ヒラリー・クリントンとは誰か(上) ―アメリカ大統領選挙を目前にして

アメリカ理解(2016/11/06)、ヒラリー・クリントンの講演料、ドナルド・トランプ、シリア内戦、飛行禁止区域、マイケル・ムーアのスピーチ

ハリウッド、トランプ、WalkOfFame
ハリウッドの有名な大通りに刻まれたトランプ氏の名前を、破壊から守ろうとしてヒラリー支持者からカートごと倒されたホームレスの老齢黒人女性
https://www.rt.com/usa/364631-crowd-attacks-homeless-trump/

 アメリカの選挙情勢は一一月八日の投票日を目前にしながら混沌としています。
 というのは、オバマ大統領や民主党幹部・特権階級だけでなく金融街や大手メディアからも圧倒的な支援を得ながらも、世論調査ではヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏の支持率は拮抗しているからです。
 トランプ氏は共和党幹部からもアメリカの財界・支配層からも支持や援助を得ていないにもかかわらず、そして大手メディアから袋叩きにあいながらも、拮抗状態なのです。
 たとえば、民主党のヒラリー女史は、一九日に行われた最後のテレビ討論に出演しましたが、直後におこなわれたCNNテレビおよび世論調査機関ORCの調べでは、クリントン女史が勝ったと答えた回答者は五二%、反対にトランプ氏が上まわったと答えたのは三九%に留まっていました。
https://jp.sputniknews.com/us/201610202923228/
 ところがワシントン・タイムズ紙は、最後のテレビ討論に関する緊急調査で、同討論会で共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏がライバルのヒラリー・クリントン氏に圧勝したと報じているのです。
 同紙はサイト上で討論後に「最後の討論会、勝ったのはどっち?」という質問をおこなったのですが、討論の終了直後、トランプ氏には七七%または一万八二九〇票だったのに反し、ヒラリー女史には四一〇〇票または一七%しか集まりませんでした。
 その後しばらく経つと状況はさらに変わり、一〇月二〇日の日本時間一四時三五分にはトランプ氏三万二〇〇〇票(七四%)クリントン氏九〇〇〇票(二一%)となりました。
 ワシントン・タイムズは米国で最も著名かつ保守的な編集方針で知られていますから、新聞社のバイアスがかかっているのかも知れませんが、それにしても、トランプ氏は圧倒的な支持を得ているのです。
https://jp.sputniknews.com/us/201610202923228/
 さらに、米国大統領選挙まであと一六日という時点(一〇月二三日)でのロサンゼルス・タイムズの世論調査では、トランプ支持四四・四%、ヒラリーン支持四四・一%」という結果でした。
https://jp.sputniknews.com/us/201610242935467/
 ご覧のとおり、共和党トランプ氏と民主党ヒラリー女史の支持率は、ほぼ拮抗しているのです。


 さらに、もうひとつ面白い情報があります。「Sputnik日本」(一〇月二八日)は、イギリス高級紙インデペンデントからの情報として次のような記事を載せているのです。

 ニューヨーク大学のヘルムト・ノーポース教授は、自分の作った米大統領選結果予測モデルによると勝利するのは共和党のドナルド・トランプ候補であることを明らかにした。インディペンデント紙が報じている。
 ノーポース教授の開発した選挙結果予測モデルは一九九二年から今までの米大統領選挙の予測を二〇〇〇年の一度を除いて全て当てている。モデルは二〇〇〇年は民主党の勝利を予測したが、実際はフロリダ州の浮遊票を集め、共和党のジョージ・ブッシュ氏が当選した。
 さて今回だが、このモデルの予測ではプライマリーでより見事な演説を行なった候補者が勝利する。ノースポース氏の見解では、プライマリー(予備選)で勝利を収めたのはトランプ氏で、このことから選挙で勝利する確率は高い。
https://jp.sputniknews.com/us/201610282953757/


 トランプ氏は共和党幹部からもアメリカの財界・支配層からも支持や援助を得ていません。にもかかわらず、そして大手メディアから袋叩きにあいながらも、なぜこのように選挙で勝利する確率が高くなっているのでしょうか。
 それはヒラリー女史とトランプ氏の論争が進めば進むほど、ヒラリー女史の本性が民衆に分かり始めてきたことです。
 すでに民主党内の予備選でさえ、社会主義者を自称するバーニー・サンダース氏に追い上げられて、一時はサンダース氏が勝利するかも知れないと言われていたことすらあったのですが、民主党幹部の裏工作、大手メディアの加勢で何とか乗り切ることができました。この間の事情を櫻井ジャーナル(二〇一六年六月一七日)は次のように書いています。

 ところで、民主党幹部たちが昨年五月二六日の時点でヒラリー・クリントンを候補者にすると決めていたことを示唆する電子メールが公表されている。本ブログでは何度か取り上げたように、昨年六月一一日から一四日にかけてオーストリアで開かれたビルダーバーグ・グループの会合にヒラリーの旧友であるジム・メッシナが参加、欧米の支配層は彼女を大統領にする方向で動き出したと言われていたわけで、この電子メールの内容は驚きでない。
この内定を揺るがしたのがサンダース。急速に人気を集め、支持率はヒラリーと拮抗するまでになった。ただ、そうした動きが現れる前に選挙人登録は終わっていたため、支持率が投票に反映されたとは言い難い。例えば、四月に投票があったニューヨーク州の場合は昨年一〇月九日までに民主党と共和党のどちらを支持しているかを登録しておかないと予備選で投票できず、投票できなかった人が少なくない。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/20160617/ 


 このニューヨーク州の事態については長周新聞二〇一六年五月四日で、私は「続・世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」と題して既に拙論を載せてあったのですが、サンダース氏の進出を阻止する動きがもっと露骨になったのはカリフォルニア州の予備選でした。
 それを櫻井ジャーナルは上記に続けて次のように書いています。

 支持政党を登録していなくても投票できるカリフォルニアで予備選が行われる直前の世論調査ではサンダースがクリントンをリード、幹部たちを慌てさせたようだ。民主党支持者ではサンダースが五七%、クリントンが四〇%、無所属の人ではそれぞれ六八%と二六%だとされている。
 そうした状況の中、予備選の前夜にAP通信は「クリントン勝利」を宣告した。「スーパー代議員(上位代議員、あるいは特別代議員と訳されている)」の投票予測でクリントンが圧倒し、勝利は確定しているというのだ。この「報道」がカリフォルニアにおける予備選でサンダースへの投票を減らしたことは間違いないだろう。
 カリフォルニア州の場合、本ブログではすでに紹介したように、投票妨害とも言えそうなことが行われていたという。政党の登録をしなかった人びとはサンダースを支持する人が多く、民主党の登録をしている人はヒラリー支持者が多いが、登録しているかしていないかで投票用紙が違う。
 投票所によっては投票用紙を受け取ろうとすると、政党無登録の人には予備選に投票できない用紙を自動的に渡す投票所があったという。投票するためには民主党支持変更用紙を要求しなければならない。予備選に投票するにはどうすべきかと尋ねられた係員は、政党無登録の人には民主党用の用紙は渡せないと答え、民主党支持変更用紙のことには触れないよう指示されていたケースもあったようだ。
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/20160617/


 こうした動きのなかで、突如、サンダース氏は選挙戦から降りると宣言し、勢いを増しつつあった支持者の運動や願いを裏切り、あろうことか「ヒラリー女史こそ大統領としてベストの候補者だ」という演説までもするようになりました。
 ではサンダース氏が今まで言ってきたこと、「ヒラリー女史はウォール街と一心同体であり富裕層の代弁者だ」という言はどこへ行ったのかと、支持者たちはやりきれない思いをしたに違いありません。
 ヒラリー女史および民主党幹部とサンダース氏の間に、裏でどんな取引があったのか分かりませんが、とにかくヒラリー女史はこうして無事に予備選をくぐり抜け、本選に挑むことができるようになりました。
 しかし相手は共和党のなかでさえ評判の悪いトランプ氏ですから、ヒラリー女史は本選では楽勝となり、「アメリカ史で初めての女性大統領」という栄冠を難なく手にすることができると思われていました。
 ところがウィキリークスがヒラリー女史や民主党幹部の裏舞台を暴露し始めた頃から雲行きが怪しくなってきました。
 元共和党政権の経済政策担当の財務次官補のポール・グレイグ・ロバーツは自分のブログ(二〇一六年一〇月五日)で、それを次のように書いています。

・・・。彼女は、ウオール街・巨大銀行・軍-安保複合体の巨大な政治力を有するひと握りの連中、および外国利益の集団によって買収されている。その証拠は、クリントンの12,000万ドルという個人資産と、二人の財団の160,000万ドルだ。ゴールドマン・サックスは、講演で語られた智恵に対して、ヒラリーの三回の20分講演に、675,000ドルを払ったわけではあるまい。・・・
*Washington Leads The World To War「世界を戦争へと導くワシントン」
http://www.paulcraigroberts.org/2016/10/05/washington-leads-the-world-to-war-paul-craig-roberts/


 上記で登場するゴールドマン・サックスは、二〇〇八年の世界金融危機の震源地のひとつとなった世界最大級の投資銀行です。そのように世界経済を破壊した機関で講演すること自体が問題ですが、その謝礼も私たち凡人の想像を絶する金額です。
 かつて私が大学教授として六〇~九〇分の講演をしても、その謝礼は三~五万円でしたから(ときには全く無料のものもあります)。ところがヒラリー女史は、そこで二〇分の講演を三回しただけで、六七万五〇〇〇ドル(約七〇〇〇万円)の謝礼です。つまり、一回二〇分で約二三〇〇万円もの大金がもらえるのですから、いかに破格の謝礼であるかがよくわかるはずです。
 だからこそ、世界金融危機につながった住宅ローン担保証券の不正販売を巡る事件は、ゴールドマン・サックスから誰一人として刑務所に送られたものはなく、二〇一六年一月に制裁金等三三億ドルと借り手救済金一八億ドルの和解金で決着してしまったのでしょう。世界最大級の投資銀行としては、おそらく、全くの端金(はしたがね)だったに違いありません。
 かつて民主党の支持基盤のひとつは労働組合だったのに、夫のビル・クリントンが大統領だったときにNAFTA(米国、カナダ・メキシコ三カ国による域内貿易自由化取り決め)によって、大企業がメキシコなどの国外へと移転して、労働者の多くは仕事を失いました。その結果、多くの労働組合が縮小・解体され、民主党は新しい財政基盤を必要とするようになりました。
 民主党が、労働者や一般民衆ではなく、財界や金融街に頼らざるを得なくなった物質的基盤は、このようなところにあります。自ら墓穴を掘ったと言うべきかも知れません。
 NAFTAを通じてビル・クリントンが追求した新自由主義政策は、貧富の格差を広げましたから、勤労者や貧困者から見れば、民主党というのは共和党と何も変わらない政党になったわけです。(日本の民進党と自民党も、全く同じ流れです。)


 このような貧困化しつつあるアメリカ民衆の不満を代弁したかたちで登場したのが、民主党ではバーニー・サンダース氏であり、共和党ではドナルド・トランプ氏でした。しかし先述のとおり、サンダース氏は支持者を裏切るかたちで選挙戦から身を引きました。しかしトランプ氏の場合、共和党の幹部・特権階級からの妨害をものともせず進撃しつつあります。
 そして、かつては黒人票は民主党のものと思われていたのに、トランプ氏は着実に黒人票をも獲得しつつあるようです。とくに貧困層の黒人は、ヒラリー女史に見切りをつけ、トランプ氏に流れているようです。最近それを象徴する事件がありました。
 映画産業で有名なハリウッドの大通りには、有名スターの名前が入った星形メダルが埋め込まれた街路「ウォーク・オブ・フェイム」があるのですが、そのひとつにトランプ氏の名前が刻み込まれています。
 ところがヒラリー女史の支持者が、この刻み込まれたトランプ氏の名前をツルハシで破壊する事件が起きました。それにたいして今度は、この刻み込まれたトランプ氏の名前を守ろうとして座り込む女性が現れました。
 しかし、ここにもうひとつの事件が起きます。この座り込んでいた一人の黒人女性(しかもホームレスの老いた黒人女性だった)にたいして、なんとヒラリー女史支持者たちが罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせかけ、彼女の衣類などが入っていたカートを彼女もろとも引っくり返して足蹴にする事件が起きたのです。
 そのうえ、なぜトランプを支持するかを書いた彼女のビラやポスターをずたずたに引き裂くようすがユーチューブに載せられたのでした。
 RT(二〇一六年一〇月二九日)の記事によれば、そのポスターのひとつには「オバマはクリントン一家に恩義を感じて我々黒人どもをバスの下に投げ込んでいる」といった文句が書かれていたそうです。
*Violent crowd attacks, insults homeless woman guarding Trump's Hollywood star
*「暴力的群衆が、ハリウッド大通りに刻まれたトランプ氏の名前を守る女性を、襲ったり辱めたりした」
https://www.rt.com/usa/364631-crowd-attacks-homeless-trump/


 ロサンゼルス・タイムズは、今やカリフォルニア州立大学[全部で二三校から成るが全体でひとつの大学機構]の学生の、一〇人に一人がホームレスだと報じ(二〇一六年六月二十日)驚かされましたが、このような事態を生み出した民主党の特権階級にたいする怒りが、ホームレスの老いた黒人女性を上記のような行動に駆り立てたのではないでしょうか。
*1 in 10 Cal State students is homeless, study finds
「カリフォルニア州立大学の10人に1人がホームレス」

http://www.latimes.com/local/lanow/la-me-cal-state-homelessness-20160620-snap-story.html
 オバマという、「アメリカ史上、初の黒人大統領」と持てはやされる人物を頭(かしら)にいだく民主党政権が、貧富の差を拡大させ、黒人どころか白人のホームレスまでもアメリカ全土に広がりつつあるのですから、実に皮肉と言えば皮肉です。


 このような事態を考えると、社会主義者を自称するサンダース氏が選挙戦から落馬した現在、共和党から出馬したトランプ氏がアメリカ民衆の怒りを一身に背負うことになってきたことは、ある意味で当然のこととも言えます。
 これを裏書きするような象徴的な爆弾が、映画監督マイケル・ムーアによって投げつけられました。ムーアと言えば、映画『華氏九一一』やアメリカ医療を鋭く告発した映画『シッコ』などで有名ですが、そのムーア監督が、今度はトランプ氏を題材とした映画『トランプ・ランド』をつくりました。その映画上演会のため訪れたオハイオで彼は次のようなスピーチをして聴衆を驚かせました。

 「トランプ氏に投票する人たちは、必ずしもそんなに彼が好きなわけではありませんし、必ずしも彼の意見に同意しているというわけでもありません。彼らは必ずしも人種差別主義者ではありませんし、白人の肉体労働者でもありません。じっさい彼らはかなり礼儀正しい人たちです」
 「ドナルド・トランプ氏はデトロイト経済同友会にやって来て、フォード社の経営陣の前に立ってこう言ったのです。『あなた方がデトロイトでやろうと計画しているように、これらの工場を閉鎖してメキシコで建て直すつもりなら、そしてそこで生産した車をアメリカに送り返すなら、私はそれらの車に三五パーセントの関税率をつけるつもりだ。そうすれば誰もそれらを買わないだろう』」
 「それは、驚くべきことでした。政治家の誰も、共和党員であれ民主党員であれ、これまでに誰もそんなことを、これらの経営陣に言ったものはいません。それは、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州の民衆の耳には実に心地よい調べだったでしょう。Brexitの諸州、つまりアメリカから脱出しようとする大企業の存在する州では、民衆は同じ思いで聴くでしょう」
 「トランプ氏の言っていることが本気かどうかは、ここではあまり関係がありません。なぜなら、それは傷ついている人々が聴きたいと思っていたことだからです。だからこそ、あらゆる打ちのめされて役立たずになり忘れさられた一般労働者、いわゆる中流階級の一部を成す人々のすべてが、トランプ氏を好きになるのです」
 「トランプ氏は、そのような人たちの待ち望んでいた人間火焔瓶・人間手榴弾なのです。彼らは、自分たちから生活を盗み奪った組織や機構に、それを投げ込むことができるからです」
 「そして一一月八日は選挙の投票日です。民衆・勤労者は仕事を失い、銀行によって家を差し押さえされ、次にやってきたのが離婚。今や妻と子供は去って自分のところにはいない。そして車も回収・没収。彼らは何年ものあいだ本当の休暇をとったことがない。くそにもならないオバマケア(医療保険改革法)ブロンズプランは、お先真っ暗。この保険では解熱剤すら手に入らない。要するに彼らは持てるもの全てを失ったのです。民衆の手に残されたものがひとつだけあります。それをもつには一セントのお金すら必要ありません。それは合州国憲法によって所有が保証されているからです。それが投票権です」
*Michael Moore just gave the most convincing speech for Trump
*「マイケル・ムーアが、今までのなかで最も説得力のある演説を、トランプ氏のためにおこなった」

http://redalertpolitics.com/2016/10/26/michael-moore-just-gave-convincing-speech-trump-video/#dJRVoxe3kmvHf6MJ.99


