アメリカ大統領選挙と大学の英語教科書 ―― 『三人の記憶に残る貴重な(?)演説』

アメリカ理解(2017/03/29)、闇の政府 Deep State、ウクライナのクーデター、クリミアの露軍基地、売女マスコミ Presstitute、軍事/安保複合体 Military/Security Complex

英光社の大学英語教科書
s-英光社、大学英語教科書『三つの記憶に残る演説』表紙

 前回のブログ(2017年3月10日)を書いてから既に20日ちかくも経っています。
 実は、この間、3月17~19日には『寺島メソッド 英語アクティブラーニング』(明石書店)の出版祝賀会を兼ねた宿泊研究会がおこなわれ、その準備に追われていただけでなく、「ディスカヴァー21」という出版社からチョムスキーの語り下ろし『アメリカン・ドリーム哀歌 Requiem for the American Dream』の翻訳依頼が舞い込み、「できるだけ一刻も早く」という要請でしたので、その対応にも時間が取られ、ついに現在に至ってしまいました。
 私のブログを心待ちにしている方もみえるので本当に心苦しく思っていますが、上記のような事情で少し過労がたたって3日ほど寝込んでしまったことに免じて、どうかお許しいただければ幸いです。

 ところで先日(と言っても1ヶ月ほど前のことですが)、私のところに英光社という出版社から、『Three Memorable and Noteworthy Speeches―Donald Trump, Hillary Clinton, and Barack Obama』という、新学期用の大学英語教科書の見本が送られてきました。
 日本語の題名を見ると、「ドナルド・トランプ、ヒラリー・クリントン、バラク・オバマ―三人の記憶に残る貴重な演説」となっていました。
 しかし、内容を見ると、下記のブログで取りあげて批判した同社の教科書『ヒラリー・クリントンの就任演説』を、ヒラリー・クリントン落選後の情勢をふまえて編集し直したものだということが分かりました。
*アメリカ大統領選挙と、英語教材『ヒラリー・クリントンの就任(!?)演説』
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-274.html (2016/10/22)
 この教科書が送られてきたとき、私は上記のブログで次のように書きました。
 この教材をつくった英光社としては、結果を見るまでもなくアメリ大統領の選挙戦はヒラリーが当選するに決まっていると考えたの

でしょう。一刻も早く他社を出し抜いて、この冊子を大学用教材として採用してもらおうと企画したに違いありません。
 アメリカの大手メディアを見ていると、ほとんどすべてがヒラリー支持で一致し、トランプ叩きに終始していますから(そして日本の大手メディアも、それと同じ報道をしていますから)、そう考えても当然とも言えます。
 しかし、少しでも注意深くアメリカの選挙情勢を見ていれば、ヒラリー優勢という報道がまったく捏造されたものであることは、民主党の対抗馬であったサンダース候補の主張がアメリカ国民の心を捉え、破竹の勢いでヒラリー女史を追い上げていたことでも明らかでした。
 しかもアメリカ各地で不正選挙がおこなわれ、それがサンダース候補の進路を阻んでいたことは、私のブログでも何度も指摘したとおりです。
 ですから大手メディアがサンダース候補の主張を正しく伝え、民主党幹部による選挙の不正を大胆に暴いていれば、今の選挙戦はまったく違ったもの(サンダース対トランプという構図)になっていたでしょう。
 しかしサンダースの主張や民主党幹部による選挙の不正は、弱小の代替メディアによってしか伝えられてきませんでしたから(そして最終的にはサンダース候補が勢いを増しつつあった支持者を裏切るかたちで選挙戦を途中で降りてしまいましたから)、アメリカ国民には、最悪の選択肢しか残されなくなりました。
 つまり「ヒラリー対トランプ」「より悪いのはどちらか」という選択肢しか残されなくなったのです。


 ところで、この英光社の旧版教科書には、「ヒラリー・クリントン大統領就任演説」だけでなく、「オバマ大統領の広島での演説全文」まで収録され、宣伝文句として、「またオバマの広島での歴史的なスピ―チ(2016.5.27)も貴重です」と書かれていました。
 つまり新版の教科書は、この旧版のオバマ演説を末尾に残し、その前にヒラリー・クリントンの敗北演説を付け、冒頭にドナルド・トランプ大統領の勝利宣言演説を置いて、編集し直したものだったのです。
 しかし、このオバマ大統領の広島演説はノーベル平和賞の受賞演説にまさるとも劣らぬ偽善的なものでした。それを私は物理化学者・藤永茂氏の言を引用しつつ、次のブログで詳述しましたので、ここでは繰り返しません。
*オバマとは誰か―「アメリカ大統領による史上初の広島訪問」を考える
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-261.html (2016/05/21)
*オバマ大統領の広島訪問、物理化学者・藤永茂氏いわく「稀代のコン・マン=詐欺師」
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-265.html (2016/06/30)

 ところが、英光社の編集部は、この新版の教科書で(大手メディアの宣伝どおりに)オバマ演説を「歴史に残る名演説」として教材化し、それをPART IIIとして末尾に残すことによって、間違った観念を学生の頭にすり込もうとしているのです。
 これについても私は、先述のブログ「アメリカ大統領選挙と、英語教材『ヒラリー・クリントンの就任(!?)演説』」(2016/10/22)で、次のように書きました。
 

