンをクリックしてそちらに移行してください。

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ハワード・ジンは上記で紹介した「最後の講演」で次のように述べました。そして、これがいま世界中で起きていることです。

"So, yes, people have the power. If they begin to organize, if they protest, if they create a strong enough movement, they can change things."

アメリカでもスペインでもギリシャでも、政府が金持ちを減税し大企業を救う一方で、民衆に増税して教育や福祉を大胆に切り捨てる「決断の政治」をおこなっていることに対して、民衆は広場を占拠し街頭を埋め尽くす行進で反撃を開始しています。

そしていま同じことが日本でも起きています。先日、野田首相と会見した代表者のひとりは、「これまで眠っていた民衆のちからを再稼働させたのはあなただ」と言いましたが、今や私たちは "People have the power." ということを自覚し行動し始めているのです。

これこそがハワード・ジンが上記講演で言いたかったことの全てであり、彼はそれを生涯かけて実践してきた人物でもありました。

彼は亡くなる直前まで『肉声史』を武器にアメリカ全土で草の根の民衆運動「リーディング・シアター・ムーブメント」(劇場朗読・朗読劇運動)を展開し、その途上のロサンゼルス近郊で心臓発作におそわれ、ついに帰らぬひととなりました。

あとに残された私たちは彼から何を受け継ぐべきか――8月24日(金)はそれを再考すべき日だったのだと思います。

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