世界の耳目を集めた「尖閣列島の問題」をきっかけに、日本の未来を考える――エマ・ゴールドマンの「愛国主義」(3)

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War/No More Trouble|
Playing for Change | Song Around The World (動画5分)
http://www.youtube.com/watch?v=fgWFxFg7-GU&feature=relmfu



*美しい旋律だけでなく、繰り返し歌われる "No more war, we don't need no more trouble." というフレーズが私たちの胸を打ちます。

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私は相変わらず体調が良くないので、このブログも10日に一度ぐらいしか書けない状態が続いています。

しかし中国と日本の関係が日増しに悪くなっていますので、前回のブログの続きとして一刻も早くこの問題を取りあげなくては、という思いに駆られて、今やむなくパソコンに向かっています。

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さて私は、2012年9月10日のブログ原稿で、森本敏防衛相が就任前の今年1月に日本の原発維持を主張し、「単にエネルギーの問題だけではない」「周りの国から見て非常に大事な抑止的機能を果たしている」と発言したことを受けて、次のように書きました。

 日本の行動が、皮肉にも、逆に中国・台湾・香港の愛国心に火を付ける結果になってしまったことは、今までは一枚岩ではなかった中国・台湾・香港の民衆が一斉に魚釣島めがけて同一行動を始めたことからも分かるはずです。
 ところが日本の大手メディアは、逆にこの事態を利用して日本の愛国心を掻き立てようとしています。「東アジア共同体」が形成されることを何が何でもくい止めたいアメリカとしては、これほど好都合な事態はないでしょう。
 (ただ一つアメリカにとって困った事態は、韓国の李大統領が国民の愛国心を利用して支持率の極端な低下をくい止めようと自ら竹島に出かけたことでしょう。これでは日本の反発を招き、中国包囲網の一角が崩れてしまうからです。)
 しかし、いずれにしても「愛国心」というものが政治的にいかに利用価値の高いものかがよく分かる例ではないでしょうか。


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また私は上記の同ブログで、エマ・ゴールドマンという女性が次のように述べていることも紹介しました。(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻、475頁)

「それでは愛国主義とは何でしょう? 『愛国主義は悪党どもの最後の拠り所である』とサミュエル・ジョンソン博士は言っています。」

先日、届いたばかりの『Days Japan』10月号を読んでいたら、このエマ・ゴールドマンの言を改めて確証する記事を見つけて、「やっぱりそうだったのか!」という思いを強くしました。

というのは、同書37頁で斎藤美奈子という女性評論家が次のように書いていたからです。
 石原慎太郎東京都知事がワシントンで「東京都が尖閣諸島を購入する」と発表したのは4月16日だった。おかげではじまった日中台の尖閣上陸合戦。もとより中国嫌いで知られる都知事だが、しかしなぜ「いま」なのか。
 考えられるのは彼もまた人気取りに奔走しているということだろう。東京五輪の誘致に固執するのも、ロンドン五輪後の銀座パレードも、尖閣購入を急にブチあげたのも人気回復のため。「たちあがれ日本」なる新党を立ち上げてはみたものの、求心力の衰えは隠せぬ都知事。
 だから「ここらで一発逆転」をねらったのかもしれない。尖閣購入発言以降の石原がヒーロー扱いされているのを見れば、なるほど作戦大成功である。


これを読むと、石原都知事の取った行動は、国民の愛国心を利用して支持率の極端な低下をくい止めようと韓国の李大統領が自ら竹島に出かけたのと、まったく同じだったことが分かります。まさに『愛国主義は悪党どもの最後の拠り所』なのです。

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斎藤美奈子氏の記事を読んでいて、もうひとつ驚いたことがありました。それは石原都知事が「東京都が尖閣諸島を購入する」と発表したのは、都庁での定例会見ではなく、アメリカ=ワシントンだったということです。

これについて斎藤美奈子氏はさらにつぎのように書いています。
 そもそもなぜ彼は都庁での定例会見ではなく、わざわざアメリカで演説したのか。そこまで乗り込んでいったのに、なぜ都知事選での公約だった横田基地の返還を求めないのか。
 石原が演説を行ったのは「ヘリテージ財団」というネオコンの牙城みたいなシンクタンクだ。そこで彼は「占領憲法の改正」と「日本の核武装のシミュレーション」とセットで「尖閣諸島の購入」を表明したのである。
 前の2案件「占領憲法の改正」「日本の核武装のシミュレーション」も大問題で、都民の間からリコール運動が起きないのが不思議なくらいだが、ここから想像できるのは、石原は米国右派への「お土産」に尖閣問題を使ったのではないかということである。