もちろん編集部は意図的にそうしているわけではないでしょうが、結果的に果たす役割は同じことです。むしろ「名演説を通じて英語を学ばせる最良の教材」という善意でやっているからこそ、逆に罪が深いとも言えるでしょう。
 というのは、意図的についた嘘というのは、「大量破壊兵器を口実としたイラク侵略」をみれば分かるように、意外と簡単にボロが出るものですが、本気で信じた嘘というものは、その本人からはボロが出にくいからです。


 こうして、「名演説を読んで聴いて、読解力・聴解力向上をはかろう!」という謳(うた)い文句で、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマといった人物の演説が、大学英語教科書に、みごとに収録されていくわけです。
 このような状態が続くかぎり、日本は永遠にアメリカの属国状態から抜け出ることはできないでしょう。英語学習に打ち込めば打ち込むほど間違ったアメリカ観が刷り込まれていくのですから。
 私は上記のブログ「アメリカ大統領選挙と、英語教材『ヒラリー・クリントンの就任(!?)演説』」(2016/10/22)を次のように結んでいます。、

 とは言っても、「ヒラリー・クリントンとは誰か」「ヒラリーとはどんな過去を背負ってきた人物か」を説明しないかぎり、これまで私が述べてきたことは充分に納得してもらえないでしょう。
 そこで次回のブログでは、私の気力・体力が許すかぎり、この点について詳述したいと思います。一回では終わることができず連載になるかも知れません。


 ここでは「一回では終わることができず連載になるかも知れません」と書きましたが、その不安は的中して、下記のような2回連載の論考になってしまいました。
*ヒラリー・クリントンとは誰か(上) ―アメリカ大統領選挙を目前にして (2016/11/06)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-275.html
*ヒラリー・クリントンとは誰か(下) ―アメリカ大統領選挙を目前にして (2016/11/07)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-276.html
この論考では、ヒラリー・クリントンの悪行を詳述するだけでなく、選挙がトランプ勝利に終わる可能性についても言及しました。そして結果は私が予想したとおりの結果となりました。
 このブログを読んでくれている若い証券マンから、「このブログを読んでいたおかげで、顧客に間違った助言をせずに済みました。寺島さんにひたすら感謝です。上司にそのことを報告すると俺にもそのブログを紹介しろと言われました」という話を聞き、私の方が感激してしまいました。
 というのは、ヒラリー女史が勝利すると確信していた多くの投資家が、選挙の最終局面で、トランプ勝利の可能性が出てきて、そうなったばあい株が大暴落するかも知れないというので大量の株を売って大損するひとが続出したのです。
 しかし、その若い証券マンは自分の顧客に「トランプ勝利の可能性もある。だがヒラリーが勝利する方が世界平和やアメリカ世界経済にとって悪くなることの方が大きい。だから今は浮き足立つときではない」という助言をして非常に感謝されたというのです。
 私は投資の世界に無知だし大きな関心も持っていなかったのですが、私のブログが投資家の世界にも少しは影響力があったことに、大きな驚きと小さな満足をおぼえたのでした。

 それは、ともかくアメリカの政局は相変わらず混沌を極めているようです。
 というのはトランプ大統領が、「闇の政府(Deep State)」や「ネオコン」と呼ばれる好戦勢力の指示どおりに、ウクライナにおけるクーデターを支持し、シリアにおける内戦に介入して、ロシアとの緊張を高める方向に大きく舵を切っているにもかかわらず、トランプ氏にたいする圧力は一向に減る気配が見えないからです。
 しかも、このトランプ大統領にたいする圧力は、今まで左派=進歩派=リベラルと考えられてきた民主党の側からも強まっているのですから、従来の既成観念でアメリカを見ている人たちには理解し難いものがあるのではないでしょうか。
 その典型例のひとつが、「ロシアが軍事侵略して奪ったクリミアをウクライナに返さないかぎりロシアにたいする経済制裁を解除することはない」というトランプ大統領の言明でした。これでは、トランプ氏が大統領選で公約してきた「ロシアと協力しながらイスラム原理主義のテロリストと戦う」という路線は、ますます遠のき、核戦争の危機が近づいてきます。
 ウクライナのクーデターとクリミアの独立とロシアへの編入問題については、これまでに何度か私のブログでもふれたのですが、最近のPCR(ポール・グレイグ・ロバーツ)氏のブログを読んでいると、この問題を簡潔ながら非常にうまくまとめたものがありましたので以下にそれを紹介させていただきます。
* The Conspiracy Against President Trump
「トランプ大統領に対する陰謀」

http://www.paulcraigroberts.org/2017/03/20/conspiracy-president-trump/(2014/03/20)
 (それにしても、元共和党政権下で財務次官補をつとめた財務省高官が、このような発言をしていることに驚かされます。)
 