 ムーア監督のスピーチは、まだ続いているのですが長くなるので、翻訳はここで止めます。今までサンダースを支援していたムーア監督が、ことここに至って、このようなスピーチをせざるを得なくなった悔しさがにじみ出ているようなスピーチではありませんか。
 ゼネラルモーターズの生産拠点の一つであったミシガン州フリントで生まれたムーア監督が、故郷フリントの自動車工場が閉鎖され失業者が増大したことを題材にしたドキュメンタリーの名作『ロジャー&ミー』をつくっているだけに、この無念さはひとしおだったことでしょう。


 さて、このようなトランプ氏の動きに対してヒラリー女史はどのように対応したでしょうか。
 最初は財界寄りの政策でしたがサンダースの打ち出す政策が民主党の若者や貧困層の支持を得て自分が劣勢になりそうなのに気づいて、TPPなど民衆の生活を破壊する政策に反対を表明するように変わってきました。
 しかし最近のウィキリークスが暴露したところによると、「政治家は表の顔と裏の顔があるのは当然だ」とする意見を彼女は身内のものに漏らしています。さらに予備選では「左寄りの政策を掲げても本選では右に戻せばよい」とも語っています。
 もっと恐ろしいことには、RT(二〇一六年一〇月二九日)の記事によれば、彼女は『Jewish Press』というユダヤ人のための週刊紙のインタビューで、「パレスチナの選挙に裏工作をしてファタハを勝たせるべきだった、そうすればハマスの一派が勝利することはなかった」とすら述べています。
*Clinton bemoans US not rigging 2006 Palestinian election in newly-released tape
*「クリントンは、新しく公開されたテープ録音のなかで、二〇〇六年のパレスチナにおける選挙で不正操作しなかったことを、悔いている」

https://www.rt.com/usa/364628-clinton-rigging-palestine-tape/


 このようにヒラリー女史は、他国の選挙に干渉して傀儡(かいらい)政権をつくることを何ら悪いことだと思っていないのです。
 二〇一四年年のウクライナ政変では、彼女の盟友であるヌーランド国務次官補が、米国ウクライナ大使と一緒になって反政府デモに加わり、デモ参加者にお菓子を配って歩いている光景が堂々とテレビ画面に登場していますが、これほど露骨な内政干渉はないでしょう。
 (ロシアの外務省高官や在米大使館員が、ニューヨークその他のデモや集会、座り込みテントに参加して、差し入れなどすれば、アメリカがどんな態度をとるか。想像してみればすぐ分かることです。)
 ところがトランプ氏との論争になると、ヒラリー女史は、政策をめぐる論争はほとんどやめてしまい、「トランプ氏はプーチンの操り人形だ」とか「ウィキリークスによるヒラリー関係のメール暴露は、プーチンがアメリカのコンピュータに侵入してウィキリークスに渡したものだ」といった主張を繰りかえすだけになってしまいました。政策論争ではトランプ氏と争っても勝ち目がないということを自ら認めたに等しいでしょう。
 それどころか、自分が国務長官として公的なメールサーバーを使うべきだったのに、私的サーバーを使って外部から侵入しやすくなったことにたいする反省もありませんし、その漏れた国家的重要機密情報が、リビアのアメリカ大使館に勤務する大使その他の職員を死に至らしめる結果になったかも知れないのに、そのことにたいする反省もありません。
 もっと奇妙なのは、このように私的サーバーを使って最高機密情報を漏らした当人は、FBIから訴追されることもなく堂々と選挙に出馬できているという事態です。イラクにおける米軍の悪事を暴いたマニング上等兵が牢獄につながれ元情報機関職員だったスノーデンが亡命に追い込まれたのとは、天と地の違いです。「悪いやつほどよく眠る」の典型例と言うべきかも知れません。


 ここまでは、ドナルド・トランプ氏と比較しながらながら、アメリカの国内政策を中心にして「ヒラリー・クリントンとは誰か」を論じてきたのですが、以下では外交政策をとりあげてヒラリー女史の問題点を探ってみたいと思います。
 しかし、これを論じていると長大なものになる予感がするので、今回は幹の部分だけを紹介して詳しくは次回に譲りたいと思います。
 それはともかく、ヒラリー女史とトランプ氏の外交政策における最大の違いは、ロシアとどう対峙するかという問題です。いまアメリカはシリアにおける内戦をどう解決するかという点で、ロシアと鋭く対立しているからです。
 いまヒラリー女史がシリア情勢で強く主張しているのは「リビア内戦時と同じようにシリアにおいても飛行禁止区域をもうけるべきだ」ということです。その理由としてあげられているのが、「ロシア軍とシリア政府軍がシリア第二の大都市アレッポを無差別に爆撃し一般市民からたくさんの犠牲者が出ているから」という口実です。
 これにたいしてトランプ氏は次のように主張しています。
 「アメリカは他国に内政干渉したり政権転覆に手を出すべきではない。国内には問題が山積していて他国に手を出す余裕などないはずだ」
 「今はロシアと手をつないで、『アルカイダ』『イスラム国』といったテロリスト=イスラム原理主義者集団をシリアから追い出すべきだ」
 これに関してロシアもシリア政府も、「リビア内戦時と同じようにシリアにおいても飛行禁止区域をもうけるべきだという主張は、シリアをリビアと同じような混乱に陥れ、シリアを破壊・解体して、さらに死傷者と難民を激増させるだけだ。休戦地帯をもうけろと言う主張は、テロと戦うという名目でアサド政権をつぶそうとする隠れ蓑にすぎない」と反論しています。
 この飛行禁止区域の設定については、ロシアもシリア政府も次のように主張し、アメリカの要求をきっぱりと退ける姿勢を示しています。
 「アレッポの東部地区を占拠して一般市民を『人間の盾』としながら休戦協定を無視してアレッポの西部地区の一般市民を無差別に攻撃しているのは、むしろ反政府勢力のほうだ。しかも彼らはアメリカの主張する『穏健派』どころか、『アルカイダ』『イスラム国』の一派であり、シリアには『穏健派』など存在しない」


 ですから、このまま緊張状態が続けば、アメリカ軍とロシア軍との直接的な戦闘になり、いつ世界大戦になるか、いつ核戦争になるか分からない情勢です。トランプ氏は『アルカイダ』『イスラム国』といった過激なイスラム原理集団をつくり出したのは、アメリカなのだから、そのような政策から手を引くべきだ」と言っているのですから、今までの感覚でアメリカを見ていたひとたちは頭が混乱するかも知れません。
 というのは、従来の図式からすれば、民主党=リベラル=ハト派であり、共和党=保守派=タカ派なのに、ヒラリー女史の方がトランプ氏よりはるかに好戦的だからです。 トランプ氏は、ロイター通信(二〇一六年一〇月二五日)によれば、「ヒラリー氏が大統領になれば第三次世界大戦になりかねない」とすら主張しているのです。
 これはトランプ氏の単なる選挙戦術のようにもみえますが、同じ警告はあちこちから聞こえてきます。
 すでに前半で紹介したように、元共和党政権の経済政策担当の財務次官補だったポール・グレイグ・ロバーツは自分のブログ(二〇一六年一〇月五日)で、下記のような「戦争に導くワシントン」という記事を書いてています。
*Washington Leads The World To War「世界を戦争へと導くワシントン」
http://www.paulcraigroberts.org/2016/10/05/washington-leads-the-world-to-war-paul-craig-roberts/
 またイギリスの保守的高級紙と言われるインデペンデント紙(二〇一六年一〇月二五日)も次のような論文を載せています。
*Could Hillary Clinton start a world war? Sure as hell she could ? and here's how
*「ヒラリー・クリントンは世界大戦を始める可能性があるか?確かにそうだ。それはこうして始まる」

http://www.independent.co.uk/voices/could-hillary-start-a-world-war-sure-as-hell-she-could-and-here-s-how-a7379051.html
 どちらかというと今まではトランプに批判的だったインデペンデント紙がこのような論説を載せるようになったこと自体が、現在の情勢がいかに緊迫しているかをしめすものではないでしょうか


 もっと驚いたことには、調べてみると既に四月の時点で、クリントン氏の自叙伝の著者ディアナ・ジョンストン氏は、イタリアのイオ・ジョルナーレ紙のインタビューで、「クリントン氏の大統領選の勝利は、第三次世界大戦の勃発も含め予想外の結果をもたらす可能性がある」と語っているのです。
 RTの記事(二〇一六年四月二九日)によると、ジョンストン氏は次のように語っています。

クリントン氏がまだ国務長官に在任していた頃、押しの強い外交政策を掲げていた。クリントン氏はアメリカのイラク侵攻及びリビアでの戦争参加を支持し、そして現在はシリアのバッシャール・アサド大統領に反対する姿勢を支持している。これに加え、クリントン氏は反ロシア的見解に固執している。世界は不安を呼び起こすような選挙公約を掲げるクリントン氏の「積極的な活動」に対して用心するべきだ。クリントン氏は外交の代わりに軍事力を用い、あらゆる事件が第三次世界大戦を引き起こしかねないほどにNATOを強化するつもりである。
https://jp.sputniknews.com/us/201604292050173/


 このように、今まさに世界はアメリカ大統領選挙を前にして「伸るか反るか」の曲がり角に来ているのです。にもかかわらず、アメリカや日本の、リベラルを自称する知識人も大手メディアも、「アメリカ史上、初の女性大統領」という殺し文句に惑わされて、現在の深刻な事態が見えなくなっているように思われます。
 しかし現在の事態の深刻さを理解してもらうためには、ヒラリー女史が国務長官だったときだけでなく、それ以前に外交政策で彼女が何を主張し、どのような行動をとってきたかを、もっと詳しく説明する必要があります。
 とはいえ、すでに長くなりすぎていますので、これについては、次回の論考に譲りたいと思います。



アメリカ大統領選挙と、英語教材『ヒラリー・クリントンの就任(!?)演説』

アメリカ理解(2016/10/22)、予備選挙(primary)、党員集会(caucus)、選挙人登録制度、特別代議員制度(superdelegates)、有権者ID法(Voter ID Law)

英光社2017 「女性大統領ヒラリー演説」


 先日、英語教育の教材を販売する出版社6社から、共同で、2017年用の教材宣伝パンフを入れた封筒が届きました。なかを開いてみて驚きました。
 というのは英光社のパンフの冒頭に、「新刊」「全冊CD付き」「グローバル英語総合教材」と銘打って、ホワイトハウスの写真と次のような大きな文字の宣伝文句が、見開き2頁を飾っていたからです。

ヒラリー・クリントン大統領就任演説
Inaugural Address by Hillary Clinton


 まだ大統領選挙が終わってもいないのに、もうヒラリーが「アメリカ初の女性大統領」として紹介されているのです。上記の写真を御覧いただければお分かりのように、宣伝文句には次のような解説が付いています。

ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)は、中西部のイリノイ州生まれ。第42代アメリカ大統領Bill Clinton(在任1993~2001)の妻。女性として初めてのアメリカ大統領ですし、また夫婦とも就任するのも初めてです。娘にチエルシーさん。旧姓はHillary Rodhamです。日本でも人気が高く、親日家であり、来日した折に東京大学でタウンミーティングをしました。


 この教材をつくった英光社としては、結果を見るまでもなくアメリ大統領の選挙戦はヒラリーが当選するに決まっていると考えたのでしょう。一刻も早く他社を出し抜いて、この冊子を大学用教材として採用してもらおうと企画したに違いありません。
 アメリカの大手メディアを見ていると、ほとんどすべてがヒラリー支持で一致し、トランプ叩きに終始していますから(そして日本の大手メディアも、それと同じ報道をしていますから)、そう考えても当然とも言えます。
 しかし、少しでも注意深くアメリカの選挙情勢を見ていれば、ヒラリー優勢という報道がまったく捏造されたものであることは、民主党の対抗馬であったサンダース候補の主張がアメリカ国民の心を捉え、破竹の勢いでヒラリー女史を追い上げていたことでも明らかでした。
 しかもアメリカ各地で不正選挙がおこなわれ、それがサンダース候補の進路を阻んでいたことは、私のブログでも指摘したとおりです。
 ですから大手メディアがサンダース候補の主張を正しく伝え、民主党幹部による選挙の不正を大胆に暴いていれば、今の選挙戦はまったく違ったもの(サンダース対トランプという構図)になっていたでしょう。
 しかしサンダースの主張や民主党幹部による選挙の不正は、弱小の代替メディアによってしか伝えられてきませんでしたから(そして最終的にはサンダース候補が勢いを増しつつあった支持者を裏切るかたちで選挙戦を途中で降りてしまいましたから)、アメリカ国民には、最悪の選択肢しか残されなくなりました。
 つまり「ヒラリー対トランプ」「より悪いのはどちらか」という選択肢しか残されなくなったのです。
 日本人にとって一般的なイメージは、「民主党=リベラル、進歩的」「共和党=右翼、保守的」ですから、その進歩的陣営の代表であるヒラリー・クリントンのどこが問題かと思われるかも知れません。
 残念なことに、NHKを初めとする日本の大手メディアもそのような報道をしていますから、私の知っているかぎり、進歩的知識人と言われる大学教師もほとんど同じ認識です。この英光社の教材を編集した人物(鈴木邦成)も、調べてみると「物流エコノミスト、日本大学教授」という肩書きが付いていました。
 ヒラリー女史のどこか問題なのか、その詳しい説明をしていると長くなりますので、それについては次回のブログにゆずりますが、「ヒラリー・クリントンという人物は、大統領になったときには、世界平和にとって、ドナルド・トランプよりもはるかに危険な人物になるだろう」ということだけをここでは指摘しておきたいと思います。


ところで、この英光社の教材には、「ヒラリー・クリントン大統領就任演説」だけでなく、「オバマ大統領の広島での演説全文」まで収録されています。そして上記写真の最後に宣伝文句として、「またオバマの広島での歴史的なスピ―チ(2016.5.27)も貴重です」と書かれています。
 しかし、このオバマ大統領の広島演説はノーベル平和賞の受賞演説にまさるとも劣らぬ偽善的なものでした。それを私は物理化学者・藤永茂氏の言を引用しつつ、ブログで次のように書きました。
 

・・・・・藤永氏は上記の引用に続けて、「ノーベル平和賞を受賞することになったプラハ講演で、核廃絶を悲願としてきた日本人の心をメロメロにしてしまったバラク・オバマという人物が、政治家として「稀代の大嘘つき」「稀代のコン・マン」(コンフィデンス・マン=詐欺師)であることを、これほど冷徹な筆致で断定した文章は、ざらには見当たらないでしょう」と述べています。
 あの温厚な藤永氏が、オバマ氏のことを「稀代の大嘘つき」「稀代のコン・マン」と述べていて驚かされましたが、それほど藤永氏の怒りが大きかったことを、この言葉遣いが示しているように思います。
 ところが、日本の大手メディアは、このような怒りをオバマ氏にたいして示すことは、ほとんどありませんでした。むしろ、その逆だったのです。「広島を訪問するアメリカ史上初の大統領」というわけです。
*オバマとは誰か―「アメリカ大統領による史上初の広島訪問」を考える
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-261.html (2016/05/21)