恥ずかしいことに私は、石原知事が「横田基地の返還」を公約にしていたとは知りませんでした。

しかし、私の固定観念では、「右翼」というのは「民族派」ですから、隷属状態にある日本をアメリカから解放するため米軍基地の返還を求めるのは当然だと思うのですが、石原都知事がアメリカで取った行動は全く逆でした。

中国にたいしては「愛国主義」を掻き立てつつ、他方、アメリカにたいしては「プードル犬」よろしく、尻尾を振りつつ「属国」ぶりをアピールしたのでした。

そもそも自分が原案を作成したにもかかわらず、その「占領憲法」なるものを改正しろと強く要求し続けてきたのもアメリカでしたから、アメリカにとってこんなに都合の良い人物はいないでしょう。

やはり『愛国主義は悪党どもの最後の拠り所』であり、それを相手に応じてうまく使い分けるのが「悪党」の悪党なる所以なのでしょう。

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斎藤美奈子氏は、石原都知事の言動を上記のように批判した後で、さらに野田首相について次のように述べています。

<野田政権が石原の挑発にしぶしぶ乗って「尖閣国有化」へ動きだしたのも「弱腰外交」の批判をかわし、消費増税や原発問題から国民の目をそらす作戦だろう。>

これを見ると、国民をコントロールしたり国民の目を重要問題からそらすのに、「愛国主義」というものが、いかに便利な道具=武器になっているかがよく分かります。

その証拠に、尖閣問題で大手マスコミが大騒ぎしている間に、野田首相は国会での同意を得ることなしに、まんまと「原子力規制委員会」の人事を強行しました。

しかし、「尖閣国有化」は果たして日本の国益にかなうものでしょうか。無人島に20億5000万円ものお金を出すくらいなら、そのお金を、「毎日を被曝しながら生きている福島県民(とりわけ妊婦や子どもたち)」を疎開させるために、なぜ使わないのでしょうか。

そもそも、尖閣列島の国有化は日本の防衛、安全、経済発展に本当に役立つものなのでしょうか。そもそも尖閣列島が日本の領土であるということにどれだけの根拠があるのでしょうか。以下では、そのことについて、もう少し深く考察してみたいと思います。

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私は、冒頭で引用した9月10日付けブログの最後に、<註>として次のようなことも書いておきました。

「魚釣島および尖閣列島にたいして日本はどう対処すべきか(それにたいする中国の基本姿勢)を見事に分析した本に、孫崎享『不愉快な現実――中国の大国化、米国の戦略転換』(講談社現代新書)があります。同じ防衛大学の関係者なのに、森本敏氏とは何と大きな違いでしょうか。」

ちなみに孫崎氏は、元外務省国際情報局長・元防衛大学教授です。このような経歴をもつ人物が、上掲書で尖閣列島および日中戦争の歴史を詳細に検証しつつ次のように結論づけています。

 尖閣諸島については日中に棚上げする合意があることを見た。棚上げ方式は、日本側に実効支配を認めていること、棚上げに合意している間は中国が軍事力を使用しないことを暗に約束している。それに配慮すれば棚上げ方式は、実は、日本に有利な合意である。(232頁)
 尖閣諸島を「棚上げ」にする合意を大切にすれば、日本の実効支配は続く。しかし尖閣諸島に対し、国内法で対処する姿勢を強めるなら、残念ながら、日本は自ら尖閣諸島を失う、あるいは負けるしかない武力紛争に入る。いま、日本は将来必ず自国に不利な形で跳ね返る政策を実施しようとしている。(231頁)


この孫崎氏の上掲書が出たのは2012年3月でしたから、「尖閣列島の国有化」がまだ大きな問題になっていませんでした。しかし今まさに孫崎氏が上で述べたとおりに事態が進行しているように見えます。

上記で孫崎氏は「しかし尖閣諸島に対し、国内法で対処する姿勢を強めるなら、残念ながら、日本は自ら尖閣諸島を失う、あるいは負けるしかない武力紛争に入る」と述べています。