民主党が現在しようとしているのは、アメリカとロシアとの関係を良くしようとつとめるあらゆる人々を犯罪者扱いすることだ。核大国間の和平に賛成すると、ロシア工作員ということになり、裏切り者のリストに載せられる。、ロシアが我々をやっつけようと躍起になっていると民主党は主張しており、民主党にとって、いずれもオバマが任命したコミーFBI長官とロジャース国家安全保障局長でさえ、自分たちに同意させるのはたやすいことだ。(中略)
 その証拠に、コミーもロジャースも、下院情報委員会の証言で「ロシアがウクライナに侵略し、クリミアを武力で奪い取った」と偽って発言した。もしコミーとロジャースがこういうことを信じるほど情報にうといのであれば、二人は職務不適任だ。
 クリミアは、300年間ロシアの一部だった。住民はほとんど全てロシア人だ。ソ連が崩壊し、ワシントンがそれをバラバラな国に分解した際に、ウクライナは独立国となった。
 しかし、ソ連が崩壊する以前の1954年に、ウクライナ人で当時のソ連最高指導者フルシチョフは、クリミアを、ロシア・ソビエト社会主義共和国からウクライナ・ソビエト社会主義共和国に引き渡していた。ただしクリミア海軍基地はロシアに長期貸与されるという条件が付いていた。
 2014年2月、ワシントンによるクーデターが、ウクライナの民主的に選ばれたヤヌコーヴィチ政権を打倒したとき、独立を求めるクリミア、および東ウクライナのルハンスクとドネツクのロシア人住民は、ネオナチ分子に攻撃され威嚇された。ネオナチ分子は第2次世界大戦のときヒトラーのためにソ連軍と戦った連中だった。
 クーデターが起きたとき、東ウクライナ内のこの地域の人々の圧倒的多数は、もともと属していたロシアへの復帰に投票した。投票は公正でオープンだった。クリミアはロシア海軍に長期貸与された黒海の基地だったから、クリミアには以前からロシア軍が駐留していた。コミーFBI長官とロジャース国家安全保障局長が、これを“侵略”と呼ぶのは、無知か品位の欠如を示している。
 こうして、FBI、NSA、CIAおよびオバマ政権の品位の欠如は、トランプ政権でも保持されているのだ。それは、一連のウソ・歪曲や意図的な「情報漏洩」といった戦術で証明されている。大統領選挙にロシアが干渉したという偽情報を情報機関が「売女(ばいた)マスコミ」(presstitutes=pressマスコミ+prostitute売春婦)に垂れ流す戦術だ。
 これは巨大な軍事/安保複合体の予算と権力を守るのが狙いだ。ところがトランプは、自分の政策はロシアとの関係を正常化することだと宣言して、連中の予算と権力の両方を脅かしたのだ。もしロシアとの関係が正常化されれば、手間ひまかけてデッチあげた“ロシアの脅威”なるものが消失する。CIAなどの情報機関は、そういう事態にしたくないのだ。アメリカ情報機関は、予算削減より核戦争による「世界終末戦争」(ハルマゲドンArmageddon)の方が好ましいのだ。



 ここで再度、断っておきたいのは、前回のブログも書いたように、私がこのブログを書いているのはトランプ氏の言動をすべて擁護するためではないということです。
 これは、「Deep State『闇の政府』にトランプ氏を蝕(むしば)む権力を与えるのは、民主主義の破壊につながる」という論考を書いたブラジル在住のアメリカ人ジャーナリスト、グレン・グリーンウォルドの姿勢と軌を一(いつ)にするものです。
 このグリーンウォルドの論考については前回のブログ(2017/03/10)で紹介したとおりです。まだ未読の方は参照していただければ幸いです。

 それはともかく、ドナルド・トランプ、ヒラリー・クリントン、バラク・オバマの誰をとっても、「自由と民主主義の旗手」と見なされていたアメリカ大統領の実像が、今度の選挙を通じて、これほど見事に暴露されたことはなかったのではないでしょうか。
 この三人の功績は、アメリカ民主主義の本当の姿を、世界中のひとたちに、自分の言葉と行動を通じて示してくれたことにあったのではないか―そいうふうに私には思えてなりません。
 しかし崩壊したはずのアメリカ像に、どういうわけか日本だけが相変わらずしがみついているように、私には見えます。しかもその虚像を支える一翼を担っているのが英語教育産業あるいは英語教師だとすれば、これはまさに私の言う「英語読みのアメリカ知らず」を地で行くものと言うべきでしょう。
 私を含めて、英語教育にたずさわる者は、これを機会に、改めて襟を正したいと思う今日この頃です。


<註> グリーンウォルドはピュリツァー賞を受賞したジャーナリストで、ロシアに亡命した内部告発者スノーデンに香港でインタビューしたことで一躍有名になりましたが、このようすはドキュメンタリー映画『シチズン・フォー、スノーデンの暴露』で克明に知ることができます。また、これとは別にオリバー・ストーン監督の映画『スノーデン』(Snowden)も最近、公開されました。


関連記事
検索フォーム
プロフィール

狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

Author:狐狸庵居士(田舎の国立大学を2010年に定年退職)

リンク
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
RSSリンクの表示
QRコード
QR