 ところが、英光社の編集部は、大手メディアの宣伝どおりに、オバマ大統領の広島演説を「歴史に残る名演説」として教材化し、間違った観念を学生の頭にすり込もうとしているのです。
 もちろん編集部は意図的にそうしているわけではないでしょうが、結果的に果たす役割は同じことです。むしろ「名演説を通じて英語を学ばせる最良の教材」という善意でやっているからこそ、逆に罪が深いとも言えるでしょう。
 というのは、意図的についた嘘というのは、「大量破壊兵器を口実としたイラク侵略」をみれば分かるように、意外と簡単にボロが出るものですが、本気で信じた嘘というものは、その本人からはボロが出にくいからです。
 これは、この本の編集者である鈴木邦成氏についても、同じことが言えるでしょう。たぶん鈴木氏も意図的に嘘をつこうと思ってこの教材を編集したわけではないでしょう。
 しかし、拙著『英語教育が亡びるとき――「英語で授業」のイデオロギー』で、私はしばしば「英語読みのアメリカ知らず」について言及しました。
 また有名な英文学者・中野好夫氏は、「英語大好き人間を『英語バカ』にする不思議な魔力」を英語という言語はもっている――という趣旨の発言をされたことがあります。
 上記のような教材を編集されるからには、鈴木邦成氏は英語がよくおできになるかただと思うのですが、私にはたぶん鈴木氏も同じ過ちに陥っているような気がします。
 というのは、英語関係の出版社としては老舗(しにせ)である研究社でさえ、やはり2017年度の教材として、下記のようなCD付きの教材を売り出しているからです。


研究社2017 「アメリカの名演説」


 ご覧のとおり、これにも、「俳優・政治家らの名演説を読んで聴いて、読解力・聴解力向上をはかろう!」という謳(うた)い文句で、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマといった人物の演説が、みごとに収録されています。
 研究社という出版社は、もっと見識ある出版社だと思っていただけに、これは本当に残念なことです。
 このような状態が続くかぎり、日本は永遠にアメリカの属国状態から抜け出ることはできないでしょう。英語学習に打ち込めば打ち込むほど間違ったアメリカ観が刷り込まれていくのですから。


 とは言っても、「ヒラリー・クリントンとは誰か」「ヒラリーとはどんな過去を背負ってきた人物か」を説明しないかぎり、これまで私が述べてきたことは充分に納得してもらえないでしょう。
 そこで次回のブログでは、私の気力・体力が許すかぎり、この点について詳述したいと思います。一回では終わることができず連載になるかも知れません。


<註1> 下記のブログ「オバマとは誰か」については、その続編を9日後(2016/06/30)に書いています。併せて読んでいただければ、私の言っていることの趣旨をもっと理解していただけるのではないかと思います。
*オバマとは誰か―「アメリカ大統領による史上初の広島訪問」を考える
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-261.html (2016/05/21)
*オバマ大統領の広島訪問、物理化学者・藤永茂氏いわく「稀代のコン・マン=詐欺師」
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-265.html (2016/06/30)

<註2> 日本が敗戦したあとに占領軍として乗り込んできたアメリカは、「留学と英語教育」を武器として、京都大学をひとつの拠点としながら、日本人の洗脳工作に取り組みました。その経過を私は下記の拙著『英語で大学が亡びるとき』第2章第3節で詳細に紹介しました。
    「対日文化工作」としての英語教育―京都大学の「国際化」路線を、歴史的視点で再考する
 時間がある方は、上記の文献も参照していただければ有り難いと思います。そうすれば、今の日本が「英語で授業」という新指導要領に縛られたり、文科省の言う「国際化」という口実で、旧制帝国大学だけでなく、少なからぬ国立大学や私立大学が、専門科目や大学院どころか教養科目までも英語漬けにされている実状(その危険性)を理解していただけるものと思っています。




続・混沌を極めるアメリカの大統領選挙

アメリカ理解(2016/05/27)、「選挙人登録制度」、「特別代議員制度」、「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」、


 トランプ支持の白人貧困層
トランプの支持者たち 5746d00dc461881c488b45a8_convert_20160528161334
https://www.rt.com/op-edge/344469-trump-protests-anaheim-albuquerque/


 昨日のブログで、いま混沌を極めているアメリカの大統領選挙について簡単に紹介し、同時に長周新聞に載った拙論「続・世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」のPDF版も載せました。
 すると、「どうせ載せるのであれば続編だけではなく正編も載せておいた方が読者には助かる」との便りがありました。
 そこで今回は、いま混沌を極めているアメリカの大統領選挙について若干の補足を加えたうえで、最後に拙論「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」のPDF版を掲載しておくことにします。
 さて、私は前回のブログで次のように書きました。

クリントン女史が表向き優勢なのは、特権層の利益を維持するための「選挙人登録制度」や「特別代議員制度」など、不公正なアメリカの選挙制度によるところが非常に大きいからです。


 はした金で買えるような安物を万引きしたという理由で黒人貧困層は刑務所送りになっています。
 他方、摩訶不思議な金融証券をつくり上げて販売し、庶民を路頭に迷わせた張本人は、「大きすぎて潰せない」という理由で安楽に暮らせるどころか大金のボーナスをもらって、民主党政権の一員になっています。
 それを手助けする役割をはたしてきたのがクリントン女史です。おかげで彼女は金融界で講演すると莫大な講演料をもらっています。
 ですから、民主党の幹部のみならず財界・金融界にとってはクリントン女史は何としても大統領になってほしい人物です。その一方、財界から出てきたはずのトランプ氏は、貧困な白人層を支持基盤にしているだけに、財界・金融界が必ずしも自由に操れる人物ではなさそうだからです。
 こうした状況で、共和党の幹部や財界・金融界のなかですら、クリントン女史が民主党の候補者になったときには、「トランプではなくクリントンを推す」と公言するものさえ出てくるようになっていました。
 しかし共和党の特権階級にとって、ただひとつ困ったことがあります。クリント女史のメール問題です。彼女が国務省長官だったとき長官として許されている公的メールを使わずに、私的メールを使って多くのひとと闇のメールでやりとりをしてきたことが暴露されたからです。
 公的なメールサーバーは盗聴されたりハッカーに侵入されたりするようなことがないよう厳重な壁が築かれていますが、私的なメールサーバーにはそのような補償は何もありません。ですから公的な職務に就いているひとが自分の公的職務を果たすときは私的メールを使用することは堅く禁止されています。これを自ら破っていたのがクリントン女史でした。
 アメリカがNATO軍と一緒になってリビアの政権転覆をはかりカダフィ大佐を惨殺した後で、リビアのベンガジにあったアメリカ領事館で大使をふくむアメリカ人4名が殺されるという事件がありました。この一因として最近、問題になり始めたのが、クリントン女史が国務長官のときに使っていた私的メールです。このメールからベンガジ領事館の情報が漏れて、大使殺害につながっていったのではないかという疑いが出てきたからです。
 国務長官が公的なメールサーバーを使わずに私的メールで外交問題のやりとりをしていたことそのものが重大な法律違反ですが、その行為がアメリカ人の命を危険にさらすどころか死に追いやったとすれば、これは明らかな重罪であり、即刻にも刑務所送りになるべきでしょう。それはマニング上等兵が米兵による民間人殺害を内部告発しただけで刑務所送りになったことをみれば明らかです。
 マニング上等兵が暴露した情報は、米兵の戦争犯罪を内部告発しただけであり、その行為がアメリカ人を死に追いやるどころか米兵の命を危険にさらす恐れもないものだったことは裁判の過程でも明らかにされたにもかかわらず、マニング上等兵は35年にも及ぶ禁固刑を受けることになってしまいました。それに比べてクリントン女史の行為の危険性は誰の目にも明らかです。

"Significant Security Risks": State Department Says Clinton Broke Rules Using Private Email Server
http://www.democracynow.org/2016/5/26/significant_security_risks_state_department_says (May 26, 2016)


 このような人物が堂々と大統領選挙に立候補できることが驚きです。このクリントン女史のEメール問題は、FBIが捜査中だそうですが、オバマ大統領がFBIに圧力をかけて彼女を守りきれば別ですが、さもなければ、捜査の進み具合によっては立候補を取り下げざるを得なくなる事態も出てきます。
 また、たとえオバマ大統領がクリントン女史を守ろうとしても、トランプ氏が彼女のEメール問題を取り上げて攻撃を始めれば、大使を含む4人のアメリカ人が殺されているだけに、彼女を守りきれるかどうか分かりません。
 「元CIA長官のデイヴィッド・ペトレイアスでさえ、同じEメール問題で辞任せざるを得なくなったのだから、クリントン女史の場合も、事態は予断を許さない段階に来ている」と、元CIA高官のマクガバン氏も述べています。

Ray MacGovern:
Hillary Clinton’s Damning Emails
https://zcomm.org/znetarticle/hillary-clintons-damning-emails/ (May 3, 2016)


 ですから「アメリカ初の女性大統領」という宣伝で、大統領選挙の先頭を走り、共和党の中からすらもクリントン女史を推そうとする動きが出ている一方で、Eメール問題でトランプ氏がクリントン女史を攻撃し始めたら彼女が勝つ見込みがなくなるかもしれない、という動揺が共和党の内部から出始めています。共和党はいま大きなジレンマに追い込まれています。
 他方、民主党の側はどうでしょうか。財界・金融界はもちろん民主党の特権階級はクリントン女史を支持していますが、ここでも「Eメール問題でサンダース氏がクリントン女史を攻撃し始めたら彼女が勝つ見込みがなくなるかもしれない」という不安・動揺が民主党の内部から出始めています。
 しかも選挙運動が進めばすすむほどサンダース氏への支持は広がる一方です。貧困層に転落することが目に見えている若者層や貧困な有色人種は圧倒的にサンダース氏を支持しているからです。「選挙人登録制度」「特別代議員制度」などといったアメリカの不公正な選挙制度がなければ、サンダース氏がクリントン女史を追い抜いてすでに民主党の候補者になっていただろう、ということは段々と皆の目に見え始めているからです。

Ralph Nader: 
Sanders Should Stay in Democratic Race, Is Only Losing Due to Anti-Democratic System
http://www.democracynow.org/2016/5/10/ralph_nader_sanders_should_stay_in (May 10, 2016)


 かといって、民主党の幹部・特権階級は、今さらサンダース氏へと鞍替えするわけにもいきません。というのは、サンダース氏の政策は、「金持ち階級への増税」など、財界・金融界はもちろんのこと、民主党の特権階級にとっても受け入れることのできないものが多いからです。
 こうして、サンダース氏を民主党の候補者として推し、トランプ氏と論戦させれば、トランプ氏を倒して民主党が勝つ可能性は極めて大きくなりつつあるのですが、それができないので民主党もまた、いま大きなジレンマに追い込まれています。
 アメリカの大統領選挙を見ていると、いまアメリカは末期的段階に来ていると思わざるを得ません。


<註> 長周新聞(2016年4月2日号)の一面に載った「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」の写真版が読みにくい方は、そのPDF版が下記にありますので、そちらを御覧ください。
http://www42.tok2.com/home/ieas/ShamefulAmericanVotingSystem.pdf



長周新聞20160401+「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」上_convert_20160527104308
長周新聞20160401+「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」下_convert_20160527104424



混沌を極めるアメリカの大統領選挙

アメリカ理解(2016/05/27)、、「選挙人登録制度」、「特別代議員制度」、「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」

クリントンVSサンダース_convert_20160527140251
https://www.rt.com/usa/344507-sanders-clinton-california-tie/


 いまアメリカの大統領選挙は混沌を極めています。共和党から立候補したトランプ氏は党の支配層や金融界からの嫌われ者ですが、対立候補が次々と脱落していくなかで独走状態です。
 共和党の幹部は、この事態にたいしてどう対処していくか困り切っているようですが、白人貧困層を支持基盤とするトランプ氏を無碍に切り捨てるわけにもいかないでしょうから、最終的には渋々とトランプ氏を認めざるを得なくなるかもしれません。
 他方、民主党では自称「社会主義者」のサンダース氏がクリントン女史と互角の闘いを展開しています。これも民主党の支配層や金融界にとっては由々しき事態です。
 というのは、クリントン女史が表向き優勢なのは、特権層の利益を維持するための「選挙人登録制度」や「特別代議員制度」など、不公正なアメリカの選挙制度によるところが非常に大きいからです。
 このような状況をふまえて、「続・世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」という小論を書いたところ、長周新聞が、前稿「世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」に引き続き、この続編も一面に掲載してくれました。
 反響が少しはあったようで、その知らせが私のところに届いています。嬉しくなったので、このブログを読んでくださっている皆さんにもお裾分けしたくなった次第です。とりわけ「ドイツ語の先生ですが寺島先生の英語教育に関する本はほとんど読んでおり・・・」という知らせに驚愕かつ感動しました。
 以下がその反響です。なお拙論のPDF版は下記にあります。
http://www42.tok2.com/home/ieas/ShamefulVotingSystemInAmerica(2-1).pdf
http://www42.tok2.com/home/ieas/ShamefulVotingSystemInAmerica(2-2).pdf


寺島先生

「続・世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」の反響が返っています。一部をそのま まお伝えします。

**大学のドイツ語の先生ですが、寺島先生の英語教育に関する本はほとんど読んでおり、まったく共感していると切り出し、つぎのように続けまし た。
「寺島先生が、こういう分野で発言をされていること、しかも長周新聞に堂々と 載せておられることを知って驚き、なるほどと感動した」

**学院大学の日本文学の先生も、「寺島先生の記事はおもしろかった。アメリカはああなっているんですね」と興奮の面持ちで語っています。

**の婦人活動家は、「前回の記事は火曜日の投票日など、働く者を排除する仕組みに驚かされさもありなんと思ったが、今回は、さらに大がかりな不正がやられていることがわかり、さもありなんと思った。こうした事実はマスコミでは伝わらない。寺島先生は貴重な投稿をされている。ありがたいとつくづく思う」 と、感謝の気持ちを語っていました。(2016/05/11)

寺島先生、ご連絡ありがとうございました。
その後の反響です。

**の医薬品小売商業組合の**理事長が、「寺島先生が、クリントンが大統領になったら世界大戦になるようなことを言われていた。自分もそうではないかと思っていたので、確信になった」と語っています。

また、**大学の文学部の教授が、「マスメディアでは、フランスの国民戦線は 右翼だと言われているが…」と切り出したあと、サンダースの社会主義、寺島先生のトランプ評価と関わって、「トランプが支持される根拠に、社会保障を訴えていることがある」とのべるなど、論議の素材となっていま す。

**市立大学で行われた原爆展の学生スタッフに、最近の新聞のいくつかを提示したところ、「続・世界に恥ずべきアメリカの選挙制度」の紙面が素早く求められたことが、関係者の間で話題になっています。(2016/05/16)



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長周新聞20160504+「続+世界に恥ずべきアメリカの選挙制度+下(サイズ小)_convert_20160527102849



続・世界に恥ずべき、アメリカの選挙制度――これでどうして、民主主義を世界に押し売りすることが出来るのか?