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孫崎氏は同書229頁で「国際司法裁判所に提訴するなど、解決に第三者をできるだけ介入させる」方法もあると言っていますが、「残念ながら日本は自ら尖閣諸島を失う」と書いていますから、たぶん国際司法裁判所に持ち込んでも敗訴するだろうと思っているのでしょう。

私も中国と日本とではお互いのもつ歴史の深さが格段に違うのですから、たぶん史料を出し合って検証した場合、日本が裁判で勝つ見込みはあまりないと思います。では武力紛争についてはどうなのでしょうか。

これについて孫崎氏は同書の第5章のすべてを費やして検証した結果、「日本には中国との紛争を軍事的解決する手段はない」と結論づけています。つまり、アメリカも日本を守るために中国と正面衝突する気はないから、日本は勝てないと言っているのです。

また、沖縄の施政が日本に返還されたとき、それに付随して尖閣列島も日本に返還されたのですが、このときアメリカは尖閣列島を日本の領土だと明言していません。「係争地については双方で解決すべし」と述べているだけです。

その後、日中国交回復のとき、周恩来首相は尖閣諸島の「棚上げ」を提唱しました。これにたいして孫崎氏は次のように述べています。

 それはまさに、周恩来がソ連との国境紛争を収拾するために提案した①現状維持、②武力不行使、③論争がある地域の調整、の原則を凝縮したものである。周恩来首相の知恵を無駄にすべきでない。(236頁)
 しかし、残念ながら、今日、日本の政治家、学者、マスコミ、国民が「棚上げ方式が日本に有利である」という論理を理解できなくなった。自国の主張だけを正しいと思い、その主張を確実なものとする手段を講じることが正しいと見なしている。(231頁)


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チョムスキーは以前から「アメリカは東アジアにEUのような共同体ができることを強く警戒している」と述べています。つまり中国・朝鮮およびロシアと日本が一体になった「東アジア経済共同体」が形成されることを、一貫して妨害しつづけてきたというのです。

孫崎氏のもう一冊の本『日米同盟の正体』(講談社現代新書)を読んでいたら、このチョムスキーが言っていることを立証するようなことが書かれてあって驚きました。それには次のように書かれていたのです。
 ジョージ・ケナンと言えば、二〇世紀の世界の外交官の中で最も著名な人物であろう。
 ソ連封じ込め政策の構築者でもあるケナンは、国務省政策企画部を拠点に冷戦後の米国政策形成の中心的役割を果たした。これを前提としてマイケル・シャラーの記述(前掲『「日米関係」とは何だったのか』)を見ていただきたい。
 「干島列島に対するソ連の主張に異議を唱えることで、米国政府は日本とソ連の対立をかきたてようとした。実際、すでに一九四七年にケナンとそのスタッフは領土問題を呼び起こすことの利点について論議している。うまくいけば、北方領土についての争いが何年間も日ソ関係を険悪なものにするかもしれないと彼らは考えた」
 シャラーはこれを裏付けるものとして一九四七年九月四日の国務省政策企画部会合記録を脚注で指摘している。(79頁、下線は引用者による)

アメリカが沖縄の施政権を返還したとき、「施政権と主権とは別個のものである」「係争地については双方で解決すべし」として尖閣列島の帰属について明言しなかったことを先に紹介しましたが、どうもこれには深いわけがあったようです。

つまり、「うまくいけば、尖閣列島についての争いが、何年間も日中関係を険悪なものにするかもしれない」と彼らは考えたわけです。

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日本と中国の関係を悪くしている要因には、他にもいろいろなものが重なっています。

そもそも尖閣列島を含む沖縄をアメリカが占領統治したのも、サンフランシスコ平和条約の時からですが、この講和条約もアメリカ主導であり、中国(中華民国)は招待されていませんし、インドは参加を拒否しています。ソ連は参加しましたが調印を拒否しました。それほどアメリカだけに都合の良い条約だったのです。

第二の要因として日本の戦後復興がアメリカだけに依存したかたちでなしとげられたという問題があります。それどころかアメリカによる朝鮮戦争やベトナム戦争を日本が後方支援することによって景気回復した側面もあるのですから、日本はアジア人の血で復興したと言ってもよいでしょう。