アメリカ理解(2016/04/29)、緑の党 Jill Stein、キラリー大統領 President Killary、ヒラリー言語録「来た、見た、死んだ」、カダフィー大佐の惨殺、ゼラヤ大統領の追放

大統領候補 Jill Stein(緑の党)     大統領候補 Bernie Sanders(民主党)
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 アメリカ大統領選挙の予備選が激しく闘われています。しかし通信社ロイター(Reuters)と調査会社イプソ(Ipsos)の調査によると、アメリカ人の半分以上は特定の候補者にたいして不正がおこなわれていると感じているようです。
 そして約71%が、大統領候補の指名を代議員にまかせるのではなく直接に選びたいと思っていることも、この調査で分かってきました。代議員を選んで彼らに大統領の指名を任せる間接選挙ではなく、直接選挙で選びたいというのです。
 また何ヶ月にもわたる予備選ではなく、全ての州が同日に選挙すれば一日で済むと思っているひとたちも半数近くにのぼっています。しかも、これらの結果については共和党も民主党も変わらなかったことを、調査結果は示していました。

「有権者の50%が大統領候補者の選挙制度は『不正操作されている』―世論調査」
50% of US voters say presidential candidate system 'rigged' – poll
https://www.rt.com/usa/341153-rigged-presidential-voting-system/


 この予備選が不正に満ちていたことは、以前のブログ(2016/03/30)でも紹介しましたが、とりわけアメリカの選挙制度に大きな歪みがあることを世界にさらすことになったのはニューヨークの選挙でした。
 この選挙で勝ちを制したものが大統領候補の指名を確実にするだろうと予想されていましたし、民主党ではサンダース氏が各州予備選のたびに票を伸ばしてきていましたから、ひょっとすると、ニューヨーク州でもサンダース氏がヒラリー女史をおさえて一挙に指名への階段を駆け上るのではないか、という声すら出始めていました。
 ところが4月19日(火)、ふたを開けてみたら、ヒラリー女史が得票率 58 %対42%でサンダース氏を制して勝利宣言をすることになりました。サンダース氏は大多数の郡で勝利しましたが、ニューヨーク都市圏ではクリントン女史が大勝したのです。ところが同時に、ニューヨーク市の選挙制度の腐敗ぶりも暴露されることになりました。
 というのは、数百万人のニューヨーカーたちが、ニューヨーク州の制限的な投票法のおかげで投票できなかったからです。
 同州では期日前投票ができませんし、予備選当日の投票も許されません。
 不在者投票をする場合も正当な理由を認められた場合に限られます。当日は町にいないことを証明しなければなりませんし、障害者の場合は当日どうしても投票所に行くことができないことを示す証明書が必要です。
 また選挙日に登録して投票しようとしても、それはできません。投票者登録の締め切りは投票日の25日前だからです。
 これは、候補者たちがニューヨークでキャンペーンを始めるはるか以前ですから、自分の意見を決める材料がありませんから、これでは全く無意味です。

「数百万人のニューヨーカーたちがニューヨーク州の制限的な投票法のおかげで選挙権を奪われる」
Millions of New Yorkers Disenfranchised from Primaries Thanks to State's Restrictive Voting Laws
http://www.democracynow.org/2016/4/19/millions_of_new_yorkers_disenfranchised_from(April 19, 2016)


 一方、独立または無党派の有権者たちが2016年4月19日の民主党と共和党の「非公開予備選」で投票するためには、190日以上前の2015年の10月に彼らの党員登録を変えなければなりませんでした。
 「非公開予備選」というのは、あらかじめ党員として登録しているひと以外は、立候補者に投票できない仕組みです。
 トランプ氏の子どもたちも、父親に投票するために無党派から共和党へと登録変更しようとしましたが、「190日以上前の2015年の10月に党員登録をしなければならない」仕組みの中で、やむをえず涙をのむことになりました。
 こうして、『ネイション』誌の記者アリ・バーマンによれば、このような仕組みの中で30%ちかくのニューヨーカーが、公民権を奪われたそうです。

 しかし、どの候補者がどのような意見をもっているかは、各政党候補者の論戦を聞いてからでなくては判断しようがありません。サンダース氏の意見を聞いて民主党の党員に登録し、サンダース氏に票を投じたくなっても、すでに手遅れになっているのです。
 特にサンダース氏が生まれ育ったブルックリンでは不正が目立ちました。有権者の名前が選挙人名簿から削除されていることが投票所で判明したり、自分の投票所で投票できなかった有権者の数が何万人にもおよびました。
 WNYCラジオは、ブルックリンの登録民主党員が6万人も減っていて、そのはっきりした理由はわからないと報じています。
 それどころか、ニューヨーク市選挙管理委員会は、2015 年 11 月以降、ブルックリンの 12 万 5000人以上の有権者の名前が選挙人名簿から削除されたと認めました。
 ところが、この同じ期間にニューヨークの他の地区では、民主党の党員登録数は増えているのです。
 ニューヨーク市のビル・デ・ブラシオ市長でさえ、「有権者と投票権監視人たちから、ブルックリンの選挙人名簿者には多数の誤りがみられ、中には建物ごと、あるいは 区画ごと、まるまる有権者の名が排除されていた例もあったという報告が入っている」と発表しました。

「ニューヨーク予備選:投票所が混乱、スキャナーの故障、選挙人名簿から1区画分の登録者名がごっそり消滅」
New York Primary: Chaos at Polling Sites, Broken Scanners & Whole Blocks Purged from Voter Rolls
http://www.democracynow.org/2016/4/20/new_york_primary_chaos_at_polling(April 20, 2016)


 また、自分の政党所属が理由不明のまま変更されていることに気づいたニューヨーク州民も少なくありませんでした。
 たとえば、『ニューヨーク・デイリーニュース』紙は、ジョアンナという19歳の女子学生の例を紹介しています。彼女は2014年に大学のオリエンテーション時に民主党員として登録したのですが、先週になってから無党派として登録されていることに気づいたというのです。
 そこで慌てて選挙管理委員会に電話をしたところ、「昨年の9月に所属変更手続きをして、それを書類を10月に送付してきている」という返事だったそうです。
 彼女は、「今度初めて投票権を行使するのだから、そんなバカなことはあり得ないと抗議したが、全く取り合ってくれなかった」「私はとつぜん選挙権を奪われた」と怒りの声を記者に語っています。
 このような声はニューヨークの各地から聞こえてきて、政党所属が理由不明のまま変更されていることに気づいたニューヨーク州民は集団訴訟を起こし、自分たちが投票できるように同州の「非公開」予備選を「公開」のものに変更するよう要求しました。
 彼らは、予備選当日の投票を「公開」とし、選挙人登録をしている有権者は共和党であろうが民主党であろうが、どの候補者に投票してもよいようにする訴訟を起こしたのでした。そして裁判官の緊急判決を求めたのでした。
 しかし選挙当日までに間に合うはずがありません。
 このように日本では常識となっているようなことが、「民主主義のモデル国」と称されるアメリカで実現していないことは、まさに驚きとしか言いようがありません。

 このような事例は、次にみるように、まだまだ続きます。
 たとえば、「投票所に行ったら職員が遅れてきて、投票時間に会場が開いていなかった」あるいは「投票所のスタッフが投票機を操作できなかった」なとといった苦情が900件以上もあったそうです。 
 それだけでなく、「機械が故障しているが、いつ回復するか分からないと言われた」「機械が故障しているから別の投票所に行くよう指示された」などといった苦情が、州の各地で絶えなかったようです。
 それどころか、当日になってから「別の投票所に行くよう言われた」「別の投票所に行くよう誤った指示を出され、その投票所に行っても受け付けてもらえなかった」など、つじつまの合わない情報を伝えたという事例もあります。
 もっとひどい事例は、選挙管理委員会が予備選の期日を有権者に正しく伝えず、その通知を出しなおしをしたり、予備選の期日と秋におこなわれる本選の期日と混同させるような通知を出して、通知を3回も出し直しをするというところもあったようです。
 このようにアメリカでは、まるで発展途上国の選挙と見間違えられるような光景が展開されています。とりわけニューヨーク州は選挙制度の不備が指摘されてきたところですが、似たような光景はアメリカ全土で見られると『ネイション』誌は指摘しています。
 ただしニューヨーク市は、サンダース氏が生まれ育ったところであるだけに、ここでヒラリー女史が敗北するようなことがあれば、アメリカの政界財界に激震が走るわけですから、裏で不正操作がおこなわれるよう工作された可能性も否定できません。
 だからこそ、先にも述べたように、通信社ロイター(Reuters)と調査会社イプソ(Ipsos)による世論調査で、アメリカ人の半数近くが「予備選で特定の候補者にたいして不正がおこなわれている」と感じているのでしょう。

 日本では成人に達すれば自動的に選挙権が与えられますし、投票所で混乱することもありません。ところがアメリカでは発達した資本主義国では当然とされているような民主的選挙制度が、いまだに実現していません。
 なぜこのような仕組みが維持されているのか、それは財界・支配階級が権力者として政界を牛耳るためには、なるべく選挙権を制限する必要があるためです。
 長い間、黒人に選挙権が与えられなかったのも、2大政党以外から立候補し大統領に当選することが事実上、不可能であることも、同じ理由からです。
 (現在でも、新しい選挙法で黒人は投票権を行使するのがさらに困難になったことは以前のブログ(2016/03/30)でも紹介したとおりです。)
 アメリカでは大統領候補として「緑の党」からも内科医のジル・スタイン女史が立候補しているのですが、大手メディアはそれを報道しませんから、日本人はもちろんのことアメリカ人でさえ、このことを知らないひとも少なくないのです。
 共和党ではトランプ氏に、民主党ではサンダース氏に、若者や貧困層の支持が集まる理由が、ここにあります。アメリカでは1%の富裕層に富と権力が集中し、99%の民衆は貧困層に転落して、日々の生活をしのいでいくことに苦しんでいるからです。
 民衆は不満と怒りを誰に向けて発散してよいか分かりませんから、共和党や民主党の旧支配層から離反して、その票が一方ではトランプ氏に、他方ではサンダース氏に向かうことになりました。
 トランプ氏の支持者は主として白人の貧困層ですし、サンダース氏の支持者は主として有色人種の貧困層です。

 ふつうアメリカ民主党と言えば労働組合がその支持者で、財界寄りではなく労働者寄りと見られていますが、実態はまったく違います。ヒラリー女史は、むしろウォール街のお気に入りです。
 それはCNNが「クリントン夫妻は、2001年2月から2015年5月までの間に、729回の講演で、1億5300ドルの講演料を受け取っており、平均謝礼210,000ドルだ」と報じていることからも明らかでしょう。
 上記の事実は元財務省高官のポール・グレイグ・ロバーツ氏の言によるものですが、さらに氏は次のように述べています。

ヒラリー・クリントンが民主党大統領候補となる可能性が高いことが明らかになるにつれ、彼女は更に金をもらうようになっている。ドイチェ・バンクは、一回の講演で、485,000ドル支払い、ゴールドマン・サックスは、三回の講演で、675,000ドル支払った。バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー、UBSとフィデルティ投資は、それぞれ225,000ドル支払った。
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-7ce5.html


 ヒラリー女史は同時に「戦争屋」「殺人好き」でもあります。
 アメリカとNATOが主導して、アフリカで最も生活水準が高く自由だったリビアを侵略し、その結果、カダフィー大佐が惨殺されたとき、ヒラリー女史が嬉しげに「来た、見た、死んだ」と叫んだ映像は、あまりにも有名です。

"We Came, We Saw, He Died"
https://www.youtube.com/watch?v=Fgcd1ghag5Y(動画11秒)


 先に紹介した元財務相高官のロバーツ氏は、「戦争屋ヒラリー」を 「殺し屋キラリー」「殺し屋大統領 President Killary」とも呼び、次のように述べています。

 ヒラリーは戦争屋だ。中国を東リビアの石油投資から追い払うため、CIAが支援した聖戦士集団を利用した“アラブの春”で、安定して、基本的には協力的だったリビア政府を破壊するよう、オバマ政権を押しやった。
 彼女は夫に、ユーゴスラビア爆撃を促した。彼女は、シリアでの“政権転覆”を推進した。
 彼女は、ホンジュラスの民主的に選ばれた大統領を打倒したクーデターを監督した。民主的に選ばれたウクライナ大統領を打倒するクーデターを画策したネオコンのビクトリア・ヌーランドを、国務省に引き入れたのは彼女だ。
 ヒラリーは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を“新ヒトラー”と呼んだ。大統領ヒラリーは、ますます多くの戦争を保障する。

「大統領キラリー、世界はヒラリー大統領を生き延びることができるか」
President Killary: Would the World Survive President Hillary?
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-7ce5.html


 よりにもよって、「ヒトラーと戦って大量の犠牲者を出しながらも第2次世界大戦の流れを逆転させる原動力となったソ連」の後継者プーチン氏を、“新ヒトラー”と呼ぶのですから、ヒラリー女史の倒錯ぶりはここに極まれり!と言うべきかも知れません。
 それに比べてトランプ氏の方はどうでしょうか。
 氏は、民主党からはもちろんのこと、共和党幹部からも、大手メディアからも攻撃され続けていますが、4月27日(水)にワシントンDCのメイフラワー・ホテルで演説した外交政策を見るかぎり、ヒラリー女史よりはるかにハト派なのです。
 トランプ氏は、アメリカが今までやってきた「政権転覆」「クーデター」外交を否定し、ロシアや中国を敵視する政策をやめると明言しています。「NATOを解体する」とまで言っているのですから、旧支配層が動転したのも無理はないでしょう。これでは、ますますトランプ叩きが激しくなること請け合いです。

『国内政策を優先』:ワシントンDCで、トランプが語る外交政策」
‘America First’: Trump lays out foreign policy vision in Washington speech
https://www.rt.com/search/?q=Trump(27 Apr 2016)


 トランプ氏はイスラム教徒の移民を禁止すると言っていますが、イギリス在住の有名なジャーナリストであるジョン・ピルジャーの意見では、イギリス首相キャメロン氏の意見と本質的には何も変わらないものです。
 キャメロン氏の言う「EU脱退」も、その裏の理由は「EUによる移民の割り当て」に反対だからです。オバマ氏やヒラリー女史も、やっていることは何も変わりません。EUに大量の難民が流れ込んでいるのは、リビアやシリアの内戦をつくり出したのは、当のアメリカだからです。
 またオバマ氏は、クリントン女史と一緒になって、中米ホンジュラスでクーデターを起こし、民主的に選ばれたゼラヤ大統領を放逐しました。貧困と闘い、成果を上げつつあった大統領です。しかし、いまホンジュラスは中南米で最も貧困で危険な国になっています。
 先日もホンジュラスの世界的に著名な先住民女性活動家が暗殺されましたが、それを黙認しているのもヒラリー女史ですし、このような貧困と危険が蔓延する国を逃れてアメリカにやってきた大量の移民を百万人単位で危険極まりない本国に強制送還してきたのも、オバマ大統領や元国務長官ヒラリーでした。

 ところが安倍政権は、このようなオバマ大統領やヒラリー女史と一緒になって戦争政策を推進しようとしています。日本の大手メディアも「アメリカ初の女性大統領」が誕生するかも知れないと持ち上げています。
 しかしニューヨークにおけるアメリカ大統領の予備選とその混乱ぶりをみれば、「アメリカ民主主義」なるものがいかに内実の乏しいものかがよく分かるはずです。
 トランプ氏やサンダース氏の功績は、この予備選を通じてアメリカ民主主義の空洞化ぶりが世界中にさらけ出されたことだと、『ネイション』誌の記者は述べていましたが、まさにそのとおりだと言うべきでしょう。
 と同時に、ヒラリー大統領が誕生すれば、最悪の場合、第3次政界大戦になるかも知れませんし、核戦争になるかも知れません。そして日本の戦争法案はいよいよ本格的に始動することになるでしょう。
 私たちは「英会話学習」「英語で授業」にうつつを抜かしている場合ではないのです。


<註> 上記小論の出典・根拠については明記してありませんが下記の記事を参照して書きました。ゆとりがある方は覗いてみてください。

‘America First’: Trump lays out foreign policy vision in Washington speech
https://www.rt.com/usa/341156-trump-foreign-policy-speech/(27 Apr 2016)

Millions of New Yorkers Disenfranchised from Primaries Thanks to State's Restrictive Voting Laws
http://www.democracynow.org/2016/4/19/millions_of_new_yorkers_disenfranchised_from(April 19, 2016)

New York Primary: Chaos at Polling Sites, Broken Scanners & Whole Blocks Purged from Voter Rolls
http://www.democracynow.org/2016/4/20/new_york_primary_chaos_at_polling(April 20, 2016)

Sanders' campaign condemns NY voter irregularities that leave 125k Democrats disenfranchised
https://www.rt.com/usa/340293-ny-primary-voting-problems/(19 Apr 2016)

New York cares: Primaries marred by allegations of voter fraud, suppression
https://www.rt.com/usa/340310-voter-suppression-ny-bernie-complaints/(20 Apr 2016)

27 Percent of New York’s Registered Voters Won’t Be Able to Vote in the State’s Primary
http://www.thenation.com/article/three-million-registered-voters-wont-be-able-to-vote-in-new-yorks-primary/ New York is the fourth-bluest state in the country, but has some of the worst voting laws. By Ari Berman(April 18, 2016)

Hundreds of New York state voters to file suit calling the closed primary 'a threat to our democratic system' after claiming their party affiliation mysteriously changed
http://www.nydailynews.com/news/politics/hundreds-ny-voters-file-lawsuit-alleged-voter-fraud-article-1.2603876 BY Laura Bult、NEW YORK DAILY NEWS(April 16, 2016)


世界に恥ずべき、アメリカの選挙制度―これでどうして、民主主義を世界に押し売りすることが出来るのか?