それにたいして同じ敗戦国であるドイツは周辺諸国と貿易するかたちでしか復興できませんでした。ですから、ドイツが犯した侵略戦争の謝罪から戦後を出発せざるを得ませんでした。ドイツが学校教育で(1年間にもわたって)侵略の歴史をきちんと教えているのは、このような理由からです。

しかし日本は上述のような理由でアジアにきちんと謝罪する必要がありませんでした。ですから、日本人の多くは戦前の軍国日本がアジアで何をしたかをきちんと学ぶ機会を失ってしまいました。それが朝鮮日報(9月20日)の下記のような記事になって現れました。

尖閣:野田首相の歴史認識の甘さが日中関係を危機に
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/09/20/2012092000621.html
 NHKは、野田首相がまるで意図したかのように「反日記念日」を選んで中国を刺激した、と報じた。尖閣の国有化方針を発表した7月7日は、日中戦争の発端となった両国軍の衝突事件、盧溝橋事件(1937年)が起こった日だ。また、国有化を正式決定した今月10日は、中国で「国恥の日」とされる柳条湖事件(1931年9月18日)が起きた日に近い。柳条湖事件は、日本が南満州鉄道の線路を爆破し、中国軍による犯行と発表した謀略事件で、満州事変の発端となった。


これでは、アジアにおける日本の孤立化は、進むことはあっても改善することはあまりないでしょう。オーストラリア国立大学名誉教授のガバン・マコーマックの著書『属国』(凱風社)の副題は「米国の抱擁とアジアでの孤立」となっていますが、まさに名言です。

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中国が日本にたいして機嫌を悪くしている理由は他にもあります。それは日本がアメリカの「プードル犬」になって、中国を包囲する作戦に忠実に従っていることです。

アメリカ国防長官のレオン・パネッタは、9月19日に中国を訪問し、「領土問題で事を荒立てないように」と言ったそうですが、その前日に日本を訪問してミサイル探知レーダーの追加配備に調印しました。これほど中国の神経を逆なでする行動はないでしょう。

China Anger as Japan Signs US Missile Defence Deal
http://tv.globalresearch.ca/2012/09/china-anger-japan-signs-us-missile-defence-deal

このミサイル探知レーダーの追加配備は北朝鮮を念頭においたものだとアメリカは弁解していますが、誰もそれを信じるものはいません。というのはロシアですら、この調印に脅威を感じて、さっそく警告を発しているからです。

さらに心配なのは、この日本の動きで日中間の経済関係がさらに悪化することです。世界第2位だった経済大国日本は、すでにその地位を中国に明け渡しました。そのうえ尖閣列島問題で日中の関係がこじれていけば、確実に日本の経済は悪化していくでしょう。

China-Japan island row could hurt 'more than 2011 earthquake'
http://rt.com/business/news/china-japan-trade-earthquake-382/print/

上記の英字記事は「魚釣島騒動が続けば、2011年の地震で傷ついた以上の経済不況が日本を襲う可能性がある」と論じています。

次のグラフは2004年度のものですが、これを見れば分かるように、中国は日本との貿易なしでも十分にやっていけるのです。今は日本への依存度がもっと減っていますから、中国民衆の日本商品にたいする不買運動が広がれば、事態はもっと深刻になるでしょう。


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さらに私が懸念するのは日本の大学で学ぶ中国人留学生のことです。今までもずいぶん居心地の悪い思いをしてきたのですが、この事件でいっそう針のむしろに座るような感じになるだろうことを考えると胸が痛みます。

また、この事件をきっかけに日本への中国人留学生が激減することも考えられます。これは同時に多数の中国人留学生をかかえる私立大学にとっても大きな痛手になるでしょう(中国からの留学生をかかえる日本語学校も同じです)。

というのは、公立高校ですら移民の子弟を入学させることによって廃校を免れているところがあるのですから、中国人留学生によって定員割れをかろうじて防いでいる大学は、この事件で大きな危機を迎えることは間違いないからです。

日本の為政者は、いったい何を考えているのだろうか。そんな思いを禁じることができません。

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<註> 日本語の「魚釣島」を、中国語では「釣魚島」と書きます。これを教材に、日本語と中国語の語順を考えさせるのも面白いかも知れません。それは同時に英語の語順を教えることにもつながります。


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狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

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