アメリカ理解(2016/03/30)、予備選挙(primary)、党員集会(caucus)、特別代議員(superdelegates)制度、有権者ID[身分証明書]法(Voter ID Law)


アリゾナ州、投票所にたどり着けずに延々と待たされる選挙民
アリゾナ州の予備選挙 56f2ba81c46188f13b8b4591_convert_20160330213236
https://www.rt.com/usa/336928-arizona-utah-voting-problems/


 アメリカでは大統領選挙の予備選が過熱しています。3月22日(火)に終わったばかりのアリゾナ州民主党予備選では、ヒラリー女史が「勝利」しました。
 しかし大都市フェニックスを含むマリコパ郡では200以上もあった投票所が、たった60に削減されています。
 その結果、投票所の前では長蛇の列ができ、いつまで経っても投票できず、5時間も待たされるひとたちが続出しました。そして投票を諦めて帰宅するひとも少なくありませんでした。
 しかも、このような状態はマリコパ郡だけではなく、州全体に及んでいます。
 これにたいして住民たちは「これは民主主義ではない!これは弾圧(suppression)だ!」と怒りの声を上げ、その怒りは州の選挙管理人に対する辞任要求にまで高まっています。
 また民主党有権者たちはオバマ大統領に「選挙不正」の調査を行うよう署名で要求したところ、二日も経たないうちに8万人を超える署名が集まりました。
 住民による10万人以上の署名が集まると、大統領はその要求に何らかの意見表明をせざるを得なくなりますが、3月29日現在で署名は20万8千794人にも達しています。
 また真相を解明するために開かれた公聴会は怒号に包まれ(3月28日)、今や怒りの声は「投票のやりなおし」を要求するにまで至っています。ヒラリー女史がアリゾナ州で勝利したといっても、このような状況の中での勝利でした。
 これは、民主党の幹部を初めとするアメリカの支配層が、社会主義者を自認するサンダース氏の勝利を阻止するためには手段を選ばないことを示す、典型的な事件ではないでしょうか。
 すでに2月9日のニューハンプシャー州でも、サンダース上院議員は、60対38パーセントでクリントン氏に圧勝したにもかかわらず、特別代議員(superdelegates)という制度に守られて、代議員数では両者は同数を獲得しました。
 「特別代議員」とは、下院議員、上院議員、州知事やその他の公選された職員などから成り、多くの場合、民主党の「エリート層」を表しています。この特別代議員数を足すと、クリントン前国務長官は代議員数でサンダース議員を大きくリードしているのです。

 日本の大手メディアでは、アメリカ民主党は進歩層や労働者階級を代表しているかのように報じられていますが、上で見てきたように、その実態は日本の民主党と同じく経済界・金融界の利益を代弁するものとなっています。
 つまり民主党の政策は、共和党とほとんど変わらなくなってしまっていて、それにたいする民衆の反発が、共和党ではトランプ氏、民主党ではサンダース氏への、「若者や民衆の圧倒的支持」になって表れているわけです。
 今ではアメリカの大手メデイアはトランプ叩きに奔走するようになっていますし、サンダース氏の政策や演説は無視するか報道しない姿勢で一貫しています。
 それにもかかわらずサンダース氏は、3月26日のワシントン州の党員集会(一般代議員数101)で、73%の得票率で勝利したほか、アラスカ州(同16人)では82%、ハワイ州(同25)でも70%の得票で圧勝しているのです。
 これはアメリカの一般民衆の怒りや不満がいかに深刻かを示しています(チョムスキーはアメリカの2大政党を「胴体がひとつで頭がふたつの怪物」と言っていますが、その怪物の両足はウォール街で踏ん張っているわけです)。

 つまりアメリカでは特権階級・エリート層の利益を守るための仕組みが強固に組み立てられているのです。そのひとつが投票所の削減ですし、もう一つは火曜日という投票日の設定です。
 投票日を日曜日に設定しておけば仕事を休まなくても投票に行けますが、家庭の主婦以外は平日は仕事がありますから、火曜日では投票権という極めて重大な権利を行使するには極めて不便です。
 つまり一般民衆が投票しにくい曜日にわざと投票日が設定されているのです。
 これは「投票権」についても言えます。日本では成人に達すれば誰にでも投票権が与えられますが、アメリカではわざわざ選挙人登録をしなければなりません。しかも、この登録をする際、黒人にたいしては特別の試験をするなど様々な妨害行為をしてきたことは歴史が証明しています(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』第17章、第7節を参照)。
 最近では、この「投票権」に、また新しい障害が設定されました。たとえばノースカロライナ州では新しい法律で、投票所に行った際に身分証明書を提示しなければならなくなりました。
 その身分証明書として「学生証」「公務員証」「生活保護証」(これらは主として黒人などの貧困層がもって身分証)は認めてもらえません。
 他方、「運転免許証」「旅券証パスポート」「70歳以上の高齢者の、期限の切れた身分証」(これらは主として白人がもっている身分証)は、投票所では受け付けてもらえます。
 アメリカは車社会ですから誰でも運転免許証を持っているように思われていますが、黒人などの貧困者は、むしろ車を持っていないのが普通です(最近は日本の若者も車を持てなくなってきました)。
 また車を持っていなくても車を借りて運転免許証をとることは可能ですが、これは車を持たない貧困者には非常に難しい仕事です。また自分の住んでいるところからはるかに遠方の事務所まで行かなくては選挙人登録ができません。 
 このように新しい法律をつくって「投票権」を制限する動きはアメリカ全土に広がってきています。たまりかねてNAACP(全米黒人地位向上協会)は、国連の人権委員会に提訴しましたが、このような事実は、日本ではまったく知らされていません。
 いずれにしてもアメリカでは支配層・特権リートの利益を守るための仕組みが二重にも三重にも張り巡らされています(日本ではそのような仕組みのひとつが「小選挙区制」になっています)。

 以上みてきたように、アメリカ政府は世界に向かって「民主主義の騎手」であるかのように振る舞い、「民主主義をプレゼントする」と称して世界のあちこちにクーデター(政権転覆)を起こして、中東や中南米に殺戮を繰り広げ何百万という難民を激増させてきました。
 そして、このアメリカの政策を後押しするために日本では「戦争法」や「機密保護法」が着々と準備され、今や自衛隊が海外に大手を振って出かける準備が完了しました。そのために莫大な予算が必要となり、その結果が大幅増税と福祉・教育予算の削減となって私たちに襲いかかってきています。
 だからこそ私たちはアメリカの真の姿を知る必要があります。そのために必要なのは「ザルみず効果」に終わる英会話学習ではありません。政府や大手メディアによって隠された情報を、英語という武器を使って、読み取ることのできる読解力こそ、いま最も求められている英語力と言うべきでしょう。


<註1> 私の言う「ザルみず効果」とは、いくら憶えても使う機会のない会話表現は、すぐ忘れてしまう事実を指しています。ザルに水を入れる作業に似ています。ではどのような英語学習が効果的か。これについては拙著『英語教育原論』『英語教育が亡びるとき』『英語で大学が亡びるとき』(いずれも明石書店)で詳述しました。興味と時間がある方は参照ください。


<註2> 上で述べたアメリカの選挙事情については、いちいち出典を明記しませんでした。詳しいことを知りたい方は下記を御覧ください。これを見ただけでも、政府や大手メディアによって隠された情報を知るためには、いかに読解力が大切かを理解していただけることと思います。

「これは『国家の恥』だ:アリゾナ州・ユタ州で投票妨害、『西部の火曜日』で投票者が長蛇の列」
'National disgrace' : Barred voters, hours-long lines plague Arizona & Utah during 'Western Tuesday'
https://www.rt.com/usa/336928-arizona-utah-voting-problems/(23 March, 2016)

「アリゾナ州、火曜日の予備選挙では州全体で投票者への弾圧・抑圧」
Arizona: Widespread Reports of Voter Suppression in Tuesday's Primary
http://www.democracynow.org/2016/3/24/headlines(March 24, 2016)

「フェニックス市長が民主党に予備選挙の調査を要請、有権者が『不正選挙』だと抗議」
Phoenix mayor urges DOJ to probe Arizona primary after voters claim ‘election fraud’
https://www.rt.com/usa/337130-phoenix-mayor-doj-arizona-election/(25 Mar 2016 )

「アリゾナ州で天王山の闘い、不正選挙をめぐる公聴会で大荒れ」
Showdown in Arizona: Voter fraud hearing gets wild
https://www.rt.com/usa/337496-arizona-primary-hearing-recess/(29 Mar, 2016)

「サンダース氏がワシントン、アラスカ、ハワイの3州で大勝利、大手メディアは沈黙」
Bernie Sanders Wins Landslides in Washington, Alaska and Hawaii; Corporate Media Downplays Them
http://www.democracynow.org/2016/3/28/bernie_sanders_wins_landslides_in_washington(March 28, 2016)

「ノースカロライナ州『有権者ID(身分証明書)法』が発効、黒人や若者への異常な投票妨害」
North Carolina Voter ID Law Takes Effect, Disproportionately Bars Blacks, Young People from Polls
http://www.democracynow.org/2016/3/16/north_carolina_voter_id_law_takes(March 16, 2016)

「ヒラリー・クリントンの大勝利、大手メディアはサンダースの選挙運動を口封じへ」
Hillary Clinton Has Big Night; Media Moves to Silence Bernie Sanders Campaign
http://www.democracynow.org/2016/3/16/hillary_clinton_has_big_night_media(March 16, 2016)


<註3> アリゾナ州の予備選挙について、サンダース氏は次のように語っています。
 「アメリカで民主主義は私たちが生きてゆく土台にあるものだ。人びとは投票するのに5時間も待つべきではない。アリゾナ州で起きたことは国の恥だ。すべての州がこのことから学んでほしい。どうすれば正当な選挙ができるか、どうやったら自分の時間に合わせて投票をすませ仕事に戻れるか、学んでほしい。」
 Sen. Bernie Sanders: "In the United States of America, democracy is the foundation of our way of life. People should not have to wait five hours to vote. And what happened yesterday in Arizona is a disgrace. I hope that every state in this country learns from that and learns how to put together a proper election, where people can come in and vote in a timely manner and then go back to work." 
http://www.democracynow.org/2016/3/24/headlines(March 24, 2016)



翻訳 「暴力、それはアメリカの生活様式だ」

禁酒法、麻薬戦争、先住民ピクォート戦争、南北戦争、ロシア皇帝アレキサンダーⅡ世、農奴解放23万人、スメドレー・バトラー将軍、アメリカ理解(2015/10/07)

Umpqua Community College shooting aftermath Candle-light vigil
オレゴン州公立短大における銃暴力の犠牲者を見送る通夜参加者

オレゴン、銃暴力
https://www.rt.com/in-vision/317404-ucc-shooting-oregon-tragedy/

 さる2015年10月1日、オレゴン州のコミュニティカレッジで銃器で武装した男が9人を射殺後、警察との銃撃戦のなかで自殺しました。
 CNNによると、この銃乱射事件の実行者(クリス・ハーパー・マーサー26歳)は、拳銃3丁、ライフル1丁で武装し、防弾着を着用していました。
 銃乱射によって「4人以上の死傷者を出した事件」を追跡・記録している団体「Mass Shooting Tracker, 」による調査では、この事件は2015年(10月1日現在)に起きた294件目の銃乱射事件であり、学校もしくは大学構内で発生したの銃撃事件としては45件目にあたります。
 この調査では、4人以上の死傷者が出す事件は9ヶ月で294件ですから「1ヶ月で約33件」、すなわち毎日アメリカのどこかで銃乱射事件が起きていることになります。しかも、この数値は「4人以上の死傷者を出した事件」しか記録していませんから、1人以上の死傷者が出た事件は、これよりはるかに多いことになります。
 (その証拠に、以下で紹介する翻訳「暴力、それはアメリカの生活様式だ」では、「殺人はアメリカで毎日平均87回も起きている。戦争のためアフガニスタンに行くほうが、シカゴで暮らすより危険ではない」と述べています。)
 そのうえ、この9ヶ月で「学校もしくは大学構内で発生した銃撃事件としては45件目」ということですから、「1ヶ月に5件」すなわち毎週どこかの学校または大学で銃乱射事件が起き、4人以上の死傷者が出ていることになります。
 他方、オバマ大統領は、この事件を受けて、「銃乱射事件が日常化している。事件報道もいつものこと。この演壇での私の反応も、いつものこと。事件後にかわされる会話もいつも同じ。我々はマヒしてしまっている」と述べ、国民に銃規制を呼びかけました。
 しかし、この呼びかけは中東の一般民衆にとっては、非常に空々しく聞こえるのではないでしょうか。というのは、アメリカが「911事件」を口実に、アフガニスタンを爆撃し、それに引き続き今度は「大量破壊兵器」という嘘を口実にイラクを爆撃し、さらに「独裁者打倒」を口実に戦火はリビアに拡大して、連日の空爆はリビアを瓦礫に変えました。
 これにも懲りずオバマ氏は戦火をシリアやイエメンにまで拡大しましたが、ここで口実は「独裁者打倒」でした。しかも、これらの爆撃・戦闘で毎日どれだけの人が殺され、どれだけの人が難民となったでしょうか。EUになだれ込んだ大量の難民は、その一部にすぎないのです。
 他方、アメリカの盟友であるサウジアラビアなどの「王制独裁国家」「イスラム原理主義国家」と違い、イラクもリビアもシリアも「世俗国家」であり、「独裁者」が支配していたはずの国家は、じつは女性でも自由に無料で大学に行くことができた国でした。このような国をアメリカが戦闘で破壊し、中東に血の雨を降らせ続けてきました。
 いま話題になっている「イスラム国IS」も実は、(詳しい説明は省きますが)アメリカの盟友であるサウジアラビアなどの「王制独裁国家」「イスラム原理主義国家」が裏で資金援助をしながら勢力を拡大して出来あがったものでした。
 チョムスキーが「世界の誰もが知っている、アメリカは世界最強・最悪のテロ国家だ」と言い続けてきたのは、こういう背景があったからです。
チョムスキー「世界の誰もが知っている、アメリカは世界最強・最悪のテロ国家だ」
 そこで以下に、退職した大学教授ジョン・コーズィ氏による小論「暴力、それはアメリカの生活様式だ」を紹介したいと思います。チョムスキーとは違った切り口でアメリカを論じているからです。上記の拙訳によるチョムスキー論文と比較しながら読んでいただければ幸いです。

<註> ジョン・コーズィは哲学・論理学の元教授で、退職した今は社会的・政治的・経済的な諸問題について健筆をふるっている。朝鮮戦争中にアメリカ陸軍に服したあと、州立大学教授として20年間をすごし、退職後の20年間は作家として働いている。形式論理学の教科書を公刊し、学術誌や商業雑誌にも執筆している。また新聞のゲスト論説をたくさん書いてきた。彼の論説は下記サイトで読むことができるし、そのホームページから彼宛にメールを送ることもできる。
http://www.jkozy.com/


人口10万人あたりの銃による殺人、アメリカは断トツの世界一銃暴力 世界ランキング アメリカ USGunViolenceTrends_Chart1
http://everytownresearch.org/us-gun-violence-trends/?source=ggnp_EverytownBrand



暴力、それはアメリカの生活様式だ
Violence: The American Way of Life
By John Kozy、Global Research, November 15, 2013
http://www.globalresearch.ca/violence-the-american-way-of-life/5318698


 アメリカ合州国は暴力によって身ごもり、暴力によって養育された。
 アメリカ人は暴力に手を染めているだけでなく、暴力を楽しんでさえいる。
 殺人はアメリカで毎日平均87回も起きている。戦争のためアフガニスタンに行くほうが、シカゴで暮らすより危険ではない。
 ローマ人は殺人を観劇するためコロシアムに出かけたが、大都市のアメリカ人は窓の外を眺めるだけでいい。かつて野球はアメリカの国技だったが、温和で退屈なスポーツなので、アメカンフットボールのような、選手の脳を破壊するほど獰猛なスポーツに取って代わられてしまった。暴力映画は「アクション映画」と呼ばれ、映画館とテレビを支配している。子どもたちもビデオ殺人ゲームを楽しんでいる。
 だから 銃規制でアメリカを奇跡的に平穏な国へと変えることができるなんて、本当に信じられるかね?銃の製造と使用を非合法化することでアメリカ人を平和愛好者にできるなんて、本当に可能かね?文化は法律では変えられない。変化は何世代にもわたる息の長い努力が必要だ。アメリカ人にそんな仕事が務(つと)まるかい?

 キャリー・アミリア・ムーア・ネイション(Carrie Amelia Moore Nation)は、1846年11月25日に生まれた。後に彼女は禁酒運動の過激な一員となった。彼女は、「主キリストの足元を走りまわり主がお好みにならないものに吠えかかるブルドッグ」と自称し、酒場の破壊を禁酒推進の聖なる儀式だと言い張った。禁酒運動を始めたのは、[1874に28歳で再婚し][1889年に]カンザス州メディスンロッジへ移住したあとのことだった。
 そこで彼女は、女性キリスト教徒禁酒同盟(the Woman's Christian Temperance Union)の地方支部を開設し、酒販売禁止令を実行するようカンザス州に求める運動を始めた。彼女は酒場を破壊するということで悪名をはせようになった。しばしば賛美歌をうたう女性たちと楽器演奏者を伴って酒場まで行進していき、うたいながら祈りを捧げながら酒場の備品や酒の在庫を斧(おの)でたたき割った。
 この「斧による破壊」で彼女は1900年から1910年のあいだに30回ほど逮捕された。彼女は、1911年6月9日に亡くなり、ミズーリ州ベルトンで埋葬された。墓には墓標がなかったので、のちに女性キリスト教徒禁酒同盟は石碑を建て、こう記した。「禁酒法を制定させた篤信者。彼女は自らの為し得ることを為した」。もう8年長生きしていたら彼女は禁酒がアメリカの国法となるのを見たであろう。

 しかし、もちろん長続きはしなかった。禁酒法は1933年12月5日に廃止されたからだ。ほんの14年間つづいただけだった。そして決して社会に有益な影響を与えなかった。それどころか、アメリカに犯罪組織(マフィア)を根づかせる手助けをしただけだった。
 しかしアメリカ人は容易に断念はしない。この知識人なんかいらないとする社会(だから、もっと科学者が必要なんだと言われている国)では、非科学的な慣習がはびこっている。だから、役に立たないと分かっているものが何度も何度もくりかえされる。ニクソン政権が1871年に麻薬戦争を宣言したのも同じ理由だ。
 それから50年後のいま麻薬戦争の塹壕(ざんごう)の壁はまさに崩れはじめている。麻薬禁止というこの長期にわたる努力も、まったく功を奏せず、社会にたいして何の益もなかった。それどころか国内と国外で何千人もの死者をうみだし、数えきれない若者の命を奪うことになった。同時に大量のお金を浪費した。禁酒法がそうであったように、麻薬戦争も、国際的犯罪カルテルの蔓延(まんえん)を助長しただけだった。
 科学的気質をもつ人なら効果がないと放棄するはずのことを、アメリカ人は驚くほどの熱意をもって実行に移してきた。愚劣だと考えるひとが一人くらいはいてもよさそうだが、一人もいない。群衆はふたたび騒ぎたてている。今はその対象が銃だ。

 ただし誤解のないように。私は銃をもっていない。というのは、文明国に住んでいる人に銃が必要だという理由が、私には思いつかないからだ。銃にはただひとつの目的しかない。人殺しだ!文明人には人殺しをする必要も理由もない。もし銃が自己防衛に必要だというなら、その国は国内に平安を保障するという基本的機能において失敗・破綻しているのだ。(合州国憲法を読んでみたまえ!)それさえ提供できない国は完全に失敗国家・破綻国家だ。銃の所持を強固に主張する人がいるという事実が、アメリカ人の性格とアメリカ国家の破綻について、多くを物語っている。銃について論じる以前の問題だ。
 しかし、もう一つの禁止[銃規制]を試みるということがアメリカにおける暴力になんら意味ある効果をもたらさないとしても、何かをしているという気休めにはなるだろう。銃規制法を「気分のいい」法だという人もいた。たぶんそうだろう。「気分の良い」法は「気分の悪い」法よりは良いに決まっている。そして銃規制に反対する充分な理由などないことも分かっている。しかし私が反対しているのは、銃規制さえすればアメリカ社会における暴力が著しく減少するんだという能天気な楽観主義なのだ。銃がアメリカの暴力の原因ではない。アメリカ社会の暴力性が銃偏愛の原因なのだ。

 アメリカ合州国は暴力によって身ごもり、暴力によって養育された。アメリカを植民地にしたヨーロッパ人は寛大だったわけでも文明的だったわけでもない。ヨーロッパ社会の屑だったのだ。そして互いに軽蔑し合っていた。マサチューセッツの、まったく不潔きわまりない(totally impure) 清教徒たち(Puritans) は、ペンシルベニアのクエーカー教徒とメリーランドのカトリック教徒を軽蔑していた。
 ピクォート戦争で英国の入植者たちは、ジョン・メイソンに命令されてミスティック川の大きなピクォート村に夜襲をしかけ、住民を家ごと焼き払い、生き残ったひとたちもすべて殺した。控えめな見積りでも、ヨーロッパ人の植民以前のアメリカの人口は、一千二百万人を超えていた。四百年後には、その数は二三万七千人まで減少させられた。四百年もの間、先住民にたいして絶え間のない暴力がふるわれ、その暴力はいまだに続いている。

 エイブラハム・リンカーンは偉大なる奴隷解放者として崇(あが)められているが、南北戦争で約七五万人のアメリカ人が殺された。戦争以前には耳にしたこともないような暴力によって、奴隷解放がおこなわれた。これとは対照的に、しかも同じ頃、ロシアの専制皇帝アレキサンダーⅡ世は、たった一人も殺さないで、二三万人以上の農奴を解放した。あの忌々しいロシアの専制君主が!
 南北戦争の後、アメリカ人は辺境地をひたすら突き進んで太平洋に至った。それを銃で使ってやったのだ。ウィンチェスターモデル1873自動連発銃とコルト連発ピストル1873「ピースメーカー」(平和をつくる!という名の銃だ!)は、俗に「西部を手に入れた銃」として知られている。西洋からやって来た植民者の手に握られ、圧倒的な役割を果たしたわけだ。こうしてアメリカ人はミシシッピから太平洋まで銃を撃ちまくって西進したのだ。

 アメリカの外交政策は何十年もの間、ほとんどが軍事的火遊びの連続だった。つまり砲弾外交だ。いま銃は、無人爆撃機(Drone)とそれから発射される弾丸、あるいはヘルファイア[地獄の火]ミサイル(=短距離空対地ミサイル)へと代わった。
 アメリカで名誉勲章を二度も受けた将軍はたった二人しかいない。そのうちのひとりがスメドレー・バトラー将軍(1881-1940)だ。その彼が次のように書いている。

「在職のあいだ私は、大企業、ウォール街、銀行などの最高級用心棒として時をすごした。要するに私は、資本主義に奉仕する恐喝者でありギャングの一員だった。
 ・・・1914年に私はメキシコとくにタンピコで、アメリカ石油業界が安全に動けるよう手伝った。ハイチとキューバを、ナショナル・シティバンク行員たちが収奪しやすい場所にするよう手伝った。私はウォール街の利益のために、中央アメリカで六つの共和国の略奪に手を貸した。恐喝の記録は長い。
 私は1909年から1912年にブラウン・ブラザーズという国際的投資銀行のために、ニカラグアの浄化を手伝った。1916年には、アメリカ砂糖会社のために、ドミニカ共和国に焦点を当てた。中国では、スタンダード石油会社が思いどおりにできるように手伝った。」


 もちろん今は、中東と東南アジアを「民主主義のために」「安全な国」にするために銃を使っているが。
 しかしながらアメリカのこのような暴力的試みは、いま功を奏していない。

 暴力はこの国の文化に浸透している。アメリカ人は暴力に手を染めているだけでなく、暴力を楽しんでさえいる。アメリカでは毎日、太陽が昇るよりも頻繁に殺人が起きている。今では毎日の平均が87回だ。アフガニスタンの戦場に行くほうが、シカゴで暮らすより安全だ。
 だからほんとうに信じられるかね? 銃規制でアメリカを奇跡的に平安な国へと変えることができるなんて。ほんとうに信じられるかね? 武器の製造と使用を非合法化することで、アメリカ人を平和愛好者にできるなんて。文化は法律では変えられない。法律の唯一の機能は復讐を正当化することだ。歴史の記録を見るかぎり、何かを減少させるつもりで制定された法律で、それを根絶させた例はない。有史以来、[マグナカルタのような]最も古い[人権]宣言でさえ今や死語とさせられ効力を失ってしまっている。それが現状だ。だから実のところ、法律に基づいた社会とは無法社会のことなのだ。

 アメリカ社会が暴力的なのは、銃のせいではない。アメリカ人の生き方のせいなのだ。ヨーロッパ人が最初に南北アメリカにやって来たとき、新世界を発見したと考えた。しかし彼らが発見した土地には、すでに独自の生き方・生活様式をもった人々が住んでいた。不寛容なキリスト教徒にとって暴力の使用は不可欠だった。ヨーロッパの欲しい地域をローマ人が略奪したのと同じように、移住したヨーロッパ人は南北アメリカを略奪した。暴力は彼らの骨の髄までしみこんでいる。今日のアメリカ人はその遺伝子を受けついでいるのだ。
 全米ライフル協会(NRA)のスポークスマン、ウェイン・ラピエール(Wayne LaPierre)は言った。「銃を持つ悪人を阻止できるのは、銃を持つ善人だけだ」。そう言っている彼こそが銃を持つ悪人なのだということを、誰かが教えてやらねばならない。
 だから、銃の拡散を規制する法をつくるのはたしかに結構だが楽観は禁物だ。そんな法は助けになるかもしれないが当てにはならない。アメリカ人の性格を変えることができないかぎり我々の粗暴さは自らを絶滅させてしまうまで続く。だから**に従って生きよ。おっと、この**が何かは言わずとも知れたこと。文化は極めて変え難い代物(しろもの)だから、それを変えるには何世代にもわたる息の長い努力が必要だ。アメリカ人にそんなことができるのかね?


<註1> ところが安倍政権は、大学入試にTOEFLというアメリカ留学用の外部試験(しかも約2万円という高額の受験料)を用いるよう文科省に強い圧力をかけ、同時に「留学生倍増12万人」計画なる政策を打ち出して、このような危険きわまりない国、毎日87件も殺人事件が起きているアメリカに日本の若者を大量に送り込もうとしているのです。

<註2>  しかも、安倍政権は、世界最大の武器輸出国であり海外でも銃を乱射して病まないアメリカと一緒になって集団的自衛権を行使すべく、強引に「戦争法案」を可決させたのでした。これでは「日本人の命を守る」どころか逆に「危険にさらす」ことになるでしょう。その証拠に、早くもバングラディシュで、「イスラム国IS」による犠牲者が出ました。

<註3> 上記で引用されているバトラー将軍の詳しい陳述は下記の拙訳にあります。参照いただければ幸いです。
 スメドレー・バトラー『戦争はペテンだ』
 『肉声でつづる民衆のアメリカ史』明石書店、2012、上巻、第12章、第4節、

また翻訳「暴力、それはアメリカの生活様式だ」は単独で「寺島研究室、翻訳コーナー」にPDFファイルとして掲載されています。
http://www42.tok2.com/home/ieas/translation_index.html
http://www42.tok2.com/home/ieas/ViolenceTheAmericanWayOfLife.pdf



元司法長官エリック・ホルダー、ウォール街と政界との「回転ドア」人事

「回転ドア」、the Revolving Door、元司法長官エリック・ホルダー、Eric Holderアメリカ理解(2015/07/09)
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U.S. Attorney General、Eric Holder
Holder.jpg
http://rt.com/usa/272050-justice-dept-possible-deal-snowden/

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 共同通信(7月6日)によれば、このたび司法長官を辞任したエリック・ホルダー氏は、司法省長官となる前の8年間に勤務していた法律事務所(コビントン&バーリングCovington & Burling)に復帰します。
 コビントン法律事務所の顧客リストには、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、シティグループなど、金融危機における役割に対しホルダーが司法長官として訴追を怠った大手銀行の多くが含まれています。
 つまり、あれだけ世界を大混乱におとしれた金融危機の張本人は、誰一人として牢屋に入っていません。それどころか政府から手厚い資金援助を受け、経営者は倒産どころか巨額のボーナスを手にしています。
 いま世界中の話題になっているギリシャの金融危機も、もとをただせばアメリカの巨大金融会社ゴールドマンサックスが当時のギリシャ政府に不正な会計帳簿のしかたを伝授してギリシャ国債を食いものにしたことに端を発しています。ギリシャ国民は、そのつけをいま払わされているわけです。

 ところで、コビントンCovington法律事務所に勤務中のホルダーの顧客は、超富裕層への脱税指南で有名になったスイスの巨大銀行UBS、バナナなどの果物産業で有名なチキータ(元のユナイテッド・フルーツ)を含んでいます。
「UBSは脱税者名を開示せよ」ニューヨーク・タイムズ、2010年6月17日
http://www.worldtimes.co.jp/wtop/paper/html_fr10/sr100621.html
 アルベンス政権以前のグアテマラでは超富裕層が全人口の3%が国土の70%を所有しており、著しい貧富の格差がありました。しかしユナイテッド・フルーツ社は農園経営においてグアテマラの超富裕層と結託していました。
 グアテマラで1954年に新政権が誕生したとき新大統領アルベンスが選挙の公約どおり大規模な農地改革を実行しそうなのを見て、既得権益を失うことを恐れたユナイテッド・フルーツ社はCIAと手をつないでクーデターをおこない、その後に軍事独裁政権を据えました。

 それはともかく、エリック・ホルダー氏は、コロンビア大学ロースクールを卒業したあと、2001年にCovingtonに入社する前まで、コロンビア地区連邦検事などの司法畑を歩いてきたわけですから、これほど見事な「回転ドアthe Revolving Door」「公職と民間企業を行ったりきたりする」人事はないでしょう。
 ローリング・ストーン誌の辣腕ジャーナリスト、マット・タイビ氏は「銀行家の投獄を拒み続けた元司法長官エリック・ホルダー氏の人事は、われわれがこれまで目にしてきた中でも最大級の回転ドア人事だ」と言っています。
Matt Taibbi: Eric Holder Back to Wall Street-Tied Law Firm After Years of Refusing to Jail Bankers
http://www.democracynow.org/2015/7/8/eric_holder_returns_to_wall_street
 しかし、このような人物を司法長官に選んだのはオバマ氏ですから、これを見ただけでも今のアメリカ政界が、チョムスキーの言うように「胴体が一つで頭が二つ」の怪物であることがよく分かります。民主党であろうが共和党であろうが大差ないのです。
 エリック・ホルダー氏の「回転ドア」ぶりを見れば、しかもホルダー氏を任命した大統領がハーバード大学ロースクールを卒業し元シカゴ大学で教えた憲法学者だったのですから、アメリカ国民が政治に絶望しているのも無理はありません。

 しかしだからこそ、ギリシャの緊縮財政に反対する民衆運動はアメリカの国民に新しい希望を与えてくれたのでしょう。
 というのは、社会主義者を公言しているバーニー・サンダース上院議員(これまでは無所属)が民主党の大統領候補として立候補し、先週、ウィスコンシン州のマディソンで演説したとき、1万人以上の聴衆を集めたからです。
 この数は、ヒラリー・クリントンを追い抜いて、2016年の大統領選の候補者がこれまで集めた最大の聴衆数です。
 さらに今週の7月6日、サンダースはメイン州のポートランドで9000人の前で演説して、次のように述べています。そして、このサンダース氏の「緊縮政策反対」の立場は有権者の共感を呼んでいます。
 「ギリシャ国民が、貧困者、子供・病人・老人に対するさらなる緊縮に『ノー』と言ったことを称賛する。巨大な富と所得の大きな不平等があるこの世の中に、より多くの失業と苦しみではなく、より多くの仕事と収入を生み出す経済を作ろうとしているギリシャの取り組みをヨーロッパは支援するべきだ。」
A Socialist Surge in the U.S.? Bernie Sanders Draws Record Crowds, Praises Greek Anti-Austerity Vote
http://www.democracynow.org/2015/7/7/sen_bernie_sanders_self_described_socialist

 安倍政権は消費税を上げ、福祉・医療・介護などの予算を大幅に削減して、弱者に緊縮財政を強要する一方、富裕層や大企業には減税し、アメリカと一緒になって戦争するための軍事予算を拡大することのみに熱心です。
 私たちもギリシャの運動からエネルギーをもらう必要がありそうです。

黒人教会の殺害事件ーアメリカに吹き荒れる銃暴力、広がるネオナチ・右翼過激派

銃暴力(Gun Violence)、南部最古の黒人教会、「テロリスト」の定義、ネオナチ・極右過激派、アメリカ理解(2015/06/28)
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アメリカにおける銃暴力による死傷者
*死傷者(毎年平均、全年齢) 10万8476人、うち死者32,514人
*死傷者(毎年平均、0ー19歳) 1万7499人 、うち死者2,677人
*死傷者(毎日平均、全年齢) 297 人、うち死者89人
*死傷者(毎日平均、0ー19歳) 48人、うち死者7人
出典:Key Gun Violence Statistics
http://www.bradycampaign.org/key-gun-violence-statistics
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アメリカで広がるネオナチ・極右勢力の暴力
犯罪大国アメリカ 銃暴力 ネオナチや極右勢力
http://rt.com/usa/270142-white-americans-terror-threat/

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 さる2015年6月17日午後9時過ぎに、白人至上主義の若者ディラン・ルーフが、サウスカロライナ州チャールストンの歴史的黒人教会内で銃を乱射し9人を殺害し、複数を負傷させました。
 事件が起きたとき被害者たちは「エマニュエルAME(アフリカン・メソジスト監督派)教会」で聖書勉強会に出席していました。被害者には、同教会の牧師で同州上院議員を務めるクレメンタ・ピンクニー師、およびその姉妹も含まれます。
 6月20日に見つかった「最後のローデシア人」(The Last Rhodesian)というウェブサイトには、南部連合〔南北戦争で敗北した南部諸州の同盟〕の史跡で撮られたルーフの写真と、彼が書いたと思 われる約2500 字の決起の理由を説明した犯行声明文が掲載されています。
 その場で犯行をやめさせようとして生き延びた目撃者の話では、ディラン・ルーフは「この教会が黒人にとって歴史的にも由緒ある教会だから攻撃場所として選んだのだ。ニューヨークの黒人街ハーレムで黒人をたくさん殺しても意味がない。黒人は白人女をレイプしている。このままではアメリカは黒人に乗っ取られてしまう」という意味のことを言ったそうです。
 「マザー・エマニュエル」として知られる同教会は、ボルティモア以南の黒人教会としては最も古い歴史をもっています。この教会は19世紀はじめにその基礎が築かれ、その設立にはデンマーク・ヴィーシーという名の、後に奴隷蜂起を組織したとして処刑された解放奴隷も関わりました。同教会は1820年の奴隷蜂起の際に焼き落とされ、1872年に現在の場所に再建されました。
 ところが、アメリカの大手メディアも、この事件を報道するのに「テロリスト」ということばをいっさい使っていません。
 アメリカ政府が自ら掲げている「テロ」の定義からすれば、白人至上主義の若者ディラン・ルーフの行為は明らかに「テロ」そのものですが、不思議なことにFBI長官もこの事件の犯人を「テロリスト」と呼ぶことを拒否しています。<註1、2>
 黒人やイスラム教徒が何かをすれば必ず「テロリスト」と呼ばれるのに、白人が大量殺戮をしても「心に病をもった若者」といった表現が使われるだけだと、ペンシルバニア大学のアンシア・バトラー助教授(宗教学・アフリカ学)は『ワシントンポスト』紙の下記論文で憤っています。<註3>
 要するにアメリカ政府に抗議したり敵対する人々は「テロリスト」と呼ばれるわけです。自然環境保護運動の活動家すら、FBIによって監視され、「環境テロ活動」「環境テロリスト」と呼ばれるアメリカですから、当然のことかもしれません。(ところがネオナチや極右勢力は、どうも愛国者として扱われるようです。)

ところで、この銃乱射事件を受け、オバマ大統領は 次のように銃規制への行動を国民に呼びかけました。<註4>

これまでにも同じようなことを何度も言わねばなりませんでした。アメリカでは今までにも、このような町で、このような悲劇をあまりにも多く体験してきました。この事件の全容はまだ分かりませんが、分かっていることがひとつあります。それはまたもや無実の人たちが殺されたということです。このようなことが起きるひとうの原因は、ひとを傷つけたいと思っているひとに銃が簡単に手に入るということです。今は喪に服すときですが明らかにしておかねばならないのは、このような大量殺戮がほかの先進国では決して起きていないということです。ほかの先進国では、こんなに頻繁に、このような事件は起きていないのです。

  しかし、この演説を聴いて私はオバマ氏の厚顔ぶりにやや唖然としました。イラク、アフガニスタン、リビア、シリア、イエメン、ウクライナ(とくに東ウクライナ)などにすむ民衆には、このオバマ氏の演説はどのように響いたでしょうか。
 オバマ氏は上の演説で、「この事件の全容はまだ分かりませんが、分かっていることがひとつあります。それはまたもや無実の人たちが殺されたということです」と言いました。
 中東や東ウクライナなどでは、大統領命令によって、無実のひとが無人爆撃機で大量に殺されているのですが、どうもオバマ氏の目には、そのような大量殺戮は存在しないかのようです。
 オバマ氏も司法長官だったエリック・ホルダー氏も「暗殺リストおよびその証拠を出す必要はない」「テロリストでないという証拠は、殺されなかったという事実だけだ」「無人機で殺された人はテロリストだったからだ」という驚くべき発言をしています。
 チョムスキーは「無実の人をひとり暗殺すればテロリストは10人増える」という趣旨の発言をしていますが、オバマ氏はこのような事実を無視して(あるいは放置して)国民に銃規制を呼びかけているのです。しかも自分は外国に大量の爆撃機や重火器を売りまくっているのですから、信じがたい言動と言わねばなりません。
 さらにオバマ氏は上記の演説で、「このようなことが起きる一つの原因は、ひとを傷つけたいと思っている人間に銃が簡単に手に入るということです」と言っています。
 しかし、いま大きな話題にのぼっているIS[イスラム国]の残虐行為を裏で支援しているのはイスラエルやサウジアラビアなどの王政独裁国家ですが、その国に武器を売りまくっているのはどの国なのでしょうか。
 イスラエルがパレスチナのガザ地区を何度も猛爆撃して大量殺戮をおこない、病院や学校までも破壊して広い地域を瓦礫に変えました。アメリカ寄りの国連でさえ戦争犯罪と言い始めました。が、この爆撃機や重火器を提供しているのはアメリカです。
 最近でもサウジアラビアがイエメンを猛爆して同じような大量殺戮をおこないましたが、サウジに最新鋭の爆撃機を提供したり空中給油をしているのもオバマ政権です。オバマ氏は、イエメンにアメリカ国籍のひとが多く取り残されているにもかかわらず、彼らを脱出させるのではなく、サウジの攻撃を支援し続けました。
 ウクライナのクーデターを裏で支援し、ウクライナ政府軍のネオナチや極右勢力が東ウクライナで殺戮を繰り返していても、オバマ政権はそれを知らないふりをして米軍特殊部隊を大量に送り込んでウクライナ政府軍の訓練を続けました。

 このような事実を書き連ねるときりがないので、このへんで止めたいと思いますが、サウスカロライナ州チャールストンの黒人教会における殺戮事件にかかわって、ここで一つだけ書いておきたいことがあります。
 それは、オバマ氏やFBI長官が犯人を「テロリスト」と呼ばなかっただけでなく、国内のネオナチや極右勢力を放置してきたという事実です。これはオバマ氏がウクライナにおけるネオナチや極右勢力を放置してきた事実とぴったり符合するものです。
 オバマ政権はイスラム教徒だけに焦点をあてて監視していますが、「ニュー・アメリカ研究センター」の新たな研究によれば、2001年9月11日以降の非イスラム教徒によるテロ事件は19件なのに対し、イスラム教徒によるものはわずか7件でした。極右・白人至上主義者による殺害者数は、イスラム過激派によるそれを大幅に上回っているのです。<註5>
 それどころか、元FBI国内対テロ専門捜査官のマイク・ジャーマン氏(ニューヨーク大学法科大学院ブレンナン司法センターのフェロー)は、アメリカ国内のネオナチや極右勢力を長年にわたって調査してきたが、その報告はすべて握りつぶされただけでなく、結局はFBIを辞めざるを得ないように追い込まれたと言っています。<註6>
 考えてみれば、第二次大戦が終わった後、アメリカ政府は多くのナチ信奉者をアメリカに移住させて利用してきましたから、今さら驚くことはないのかもしれません。アメリカは、戦後の日本でも、戦犯として巣鴨刑務所に収監させられていた人物を牢獄から引っ張り出して首相の座につけ、傀儡政権をつくり戦後の占領政策に協力させました。今はその孫が首相になっています。<註7>

 オバマ氏は先にも紹介したように、チャールストンの黒人教会における殺戮事件にかかわって「今は喪に服すときですが明らかにしておかねばならないのは、このような大量殺戮がほかの先進国では決して起きていないということです。ほかの先進国では、こんなに頻繁に、このような事件は起きていないのです」とも述べています。
 オバマ氏が「ほかの先進国では、このような大量殺戮が、こんなに頻繁に起きていない」というのは、まさにその通りです。元大学教授で今は退職して講演や執筆活動で忙しいジョン・コーズィ氏は下記の論文<註8>で次のように述べています。

アメリカ合州国は暴力によって身ごもり、暴力によって養育された。アメリカ人は暴力に手を染めているだけでなく、暴力を楽しんでさえいる。
 殺人はアメリカで毎日平均87回も起きている。戦争のためアフガニスタンに行くほうが、シカゴで暮らすより危険ではない。 ローマ人は殺人を観劇するためコロシアムに出かけたが、大都市のアメリカ人は窓の外を眺めるだけでいい。 かつて野球はアメリカの国技だったが、温和で退屈なスポーツなので、アメカンフットボールのような、選手の脳を破壊するほど獰猛なスポーツに取って代わられてしまった。
 暴力映画は「アクション映画」と呼ばれ、映画館とテレビを支配している。子どもたちもビデオ殺人ゲームを楽しんでいる。

  コーズィ氏は上で「殺人はアメリカで毎日平均87回も起きている」と述べているのですが、「銃暴力予防のためのブレイディ・キャンペーン」という組織による最新の調査では、銃暴力による死傷者は毎年平均108,000人以上(正確には108,476人)で、そのうち死者32,514人ですから、確かに、このような先進国は世界のどこを探してもアメリカ以外には見つからないでしょう。<註9>
 しかし、「ほかの先進国では、このような大量殺戮が、こんなに頻繁に起きていない」というオバマ氏のことばを聞いて私の頭に浮かんだもうひとつのことがあります。それは、このオバマ氏のこのことばを次のように言い換えて、それをそのままオバマ氏に献上したらどうかということです。
    世界中でどこを探しても、「ほかの先進国で、このような大量殺戮を、こんなに頻繁におこなっている国はない」
 それは、次のように質問してみれば「アメリカが世界を破壊と殺戮の場に変える主役」だったことが一目瞭然となるからです。
Q1:アメリカが「大量破壊兵器」という嘘を根拠にイラク戦争を始めなかったら、今の中東の混乱・破壊・殺戮は生まれなかったでしょう。
Q2:アフリカで最も豊かな世俗主義国家であったリビアを爆撃し、リビアを破壊しなかったらなかったら、いまヨーロッパに大量に流れ込んでいる難民はいなかったでしょう。
Q3:アメリカが、世俗国家シリアの反政府軍(イスラム過激派)を支援しなかったら、「イスラム国」などという超過激なイスラム原理主義国家は誕生していなかったでしょう。
Q4:アメリカがイスラエルの蛮行を軍事面でも財政面でも支援していなければ、パレスチナ「ガザ地区」で起きているような惨劇・戦争犯罪は起きていなかったでしょう。
Q5:アメリカが裏で仕組んだウクライナのクーデターを起こさなかったら、パレスチナのガザ地区に匹敵するような惨劇は東ウクライナで起きなかったでしょう。

 アメリカが(ときにはクーデターすら起こして)支援する中南米の独裁国家からの難民が、大量にアメリカへなだれ込んできているを見れば分かるように、このような問いは半ば無限に続けることができます。
 チョムスキーが次のような諸論文で、アメリカが「世界平和にとって由々しき脅威」であることを、何度も繰りかえし論じている理由も、これらのことからも明らかでしょう(以下はすべて拙訳です)。

チョムスキー20141103 「アメリカのテロリズム、長く恥ずべき歴史」
チョムスキー20141020 「世界の誰もが知っている:アメリカは世界最強=最悪のテロ国家だ」
チョムスキー20130104 「世界平和への由々しき脅威:アラブの民衆が最も恐れているのは誰か」
チョムスキー20130503 「ボストンマラソン爆破事件とテロ国家アメリカの過去・現在・未来」
チョムスキー20120903 「なぜアメリカとイスラエルは世界平和にとって最大の脅威なのか」

  ところがいまアメリカは、ヨーロッパでは「ウクライナ問題」を口実にしてロシアを相手に、そしてアジアでは「尖閣列島や南沙諸島」を口実にして中国を相手に、新しい戦争を始めようとしています。
 しかもこれらの戦争でロシアを相手に戦う兵士はNATO軍であってアメリカ兵ではありませんし、中国を相手に戦うのは自衛隊であってアメリカ兵ではありません。こうして第2次世界大戦のときと同じように、アメリカは、ほぼ無傷で世界の大国として生き残るつもりです。
 チョムスキーはこれらの事態を指して「今や『終末時計』の針は3分前にまで迫った」と言っています。にもかかわらず我が国の首相は、アメリカに協力するために「戦争放棄」の憲法を捨て、着々と「戦争法規」を整備しています。沖縄における米軍の辺野古基地移転は、そのために「粛々」と実行されているのです。


NOTES(註)
1 「典型的なテロ事件」、ルーフをテロリストと呼ばないFBIは、白人による暴力を無視するのか?
"A Classic Case of Terrorism": Is FBI Ignoring White Violence by Refusing to Call Roof a Terrorist?
http://www.democracynow.org/2015/6/22/a_classic_case_of_terrorism_is
2  FBI長官JAMES COMEが、ルーフを「テロリスト」と呼ばない理由および「テロ」の定義は次の通りです。しかし、この定義からするとルーフは明らかにテロリストです。
"I wouldn't say so, because of the way we define terrorism under the law. Terrorism is an act of violence done or threatened to—in order to try to influence a public body or the citizenry, so it's more of a political act. And again, based on what I know so far, I don't see it as a political act."
http://www.democracynow.org/2015/6/22/a_classic_case_of_terrorism_is
3 「黒人や褐色人は『テロリスト』『凶漢、ごろつき』と呼ばれるが、白人は『心の病』と呼ばれるだけ?」
Shooters of color are called ‘terrorists' and ‘thugs.' Why are white shooters called ‘mentally ill'?
http://www.washingtonpost.com/posteverything/wp/2015/06/18/call-the-charleston-church-shooting-what-it-is-terrorism/
4 「繰り返される大量虐殺に世論は銃規制へ動くか?」
"It is in Our Power to Do Something": After Another Massacre, Will Public Mobilize for Gun Control?
http://www.democracynow.org/2015/6/19/it_is_in_our_power_to 
5 「911以降の、右翼過激派による暗殺者数の統計」
Deadly Attacks Since 9/11
http://securitydata.newamerica.net/extremists/deadly-attacks.html
この統計によれば、極右・白人至上主義者による殺害者数は、イスラム過激派によるそれを大幅に上回り、約2倍の48名にものぼっています。毎年4名の勘定になります。
6 「米国は右派テロを無視?9.11以降イスラム聖戦士よりも白人過激派に殺害された犠牲者の方が多い」
Does U.S. Ignore Right-Wing Terror? More Killed by White Extremists Than Jihadists Since 9/11
http://www.democracynow.org/2015/6/25/does_us_ignore_right_wing_terror
7 「隣に住んでいるナチス、いかにしてCIAとFBIはナチ戦犯に隠れ家を提供したか」
The Nazis Next Door: Eric Lichtblau on How the CIA & FBI Secretly Sheltered Nazi War Criminals
http://www.democracynow.org/2014/10/31/the_nazis_next_door_eric_lichtblau
「隣に住んでいるナチス、いかにしてアメリカはヒトラーの部下にとって安全な避難所となったか」>
Part 2: Eric Lichtblau on "The Nazis Next Door: How America Became a Safe Haven for Hitler's Men"
http://www.democracynow.org/blog/2014/10/31/part_2_eric_lichtblau_on_the
8 「暴力、それはアメリカの生活様式だ」(Violence: The American Way of Life)
http://www42.tok2.com/home/ieas/ViolenceTheAmericanWayOfLife.pdf
9 BradyCampaign「銃暴力の統計」
Key Gun Violence Statistics
http://www.bradycampaign.org/key-gun-violence-statistics
この統計によれば、アメリカで銃によって殺されている人は、コーズィ氏の言う87人ではなく、毎日89人に増えています。



<追記> いまアメリカで激増しているのは、ネオナチや極右勢力の銃暴力と同時に、白人警官による丸腰の黒人を銃で殺す事件です。そのなかには、公園で12歳の男の子が玩具の銃で遊んでいたら、そこに車で乗り付けてきた警官が車から降りて2秒も経たないうちに銃で撃ち殺す(しかもそばにいた姉の女の子が救いに駆けつけたら、その姉も逮捕されてしまった)という事件など、言語を絶する事例があまりにも多く、まるで時計が1960年代の公民権運動以前に巻き戻されたような感があります。しかし、これらの事例について詳しくふれるゆとりが今はありません。ただ一言だけ言っておきたいのは、このような事件が「黒人大統領」の下で激増していることです。これは「悲劇」と言うべきなのでしょうか「喜劇」と言うべきなのでしょうか。


アムトラック社の脱線事故を考える―アメリカでは半分の州がすでに破産状態だ

規制緩和、新自由主義、「企業社会主義」、東アジア共同体、「ブーメラン効果」、ロシアにたいする経済制裁、アメリカ理解(2015/05/19)

アムトラック事故
http://rt.com/usa/259161-amtrak-train-struck-probe-fbi/

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 先日(2015年5月12日)にフィラデルフィアで起こったアムトラック列車脱線事故の死者はこれまでに8人に上っており、さらに増えると見られています。未だ乗客約10数人が行方不明のままです。負傷者は200人を超え、危篤状態のひとも少なくありません。
 当局によれば、事故を起こした列車が急なカーブに差し掛かったとき、制限速度の約2倍にあたる時速約106マイル(約170キロ)で進んでいました。しかし、このような事故を防ぐための技術(「速度制限装置」positive train control)が導入されていたにもかかわらず、予算不足で装置が作動できるようにはなっていませんでした。
「予算その他の障碍で脱線した列車の安全技術は立ち往生」
Report: Budget, Other Hurdles Stalled Safety Technology on Crashed Train

 私は前回の下記ブログで、アメリカは「道路、空港、橋、鉄道、電力供給網への公共支出はヨーロッパの半分、国家繁栄そのものが危機に瀕している」という翻訳を紹介したばかりでしたから、あまりのタイミングの良さに、こちらのほうが驚いてしまいました。
翻訳:『インディペンデント』紙、「インフラ整備を怠たり、米国経済は危機に瀕している」

 さらに驚いたことには、このような大惨事を起こしているにもかかわらず、事故が起こった数時間後、共和党が多数を占めるアメリカ下院歳出委員会は、「速度制限装置」の導入を加速させる予算(8億2500万ドル)を拒否しただけでなく、アムトラックの予算減額(2億5000万ドル)までも承認するという始末です。
「脱線列車の死者は7名。議会で共和党は2億5千万ドルの予算削除に投票し、アムトラックにたいする安全向上を遅らせる」
As Train Crash Death Toll Reaches 7, GOP Votes to Cut Amtrak Budget by $250M & Delay Safety Upgrades

 新自由主義という経済政策、すなわち「民営化」「規制緩和」「儲け市場主義」がアメリカの大きな流れだとは言え、これほどの人命軽視がアメリカ議会で堂々とおこなわれる光景には、目を覆いがたいものがあります。
 アムトラックは一種の国営事業ですから、そのようなものに援助するのは社会主義国のすることだと考えているのかも知れません。フロリダでも路上生活者に食事を提供したという理由で逮捕された老人がいましたが、それを彷彿とさせる光景でもあります。
 しかし、今では刑務所を民営化するだけでなく、チャーター・スクールというかたちで教育を民営化する、あるいは軍隊すら民営化し傭兵会社を雇って戦場に送り込むのがアメリカの政策ですから、当然と言えば当然なのかも知れません。

 ところで、私がノースカロライナ州立大学で日本語を教えていたとき、当時は車でアメリカを運転する自信がなくて、州都ローリー市に行くため、大学のあるグリーズボロからアムトラックを利用したことがあります。
 グリーズボロには駅らしい駅もなく、乗客も少なくて閑散としていました。車が買える豊かな階層は汽車を利用しないので経営的には悪循環になりますが、車で混雑し穴だらけの道路を走るよりは快適な外出になります。ただし快速や急行がなく鈍行しかないのが玉に瑕(きず)で、それが自家用車や飛行機を広める原因になっていますが、石油会社にとっては、このほうが儲かるので、財界にとっては、この方が良いのです。
 車にたいする燃費規制が弱いアメリカで、汽車は悪臭に満ちた排気ガスを撒き散らさないので環境的にも良いはずですが、高速鉄道がアメリカ全土に広がらない理由がここにあります。財界のトップは自家用飛行機をもっていますから、なおさらアメリカ版の「新幹線」に乗り気ではありません。
 私がカリフォルニア州立大学ヘイワード校で教えていたとき親しくさせていただいたスペイン語教授のエルサ女史は、「自分の妹はワシントン州シアトルで会社を経営していて、私に会いに来るときは自家用飛行機で来る」と言っていました。アメリカ社会の知られざる一面を見せられた気がししました。
 他方、チョムスキーは「自分がボストンからニューヨークやワシントンDCに出かけようと思ったら、アムトラックだと莫大な時間がかかる。だからといって車で空港まで行き、飛行機でボストンやニューヨークに行き、現地の空港から目的地まで行くのも非常に面倒だ。ボストンからワシントンまで日本のような新幹線があると本当に便利だ」と言っています。(『破綻するアメリカ、壊れゆく世界』集英社、2008)
 さらにチョムスキーは「アメリカ全土に高速鉄道網を張りめぐらせば、皆の生活が便利になるだけでなくインフラ整備としても雇用面でも経済効果は抜群だ。NAFTAで企業が海外に出て行ってしまい、いま労働者には仕事がないが、高速鉄道網の敷設がアメリカの労働者に仕事を与えてくれる。アメリカの労働者にはその知識も技術もある。しかしオバマはそれをしない」と嘆いています。

 ちなみに、アメリカが経済社会基盤(インフラ)の基本的要素である鉄道にかけている予算は $1.4 billion(14億ドル)ですが、中国は $124 billion(1240億ドル)です。しかも、事故を起こしたアムトラックは時速60~70マイルであるのにたいして、中国が走らせようとしている超高速鉄道は時速200~300マイルです。これでは将来、経済的に太刀打ちできるはずがありません。
 今回の事故を起こしたアムトラックは時速106マイル(制限速度の2倍弱)で走っていたそうですから、事故を起こさない方が不思議と言うべきでしょう。ところがアメリカは、このようなインフラ整備にお金をかけて経済回復を図ろうとするのではなく、世界中に戦争を起こすことによって経済回復をしようとしているのです。

 アメリカの社会評論家ランドルフ・ボーンは、アメリカが第1次大戦に乗り出そうとするとき「戦争は国家の健康法である」という有名な論文を書き、「国家が経済的危機に陥っているとき、それを乗り切る手段として戦争が持ち出される」と、時のアメリカ政府を鋭く批判しましたが(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻532-539頁)、それを地で行っているのが今のアメリカです。
 現在のアメリカ政府は海外で戦争熱を煽り、武器をどれだけ生産し輸出しても追いつかないくらい世界中で内乱・内戦が拡大し続けています。オバマ氏の支持母体である軍産複合体にとっては儲かって仕方のない、実に好都合な仕組みですが、国家財政としては破産状態です。というのは軍事産業を支えているのは国民の税金で、しかも大企業・大金持ちには減税一辺倒だからです。これでは税収が増えるはずがありません。チョムスキーの言う「企業社会主義」です。

 もうひとつアメリカの財政状態を悪くしている要因は、石油や天然ガスの値段が大きく落ち込んで、石油による収入が激減していることにあります。オバマ氏はサウジアラビアなどの王制独裁国家を使って石油価格を下落させ、石油や天然ガスの輸出に頼っているロシアやベネズエラを疲弊させようと画策したのですが、その結果は「ブーメラン効果」でした。たしかにロシア経済も混乱したのですが、アメリカも同時に苦しむことになってしまったのです。
 というのは、オバマ氏は「中東の石油に頼らないエネルギー源を確保する」という名目で、国内のいたるところで石油や天然ガスの開発をすすめ、沿岸の海底からも天然ガスを採掘しようとしました。それが大事故を起こして、今でもニューオリンズの近海は使いものにならなくなっています。
 もっと悪いことには、天然ガスの採掘(いわゆる「フラッキング」)は地震の引き金になったり、地下水を汚染しマッチをつければ燃え出すような飲料水を生み出し、近隣の環境を破壊するだけでなく、莫大な費用がかかりますから、石油や天然ガスの値段が下がれば採算が取れなくなります。
 そこで当然、石油や天然ガスの企業収入に頼っていた州財政も大きな打撃を受けることになりました。そのことを詳細に報じているのが下記の記事です。という
「アメリカでは半分の州がすでに明確に破産状態だ」
Almost Half Of US States Are Officially Broke

 この記事では冒頭で「ルイジアナ州が破産状態にあり、大学予算の80%を削減せざるを得なくなっている」と述べています。3万1千人の学生を擁し、アメリカでも最大規模を誇る州立大学が閉鎖の危機にあるのです。
 このような状態は、ルイジアナ州にとどまらず、イリノイ州やカンザス州など、アメリカ全土に広がっています。AP通信の報道によれば、上の地図でお分かりのように、今では少なくとも22州が破産状態です。カンザス州では学期末を待たずに学校を早期に休業にしたり授業を削減するという学校も出てきています。
貧困大国アメリカ DeficitStates
 
 これが現在のアメリカの実態です。ところが安倍内閣は、破産しかけているアメリカを救うために、その戦争政策(=経済政策)に協力して、集団的自衛権などの戦争法規を準備しTPPの早期妥結に邁進しています。TPPは単なる経済施策ではなく、安倍氏がいみじくもアメリカ議会で演説したように、中国封じ込め政策の一貫であり防衛政策(すなわち戦争政策)なのです。
 これは対応を一歩でも間違えば、中国との戦争に踏み込む危険な政策を選んでいることになります。安倍内閣が本当に日本の安全と繁栄を願うのであれば、アメリカの危険な戦争政策に加担するのではなく、元首相の鳩山由紀夫氏らが訴えているような「東アジア共同体」をつくるために、中国やロシアと話し合うための通路を拓くことではないでしょうか。これはアジアに平和をもたらすだけでなく経済的繁栄をもたらすでしょう。
 ところが安倍内閣は、これとは全く逆方向に進路をとり、日本を戦争と貧困に突き落とそうとしているように私には見えます。

 つい先日、中国が自国で超高速鉄道を走らせるだけでなく今度はロシアで 3億9千万ドル($390million)の大金をかけた超高速鉄道の建設を受注した、というニュースが流れました。
「中国の会社が3億9千万ドルの契約を獲得し、ロシアで超高速鉄道の建設にのりだす」
Chinese company wins $390mn contract to develop Russian high-speed railway
 このプロジェクトは、当面はモスクワ→カザン→エカテリブルグを結ぶものとして企画されていますが、この路線が開通すれば今まで14時間もかかっていたモスクワ→カザンの旅程が3時間半に短縮されます。これは今後、モンゴル経由で北京まで通じる予定で、将来の「シルクロード・プロジェクト」という巨大な経済計画の一端を成すものです。
 超高速鉄道(新幹線)は、元々は日本が開発した技術です。ですから、日本政府がアメリカにだけ顔を向けるのではなく、ロシアにも外交の通路を拓いていれば、またとないビジネスチャンスを手にしていたことでしょう。しかし、私たちにとって不幸なことに、安倍内閣が選んだのは、アメリカと一緒になって戦争をする道でした。


<註> 安倍内閣が推進している文教政策は「中高の英語の授業を、英語でおこなう」「TOEFLを大学入試にする」「留学生を倍増し、12万人にする」「大学の一般教育の授業も外国人教員をやとって英語でおこなう」という路線です。しかしTOEFLは、アメリカ留学を目指すひとのための資格試験です。にもかかわらず、指導要領を無視して外国がつくった問題を、日本の大学入試に利用しろと言うのですから、私たちの頭は混乱してしまいます。今まで「指導要領から逸脱するような問題は出題するな」と厳しく指導きたのは文科省だったのではないでしょうか。だとすると、アメリカ議会で英語で演説した安倍氏のことを考えると、いま氏の頭を占拠しているのは、日本の若者をひたすらアメリカ留学に追い込むことだけではないかという疑問がわいてきます。しかし、州レベルでも連邦レベルでも国家経済が危機に瀕している国に、留学生を大量に送り出して、何を学ばせるつもりなのでしょうか。そのうえ、OECDの国際学力調査で最下位を占めるアメリカへ、我が国の若者を大量に送り出そうとするのは、何のためなのでしょうか。ひょっとして、破産しかけている州立大学を、留学生の授業料で財政支援するためなのでしょうか。あるいは、竹中平蔵氏のように、アメリカで新自由主義的価値観をたっぷり学ばせて帰国する留学生を大量につくりだしたいのでしょうか。私の疑問は尽きるところがありません。
TruthSeeker 「アメリカは教育でビリッ尻(ケツ)!」(16歳から24歳までの調査)


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